“iPhoneとAndroidの時代”のWEBデザイン- 明日のモバイルほろ酔い語り

iモードは十周年を迎えるが、ここに来てiPhoneやAndroidが登場し、時代が大きく変わろうとしている。
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ここは、東京下町のとある居酒屋。板だけ載せた酒瓶ケースの上に、ずらりと焼鳥やもつ煮を並べ、路上で立ち飲みが基本の店だ。気さくなおかみさんが、手作りの肴を振る舞ってくれ、深夜までずっと賑わっている。

そんな気取らない店に、IT系勤務のホットなやつらが夜な夜なつどって業界の噂話に花を咲かせ、ときには激高しときには愚痴をこぼし、ときには成功を喜び合う……。店内では、聞き逃せないような最新情報、そしてモバイルの未来に関わるような貴重なアイデアが飛び交っているのだ。

今日も、おもしろそうな会話が耳に飛び込んできたようだ。

文、写真:清水亮(ユビキタスエンターテインメント)

登場人物

筆者=モバイル業界10年選手の零細企業経営者。iPhoneにも対応したモバイルCMS“ZEKE CMS”を販売する。
N氏=某コンテンツプロバイダのモバイルプロデューサー。

今年でiモードは十周年を迎える。夏野剛氏が描いた未来はそのまま日本のケータイシーンとなったが、ここに来てiPhone、そしてAndroidが登場し、時代が大きく変わろうとしている。今回も日本酒の美味しい居酒屋で、あらためて日本のケータイ事情とWebデザインに想いを馳せる。

“iPhoneとAndroidの時代”のWEBデザイン

■日本のWebサイトはまだまだiPhone未対応?

「ご無沙汰してますが最近いかがですか」

N氏「以前に比べると少しヒマになりましたね」

「やっぱり不景気だから?」」

N氏「いや、仕事は前より増えてるんですよ。広告収入じゃなくて有料サイトが多いので」

「やっぱり有料サイトはまだ不況の影響は受けてないですか」

N氏「どちらかというと、端末の値段が上がって機種変する人が減ってることが問題かな」

「ああ、機種変するとコンテンツ買いますからね」

N氏「そういうのは減ってるから、新規サイトも前ほど激しくはなくなりましたね」

「最近の端末は新機能が結構地味なんだよね」

N氏「そう、それで端末の値段のせいか知らないけど、最近iPhone売れているらしいじゃないですか?」

「いまどき0円キャンペーンとかやってるしね」

N氏「IT業界にいると、いまiPhone持ってない方が少数派でしょ?」

「Googleの社員も平気でiPhone持ち歩いてたの見ましたよ」

N氏「Androidはどうしたんだっていう(笑)」

「まあまだ日本だと使いづらいでしょうけどね」

N氏「昔からこの業界にいた人って、自分のためにコンテンツ作ってる人が多いじゃないですか」

「そうですね。誰も使わなくても俺が欲しいから作るっていう」

N氏「そうなると、いままでのサイトをiPhone対応にしようって話も当然出てくるわけですよ」

「そうですね」

N氏「それが思ったより簡単で。PC向けのサイトをなるたけシンプルにしておけば、iPhoneにもPCにも対応したサイトって、ヘッダーに一行書くだけでなんとかなるんですよ」

「うちも去年の夏からずっとiPhone向けのアプリ出してるんですけど、iPhoneから見たときにちゃんと見られるサポートページを作ってる会社は意外と少ないですね」

N氏「なぜなんでしょう?結構簡単なのに」

「よくあるのは、日本の会社だから日本語でしかページがないとか。日英表示に対応したサイトを作るのはそんなに手間ではないんですけど、なんか抜けちゃうんですよね。また、ブログやニュースなどを多国語対応でやっている会社もあまり見ないですね。そういうシステムはまだ日本では珍しいからではないでしょうか」

N氏「清水さんの会社は?」

「CMS(コンテンツ管理システム)は本業ですからもちろん対応してますよ。特にニュースやRSSを多国語対応しているので、英語環境で見ると英語の表示と英語のRSS、日本語環境で見ると日本語の表示と日本語のRSS、というように自動的に切り替わるようになっています」

N氏「あ、それは便利かも」

「英文を用意する手間はありますけど、こうしておけば間違いないです。特にブログ以外のサイトでトップページがRSS対応しているサイトはまだまだ少ないですね。そういうものをきちんとやるにはCMSを使う必要があるんですけど、日本のサイトはモバイルサイト以外はなかなかCMS化されてないし、モバイルサイトの場合、RSSっていままで不要なものでしたから、そんなものそもそも用意してないんですよね。iPhoneはそのちょうど中間だから、PCサイト系に寄ったところだとRSSは出るけど画面が対応してないとか、モバイル系に寄ったところだと画面はちゃんと出るけどRSSは出ないとか、偏ってますね」

■iPhone向けサイトのもっとも大きなアドバンストは?

N氏「海外のサイトとかで、やたらiPhoneのインターフェイスを意識し過ぎて却って使いにくくなってるサイトありますよね。あれは嫌ですね」

「まあやりたくなる気持ちはわかるっていうか」

N氏「その点、Tumblrみたいな、もともとシンプルなサイトはiPhoneでも見やすいですよ」

「iPhoneのズーミングインターフェイスって、最初はおもしろいけど慣れてくると使いづらいと感じて来ますね」

N氏「そう。しかも、このあと、国内の端末も少しずつAndroidになっていく方向じゃないですか」

「方向はわからないけど、そういう発表はちらほらありますね」

N氏「そのときはiPhoneみたいにズーミングできないわけですよ。そしたらやっぱり最初からズーミングが不要なサイトにしとくのがいいかなと」

「マルチタッチオペレーションの多くはAppleの特許ですからね」

N氏「幸い、iPhoneとAndroidは同じレンダリングエンジンだからCSSやJavaScriptの挙動はいっしょだって言うじゃないですか」

「まあどちらもWebkitベースだけど完全にいっしょではないですね」

N氏「それでもIEとOperaほどには違わないわけでしょ。それは結構でかい」

JavaScriptが使えるっていうのが、実はいまのいわゆるケータイとの最大の違いなんですよね。そのおかげでFlash Liteにもできなかったようなサイトが簡単に作れる」

N氏「内部で通信を行う、いわゆるAjaxが携帯でもできるってことですね。それは確かに革命的に便利だ」

「iPhoneは最近アプリが注目されがちだけど、実はWebアプリケーションのプラットフォームとして決定的な強みがあるのはそこですね。Androidも同じ」

N氏「お財布ケータイとかは確かに便利だけど、表面的なことですよね」

・夏野剛が描いた「日本のケータイ像」は今後どうなる?
・Androidはどの程度日本で普及するのか?

■夏野剛が描いた「日本のケータイ像」は今後どうなる?

「話が外れるけど、このままいくと日本のいわゆるケータイはそう遠くない未来にAndroidにとって変わられてしまうとして、日本的なケータイの最後の砦が、夏野さんの悲願だったお財布ケータイというのは…」

N氏「凄いですよね。今年でiモードも十周年だけど」

「みんなジョブズのことばかり褒めるけれども、夏野さんをもっと称えたほうがいい。なんのかんの言って、日本のモバイル産業を一兆円にまで育てたのは彼のアイデアと情熱なんだから」

N氏「ほんとそうですね。彼が学生時代にリクルートでバイトしてなかったらここまで発展したかどうか」

「夏野さんの本は彼が自分で書いたものしかないんですよね。プレゼンのうまさも頭の良さもジョブズに匹敵する日本人は彼しかいないと思います。僕、書こうかな。『夏野剛、偉大なるビジョナリーの道程』とか」

N氏「それちょっと読みたいかも。清水さんは面識あるんですよね」

「あるけど、この十年で10回あるかないかかな。雲の上の人なので、僕のことなんか忘れてるとおもいますが」

N氏「え、そんなもんなんだ」

「うん、でも最初のインパクトがすごかったから。それ以来の夏野教徒ですよ」

N氏「どんなこと言ってたんですか?」

「『君は今日、プレゼンするのにパソコンを持ってきたけど、10年すればケータイで済むようになる。そんな世界を作ろう』と」

N氏「ええっ、それいつの話ですか?」

「99年の7月。ビックリするでしょ。次に会ったときはこうおっしゃっていた『最近は財布を忘れてもそれほど困らないが、ケータイを忘れたら家に取りに帰る。いつか財布の機能がケータイに内蔵されるべきだ』ってね」

N氏「その頃からそんな先まで見通していたんですね」

「実は、あの頃モバイルの公式サイトをやってる人はみんな知ってるんだけど、あのときに夏野さんは通信技術の進化とそれによって実現するサービスやコンテンツの進化に関して詳細なロードマップを書いていたんだよね。そのなかにはテレビを携帯で見るとか、お財布とかがすでに計画に入っていたわけ。モバイルCP各社は夏野さんが98年に予言したロードマップをもとに長期計画を立てていたわけだ」

N氏「当時はインターネットですら動画配信がまだ一般的ではなかったですよね」

「だからさ、これはもうとてつもない人だなと。その当時、僕はインテルやマイクロソフトの長期ロードマップを見て戦略を立てる仕事をしてたんだけど、夏野さんは別格だと思った。ただ、携帯電話に通信機能を付けるだけで社会的なインフラまで変えてしまうようなロードマップを書ける人はそうはいない。ましてや実現できる人は……」

N氏「もうやめちゃったんでしたっけ?」

「その理由が『iPhoneはドコモでは作れないから』だとかね。悔しいという気持ちもあったんじゃないんですかねえ」

N氏「そのドコモはAndroid端末を出すと発表してますけど、どうなりそうですか?」

「Android端末はGoogleがどの段階までEvilにならないか、というのが成否の鍵だと思いますね。かなり彼らがクレバーにならないと成功しないでしょう」

N氏「海外ではすでに発売されてるわけですよね」

「出てますよ。それで、黙殺されてる。ある意味で、すでに失敗しているとも言えますよね」

N氏「iPhoneのときはすごかったですもんね」

「Androidも予約だけで150万台の注文があったというニュースがありましたが、それ以来まったくニュースを聞かなくなりましたからね」

N氏「どうしちゃったんでしょう?」

「いろいろな考え方があると思いますが、単純に魅力がないんだと思いますよ。目新しさもないし」

N氏「Androidを買いそうな人はすでにiPhoneを持っていそうですよね」

「一般ユーザーはそうでしょうね。そうなると“GooglePhone”という名称はむしろiPhoneのほうがふさわしいとすら思えますね」

■Androidはどの程度日本で普及するのか?

N氏「じゃあAndroidって普及しないんですか」

「いまのGoogleのロードマップどおりに売れて行くというシナリオは薄くなってきましたね。けれどもだからと言ってAndroidが普及しないというわけでもないかなと思っているんですよ」

N氏「それはどういう意味で?」

「いまの国産ケータイのOSってすでに限界に達しているんですよね。今までのOSを使い続ける限りiPhoneくらいのフィーリングの端末を作るのは難しいんです。もっとモダンなOSのほうが理想的です。けれどもOSをゼロから新規開発するような予算はないわけですよ」

N氏「しかも作ったとしても海外には売れないわけですしね」

「国産端末はそうですね。そういうことを考えたときに、オープンソースで枯れた技術基盤を持つAndroidは魅力的なんですよ」

N氏「そのまんま使うのではなく、基盤OSとして使う?」

「そう。たとえば現状でも、Linuxベースだったり、Symbian OSベースだったり、いろんな基盤OSのiモード端末があるわけですけど、ユーザーは気づかないわけです」

N氏「そうですね」

「だから、そういう基盤OSとしてAndroidを採用すると、かなりの数のハードウェアメーカーは国内向け、海外向け、ドコモ向け、KDDI向けというバラバラの開発リソースのかなりの部分を共有化できて、結果的に業界全体のコストダウンにつながると思うんですよ」

N氏「最近は端末も高いですからね」

「そういう問題も解決できるハズです。技術の共有化によって、全体コストが下がれば、EeePCをはじめとしたネットブックのように低価格かつ高性能な携帯を供給できるはずです」

N氏「Eee携帯(笑)」

「ただ、特許の問題があって、iPhoneほど洗練されたマルチタッチUIを使う端末はAndroidに限らず出てこないでしょうね」

N氏「iPhoneが欲しかったらiPhoneを買うしかないと」

「ただ、国産ケータイならではの機能というのはこれからも追求されて行くと思います。そういう意味ではまだ勝負が付いていませんから、モバイル業界もまたおもしろくなってきたという印象ですね」

N氏「今年はおもしろいニュースがいろいろ出てきそうですね」

その七!  AndroidとiPhone両方に注目すべし!
iPhone向けサイトを作るのは難しくない!けれども多言語対応は意識すべし!

筆者のお気に入り居酒屋情報

「たこ焼き十八番」
住所:大阪市淀川区西中島3-17-17(地図
電話:06-6306-1853

今回のお店は大阪の西中島にある「たこ焼き十八番」。小ぶりの玉でついついペロリと平らげてしまうのが特徴の癖になるお店です。大阪出張の折りには必ず訪れます。

この記事の筆者

清水 亮
株式会社ユビキタスエンターテインメント
代表取締役 兼 CEO

電気通信大学在学中に米Microsoft Corp.の次世代ゲーム機向けOSの開発に関わり、1998年末に株式会社ドワンゴ入社。1999年に同社で携帯電話事業を立ち上げる。2002年退社し、米 DWANGO North America Inc.のコンテント開発担当副社長を経て2003年独立。2005年、独立行政法人情報処理推進機構により、天才プログラマー/スーパークリエイターとして認定される。

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