Webプッシュ通知の無差別な許可リクエストや送信、そんなろくでもないもの世の中から撲滅すべきだ

無差別に使うとメールのようにウザがられて滅んでいくのは間違いない
よろしければこちらもご覧ください

今日は「Webプッシュ通知(ブラウザプッシュ)」に関する話題を。というのも、ユーザーに鬱陶しがられる無分別なWebプッシュの使い方によって、せっかくの仕組みが死んでしまうかもしれないからです。

ブラウザが起動していなくてもデスクトップにプッシュ通知、すばらしい!

スマートフォンのアプリが通知エリアに出す通知と同様のことを、パソコン(デスクトップPC)でも行える仕組みがあります。「Webプッシュ通知」というものです。

その仕様は、HTML5の「Notifications API」として定められており、ブラウザが当該サイトを開いていなくても、また、ユーザーがブラウザを終了してしまっていても(ブラウザの設定による)、通知を送れます(Web Workerという仕組みを利用しています)。

Webプッシュ通知を使うには、まず一度は自社のWebサイトに訪問してもらう必要があります。サイトに訪問したブラウザに「Webプッシュ通知を表示する許可」を求めるダイアログボックスを表示し、許可をもらうと、それ以降、そのブラウザにサイトから通知を送れるようになります。

Webプッシュ通知の許可を求めるダイアログボックス

ブラウザではすでにChrome、Firefox、Edge、Safariが対応しており(IEは非対応)、Webプッシュ通知を実現するためのサービスとしても、たとえば次のようなサービスがすでに存在します(これ以外にも多くの企業がサービスを提供しています)。

Webプッシュ通知は、「クリック率が20%を超える場合もある」「クリック率はメールの10倍」など、効果的に情報を届けられる仕組みであると言われています。

無差別に使うとメールのようにウザがられて滅んでいくのは間違いない

では、今すぐにWebプッシュを全面的に導入するべきなのでしょうか?

個人的には、ちゃんとコミュニケーションを設計できない企業には、Webプッシュ通知は使ってほしくないと思っています。

その理由は、無差別にWebプッシュ通知の許可を求めたりやたらとWebプッシュを送ったりすることで、ユーザーがそれを鬱陶しく感じ、いずれWebプッシュ通知という仕組みを敬遠するように動くことを恐れるからです。

たとえば電子メールのことを考えてみてください。仕事で使う必要がなければ、メールなんて使いたくない人もけっこういるのではないでしょうか。これは、スパムメール・迷惑メール、さらには企業がのべつ送信しまくった宣伝メール・販促メールの影響だと言えるでしょう。

その結果、仕組みとして迷惑メール対策などが進んだほか、Gmailでは宣伝メールは別枠として扱うように動いてしまっていますよね。

同様のことが、Webプッシュ通知にどんどん起きていくのではないかと考えているのです。つまり、ユーザーがプッシュ通知をいやがり、敬遠し、徐々にブラウザベンダーがその機能を後退させていく動きですね。

これでは、せっかくのWebプッシュ通知という技術が死んでしまいます。

たまたまソーシャルメディアで知人が紹介していたからクリックしてみただけのサイトで、いきなりWebプッシュ通知の許可を求めるダイアログボックスが表示されたら、その人はどう感じるでしょうか。

まだコンテンツのタイトルと冒頭の1行ぐらいしか見てないんですよ。それなのに、「またうちのサイトのコンテンツ見に来いや、通知するから」と声をかけられるなんて、街頭ナンパ並みの無作法だと思いませんか?

しかも、その通知はブラウザ上の動作フォーカスを奪うので、キーボードで操作している人にはストレスこの上ありません。

正直、私は「初めて来た人にいきなりプッシュ通知の許可を求める」サイトには、マイナスイメージしかありません。

では、どうすればWebプッシュ通知を殺さず活かせるのか?

Webプッシュ通知はどう使うべきなのでしょうか? 私は2点あると思っています。

  • 1点は、One-To-Oneコミュニケーション的な、「訪問者の興味や関心をもとに、本当にその人が興味をもつだろうこと」をちゃんと届けるようにすること。

  • もう1点は、Webプッシュ通知の許可の時点で、その訪問者にプッシュ通知でどんな価値を提供するのかがわかるようにすること(こちらは仕様変更が必要になると思いますが)。

1つ目は明確ですよね。サイトに来て、何らかのコンテンツに触れて、できれば複数のコンテンツに触れて、その人がどんなことに興味をもっているのかがわかった時点で、その興味関心にかかわる情報をプッシュ通知で送るのです。

サイトに初めて来た人にいきなりプッシュ通知の許可を得て、許可を得たらこっちの言いたいことをひたすらプッシュで送るなんて、論外です。

そこまで行かなくても、LPO的に参照元サイトやタイミング、さらそのページ内での動きを見て、無条件・無差別ではないプッシュ通知許可を求めるのは可能ですよね。

メディアでも記事が更新されたら通知を送るんじゃなくて、その人が興味をもちそうな内容を送るように、裏側でユーザー行動や反応を測りながら調整すべきです。

たとえば、求人サイトで求人情報を検索したときに「この検索条件の新着求人をブラウザ通知で受け取る」というようなやり方をしているところがあります。こういうのは、非常に正しい使い方ですよね。

2つ目はわかりづらいかもしれませんが、今のプッシュ通知の許可を求めるユーザーインターフェイスが「アプリケーションの仕組みとしての許可」を判断するものになっているのが問題だと思っています。前出の図を見てわかるように、「○○というサイトが通知の表示許可を求めている、許可するかブロックするか」という情報しか表示されないのです。

そうではなく、「それを許可すると自分にどんなメリットやデメリットがあるかを知ったうえで判断する」ためのインターフェイスにするべきではないでしょうか。

ふつう、メルマガの購読ページでも会員募集ページでも、「このメルマガはこういう内容で、こういう頻度で送ります、購読停止はこうやります」「会員になると、こういういいことがあります、会費はこれだけです、個人情報はこう扱います」という情報を見てから決められるようになっていますよね。

なのに、Webプッシュ通知の許可インターフェイスは、単にブラウザの内部的にもつドメイン名ごとのフラグを立てるかどうかの選択肢でしかないわけですよ。

これでは、ユーザーにとって有益なコミュニケーションができるわけないですよね。

さらには、ユーザーにとって有益な仕組みにするためには、各プッシュ通知から「もう受け取りたくない」(つまりプッシュ通知許可の取り消し)をするわかりやすい仕組みがあるべきですよね。

Web担の読者の皆さんには、「無差別いきなりプッシュ通知の許可表示」や「言いたいことをただ送るだけの通知送信」をしたくなる欲求をグッと抑えて、節度ある、自社にもユーザーにもWebエコシステムとしても良い形でWebプッシュ通知を利用していただければと思います。

この記事の筆者

安田 英久(やすだ・ひでひさ)

株式会社インプレス
Web担当者Forum 編集統括(初代編集長)

プログラミングやサーバー、データベースなどの技術系翻訳書や雑誌『インターネットマガジン』などの編集や出版営業を経て、Webサイト 「Web担当者Forum」初代編集長。ビジネスにおけるWebサイトの企画・構築・運用と、オンラインマーケティングの2軸をテーマにメディアを展開いる。現在は編集統括として媒体に携わる。

個人としては、技術とマーケティングの融合によるインターネットのビジネス活用の新しい姿と、ブログ/CGM時代におけるメディアのあるべき姿を模索し続けている。趣味は素人プログラミングと上方落語と南インドカレー。

記事種別: