CMSから進化したサイトコアは、スマホ対応もマーケ最適化もできる統合マーケプラットフォームだ

昨今のCMSは、単なる「コンテンツ管理」の枠を超えて、「統合マーケティングツール」に進化している。
よろしければこちらもご覧ください

最近のCMSには、単なるコンテンツ管理ツールの枠を超え、複数のデジタルチャネル向けコンテンツを一括管理できるうえに、アクセス解析、A/Bテスト、パーソナライゼーションといった機能を包含し、顧客データベースとも連携可能な「統合マーケティングプラットフォーム」になっているものがある。

この記事で紹介するSitecore CMS(サイトコア)も、その1つ。「きずな」を強調するサイトコアの概要やフィロソフィーについて、同社CEOで創業者の一人であるマイケル・サイファート氏と日本法人の代表取締役社長である片山雅之氏に話を伺った。

単なるCMSではない。統合マーケティングプラットフォームだ

編集部● サイトコアは、CMSなのでしょうか? それとも別の何かなのでしょうか? どんな背景でどんなフィロソフィーをもって作られている製品なのでしょうか?

マイケル・サイファート氏(以下「サイファート」と表記)● サイトコアを創業したのは10年前なのですが、当初はウェブコンテンツ管理のプラットフォームとしてツールを開発しました。開発当時のコンセプトは、企業のIT担当者(情報システム部)が企業内のシステムと統合してWebサイトを管理するためのプラットフォームというものでした。

マイケル・サイファート氏
サイトコア社 CEO

しかしその後、企業サイトにおいてコンテンツを作成したり公開したりするのは、システム担当者ではなくWeb担当者になっていきました。そのためサイトコアも、そうした人向けにコンテンツ管理の機能を提供するという性格が強くなりました。

その後さらに変わっていった企業Webサイト運営の状況に対応してサイトコアも進化しました。現在のサイトコアは、コンテンツ管理ができるだけでなく、Webサイトなどのオンラインメディアを通じて顧客を知り、顧客との対話(コミュニケーション)を可能にするための「統合マーケティングプラットフォーム」というコンセプトで開発を進めています

ビジネスにおいて顧客との対話は重要です。過去にその顧客がどんな行動をしてどんなやりとりをしたかを記録しておけば、次の対話に生かすことができます。さらに、通常のWebサイトだけでなくモバイルメディアやソーシャルメディアなど、多様なチャネルでの対話を結びつけることで、より相手のニーズにあった情報提供ができるようになります。

このコンセプトは、ネットの世界だけでなく現実世界にも拡張するつもりです。あるアクションをネット上で起こした後に、現実世界でどのような行動をしたかを関連づけるわけです。たとえば、あなたがあるお店に行って洗濯機を買いました。家に帰ってネットを見たら、買ったのと同じ洗濯機をレコメンドされていたらおかしいですよね。あなたはもうその洗濯機を買ったのですから、サイトは「買いませんか?」ではなく違うメッセージを伝えなければいけません。サイトコアでは、そういうことができるようにしていきたいと考えています。

編集部● 「統合マーケティングプラットフォーム」というと漠然としていますが、どんな機能があるのでしょうか。

サイファート● まず、一般的なアクセス解析の機能があります。単なるページビューなどの指標を出すだけでなく、コンバージョンポイントを設定しておいて、参照元などのセグメントごとにコンバージョンの状況を分析できます。

特徴的な機能としては、パーソナライズがあります。サイトコアでは、サイトの登録情報や既存のCRMと連携して得た性別・年齢などの属性によってコンテンツを切り替える「ルールベース」のパーソナライズの他に、「パターンベース」のパーソナライゼーション機能も提供しています。これは、訪問者がどのようなページを見ているかによってその人の属性を判断するものです。

パターンベースのパーソナライズをする場合、コンテンツ管理者は、まず「プロファイルタイプの選択」というようなシンプルな作業で、サイト上の各コンテンツに「このコンテンツはこういう人向けである・こういう人が見るはずである」という想定プロファイルを指定することで、コンテンツに属性を設定してグループ化します。すると、サイト訪問者の行動は、プロファイルに対応してあるパターンを示すようになります。このパターンによって、その訪問者には次にどんなコンテンツを提示するべきかのパーソナライズを行うわけです。うまく設計すれば「リードナーチャリング」的な使い方も可能です。

また、前述の解析データも、こうして作ったプロファイルごとに分析できます。つまり、あるプロファイルグループのユーザーはリスティング広告が有効だが、また別のプロファイルグループのユーザーはブログを経由して来てもらうのが効果的だといったことを分析できるのです。これによって、サイト全体でユーザー全体を対象に広告費を最適化しようとするのではなく、顧客セグメントごとに最適なチャンネルを見つけて広告費を分配できます。

プロファイルでセグメント化してみたサイトコアの解析画面の例。参照元ごとに、どれだけの成果を生み出したか(Visits Value)と、プロファイルとの関連性(Relevance)が算出されている。

編集部● 最適化というと、サイト内で複数パターンのページを見せてテストし、最適化するA/Bテストのような機能はありますか。

サイファート● A/Bテストや多変量解析テストもできます。ページにタグやコードを追加しなくても、サイトコアのコンテンツ編集画面から簡単にテストを設定して実施できますし、その結果を分析してさまざまな目的に使えます。訪問者がどのページから来てサイト内でどのように移動してコンバージョンに至ったかという、行動全体を考慮した分析が可能です。

たとえば、サイト上に2種類のボタンを作ってどちらの方がクリックされるかをテストすることもできますが、重要なのは訪問者の行動全体から判断することです。単に設置した2種類のボタンのクリック率の違いだけをテストするのではなく、その後のユーザーの行動も含めて、サイトのゴールに対してどのパターンが有効化を分析できます。

  • マルチチャンネルでの顧客との対話を実現するプラットフォーム
  • マルチデバイス対応でスマートフォン向けも
  • セッションを超えたアクセス解析でアトリビューションも分析
  • クラウドにも対応しハイブリッドが可能

マルチチャンネルでの顧客との対話を実現するプラットフォーム

編集部● CMS(コンテンツ管理システム)にマーケティングコミュニケーションやCRMを統合したプラットフォームということでしょうか。

サイファート● 我々の製品によって、デジタルチャネルでの顧客との対話が可能になり、さらに、それをCRMシステムと連携する統合レイヤも用意しています。多くの企業ですでにCRMを導入していますし、大企業では複数の顧客データベースをお持ちです。我々の製品は、複数の顧客データベースと連携できるようになっています。

編集部● 実際に利用するのは、主にウェブの編集者でしょうか。

サイファート● もともとはそうですが、昨今ではマーケティング担当の方や販売担当の方が利用する場合もあります。

編集部● サイトコアを上手く使っている事例を教えてください。

サイファート● YouSeeの例がよいでしょう。デンマークのケーブルテレビ会社で、放送・通信・電話のトリプルプレイプロバイダーですが、YouSeeではサイトコアを使って複数のデジタルチャネルを連携し、顧客データベースとも統合しています。ウェブ公開やメール配信などもサイトコアのプラットフォームを利用して行っています。Webサイトでは、各ユーザーをIPアドレスで識別してウェブコンテンツをパーソナライズしています。メールでも、各ユーザーがどのサービスを購入したかというデータベースの情報から、最も関連性の高い情報でパーソナライズしたメールを配信しています。

編集部● メール配信、ターゲティング、分析など、それぞれに特化した専門のツールはいろいろとあります。これらを利用する形で連携するのではなく、コンテンツ管理製品にそれらの機能を統合したのはなぜですか。

サイファート● この新しいプラットフォームへの取り組みは、2006年から始まりました。この時、さまざまな製品を適切に連携させるのは技術的に難しいだろうし、たとえ表面上は連携できたとしても、それによってそれぞれのツールの機能を十分に使い切れないのではないかという懸念がありました。だから、他のツールと連携する路ではなく、機能を統合する方法を選んだのです。

といっても、我々は排他的であろうとは思っていません。サイトコアのなかに各種のマーケティング機能をもたせていますが、今は既存の他社ツールと連携して利用することもできるようになっています。YouSeeはそういう意味でもよい例で、アクセス解析には主にSiteCatalystを使い、サイトコアのマーケティング機能と連携して利用しています。他にもWebtrendsやグーグルの解析ツール、メールシステムなどと連携しているお客様がいます。

マルチデバイス対応でスマートフォン向けも

編集部● 日本ではスマートフォン対応が一番ホットな話題ですが、そうしたニーズにサイトコアはどう対応していますか。

サイファート● スマートフォンを含めたマルチデバイス対応も、サイトコアプラットフォームの強みです。そもそも出自がコンテンツ管理システムですからね。1つのコンテンツを制作するだけで、それを複数のデバイス向けに最適化して出力できます。スマートフォン対応だけでなく、iモード向けのCHTMLやXMLなど、テンプレートを作り込めばワンソースマルチユースでさまざまな表示が可能ですし、PDF出力も可能です。

もちろん、前述のパーソナライゼーションやA/Bテストの機能は、スマートフォン向けサイトでも可能です。サイトコアにとっては、どのデバイスで見られているかは問題ではありませんから。

片山 雅之 氏
サイトコア株式会社
代表取締役社長

片山 雅之 氏(以下「片山」と表記)● どのようなサイズでどのような配置でというような定義をしておけば、1つのコンテンツを複数のデバイスに適したサイズや見せ方に自動的に加工して配信できます。スマートフォン対応だけでなく、iPadやAndroid端末向けアプリの配信に利用している事例もありますし、マルチチャネル対応ということで日本の高機能携帯(ガラケー)向けや、さらにはウェブTVやデジタルサイネージ向けの出力にも対応しています。また、スマートフォンアプリ開発用キットの提供も予定しています。

スマートフォン対応といっても、スマホ向け表示はPC向けとは別のURLで表示する場合もあります。しかしサイトコアでは、アクセスしてきたデバイスの種類に応じて自動的に表示を変えられますので、PC向けでもスマホ向けでも同じURLでコンテンツを提供できます。これによって、SEOの効果も期待できます。

編集部● サイトコアで作ったサイトをスマートフォン対応にしようというとき、手間とコストはどのくらい削減できるか分かるような数字はありますか。

片山● 数万アイテムあるようなサイトで、レイアウトを何パターンか作ってスマートフォン向けサイトに対応する作業を2日で完了したという例があります。たとえばスマートフォン対応の作業のなかで、画像をPC向けよりも小さくする必要があります。通常のコンテンツ管理では、縮小した画像を別に作ってどこかに保存しておかなければいけませんが、サイトコアは1枚の画像を用意しておいて、表示する際に自動的にリサイズできます。もちろん、テストなどをしなければなりませんから、どんなサイトでも2日ですべてが完了するというわけではありませんが、作業時間はかなり削減できるでしょう。

  • セッションを超えたアクセス解析でアトリビューションも分析
  • クラウドにも対応しハイブリッドが可能

セッションを超えたアクセス解析でアトリビューションも分析

編集部● アトリビューション分析も徐々に話題になっています。海外での状況やサイトコアのお考えを教えてください。

サイファート● 多くの場合、アクセス解析では「トラフィック」を計測しますが、それとコンバージョンはさほど密接な関係ではありません。大企業では多くのコンバージョンがありますが、それぞれ異なる意味と価値があります。トラフィックの価値を示す指標と、トラフィックの量を示す訪問者数とは別物なのです。

アトリビューションについてサイトコアでは、どの検索エンジンからの来訪が多いか、どのソーシャルメディアで会話されていることが多いかを分析し、どのチャネルの貢献が大きいかを明確にします。どこから流入するかというだけでなく、ドリルダウンすることでより詳細な情報を見ることもできます。

流入経路別にマーケティング施策全体の成果を分類したエンゲージメント効果測定

編集部● 貢献度はどのように計るのでしょうか。

サイファート● 貢献によってポイントを加算していきます。たとえば、最初にグーグルからやってきたとします。その時はポイントは加算されません。その来訪者がその後、ダイレクトで5回アクセスすると、グーグルに100点加算されるといった感じです。

この仕組みがマーケティング担当者に示しているのは、「本当に貢献しているのはどのチャネルで、どこへ投資するのが効果的か」ということです。すべてのアクセスについて、どこから流入したか平等に計測するのではなく、もともと何によってその商品やサイトを知ったのかがわかるからです。

陥りがちなのは、とてもよいコンバージョンがあった場合、そのチャネルにばかり注目し、コンバージョンしたユーザーがそれ以前にどこで自社のことを知ったのかを見失うことです。サイト訪問者は複雑な動きをして最終的にコンバージョンに至るので、最後のアクセスがどこから来たのかだけを見るのでは、どこへ投資するのが広告効果が高いかはわからないのです。コンバージョンに至ったラストタッチのセッションだけを分析するというやり方は、すでに一昔前の考え方です。

クラウドにも対応しハイブリッドが可能

編集部● 日本でもクラウドが注目されていますが、クラウドについてはどう考えていますか。

サイファート● モバイルサイトを含めたウェブサイトなどのデジタルアクティビティがクラウド化するのは、自然の流れだとは思います。クラウドは電気のようなもので、将来的にはスイッチをひねれば誰でも簡単に、世界中の好きな場所で必要なだけクラウドを通じてさまざまなシステム機能を利用できるようになるのが理想です。そうなれば、ウェブはすべてクラウド化するかもしれません。

サイトコアは、マイクロソフトのAzureによるクラウドに対応していますので、クラウド型として利用することも可能です。

編集部● 現状ではデータセンターにウェブサーバーを置いて運用している企業の方が多いのですが、方向性としてはどんどんクラウド化し、クラウドCMSになるべきだとお考えですか。

サイファート● 必ずしもそうだとは限りません。自社でプライベートクラウドを構築できる能力のある企業なら、それが可能でしょう。しかし、各企業が社内システムをどのように構築するかの戦略によって、異なる結果になるはずです。

片山● クラウド化に関しては、我々が「こちらへ行く」と決めるわけにはいきませんが、お客様に選択肢を提供できるようにしておくことが重要だと思っています。

企業によっては自社内で持っておかなければならないデータもあります。そういうケースでは、オンプレミスのシステムとして提供します。一方で、サイトへのアクセスの増減が激しい場合には、ハードウェアを購入してセットアップしてということでは間に合いませんからクラウドを利用しますよね。その場合にはクラウド型で提供すると。

編集部● CMSをクラウド化するかどうかの判断基準は何かありますか。

サイファート● 基本的に、トラフィックの増減の激しいものはクラウドを利用し、機密保持が重要な分野ではオンプレミスのシステムを使うべきですね。MSN産経ニュースのサイトはいい例でしょう。編集や管理のシステムは社内に置いていて、配信はAzureでクラウド化と使い分けるハイブリッドモデルです。

編集部● スケーラビリティかデータの機密保持かの判断ということですね。

片山● その他に、一年間のうち特定の期間だけ使うような季節物の場合も、クラウドを利用するケースが多いですね。さらに震災以降は、事業継続性という面から災害対策用に遠隔地のクラウドにデータを置くというケースが注目されています。

編集部● サイトコアが考えるデジタルマーケティングの現在と将来について教えてください。

サイファート● まず、ウェブをめぐる新しい市場ができつつあると感じています。ウェブコンテンツ管理という分野に、さまざまなマーケティング手法やeコマース、ソーシャルメディアなどの異なる分野の製品が近づいてきて、複合的なものとしての市場ができているのではないでしょうか。

サイトコアは2006年にコンテンツ管理システムからスタートしてこの新しい市場に向かっているのですが、最近は特に動きが激しいですね。たとえばIBMはマーケティングツールのUnica Corporationや分析ツールのCoremetricsを買収しましたし、共通管理基盤のWebSphereを持っています。アドビもコンテンツ管理のデイ・ソフトウェアや分析のオムニチュアを買収しています。彼らは、異なる業種からこの新たな市場への参入者です。市場規模の面でも、CRMやERPにひけをとりません。

編集部● ウェブ担当者はコンテンツ制作のみならずマーケティングや分析など、すべてをやらなければならない状況になっているということでしょうか。

サイファート● そういったすべての分野に熟達したエンジニアというのは、ごく限られているでしょう。それぞれスキルが必要で、メールマーケティング1つとっても成功させるのはそれほど簡単ではありません。重要なのは、サイトコアのようなプラットフォームを使うことによって、コンテンツやマーケティングに関するすべてのことを一元的に概観できるということです。

編集部● CMSは、サイト管理者の作業が楽になるという明確なメリットがありました。

サイファート● それがそもそもの目的ですね。

編集部● サイトコアは、そのような単純なメリットがあるというよりは、ビジネス全体を考えていくうえで有効なものだということでしょうか。

サイファート● その通りです。サイトコアの利用者は、事業戦略について考え、さまざまなシステムを構築していこうとする人たちです。

編集部● 単なるCMSではないということですね。

サイファート● CMSを核として、さまざまな機能を備えたプラットフォームです。個人的には、CMSという言葉は好きではありません。最も重要なのはビジネスの視点です。コンテンツ管理もさることながら、顧客との対話がより重要なのです

サイトコアは、今後マーケティング施策を展開していくにあたって必要となるものは、単にコンテンツ管理・運用する場だけではなく、企業(マーケティング担当者)と顧客とが効率よく「会話」する場になると考えています。そのためには、コンテンツ管理・コンテンツの効率的な展開・分析/解析を複数のシステムで実施するのではなく、1つの統合プラットフォームで展開し、顧客行動の変化に合わせて、マーケティング担当者自らの手で簡単にすばやくPDCAサイクルを実施できるプラットフォームを開発・提供していきたいと考えています。

パートナー企業とも協力して、日本のお客さまのお役に立ちたいと思っています。顧客やパートナー企業との絆を大切にすることこそが、サイトコアの重要な価値なのです。

編集部● ありがとうございました。

サイトコア株式会社

サイトコアは2001年にデンマークのコペンハーゲンで設立された企業で、複雑化するWebサイトの構築・管理・運用をシンプルにするSitecore Web CMS(コンテンツ管理システム)に、顧客との接点の質を高めるためのWeb解析・最適化ツールを組み込んだ「顧客エンゲージメントプラットフォーム」を提供している。サイトコアのソリューションは世界各国の大手企業や政府機関で採用されており、2万4,000以上のWebサイト構築に使用されている。

この記事の筆者

柏木 恵子
ITジャーナリスト

テーマ別カテゴリ: