B2B企業のサイト集客ステップバイステップ、“落とし穴の飛び越え方”

B2Bサイトの集客は、単純に「たくさんの訪問者数を集めれば良い」というものではない。
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第4回 B2B企業のサイト集客ステップバイステップ、“落とし穴の飛び越え方”

SEOというと、ショッピングサイトやB2Cビジネスに限定したものだと思っている人が多いようだが、それはまったくの誤解。むしろ、顧客の顔が見えやすいB2B企業の方が検索をもとにした「狙い込んだ集客」をしやすい状況にあると言えるだろう。第4回は「B2B企業サイトの集客」に焦点を当てて考えてみたい。

目標訪問者数を決める

「B2Bサイトの集客」は、単純に「たくさんの訪問者数を集めれば良い」というものではない。

「製品を売ろう、そのための資料請求や問い合わせを集めよう」とするなら、企業客が訪れなければならない。ところがホームページでは、企業客だけを選んで集めるのは簡単ではない。検索が発達しているから、どうしても一般の消費者(一般客)が来てしまうのだ。一般客とは言わないまでも、理科系の学生がレポートなどを書くために調べ物をしていることも多い。サイトを訪れてくれるのは歓迎だが、学生の調べ物では製品の営業相手にはならない。

たとえば月に10万人が訪れているといっても、多くのサイトでトップページの訪問者はだいたい3割、つまり3万人程度となっている。製品情報となるとさらに少なく、各ページのアクセスは数千人という規模になってしまう。もっとも、B2Bの場合は、数が問題ではない。来てほしい訪問者が来ていさえすれば良いのだ。1人が買えば、数億円の取引になるかもしれない。幅広くたくさんの訪問者を集めるよりも、フォーカス&ディープ。狙ったとおりの集客を行うことが欠かせない。よほど幅広いブランディングや採用を考えているのではないかぎり、B2Bサイトではミスマッチな訪問者は早く帰ってくれたほうが良いぐらいだ

そういうわけで、まずは、目標とする訪問者数を想定してみよう。それも、サイト全体の訪問者数ではなく、「見せたいページの訪問者数」という考え方のほうが考えやすいだろう。そのためには、主力製品のコーナートップを「標的ページ」と決めて、そのページの訪問者数を目標値にするのだ。

図1 標的とするページを決めて、その訪問者数を伸ばす
“もっとも製品の魅力を伝えてくれるページ”を「標的ページ」と決めて、このページのアクセスをウォッチしよう。

普通の検索でひっかかって来てしまった人であれば、この製品ページを見ることはない。すぐに帰ってしまうだろう。

ところで、目標とする訪問者数はどれぐらいだろう? 業界の関係者を数えてみると良い。対象とする営業先の会社はいくつあるだろう? 業界人なら誰もが読んでいる雑誌の発行部数は? 業界最大の展示会イベントの参加者数はどれぐらいあるだろう。そうしたところから目標値を決めていけば、5万人、10万人と決めることができるだろう。

目標値に完全な正確さなど必要ない。顧客の姿をできるだけ具体的に思い浮かべるのに役立てば良いのだから。無理やりかもしれないが、まず一度、「目標訪問者数」を決めてしまおう。対策はここから始まる。

顧客は何を求めているか、分類する

次に、全体数を決めたら、今度はその顧客全体をテーマごとに分類していくのだ。

B2Bといっても製品のタイプはいろいろある。その製品のタイプで獲得できる顧客の数もいろいろだ。銀行業界だけに絞り込んだソリューションと言うなら、人数は限られている。百貨店業界だけ、という製品なら、もっと限られるかもしれない。一方、企業総務部に経費節減を訴える製品なら、相手とする会社は無数にある。上場企業だけで1万社、中堅・中小規模まで入れれば30万社としよう。上場企業で10人ずつ、中堅・中小では3人ずつが対象者だとすれば、ちょうど100万人が対象となる。

対象者数が100万人だからといって、サイトに100万人全部を集めるわけではない。狙いを定めて良い形で集客をするわけだ。サイトをフォーカス&ディープに運営し、コンテンツを作成し、広告やSEO施策で狙ったとおりの訪問者を集める。この作業に必要なのが、「顧客の分類」だ。顧客はどんなことを求めているだろう。そのニーズのタイプによって分類するのだ。

たとえば、組み込みチップの顧客といっても、ゲーム機を開発している会社とネット関連機器を作っている会社では違うだろう。家電メーカーでも、テレビと掃除機では、組み込みチップに求める条件は変わってくる。分類のノウハウ自体は自分の会社のなかにあるのだ。Web担当者が広報や総務のスタッフである場合、そのノウハウがわかりにくい場合もあるだろうが、まずはそれぞれの製品担当にヒアリングして、何を求める顧客がいるのか、リストアップしていこう。

製品ごとの顧客マップを重ねあわせてみると…

分類ができたら、同時にどのグループの顧客が多いか少ないかを割り当てていく。

パワーポイントを開いて、各顧客グループを円で表し、並べていこう。図2のような、事業部ごと、製品ごとの顧客マップができるはずだ。

図2 技術系転職サイトの顧客ターゲットマップの例
顧客ターゲットを把握し、それを押さえていることが必要。たとえば「Iターン」を考えている人が検索などでサイトを発見してくれるように作られていなければ、来てほしい人が訪れないサイトになってしまう。

こうした顧客マップを描くと、ユーザーのニーズのありかがわかる。これはそのまま、図3のようなサイト内誘導図に落とし込むことができるだろう。

図3 サイト内誘導図の考え方
入り口のコンテンツを充実してそれぞれのお客様を歓迎し、そこから本当に見せたいページに誘導するストーリーを作ることが大切だ。

これによって、どんなことを求めている顧客が、どのページに訪れ、そこからどのリンクをクリックして次へ進み、ゴールへ近づいていくかが、動線として把握できる。この“流れ”を成長させることが当面の目標となる。狙いとは関係ない訪問者がいくらたくさん訪れ、どれだけ直帰しようと、B2Bサイトでは意味がない。狙いとする訪問者が何人いて、現在何人訪れているか、を把握しているのだから、他の動きはむしろ気にするべきものではないのだ。

このように“狙ったとおりの訪問者が狙ったとおりのニーズでサイトを訪れる回数を増やす”ための、下調べが「アクセス解析」で、具体的対策が「SEO」なのである。検索エンジンの自然検索でその数を増やすことができれば理想的だが、それが難しい場合には、リスティング広告を使って補うと良い。

だから私は、こうした作業を総称して「SEM」(検索エンジンマーケティング)と呼んでいる。「リスティング広告=SEM」といった言葉遣いをする人もあるが、市場の動向とは無関係に広告を出すということはマーケティングではありえない。来てほしい人がもっとサイトに来るようにすることが大切なのだ。

・狙った集客と望ましいページへの誘導
・キーワードツールや検索エンジンの活用
・キーワードを効率良く含むコンテンツ
・アクセス解析の見所

狙った集客と望ましいページへの誘導

では、狙いを定めて良い見込み客をサイトに集めるB2Bサイトの作戦展開の実務を見ていくことにしよう。

B2Bサイトにもいろいろあるが、狙っている相手を、多くの会社の「総務社員」だとしてみよう。なるほど、ターゲットは総務社員である。ただ、それだけでは“日本中の会社にいる総務社員”ということで、まったく絞り込みができない。ターゲットをもう少し細かく見ていくことで、次に打つ手が見えてくる。

たとえば、自社の製品やサービスを使うと、コストダウンになるかもしれない。これは総務社員が求めるポイントだ。また一方、この製品やサービスは、会社運営や総務の仕事を楽にするものでもあるだろう。訪問者は製品内容にまつわるニーズだけで訪れるわけではないのだ。

また、せっかく来てもらっても営業部がフォローできないエリアの顧客では、成約に至る道筋が描けないだろう。逆に言えば、最初から営業所のある地域の人がサイトを訪れると強みを発揮するのである。

では、「この会社は、仙台に営業所がある」という設定で例を作ってみよう。

図4 狙った集客のためのコンテンツ構成

まず、コストダウンを考えている人のニーズを整理する。軸になる言葉は「コストダウン」だが、これにはいくつもの類語があるので、それをまず、列記してみよう。

  • 経費節減
  • 経費削減
  • コストカット
  • 経営合理化
  • 節約
  • 切り詰め
  • 軽減

類語辞典などを使えば、さまざまな言葉を思い出すことができるだろう。一方、「会社運営や総務の仕事を楽にする」という角度で考えてみる。すると、

  • 総務向け業務支援
  • 総務 サポート

といった直接的な言葉のほか、

  • 人事
  • 社内連絡
  • オフィス レイアウト
  • 周年行事

などなど、多様な総務の仕事を表す個別のキーワードが並ぶ。日本では戦後のどたばたの時期を過ぎ、1950年ごろに多数の会社が設立されているわけだが、そうした会社は2010年ごろに60周年を次々に迎える。これは総務社員にとっては、普段の仕事で忙しい上に、大変な作業としてのしかかる。周年行事は10年に一度といった、慣れていない業務だけに、総務社員にとっては大変なことなのだ。大先輩のOB社員に連絡をとったり、多くの取引先ともやり取りが必要だったりで、気を使う仕事でもある。

つまり今、総務社員は助けてほしい、という状況なのだ。総務サポートの製品・サービスを持っている会社にとってはチャンスの大きな時期だと言えるのだ。こうした背景も参考にして、自社の製品に結び付きやすいキーワードを探していこう。

キーワードツールや検索エンジンの活用

キーワードを探すには、GoogleAdwordsやオーバーチュアのリスティング広告のためのキーワードツールや、検索回数の多い組み合わせキーワードを教えてくれる検索エンジン「Ferret」などが便利である。試みにFerretを使って「周年」関連の言葉を探すと、

  • 10周年、100周年、50周年、20周年

といった時間の長さや

  • 創業
  • 周年

などのほか、

  • 周年記念
  • 周年行事
  • 周年記念品
  • 周年キャンペーン
  • 周年ロゴ
  • 周年記念誌
  • 周年イベント
  • 周年 挨拶
  • 周年記念事業
  • 周年企画

といった言葉が見つかる。こうしたところに、「顧客のニーズ」というものはあるのだ。総務社員に集まってもらいたいと考えたら、こうした顧客が求めているゾーンに対してアピールをしていかなければならない。こうした仕事のノウハウを持っている会社の、良いサービスがあれば、総務社員は見てみたいし、コストダウン側のサービスも使ってみたいと思うだろう。

もちろん、周年行事でなければ役立たないわけではない。わかりやすい例をということでこれを掘り下げてみただけのこと。自社で提供する製品・サービスに結び付きやすい、総務社員の関心事というのはもっと選ぶことができるはずだ。

キーワードを効率良く含むコンテンツ

さて、狙いを仮に周年行事に決め、それで総務社員を集めようとしたとする。

見つけたキーワード群は、いわばニーズの構造を示している。これを並べ替えれば、「役立つコンテンツ」が浮かび上がる。そうすればサイト構成もでき上がるだろう。

図5 狙った集客のためのコンテンツ構成
できるだけ、コンバージョンもていねいに、顧客ニーズごとに設定して魅力的なものを提供する

トップ+5ページの企画として図示してみた。「周年」で検索した人がコーナートップに、「周年 ロゴ」ならページ(2)へ、「周年 記念品」ならページ(4)に訪れるようにすればいいわけである。来てほしい訪問者(今回の例では総務社員)が、これらのページを入り口にしてサイトを訪れるようにしたい。このコンテンツによって、やっと狙った訪問者が訪れるサイトになるかもしれないわけだ。

おそらく訪れる人は、あなたの会社のことも製品・サービスも知らない。「あの製品が欲しい」と検索時に思い付いていることは少ないだろう。ということは、最初は「周年 ロゴ」などで検索して訪れ、「良いサイトを見つけた!」「これで助かる」と思ってくれる。そうすれば、次からはリピーターとしてアクセスしてくれる。「周年行事なんてテーマは狭すぎる」と思われるかもしれないが、実際には膨大な検索が行われており、しかも大きな周年行事は5年がかりで準備したりするものだから、意外に検索期間も長い。会社にとっては勝負できるタイミングの作りやすいテーマかもしれない。

アクセス解析の見所

アクセス解析では、

  • 狙ったキーワードでの検索回数が増えたか?
  • お気に入りなどからの再訪が増えていくか?

などを管理していこう。

もっとも、顧客になりやすい人だからと言っても、ただサイトを訪れて記事を読んで帰っていくだけでは商売にならない。こちらとしては「何が発生すれば、成果として数えられるか」を決めておかなければならないし、そこに向かって訪問者を追い込んでいくのがサイトの役割だ。検索回数や再訪数だけを眺めていても、らちがあかない。次に大切なのは、

  • 入り口ページの直帰率は低いか?
  • 次のどのページに移動したか?
  • 望ましいページに移動させているか?

ということになる。これをチェックして、ページを改善し、望ましいページに移動する回数を増やしていくことができれば、確実に成果を高めていけるだろう。望ましいページに移動する回数を増やすためには、リンクの位置、ボタンの大きさ、色使いの調整を行うのが一般的だが、もっと大切にしたいのは、ボタンの文言だ。

詳しくはこちら
「製品詳細」

こんな文言でリンクしても、クリックしたくならない。リンクの文言とは「お客様との会話」なのだ。B2Bサイトだからといって、そっけない文言にする必要などまったくない。営業マンは日々、言葉を工夫して、営業相手に関心を持ってもらおうと、あの手この手のトークを展開している。ホームページの文言ももっと工夫したい。クリックを誘う文言としては、たとえば、

周年行事には良い記念品が欠かせない!
周年挨拶で禁句となるのはどんな言葉?

など、同じ製品・サービスにリンクするにしても顧客を誘う気持ちで文言を考えれば、結果は変わってくる。サイト全体をリニューアルするよりも、ボタンの文言を変えて結果の変化をアクセス解析しよう。「望ましいページに移動させている」状態が少しずつでも伸びてくれば、効果が出てくるだろう。B2Bサイトでは、こうしたプロセスで、いたずらに人数を集めるのではなく、来てほしい顧客を集め、望ましいページに誘導することが着実にサイトの効果を伸ばすために必要なのである。

この記事の筆者

石井 研二(MILS)

株式会社ミルズ 主任研究員

雑誌編集、通販カタログ企画を経て、95年からウェブプロデューサ。Web黎明期からアクセス解析を使い、多くの企業サイトを成功に導く。「直帰率」という言葉の生みの親として知られる。

Webそのもののコンサルティングから、Webを絡めた売上向上やコスト削減など経営全般に関わるコンサルティングが増えてきたため、企業分析と企業Web分析を組み合わせて「すべてを見る」ことをコンセプトとした分析会社「ミルズ」を設立。株式会社ミルズ主任研究員。

著書に『ウェブ立地論 ~“来てほしい人にアプローチする"集客につながる顧客目線のウェブの作り方』『ガッチリ成果を出すWeb担当者の教科書 ~便利テンプレートデータで実務を効率化!』(技術評論社)、『改訂新版アクセス解析の教科書』(翔泳社)等がある。

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