もしも、「三井記念病院」を解析するなら [第25回]

前回の帝京大溝口病院に続き、今回は秋葉原にある総合病院・三井記念病院をチェック。最後に比較して、まとめもあり。
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誰もが知っている有名サイトをエキスパートレビューしながら、「もし、アクセス解析するなら」どのポイントに着目するかを第三者的な視点から解説。アクセス解析を用いてサイトの改善を行うための仮説構築力を身につけて、自社サイト、クライアントサイトをアクセス解析する際に役立ててほしい。

木曜9時は「かってに解析!」ということで、毎週連載「有名サイト、かってに解析!」では、有名サイトを取り上げ、アクセス解析で実際に解析データを見る前に、あらかじめサイトの問題点やチェックポイントにあたりをつける方法を解説していく。

今回は病院サイトの2回目。前回の「帝京大溝口病院」に続き、今回は「三井記念病院」のサイトを取り上げる。三井記念病院は、東京・秋葉原の近くにある総合病院で、三井財閥の三井高棟によって1906年に設立された由緒ある病院である(以下、カギかっこ付きで「帝京大溝口病院」「三井記念病院」と書くときは、病院自体ではなくそれぞれのサイトを指す。他のサイト、団体、企業も同様)。

今回はおもにこの2つのサイトを取り上げ、課題の抽出や考察を行うのだが、筆者は医療業界の各病院や団体、サイトが直面している課題や戦略・戦術を十分に理解しているわけではない。あくまでもどのような点に着目したらよいのかを重視して読んでいってほしい。

両病院サイトの閲覧シチュエーションを再確認

まずはおさらいから。前回の最初に書いたように、病院サイトのユーザーが体験するシナリオは次のような想定だった。

今回のシナリオ

ユーザーかかりつけの近所のお医者さんからの紹介で、大病院に行く
目的初診で診療を受けに行くための事前調査
  • 病院の場所の確認
  • 当日診察の流れの確認や準備
  • 診療日と予約方法の確認

では、さっそくこのシナリオに沿って、「三井記念病院」をエキスパートチェックしていこう。

「三井記念病院」をエキスパートチェック

まず、「Yahoo! JAPAN」や「Google」で「三井記念病院」と検索すれば、「三井記念病院」のサイトへ間違いなく行くことができる。「三井病院」と検索しても「Yahoo! JAPAN」でも「Google」でも2位に表示されるし、迷うこともないだろう。

トップページの見やすさはどうか?

それではまずトップページを見てみることにする(図1)。トップページの右上には「サイトマップ」と「文字サイズの切り替えボタン」や「検索機能」が提供されているのはよいのだが、グローバルナビゲーションが見あたらない。ファーストビューで使えそうなリンクとして見えるのは、「地図・交通のご案内」「患者の皆さま」「診療科一覧」といったところだけだ。

図1:「三井記念病院」のトップページ

東日本大震災の後ということで、三井記念病院が大震災に対してどう対応しているのかということを知らせるために、ファーストビューの半分を使っているが、これがユーザー視点になっているとは思えない図1の赤枠で囲んだ部分)。

第2階層のページには、ページの上部にグローバルナビゲーションが出現するのだが、もし震災対応ということでトップページからグローバルナビゲーションをなくしているのであれば、震災対応のエリアを減らしてでも復活すべきではなかろうか。また、もともとこういうトップページの作りなのであれば、サイト全体の統一感という面でも、他のページと同様のグローバルナビゲーションを付けた方がよいのではないだろうか。特に「採用情報」のリンクがトップページにないのは残念だ。

  • 閲覧目的その1:病院の場所を確認したい
  • 閲覧目的その2:診察の流れを確認したい
  • 閲覧目的その3:診察日を確認したい

病院の場所を確認したい

さて、次は病院の場所の確認に進もう。トップページでは一番上の中央と、ファーストビューの右下に「地図・交通のご案内」のリンクがあり、すぐ目に付くだろう(図1の青枠で囲んだ部分)。そのリンクをクリックしたのが、下の図2だ。大きな地図と最寄り駅からの所要時間があり、さらに印刷用のPDFも用意されている。

図2:「地図・交通のご案内」のページ

診察の流れを確認したい

次に、診察の流れを確認しよう。グローバルナビゲーションの「患者の皆さま、受診をご希望の皆さま」をクリックしたのが、下の図3だ。

ユーザーが外来患者なのか入院患者なのかによって、次に見るページの振り分けをしている。初診の外来なので、「外来受診のご案内」をクリックした(赤枠で囲んだ部分)。リンク先が下の図4だ。

図4:「外来受診のご案内」のページ

診療の流れはこのページですべて理解できた。診療申込書など事前に用意できるものはPDFでダウンロードできるのもよい。一番下にあるフロア案内図も、小さいけれど、自分に関係のある診療科がどのあたりにあるのかあらかじめ確かめておくこともできる。「外来受診のご案内」は、3階層目のページなのだが、同じく3階層目にあるページに移動したい場合は、ページの左側にローカルナビゲーションが用意されている(上の図4の赤枠で囲んだ部分)。ほぼどのページでも共通のページの作りになっているので、統一感はある

診療時間や休診日も明瞭だ。三井記念病院では「診療予約制」を導入しており、紹介状をもらっていれば、コールセンターで予約すればいいことが分かる。電話番号も明記されている。ただ、診療の流れのグラフでの色分けの意味は理解できなかった

診療日を確認したい

次に診療日の確認に進みたい。「外来診療表」タブをクリックして(上の図4の青枠で囲んだ部分)、自分の診療科の診察日を事前にチェックすることにする。自分の診療科は想像できるので、これで確認して予約の準備は完了だ。

図5:「外来診療表」のページ

シナリオにはないのだが、公共施設としての病院という観点からは、次の2つの点が気になった。

  • 電話番号のみつけにくさ
  • 急患のための案内ページの見つけにくさ

まずは電話番号の見つけにくさについて。フッターに小さく代表電話番号があるが、気がつきにくい。

急患のための案内は、サイトをくまなく探せば、「患者の皆さま、受診をご希望の皆さま」→「外来受診のご案内」→ローカルナビゲーションの「時間外受診のご案内」が該当のご案内ページだとわかるのだが、ここまで深いページを探すのは、急いでいて、平常心でないユーザーにとっては難しいかもしれない。

なるべくやっかいな問題に関わりたくないという気持ちがもしかしたらあるのかもしれないが、急いでいる時の電話番号の見つけやすさや、急患の受け入れといった緊急時に知りたい情報の見せ方は不十分なのではないだろうか。

  • 「三井記念病院」をユーザー視点からの評価まとめ
  • 想定目的の達成度合いは?
  • 前回+今回のまとめ&アクセス解析でどこに着目するか?

ユーザー視点からのチェック&想定閲覧目的の達成度合いは?

今回は、「かかりつけの近所のお医者さんからの紹介で、大病院である三井記念病院に診察に行く」というユーザーの視点で、サイトを見てみた。その視点から見ての評価を最後にまとめておこう。

ユーザー視点からの評価

全体としては、トップページでの情報提供で若干難があるものの、サイト全体のページの作り方は統一感がある。今回のサイト訪問目的に対しては問題ないレベルで、サイト訪問の目的を達成できたと言えよう

想定目的の達成度合いは?

今回、初診で診療を受けに行くための事前調査として、想定した閲覧目的は、以下の3つだった。

  • 病院の場所の確認
  • 当日診察の流れの確認や準備
  • 診療日と予約方法の確認

三井記念病院」のサイトを見てきて、結果的に今回想定した目的の達成度合いは下記の通りだった。

目的達成度合い
病院の場所の確認
当日診察の流れの確認や準備
診療日と予約方法の確認

前回+今回のまとめ&アクセス解析でどこに着目するか?

最後にデータ解析的にはどういうところに着目して数字を見たらよいかについては、前回の「帝京大溝口病院」のサイトの場合と一緒に解説していく。

  1. トップページは使いやすいか?

    トップページは帝京大溝口病院」の方がユーザーのお目当てのコンテンツに行きやすい構造ではないかと思う。直帰していなユーザーだけに絞って1訪問あたりのページビュー数を比較すると、「三井記念病院」の方が目的のページまで行きにくくて、相対的に多くなるのではないだろうか。トップページのページ滞在時間も(どこに行けばいいのか迷ったために)長くなっているのではないだろうか。

    もちろんここでデータを相対比較することはできないので、三井記念病院」のトップページは、コンテンツのリンクを探しに下までスクロールされることが多いのではないか、しかし下のコンテンツがクリックされるわけではないのではないかという仮説を立ててみた。逆に「帝京大溝口病院」の方はスクロールされることが少ないと考えられる。これらは「ヒートマップ」や「クリックマップ」などのデータを提供しているツールがあるので、そのようなツールを利用して検証してみたい。

    あとは「三井記念病院」のトップページはグローバルナビゲーションのあるページとないページをA/Bテストでページ滞在時間を比較して、グローバルナビゲーションありのトップページの方が、ページ滞在時間が短くナビゲーションを素早く誘導しているのではないかという仮説を検証してみたい。

    帝京大溝口病院」のトップページは強いて言えば、メインビジュアルの左側の薄いオレンジ色のリンクのコントラストを上げることで、ここに位置するリンクのクリック率が上がるのか上がらないのかを検証してみたい。

    あとは、「帝京大溝口病院」のトップページの背景色の切り替えボタンが本当に利用されているのかどうかを検証したい。面白半分にここをクリックすることはあっても、ずっとその状態で見ている人がどれくらいいるのかが分かれば、このボタンの有効性が明らかになる(特別な仕掛けをしないとそのような計測はできないとは思うが)。

  2. 人気ページを調べてコンテンツ誘導に活かしたい

    前回、病院サイトに訪問する人の目的は大きく分けて、患者として訪れる場合と、医療関係者として訪れる場合(職員応募など)が考えられるという話をした。これらの人たちの割合も違うと思うので、単純に全体のページビュー数を比較してもあまり意味はないだろう。そこで、例えば患者が見そうなコンテンツの中で、相対的にどれが見られているのかによって、コンテンツの配置決めや、トップページに直接リンクを配置するといった判断ができるようにしたい

    直感的に言って、患者であれば、病院の場所、診療時間、自分の診療科のやっている曜日くらいしか見ないだろう。その仮説を持った上で数字を見て、もし意外なコンテンツが見られているのであれば、その理由を考え、どういうナビゲーションでそのページへ誘導したらよいのかのヒントとしよう。

  3. サイト内検索は活かされているか?

    どちらのサイトもコンテンツが大量にあるわけではないので、サイトマップやサイト内検索の機能を使われることは少ないのではないかと思われるが、これらの機能を使う直前ページがどこか、直後に行ったページはどこかというデータを調べて、どこで迷っているのか、どういうリンクを張ってあげることでページ移動しやすくなるのかといったヒントとしたい。

    またサイト内検索であれば、その結果表示のページが有効に使われて次のページに移ることが出来たのか、有効なページがなくて、戻ってしまったのかといったことも明らかにして、検索結果の精度あるいは有効なコンテンツを加えることのヒントにしたい

◇◇◇

前回、今回と、病院のサイトを見てきた。病院サイトを見に来るユーザーは、訪問意図が明確だ。コンテンツやページをたくさん見たいわけではない。できるだけ素早く、知りたい内容を知りたいのだ。よって、サイト内を回遊させず、知りたい情報がどこにあるか、一目で分かるナビゲーションが理想だ。結果、ページ滞在時間や、1訪問あたりのページビュー数は少ない方がよいということになる。サイトの目的によって、指標も、指標の数値の大小も変わるということを知っておこう。

◇◇◇

この連載では、

  • Webサイトのオーナーか管理者の方からの「かってに解析」してほしいリクエスト
  • 「かってに解析」されたサイト運営者・管理者の方からの異論や反論

などを随時募集している。希望者は、(web-tan@impressrd.jp)までお寄せいただきたい。

この記事の筆者

衣袋 宏美(いぶくろ ひろみ)

1960年東京都生まれ。東京大学教養学部教養学科卒業。大手電気メーカー勤務後、日経BP社へ。調査部、インターネット視聴率センター長などを経て、2000年ネットレイティングスへ。視聴率サービスやアクセス解析サービスの立ち上げに尽力。2006年株式会社クロス・フュージョンを設立し代表取締役に。2023年活動停止。

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