もしも、「日本相撲協会」を解析するなら [第23回]
誰もが知っている有名サイトをエキスパートレビューしながら、「もし、アクセス解析するなら」どのポイントに着目するかを第三者的な視点から解説。アクセス解析を用いてサイトの改善を行うための仮説構築力を身につけて、自社サイト、クライアントサイトをアクセス解析する際に役立ててほしい。
木曜9時は「かってに解析!」ということで、毎週連載「有名サイト、かってに解析!」では、有名サイトを取り上げ、アクセス解析で実際に解析データを見る前に、あらかじめサイトの問題点やチェックポイントにあたりをつける方法を解説していく。
今回はプロスポーツのサイトの2回目。前回の「浦和レッズ」に続き、「日本相撲協会公式サイト」を取り上げる(以下、カギかっこ付きで「浦和レッズ」「日本相撲協会」と書くときは、チームや団体ではなくサイト名を指す。他のサイト、企業も同様)。
今回はおもにこの2つのサイトを取り上げ、課題の抽出や考察を行うのだが、筆者はスポーツ業界の各企業や団体、サイトが直面している課題や戦略・戦術を十分に理解しているわけではない。あくまでもどのような点に着目したらよいのかを重視して読んでいってほしい。
「日本相撲協会」のファーストインプレッション
下の図1が「日本相撲協会」のトップページだ。一見してお分かりのように、テキストリンク主体のページとなっている。
個人的にはテキストリンクが中心のサイトは嫌いではないが、プロスポーツなのにビジュアルが少なく、躍動感もなく、ワクワクするサイトに見えないのは残念だ。
また横幅が740ピクセルと狭く、縦長なのだが、現在多くのサイトでは、横幅は1000ピクセル前後が一般的となっている。横幅を利用してコンテンツの見せ方を工夫する余地がおおいにありそうだ。またお知らせのカテゴリーで10個以上並んでいるコンテンツがクリックされているとは思えない。
それから、一番上に「震災のお見舞い」を掲載しているが、ここには、日本相撲協会自身の直近のいろいろな出来事に触れて、今後も頑張ります的なコメントを載せた方が、好感度が増すのではないかと思った。いろいろな意見はあると思うが、このサイトは応援してくれる方々が見に来てくれるサイトだと思うので、そう感じたのだがどうだろうか。
一番上にある「サイトマップ」表示という部分(図1の緑枠で囲んだ部分)は、プルダウン式のメニューを使っている。最近ではほとんど見ることもない、かなりレトロな機能だ。三十数ページがプルダウンリストから選択できて、[表示]ボタンを押せば、そのページに移動するという機能になっている。ページ数がそれほど多くないので、この機能も悪くはないが、ネットを長く経験している人でないとあまり馴染みがないインターフェイスではないだろうか。ここはサイトマップへのリンクと、自由に検索できる検索窓にするという選択肢もあるだろう。
あと、グローバルナビにリンクが10個以上あり、少し多すぎるように思える(図1の赤枠で囲んだ部分)。例えば「大相撲名鑑」「記録台帳」「大相撲情報局」の3つは違いがよくわからない。このあたりは、すべて「相撲データベース」みたいなくくりでまとめてしまうとよいのではないか。
「日本相撲協会」の閲覧シチュエーションを想定
さて、今回のシナリオは、具体的には次の通りだ。
今回のシナリオ
ユーザー | 最近相撲ファンになった人 |
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目的 | 五月技量審査場所において、9連勝で有名になった力士を調べ、観戦チケットを購入する |
では、さっそくこのシナリオに沿って、「日本相撲協会」をエキスパートチェックしていこう。
- 「日本相撲協会」をエキスパートチェック
- 気になる力士の情報を探す
- 力士ページのコンテンツは充実しているか?
「日本相撲協会」をエキスパートチェック
まず五月技量審査場所に9連勝で有名になった力士について詳しく知りたいと思うので、グローバルナビの「大相撲名鑑」をクリックしてみた。それが下の図2だ。
「大相撲名鑑」では、調べるための方法は複数提供されているが、ドメインがいつの間にか変わっており、「goo」のコンテンツになっている。新しいウィンドウが立ち上がるわけでもないので、あまり気がつくことはなさそうだ。
さて、9連勝したのは確かブラジル出身の力士だったと思うが、名前がすぐ出てこなかったので、上から3つ目の「出身地別紹介」のリンク(上の図2の赤枠で囲んだ部分)をクリックしてみる。下の図3が表示されたページだ。
都道府県と国別になっているので、「ブラジル」をクリックして、図4に飛ぶ。
番付(西前頭十六枚目)からリンクが張られているのだが(上の図4の赤枠で囲んだ部分)、このリンク先にどういうコンテンツがあるのか、直感的に想像できない。試しにクリックして進んでみると、前頭十枚目以下の全力士の先場所の星取表が掲載されていた。大相撲のファンにとっては意味があるのかもしれないが、「最近相撲のファンになった人」という想定ユーザーにとっては、よく意味がわからないコンテンツである。また、星取表のページでは、幕下力士の場合は四股名にリンクがなく、どういう力士なのかをここから見ることができないのは非常に残念だ。
個々の力士のコンテンツはどれぐらい充実しているか?
さて、テキストリンクが張ってあるお目当ての「魁聖」(かいせい)をクリックしてみる。下の図5がそのリンク先のページだ。
「過去6場所の決まり手ランキング」や「過去6場所の番付推移」など、興味深いデータが掲載されているが、スポーツファン向けのサイトなので、できれば自己紹介ビデオや、過去の対戦動画などがあるともっと良いのではないだろうか。ここはgooのコンテンツという位置付けなので、「ニュース記事を検索する」「画像を検索する」「動画を検索する」などの検索があり、例えば動画は検索結果のリンクが「YouTube」に張られていたりするのだが、コンテンツ管理という視点から考えれば、日本相撲協会自身がきちんとデータベース化して提供するのが望ましいのではないだろうか。
今回のシナリオからは外れるが、例えばすでに引退した昔の力士を調べる場合は、グローバルナビの「記録台帳」から探すことになる。この「記録台帳」のページには優勝力士、三賞力士、名横綱など記録を持った力士しか掲載されていないので、それ以外の力士のことを知りたいと思って、昔のファンが調べようとしても困難なようだ。せめて十両以上の力士の情報は全員掲載するのがよいのではないだろうか。相撲関連のデータが充実しているサイトの1つに、「相撲レファレンス」というサイトがある。個人ファンの運営しているサイトのようだが、公式サイトである「日本相撲協会」に掲載されているデータが、それら非公式サイトよりも少ないというのは、なんだか寂しい気がする。
- チケット購入へ進む
- チケット販売情報&残席チェック
- 今回のまとめ+アクセス解析視点からのチェック
チケット購入へ進む
さてここからはもう1つの目的であるチケット購入をトライしてみよう。トップページにある「平成23年七月場所チケット情報」をクリックした。その結果が下の図6だ。
「チケットぴあ」のサイトに飛ぶので、新しいウィンドウ(タブ)が開くようになっている。普通の「チケットぴあ」のサイトとは違うので、今回はここも対象にして少し見ていこう。
まず「日程・会場」の記載があった上で、その下に「席種と料金」の記載がある。「席種と料金」のところに「会場図」へのリンクがあるので、それをクリックしてみる。それが下の図7で、新しいウィンドウ(タブ)で表示される。
「チケット大相撲 平成23年7月場所」のページでは、枡席と椅子席の2か所に「会場図」へのリンクがある(図6の赤枠で囲んだ部分)のだが、リンク先はどちらも同じだ。この会場図は別画面で表示される。しかも文字が小さいので、非常にわかりにくい。少なくとも椅子席と枡席で色分けするなどしてほしい。また表示される図は同じなので、2か所にリンクを設置するのではなく、全体の会場図ということにして、リンクは一番上に別枠で設けるなどというのがよいのではないだろうか。
チケットの販売状況を確認する
「会場図」はいったん閉じて、「チケット大相撲 平成23年7月場所」のページから、「販売状況」のリンク(図6の緑枠部分)をクリックしたのが、下の図8だ。こちらも枡席と椅子席の枠に、それぞれリンクが設置してあるが、どちらをクリックしても同じ行き先になる。
「チケット販売状況」のページは、枡席から椅子席までの6種類について、初日から千秋楽までの販売状況が「○×△」でわかりやすく表示されている。○が販売中、△が残りわずか、×が完売を意味する注意書きがある(図8の緑枠で囲んだ部分)。残席数を正確に表示するサイトも多くなっているが、このくらいの緩い表示でも困らないだろう。
初日の椅子指定席Aの部分の「申込へ」リンク(図8の赤枠部分)を押して進んだのが、下の図9だ。
日程は選択した日が反映される(図9の緑枠で囲んだ部分)が、選んだ席種は反映されず、再度プルダウンで選択をさせられる(図9の赤枠で囲んだ部分)ことになるのが残念なところだ。椅子指定席Aの2枚を選択して「購入手続きへ」をクリックしたのが、下の図10だ。
とりあえず適当なパスワードで進めるのかと思いログインしてみたが、やはりダメだった。一番下に「新規利用登録(無料)」というボタンがある(図10の赤枠で囲んだ部分)ので、初めての人はここで登録をしてから購入のプロセスに進んでいくのが正解だ。新規利用の場合は登録が必要であることは、画面の一番上に注記として書いておいた方が親切だろう。なお購入プロセスは、面倒なところはなく、スムーズに進めたのでここでは省略する。
- 前回+今回のまとめ
- アクセス解析でどこに着目するか?
前回+今回のまとめ&アクセス解析でどこに着目するか?
最後に、データ解析的にはどういうところに着目して数字を見たらよいかをまとめておこう。前回の「浦和レッズ」のサイトの場合も含めて、解説していく。
- トップページの見られ方
特に「日本相撲協会」のサイトは縦長だったわけだが、どのくらい下までスクロールされているのかというユーザー行動を見ておきたい。そして配置関係が適切かどうかを見るためには、どの場所のリンクがどれだけクリックされているのかというデータを見ておきたい。「ヒートマップ」や「クリックマップ」などのデータを提供しているツールがあるので、直感的にわかりやすいそのようなツールを利用してみたい。
さらにデータを見るまでもないと思うが、ユーザーの利用環境のデータで画面解像度などを取得しているツールが多いと思うので、そのデータから横幅を確認してみたい。「日本相撲協会」のサイトのように、横800ピクセル以下という狭い利用環境で見ている人はもう少ないと予想している。
あとはグローバルナビゲーションでクリックされているメニューがどれかという点。「浦和レッズ」も「日本相撲協会」も、10個前後と比較的多めのボタンが配置されているが、もう少し少なく絞ってまとめた方がいいかもしれないという仮説をもとに、こちらも「クリックマップ」を提供しているツールで数字を見てみたい。その結果によっては、もう少しメニューの数を絞り込んだり、統合したりするような余地がないかを確認したい。
- 選手や力士の一覧ページ
「浦和レッズ」の方は、「チーム」のページで選手名のリンクがわかりにくいといったことを指摘したが、「ヒートマップ」のような機能を持ったツールを使って、どのあたりの場所に注目がいっているのかを確認したい。「日本相撲協会」の方は、「大相撲名鑑」のページなどで、どの機能が使われる頻度が高いのかを調べて、利用頻度の高い順に並べるといった工夫が必要になるだろう。
- 人気ページ
人によって見る順番は様々だと思うので、全体でどのページが閲覧されているのかをやはり見ておきたい。ユーザーの関心の高さに応じて、コンテンツのリンクの位置などの参考にしたい。また「浦和レッズ」の「経営情報」のページを見ると、広告料収入というものが経営の大きな収益源になっているということがわかるので、スポンサーを獲得するためのページ群のアピールというのが重要だろう。
そういう視点で、関連するページ(例えば「広告のお問い合わせ」といったページになるのだろうか)へのリンクをトップで配置するとどうなるかのA/Bテストをするといったことも面白いかもしれない。「日本相撲協会」のサイトであれば、「勧進元募集」のページの閲覧回数や、このページからのお問い合わせ電話(ここでしか掲載していない電話番号などがあれば効果測定にベスト)の回数なども追跡しておきたいデータになろう。
また「勧進元」という相撲業界ならではの言いまわしではなく、「スポンサー募集」みたいなもっと一般的な言葉にしたページを作ってA/Bテストするようなこともしてみたい。
他にも「浦和レッズ」のページの選手のページで、「次の選手」のボタンが不要ではないかといった指摘をしたのだが、実際この機能がどの程度の割合で使われているのかを見てみたい。「日本相撲協会」のサイトの方であれば、各力士の紹介ページの一番下の検索リンクなどの使用率とかを見てみたい。
- チケット購入
何度かチケット購入している人は、慣れているので問題ないと思うので、新規訪問者に絞った上で、例えば「浦和レッズ」のサイトの場合なら、「チケット残券情報」から「ぴあ」に流れていった人など、購入プロセスに入っていった人が、どのようにしてたどりついたのかという経路を見てみたい。いろいろと迂回させてしまっていないかどうかというのが気掛かりだ。
「日本相撲協会」のサイトの方では、私がミスをしたように、新規利用登録もしないでログインを試みるようなユーザーがどれだけいるのか、エラー情報を取得するような仕掛けをしておいて、把握してみたい。
- ドメイン名分散の問題
これはどうにもならない問題かもしれないが、「日本相撲協会」はドメイン名が分散していて、統合的に分析し難くなっているのは厳しい。とここまで書いたところで、グローバルナビの12個の配置とドメイン名の関係がわかった。
上の6つのボタンは(日本相撲協会サイト)の中に収容されているコンテンツ群だ。下の6つのボタンは(goo大相撲)のコンテンツ群ということで、表示もグレーの背景に白抜き文字ということで区別しているということだったのだ。
さらにチケット販売は「ぴあ」のサイトへ飛ぶということで、この3つのドメイン名の数字を統合的に見なければいけない。データをそれぞれからきちんともらっているのだろうか、と余計なことも想像してしまった。ショッピングサイトは決済の部分は外部のASPを使うことが多く、それは致し方のないことだが、分析者としては悩ましいところでもある。
◇◇◇
前回、今回と、日本でも人気のあるプロスポーツのWebサイトを取り上げてみたが、いかがだっただろうか? 「日本相撲協会」のWebサイトは、ある意味予想どおりだった。これまで協会自体、あまり一般のファンへのファンサービスに熱心に取り組んでいるように見えなかったが、新たなファンを獲得するためのチャネルとしては、Webサイトは無視できないだろう。これからどのように変わっていくのか、楽しみに見ていきたいと思う。
また、「浦和レッズ」のサイトは、正直なところ、少しガッカリした。たとえば同じプロサッカーチームでも、イギリスの「マンチェスター・ユナイテッド」は、英語、スペイン語、日本語、韓国語、中国語、アラビア語のサイトが用意されている上に、オリジナルのテキストコンテンツや動画など盛りだくさんだ。世界でもトップレベルのプロチームと比較するのは酷かもしれないが、日本のプロサッカーチームも、アクセス解析をフル活用して、まずはWebサイトのレベルアップから考えてみてはどうだろう。
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この連載では、
- Webサイトのオーナーか管理者の方からの「かってに解析」してほしいリクエスト
- 「かってに解析」されたサイト運営者・管理者の方からの異論や反論
などを随時募集している。希望者は、(web-tan@impressrd.jp)までお寄せいただきたい。
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