EC/ネットショップ構築の予算をゲットできる企画書/上司を説得できる企画資料の作り方講座#5

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※2015/6/30更新 記事3ページ目、メルマガ配信の説明内容を一部修正しました。

ネットショップを新規に立ち上げるにあたって

ネットショップは日々増え続けている。楽天やヤフーをはじめとする多くのネットショップ関連の企業がネットショップ立ち上げを推進したり、ネットショップでの成功事例が多くのところで紹介されたりしているため、ネットショップを立ち上げたいという要望は、最近になっても非常に多い。そして多くの企業がネットショップを立ち上げるが、そのネットショップを成功させている企業はそれほど多くない。

最初に言っておくが、ROIがとれるネットショップを構築することは簡単ではないということを認識してほしい。

あまりないことだとは思うが、あなたの企業が新規事業展開の一環として、ネットショップによるBtoCでの販売を新規事業として企画し、今までまったく関係していなかったBtoC向けの商品を仕入先から開拓してネットショップを立ち上げようとするなら、よほどの戦略がない限りその新規事業自体をやめることをおすすめする。限りなく失敗する確率が高いからだ。土地勘のまったくないなかでショップを立ち上げ成功するほどネットショップでの販売は甘くない。

今回は、たとえば、楽天やヤフー(オークション含む)などで、すでにオンライン販売を展開している企業、または、実店舗展開を実施していながらまだネットショップを持っていない企業を対象として、自社のネットショップを展開するための企画について説明する。

自社のネットショップを持つ意味

まず、ECモールではなく自社サイトとしてのネットショップを持つ意味を考えよう。楽天やヤフーショッピングなどの既存のネットショップモールでショップを展開することは、

  • それぞれのモールに固定ユーザーが存在すること
  • そして、それぞれの囲い込まれたユーザーに対する広告やプロモーションプランなども豊富に提供されていること

により、楽天やヤフーのユーザーを取り込む意味で非常に重要な意味を持つ。

では、独立した自社のネットショップを持つ意義はどうだろうか。自社のネットショップでの展開は、楽天やヤフー以外のユーザーを取り込んでいくことに意味がある。もちろん、自社でネットショップを運営した場合、初期構築費用を除くと楽天やヤフーで運用するよりも手数料などの運営費が安く済む場合が多いので、利益確保の意味合いもある。

しかし、楽天やヤフーである程度の売上や粗利を確保している場合は、間違ってもすぐに楽天やヤフーのショップをやめて自社サイトのみでの運営に切り替えるという発想は止めた方がいい。新しく公開するネットショップに対して、楽天やヤフーのショップ以上の集客を実現することは、非常に長い時間と大きなコストを要するためだ。

自社サイトを持つ意味は、新しいユーザー層獲得のための販路拡大およびそれによる売上アップということを肝に銘じておこう。

ダメな企画書例

では、まずは、いつもどおりダメな企画書の例から見てもらおう。

図1 ダメな企画書の例――なにが悪いのだろうか?

目的は「売上げアップ」。現状と今後の展開の差は、自社ネットショップの立ち上げと販売管理ソフトの導入である。

確かに、販売管理ソフトを導入することで、受注や配送処理などのコスト(人件費など)が減ることはあるだろうが、肝心の売上アップの根拠が見当たらない。

この企画書から読み取れるのは、今、楽天とヤフーにショップを持っていて、もう1つショップを増やすことで自動的に売上が上がるといった企画になっている。それだけである。

これだけで、上司を納得させるのはまず不可能だと言っていいだろう。

・この企画書には何が足りないのか
・ネットショップの立ち上げと運営で大切なこと
・上司を納得させるための企画
・より精度の高い企画立案のために

ダメな企画書で足りないもの

いつも言っているが、現状どうなっているかのデータや分析は企画書の導入部分において必要不可欠の要素である。これを怠ると、上司を納得させるための要素の半分以上が失われると言ってもいい。今の状態が良いのか悪いのか、自分でそれを判断できなくても、今どういう状況にあるのかなどを正確に相手に伝えることで、その後に記述する施策がどんな意味を持っているのかを理解させることができ、最後の肝となるROIの根拠としても利用できる。

そして、実施する戦略と施策の具体的な内容だ。これは具体的に記述しないと、企画書を判断する立場の人がイメージできないため、できるだけ具体的に書く。ただし、だらだらと書いても意味がない。ポイントを絞って具体性を持たせることが重要である。

そして、ROIの視点に基づき、成功への指標を記述して、最後に想定されるコストを算出する。

以上のことをまとめると、企画書に必要な要素は以下のようになる。

  • 課題や目標
  • 現状の売上とその分析
  • 戦略・施策内容
  • 成功の指標
  • コスト
図2 良い企画書の構成要素

ネットショップの立ち上げと運営について

ここで、若干話はそれるが、ネットショップの立ち上げについて記述しておく。重要なことなので、頭に入れておいてほしい。

そもそもネットショップを立ち上げることは、ネットショップそのもので収益を上げることが可能なため、企業としては1つの事業として成り立つ。そのため、私が以前から書いている「インターネット広告予算の獲得」「SEO導入予算の獲得」「アクセス解析導入予算の獲得」とは、企業及び上司の判断の視点が変わってくる場合があることを前もって理解してほしい。というのも、単に1回だけ予算を獲得して立ち上げるだけでは済まない場合が多いのだ。なぜなら、ネットショップの展開状況によっては企業の販売形態や戦略が変わってくる場合もあるからだ。

たとえば、あなたの会社がメーカーで、基本の営業展開は直販ではなく、卸会社(流通)への販売だとする。その場合、ネットショップを展開することで、あなたの会社は直販のルートを持つことができ、そこで独自の販売展開が可能となる。これは、卸会社やその先の販売店との競合を意味する。自社のネットショップを立ち上げることで卸会社や販売店から圧力がかかることはあまりないと思うが、卸会社への営業を行っている社員などからするとやりづらい状況が生まれてくることがある。

また、自社以外の既存のネットショップなどにすでに商品を卸している場合も同様の状況となる。よくあるのが、自社のネットショップでの販売強化だけを意識して自社のネットショップでディスカウントなどの展開を派手に実施した場合、卸会社を通して販売店からクレームが入ったりする。

ただ、インターネットでの販売については、今後無視できないものだということも、さすがに上司は理解しているだろうから、ネットショップでの販売は、会社としての今後の営業戦略に組み込む必要性がでてくる。

このようなことから、単にWeb担当者が良い企画立案をしたからといって、それだけで進めることができない場合もあるのだ。

「だったら、そもそもWeb担当者が企画しても通る可能性が少ないじゃないか」と思うかもしれない。しかし、あえてチャレンジしてみてほしい。何も、あなたに会社全体の営業戦略を考えろと言っているのではない。きちっとしたネットショップ企画を立案し、その企画が根拠のあるもので上司を説得することができれば、それが会社全体の今後の方向性を変えるきっかけになるかもしれないのだ。

新事業展開として小さなところから企画立案して、それを展開していくことで、Web担当者もしくはWeb担当部署が、収益を上げる1つの事業部署として会社を担うこともあるのだ。

つまり、難しい企画かもしれないが今後大きな展開を見込むことができるものなので、Web担当者であれば1度はチャレンジしてみてほしい企画の1つだと思う。

準備しなければならないデータ

企画書の作成に戻る。まずは、現状どうなっているかのデータが必要だ。目的が売上アップならなおさらである。楽天やヤフーでショップ展開しているならば、それぞれのショップについて、

  • 過去の売上推移データ
  • プロモーションなどの実績
  • アクセス数
  • コンバージョン率・数

など、まずは現状どうなっているかを把握・分析することが必要である。

・上司を納得させるための企画
・より精度の高い企画立案のために

上司を納得させるための企画

ここまでで述べたような要素を取り入れた、良い企画書の例を見てみよう。

図3 EC/ネットショップ構築に関して上司を納得させられる良い企画書の例

正直なところ、今回のネットショップ構築の企画は、1枚だけでは説明が不十分である。収益を生む施策となるため、記述するべき内容が本来は多岐にわたるが、まずは、重要なポイントのみを1枚に記述した。詳細は後で説明する。

まず、課題と目的を書く。そして現状データの説明だ。楽天やヤフーショップの売上は、現在何もせずとも若干ではあるが増加傾向にある。そして月間のユニークユーザー数やコンバージョン数なども明記する。

なぜ増加傾向にあるかは、海外食品の度重なるネガティブなニュースにより、国産商品の需要が喚起され、結果的に以前から国産をアピールしている商品が注目されているからだ。

そこで、楽天ユーザーとヤフーユーザー以外の顧客を獲得するための施策として、自社のネットショップ構築その後の売り上げアップ施策を記述する。この施策の内容は重要だ。ネットショップは立ち上げただけではまったく意味がない。ユーザーは放っておいてはネットショップに来ない。どのようにして集客を行うかがポイントなるため、それを明確に記述する。

ここでは、SEO内部施策による集客をまず記述した。SEOの企画については、SEO対策の予算をゲットできる企画書を読んでほしい。キーワードを決めてシミュレーションを行うことで、どれくらいの集客が現実的かを把握することが可能だ。

次に、自社ですでにメールアドレスを収集しているユーザーが2万人いるため、そこに対してのメルマガを実施することを明記する。これがあるのとないのとではかなりの差がでるため、ユーザーが確保できている場合は必ず利用しよう。

また、販売管理システムを入れることで人件費や手間が減るのであれば、それも立派な利益確保の施策なので、これも具体的に記す。

そして、重要となるのが「成功へのカギ」だ。ここでは、まず、Yahoo!ショッピングに出店しているショップの月間ユニークユーザー1200人を目標とする。上記のSEOのシミュレーションにより、それが非現実的でないかどうかは必ず確認する。

そしてメルマガ配信である。ここでメルマガの落とし穴について話そう。メルマガ会員の質、ユーザー層、ユーザーカテゴリーによってかなりの幅があるが、新しくできたネットショップへの新規誘導および販売目的で、1万人に対してメルマガを配信した場合、一体何人の方が購入に至ってくれるだろうか。これを「5%」「3%」「1%」など、一桁パーセントのコンバージョン率で想定・算出する例をよく見かける。そもそもそれが失敗の要因につながる。私の経験からすると、特殊な場合を除いて、購入率(コンバージョン率)は0.03%~0.08%程度だと考えていい。それ以下のコンバージョン率の場合も実際にある。ここでいう特殊な場合とは、かなりアグレッシブな価格設定をする場合や、ソフトウェアのアップグレードのように通常よりも高いコンバージョンが見込まれる場合だ。メルマガ配信のみに多大な期待をすると、それが失敗したときの影響は大きい。今回は、メルマガ1回の購入率を0.05%と想定して、週1回、4週間にわたり実施することで、2万人の読者から月間40コンバージョンを得ると想定した。

こうすることで、ダメな企画書と比べた場合に、現状データの記述なども含め、より具体的な内容となっていることがわかるだろう。

より精度の高い企画立案のために

前述したが、企画の精度を上げるためには、より詳細な戦略や具体的内容を記載する方がいい。究極には、「ネットショップを立ち上げる」企画書ではなく、「ネットショップを成功させる」企画書となっていることがベストだ。

そのためには、良い企画書の構成要素の中の“ネットショップ構築とその後の売り上げアップ施策”と“成功の指標”の部分をさらに具体化していくことだ。

ネットショップを成功させるために考えなければならないことは、集客だけでなく、

  • 商品のネーミング
  • メインとなるメッセージ
  • 商品の写真
  • 生産者や原材料の写真
  • 魅力あるページ作り
  • トップページ構成
  • 商品ページまでの導線
  • ユーザーの囲い込み

など、多くの要素がある。それらの項目において、ターゲットを考慮して具体的に記すことで、より精度の高い企画書にできるはずだ。

ネットショップ成功のためのノウハウについてはWeb担の他の記事でも紹介されているのでそれを参考にしてこの企画に厚みをもたせるといいだろう。

企画の実現を念頭におくこと

本コラムは、「上司を説得できる企画資料の作り方」としているが、企画書とは単に直属の上司だけを説得できればいいものではない。このコーナーでは第一段階として避けて通れない上司へのプレゼン・説得に絞って書いているが、その後には当然、企画の実現というさらに高いハードルが待っている。

企画の実現性がなければ上司を説得することはできない。そのための現状分析であり、そのためのROIである。企画が実現してそれが実際に成功するか失敗するかは誰もわからないが、Web担当者の方は、その企画を自分が中心となって実施していくことをイメージして、成功させるためには何が必要かを常に考えて企画を立案してほしい。そうすれば、自然と何を考え、何を立案すべきかわかってくるはずだ。

それを本コラムの考え方や手法に当てはめていけばいい、それが上司を説得できる企画資料となるはずだ。

この記事の筆者

田中 雅人(たなか まさと)
株式会社フルスピード アドストラテジー事業部 事業部長
株式会社ファンサイド 代表取締役

PR/マーケティング、IT関連企画制作、Webコンサルティング、ソフトウェアメーカー取締役を経て、SEO/SEMを中心としたWebコンサルティング業界へ。

現在は、アドテクノロジー分野等も含めたWebコンサルティングサービス全般を実施。他には社外向けの原稿執筆やセミナーでの講演など。

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