サイトの「行き止まり」から見えてくる訪問者を逃がさない導線づくり

よろしければこちらもご覧ください

―何を解析すればいいのかわからないあなたに―

Webサイトの“見える化”&“カイゼン”講座

サイトの「行き止まり」から見えてくる訪問者を逃がさない導線づくり

ウェブサイトでは無数のリンクが網の目のように絡み合うため、「目的どおり」に組み立てることが難しく、いくつかの「行き止まり」ページが、サイトのパフォーマンスを落としていることに気づきにくい。

行き止まりの発見がウェブ見える化の第一歩

ウェブサイトにはたくさんの行き止まりページがある。もともとハイパーテキストは、目次となるページがあってそこから進んでは戻り、進んではまた戻る、という構造で考えられてきたものである。

図1のように、目次から進んだページというのは行き止まりになるのが自然な構造だった。“目次”だからトップページはindexと呼ばれるのだ。多くの人がトップページをまず訪問し、そこからサイト内をたどっていた時代には、それでもよかった。行き止まりページでも「戻る」というリンクが作ってあれば、さかのぼって戻ることが予想できるので、「これをクリックすると、どこに戻るのか」を誰もが理解できていた。クリックすればどこへ進むか(戻るか)わかるなら、人は安心してリンクをクリックする。

図1 目次から進んだページは行き止まりになるのが自然な構造
詳細ページに進むには、目次ページを経由しないといけない構成。それぞれの詳細ページは、他に移動しにくい「行き止まり」になる

しかし、今はトップページからやってくる人が非常に少なくなっている。平均すると総訪問者数の25%程度しかトップページからは来ない。残り75%の人は、別のページを入り口にして直接やってくる。キーワード検索、リスティング広告、最近ではRSSやブログに張られたリンクなど、サイトを初めて訪れるルートがどんどん増え、トップページ以外が入り口になることが多くなったからだ。

たとえば、トップページ以外の、深い階層のページを入り口にした場合、目次を通らないから、初めての訪問者は

  1. どこの会社のサイトなのか、わからない状態で入ってくる
  2. サイトに全体としてどんなことが書かれているのか、まだ理解できていない

という状態となる。訪れたページに「戻る」というリンクがあっても、どこに「戻る」のか想像がつかないのだ。

グローバルナビゲーションはニーズから遠ざかるボタン

「そんなときのためにグローバルナビゲーションがあるのだ」と思う人もいるかもしれない。「“製品情報”とか“トップ”といったボタンを、いつでもクリックできるから大丈夫だ」と。

しかし、初めての訪問者はサイトの全体像をまだ把握していない。「製品情報」というボタンがあったとしても、それをクリックすればどんなページが出てくるかわからないから、“クリックしたい”と思わないのだ。

迷子になったときに便利なのが、グローバルナビゲーションのよさだ。しかし、それが“クリックしたくなる”ボタンかといえば、残念ながらそうではない。

特に検索者の心理は独特だ。検索とは、自分が見つけたい情報を意識して行うもの、見たい情報がはっきりしている。「りんご」という言葉で検索して、りんごについてのよいページを見つけた、と感じたとしよう。そこで何を考えるか、それは「りんごについてのもっと興味深い情報はないか?」ということである。検索者は常に自分のキーワードの関連情報を探している。

そうした気持ちで関連情報を探している人は、“製品情報”というボタンをクリックして、「りんご」や「みかん」や「すいか」についての目次ページに行ったとすると、それは「自分が見たいりんごの情報から遠ざかる」ことになるのだ。

図2のように、より深い階層を見ようとして人は入ってくると思ったほうがよい。グローバルナビゲーションはより浅い階層へ向かうボタン。検索ニーズとはグローバルナビゲーションよりも深い階層を示すことが多いのだ。

図2 検索して来たユーザーは、深い階層に直接訪れる場合が多い
検索結果から来るユーザーは、入力したキーワードに関連したより詳しい情報(深い階層)に移動したいと考えている

人は、決して「グローバルナビゲーションをクリックしたい」わけではない。「自分の興味に近い内容が期待できるボタンならクリックする」というだけだ。

サイト構成図は逆さまに見て最前線のページを把握する

サイト構成図は逆さまに見て最前線のページを把握する

ウェブに行き止まりができるのは、私たちウェブサイトを作る人間の、ウェブ空間の認識が間違っているせいでもある。

ウェブサイトを作ろうというとき、通常は図3のような「サイト構成図」を作るだろう。トップページを要にした扇型に広がる図だ。本当は、ページAにもBにも多くのリンクがあるのだが、AやBに実際には存在するリンクを描こうとすると、線が交錯して非常にわかりにくい図になってしまう。だからサイト構成図では、AやBから出る矢印は省略されてしまう。

図3 サイト構成図では「動線」がほとんど省略されている
製品詳細AやBのページからすべてのリンクを表記すると、サイト構成図は使いづらいものになってしまう。かといって、リンクを省略してしまうと、これらのページから「資料請求」ページに誘導したいという非常に重要な導線まで省略してしまうので、動線設計ができなくなってしまう

サイト構成図を見ていると、「人はトップページから訪れて次第に下層のページに移動する」「AやBといった末端の階層のページは行き止まりになる」と思えてしまう。これは非常にもったいない錯覚だ。

本当は、検索などでこうした末端のページを入り口にしてサイトを訪れる人の数が、無視できないほど多いからだ。末端ページが入り口になる回数は、多数のページに分散しているため、トップページに比べると目立たないが、合計すると多くの訪問者が末端ページにいきなりやって来ていることがわかるだろう。

末端のページは、絞り込まれた内容がテキスト重視で書かれているため、あるキーワードで検索した場合、検索エンジンが紹介しやすいページになっていることが多いのだ。

そういうわけで、サイト構成図は図4のようにひっくり返して考える習慣を付けよう。「末端のページは、個別のニーズを持ったお客様の訪問を受ける最前線のページなのだ」ということが理解できるだろう。

図4 サイト構成図は逆さまに見て個別のニーズを見極める
サイト構造図を逆さまにすると、直接製品詳細AやBのページに来た人を、どこに誘導すればサイトとして成功しやすいのかが見えてくる

個別のニーズを持ったお客様ごとに別の入り口を作って、万全の導線を用意して待ち構えることができるのが、ウェブの強みだ。表紙が物理的に先に目に入る雑誌や、前から順番に再生する動画像とは違う、ハイパーテキストならではの便利さなのだ。

たとえば、“赤いコート”を売りたいとする。しかし、「赤い服がほしい」と思って来店する人と「コートがほしい」と思って来店する人の気持ちは違う。そこで「赤い服の品ぞろえがよいですよ」というページと、「流行のコートを揃えました」というページと、両方作っておけばよいのだ。そこから誘導するページは「赤いコート特集」という同じページだとしても。

サイト構成図を逆さまに見ると、お客様のニーズを受け止める“最前線(末端階層)”のページに人が訪れたらどうすればよいか、わかりやすいと思う。「戻る」というボタンをクリックさせることが得策でないことが理解できるのではないだろうか。

赤い服に関心があって来た人には、「赤いコート、人気です」というリンクや「赤いブーツで足元暖か」というリンクを見せればよいとわかる。いや、本当はそんなこと、商売人なら誰でも知っているはず。赤い服がほしいと言ってくる人に、「正面玄関に商品一覧がありますからそこへ戻ってください」なんて言う店員はいないのだから。

どうしても行き止まりになるファイルのタイプとは?

どうしても行き止まりになるファイルのタイプとは?

ウェブサイトには、検索上有利で、入り口になりやすいページというのがある。皮肉なことにそうしたページは行き止まりになりやすいページでもあったりする。代表的なのは「PDF」だ。PDFファイルでもリンクを設置できるのだが、多くのサイトでは何のリンクもないPDFファイルをアップロードしている。PDFファイルをダウンロードして「よい情報を手に入れた」と喜んでいる人でも、リンクがないのだからそこで帰らざるを得ない。実際解析してみると、PDFが入り口になると95%の人がすぐに帰ってしまう。ところが検索エンジンはPDFが大好きで、よく上位に紹介してしまうのだ。

「細かな情報を伝えるページ」も入り口になりやすい。Q&Aのアンサー、ユーザーサポートの詳しい説明、研究開発部門の詳しい論文など、どれも検索から訪問者を集めやすいページだ。ユーザーでないと意味がないはずのサポートページに、ユーザーではない人が検索からたくさん訪れていたという、もったいない事例もある。

検索エンジンは、更新されたページの方が上位に表示されやすいので、更新頻度が高い「ニュースリリース」も多くの人を集めてしまうコーナーだ。しかも、Yahoo!ニュースなどがリンクを張ってくれたりすると、リンクポピュラリティも高くなって、非常に検索で紹介されやすいページになる。そこに「ニュースリリースの目次へ戻る」なんてリンクがあっても、訪問者のニーズにぜったい応えることはできないのだ。

こうした行き止まり型ページが入り口になることには注意が必要だ。入り口になったページだけを見てすぐに帰ることを「直帰」と呼んでいるが、図5の式で直帰率を計算してみると、50%を超える直帰率になっていることが多い。中には直帰率90%、つまり「1000人もそこに来てくれたのに、900人はすぐに帰っていました」というページさえある。これは決して珍しいことではない。こうしたページが増えているため、今や多くのサイトで、全訪問者のほぼ半数が1ページしか見ないで帰っているのだ。これでは効果が出るはずはない。そんな状況を放置したままで、コンバージョンレートを測ってもあまり意味をなさないだろう。

図5 直帰率(%)=そのページだけを見て帰った直帰回数 ÷ そのページが入り口になった回数 × 100

ポートフォリオ分析で見つけ出すカイゼンすべきページとは

実際にアクセス解析した結果から、1つのポートフォリオを作って、サイトを改善するための“見える化”を行ってみよう。

図6を見てほしい。このポートフォリオでは、横軸に「入り口になる回数」(入り口回数)をとっている。右へ行くほど入り口回数が多いページ、左は入り口回数が少ないページだ。

図6 ポートフォリオ分析で改善すべきページを見つけ出す
入り口回数(集客力)が多くて、来た人を帰らせないという、集客力と誘導力のバランスのとれたページが理想。このポートフォリオの右下の隅に向かって各ページが移動していくように調整しよう

縦軸には、ページごとの直帰率をとる。上に行くほど直帰率が高く、下ほど直帰率が低い。これに実際にアクセス解析したページをプロットしていけば、すべてのページを4つのグループに分類できるわけだ。

第1グループ

図の右上、第1グループに属するページは、「多くを集客しているが、すぐに帰らせてしまうページ」。集客力が高いだけに非常にもったいないページだといえる。しかし、そのページに集客力があること自体は悪いことではないので、直帰率を下げ、図で下に向かって移動するように対策を行う。

第1のグループに属するページを特定したら、ぜひ、その1ページだけを対象に絞り込み解析を行ってほしい。そうすれば、そのページを訪れた訪問者の動機が明らかになる。どんなキーワードで検索してサイトに来ているかを見ればよいのだ。そのキーワードにまつわる情報を見ようと思って来ている人が多いのだから、それに対応したリンクを追加することが対策の基本だ。「りんご」で検索して来た人が多いなら、

りんごについてもっと詳しい情報をご用意しています

ということをリンクにするのだ。

要は、サイトに訪れる人がどんなニーズを持っているかが掴めるのだから、その人に向かって話しかけ、誘ってやること。営業マンなら、どう誘えば着いてきてくれるか、自社商品の特色に結び付けられるか、知っているはずだ。

第2グループ

左上の第2のグループは、「まだあまり入り口にはなっていない上に、来たら帰らせてしまうページ」。少しもったいない状態だ。本当はまず直帰率を引き下げる施策を打つべきだが、第1のグループよりも入り口回数が少ない分、問題度も強くはない。

そうたくさんのページに手を加えられるわけではないとすれば、このグループは後回しにするのが賢明だろう。優先順位は第1グループのページのほうが上だ。

サイトの成長因子を見つけて育てること

第3グループ

左下の第3のグループはどんなページ群だろうか。「まだあまり入り口にはなっていないが、来たら帰らせないページ」だ。これはよい。入り口になる回数を増やしてやれば、効率よくサイト内の巡回を増やすことができるだろう。これらのページこそサイトの成長戦略の要、あなたのサイトの成功のポテンシャルだといえる。これらのページがもっと入り口になるようにしてやればよいのだ。

第1のグループと同じように、1つのページだけを対象に絞り込み解析をし、そのページに訪れている人のニーズを探り出す。あとはそのニーズでもっと人が来るように、SEOやSEMを行えばよい。

ところが、現実にはこれと逆行することばかりが行われている。つまり、やみくもにサイト内に重要なキーワードを埋め込むような「適当SEO」を行ったり、たくさんのキーワードから同じページにリンクするような「適当リスティング広告」を出したりしているサイトが多いのだ。

そうすると何が起こるか。そう、第2のグループに属している、「まだあまり入り口にはなっていない上に、来たら帰らせてしまうページ」の入り口回数ばかり増えていくことになるのだ。“慌てるSEOは貰いが少ない”という格言を覚えておこう。これではコストばかりかかって効果が上がるはずがない。

第4グループ

理想は右下の第4のグループ、「多くを集客して、来たら帰らせないページ」だ。ここに入るページが増えれば、あなたのサイトは成功に向かって動き出す。

このポートフォリオは、ぜひオフィスにでも貼り付け、「第1グループのページに行った直帰率低減策はうまくいったから、次は同じ第1グループのこのページだ」といった具合に、順番に対策していってほしい。

集客力はあるのに行き止まりとなっているページを発見して改善する緊急対策。意外なニーズに応えて地味に活躍しているページを伸ばす成長戦略。この2つを順番に展開すれば、サイトは必ずよくなるのである。

※この記事は、『Web担当者 現場のノウハウ vol.4』掲載の記事です。


この記事の筆者

石井 研二(MILS)

株式会社ミルズ 主任研究員

雑誌編集、通販カタログ企画を経て、95年からウェブプロデューサ。Web黎明期からアクセス解析を使い、多くの企業サイトを成功に導く。「直帰率」という言葉の生みの親として知られる。

Webそのもののコンサルティングから、Webを絡めた売上向上やコスト削減など経営全般に関わるコンサルティングが増えてきたため、企業分析と企業Web分析を組み合わせて「すべてを見る」ことをコンセプトとした分析会社「ミルズ」を設立。株式会社ミルズ主任研究員。

著書に『ウェブ立地論 ~“来てほしい人にアプローチする"集客につながる顧客目線のウェブの作り方』『ガッチリ成果を出すWeb担当者の教科書 ~便利テンプレートデータで実務を効率化!』(技術評論社)、『改訂新版アクセス解析の教科書』(翔泳社)等がある。

テーマ別カテゴリ: 
記事種別: