FacebookやInstagramで良い広告と出会うために利用者がやるべきコト|Metaの最新動向から考察

プライバシー保護とパーソナライズ広告の取り組みについて、Meta日本法人Facebook Japanに話を聞いた。
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FacebookやInstagramを運営するMetaを取り巻く状況は、2023年に入ってから大きく変化している。Metaの最近の動向を踏まえながら、プライバシー保護とパーソナライズ広告の取り組みについて、Meta日本法人Facebook Japanの小俣栄一郎氏に話を聞いた。

Meta日本法人Facebook Japan公共政策部長 小俣栄一郎氏

Twitterに続き、Metaも有料プランの導入を検討

Metaは2月19日、クリエイターなど個人ユーザー向けの有料月額サブスクリプションサービス「Meta Verified(メタ・ベリファイド)」の導入を発表した。オーストラリアとニュージーランドで段階的なテストを開始し、月11.99〜14.99米ドルで提供する。認証バッジを付与されるほか、より強力なアカウント保護、検索やコメント欄などでの投稿の優先表示、さらには有人の問い合わせ窓口対応などがあるという。

実はMetaは2022年第2四半期(4〜6月)、上場以来初めて売り上げが昨対比を割っているのだ。同社のユーザー情報管理をめぐっては2018年以降、取り扱いの不備を指摘する申し立てや訴訟が相次いでいる。

2023年1月4日には、アイルランドのデータ保護委員会(DPC)から「FacebookとInstagramにおける個人情報データの取得の手法は、欧州連合(EU)が定めた一般データ保護規則(GDPR)に違反し、利用者に十分な説明がなされていなかった」と判断され、合わせて3億9,000万ユーロ(約550億円)の制裁金を科すと発表があった。

Metaは異議を申し立てる意向だが、こうした背景から広告収入が得られにくくなったことも、サブスク開始の要因の一つではないかと見られている。

欧州の個人情報保護方針によりMetaが変化

GDPRの施行はMetaにとって大きな分岐点だったようだ。Metaの広報によると、ダブリンに拠点を置くデータ保護対応チームの主導により、史上最大規模の部門横断チームが設置され、特に次の3点に力を入れてきたという。

  • 透明性
    2022年5月、プライバシーポリシーを一新。利用者がより理解しやすいよう、わかりやすく書き改めた。
  • 管理
    コントロールセンターを設置し、利用者が自身のデータの使用方法を自己管理できるようにした。
  • 説明責任
    Metaのデータ保護に関する理念を明示した。また世界各国の規制当局、政策立案者、個人情報保護の専門家などに定期的な運用報告をするとともに、フィードバックを得ている。

1月27日に東京で開催された「Meta Bookstore(メタブックストア)」のメディア向けイベントでも、利用者の安心・安全を守るための取り組みについて発表があった。特に印象に残ったのが、広告主が利用できるターゲティングのオプションとして『10代利用者の興味・関心』を削除することである。今後は、性別のオプションも削除する方針だ。

というのも、センシティブな心理状態にある10代に、検索行動からニキビやダイエットに効くとうたう広告を表示し、「美肌にならなければ」「痩せなければ」と焦らせてしまうことは健全とは言えないからだ。また性的指向や性自認に悩んでいる可能性にも配慮したという。

「Meta Bookstore(メタブックストア)」のメディア向け発表会の様子。大勢の記者が集まった。

事前審査をかいくぐったNG広告への対処は?

10代には配慮しつつ、一方で40代の筆者のFacebookでは、毎日のように育毛剤の広告が配信されている。しかも白髪染め成分が含まれないにもかかわらず、「染まる」とうたっているのである。どのページにも同じ社名が書かれていたので、販売元に電話をしてみた。

すると「たしかに白髪染め成分は入っていないが、『染まる』と誤解を招く表現をしたのはアフィリエイト出稿企業だ。販売元である弊社に責任はない」と無責任な回答をされるのみだった。

こうした怪しげな広告は、配信前の事前審査ではねられないのだろうか? 小俣氏は次のように話す。

Metaでは広告規定を明確に設け、日本の薬機法に則した表現にも配慮しています。AIと人の目を通じて審査をしていますが、我々の審査をすり抜けて、問題のある広告が配信されてしまう場合もあります。だからこそ、利用者によるフィードバックがほしいのです。

『これは広告規定に違反している』『私にはふさわしくない』といったフィードバックを送っていただくことが、我々のAIの訓練につながります。またその声は、同じように不安に思う方々を守ることでもあります。

まさに『Feedback is a gift.(フィードバックは贈り物)』です(小俣氏)

小俣氏は「ステルスマーケティング(アンダーカバーマーケティング)」を一切許容していないと明言する。ステマの法規制に向け消費者庁に協力する立場として、ホットラインの創設も提案しているという。またMetaでは、インフルエンサーがPR投稿をする際は、「ブランドコンテンツツール」を使ったタグ付けが義務化されている。

広告規定違反をくり返すと、アカウントが削除される可能性もあります。詐欺的な行為については、我々へのフィードバックはもちろん、場合によっては然るべきところへの相談も必要です(Meta広報)

白髪染めをかたった育毛剤の広告も、Metaに通報の上、念のため消費者センターにも報告しておくことにした。

「この広告が表示される理由」機能をアップデート

Metaは2月14日、「この広告が表示される理由」機能をアップデートし、次の2点を改善した。

  • Metaのプラットフォーム内外で行った利用者の行動が、どのように機械学習モデルに影響し、その広告が表示されたのか、情報開示の透明性を高めた。
  • 「この広告が表示される理由」から直に広告設定にアクセスし、表示/非表示を選びやすくなった。

Metaの公式リリースによれば、広告表示のための機械学習には、友人のFacebook ページへの投稿に「いいね!」をしたり、お気に入りのスポーツに関するウェブサイトで交流したりする行動も含まれているという。

ちなみにMetaでは、広告配信前に利用者に許可を求めるオプトイン形式はとっていない。アカウント作成時にプライバシーポリシーを提示することで、個人情報の取り扱いについて同意し、サービスを利用しているとみている。

筆者は、さっそく「この広告が表示される理由」機能をチェックしてみた。たとえばMeta Questの広告は、筆者が過去、同商品のWebサイトにアクセスした履歴から表示されたことがわかった。もし非表示にしたければ、同一画面からFacebookとInstagram両方への配信停止を選択できるようにもなっていた。

「この広告が表示される理由」機能の詳細

たしかにわかりやすく、非表示も簡単に選べる。

しかし怪しい広告が事前審査をかいくぐって配信されること自体を“未然に防ぐ”のは、現状でも難しそうだ。若者の消費行動を大きく左右するInstagramでも、「インフルエンサーのおすすめ」を装った商品への誘導もまだ見受けられる。やはり配信後の通報しかないのだろうか……。

パーソナライズ広告はメリットも多い

こういった不快な体験から「パーソナライズ広告の仕組みは危険」という印象を受けがちだが、Metaの広報によれば、次のようなポジティブな影響も報告されているという。

  • インターネットによって人々には無限の選択肢が与えられるようになり、自分の好みの体験を期待するようになった。実際、​​消費者の72%はパーソナライズされたメッセージにしか興味がないと答えている。
  • 2019年のマッキンゼーのレポートによると、パーソナライゼーションは最大15%の収益増加と10〜30%のマーケティング費用の効率化をもたらす。
  • 新型コロナ以来、米国における中小ビジネスの44%が、ソーシャルメディア上でターゲット広告の出稿を開始、または出稿額を増やしており、ターゲット広告を使用した中小ビジネスは、使用していない中小ビジネスに比べ収益が2倍高い傾向にあるという結果が出ている。

ユーザー行動のトラッキングに使われていたサードパーティCookieは、世界的な規制強化の流れを背景に、まもなく完全に廃止される。そうしたなかで、刺さる相手にだけ必要な情報を届けられるMetaのパーソナライズ広告は、企業側にとって魅力的だ。広告を通じて、どれぐらいの人の目に止まったのかや、テストマーケティングを非常に安価(数百円〜)でできる。また、自社サイトを見に来たのかなどのトラッキング観測もできるのでメリットが大きい。

リマインダー機能なども活用しながら、定期的に“掃除”をしていただく感覚で広告設定を見直すことが、プラットフォームでより良い時間を過ごしていただくためのコツです(小俣氏)

試される「情報を選び取る力」と「公共心」

欧州を中心にしたプライバシー保護方針に柔軟に対応し、変化を見せているFacebookやInstagram。

ユーザーは無料でプラットフォームを使える以上、アカウント登録時点で広告対象者としてみなされ、自分や友人のオンライン上の行動は、AIに機械学習されることも許容しなければならない。その代わり、嗜好や価値観にぴったりの広告と出会うことができる。自分がビジネスオーナーになれば、数百円から出稿できるハードルの低さは魅力となる。

残念ながら、問題のある広告を完全に排除できていないのが現状である。しかし利用者自身がリテラシーを高め、見たいものを選び取り、公共心をもって通報に協力することで、プラットフォームは進化する。

「定期的な“掃除”」は怠らないようにしたい。

この記事の筆者

【執筆】

井田奈穂(いだなほ)

早稲田大学卒業後、記者として活動。企業広報を経て、現在フリーランスのライターとして活動。

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