カスタマージャーニーマップ作成でよくある落とし穴と回避方法

個票と集約の2種類で、「状態」ではなく「変化」をつかもう
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「カスタマージャーニー」という言葉が流行り始めて1~2年がたつ。しかし、

消費者は把握できたが、具体的に何していいかはっきりしなかった

具体的なクリエイティブに落とせそうで、落とせない

すでに把握できている内容で、新しい発見がなかった

など、コストをかけてカスタマージャーニーマップ(CJM)を作ったものの、実際にはうまく使えていないケースが多いようだ。

株式会社コレクシア
代表取締役
村山 幹朗氏

そこでコレクシアの村山幹朗氏が1600枚以上カスタマージャーニーマップを作成した経験をもとに、なぜ使えないのか―どうすれば活用できるかについて、「事例で紹介する、カスタマージャーニーマップの落とし穴と回避方法」と題して解説した。

ポイントは、「カスタマージャーニーを作って消費者を理解することで満足するのではなく、カスタマージャーニーを使って消費者をどう変えるかを管理する」という意識だという。

多くの人をまとめたカスタマージャーニーでは、傾向はわかっても施策につながらない

まず、一般的なカスタマージャーニーの作り方は、次のようなものだろう。

一般的なカスタマージャーニーの作り方
  • 4つのフェーズに分け、左から右に時間が流れている

  • それぞれのフェーズで消費者がどのような体験をするかを、ポストイットなどに書き出して貼り付けていく

  • それぞれの体験に矢印をつけて、流れを整理する

  • 消費者の感情を表すような「感情曲線」を記入することもある

  • その下に、施策としてフェーズごとに活用する媒体を書く

  • 一番下には、フェーズごとの対応策を書く

ワークショップなどで数人で想像し、「顧客はこのような人たち」というイメージを作っていく。しかしここで問題になるのは、全体を見るためには平均化しなければならないが、平均化すると使えない物になるという「集約のジレンマ」だ。

集約すると多くの人の意見が反映されている反面、クリエイティブ制作のヒントになるような具体的な体験エピソードが損なわれる

つまり、多くの人をまとめて集約されたカスタマージャーニーは、俯瞰には向いていても、人の血が通ったジャーニーとはほど遠くなり、施策を想像できない。だから作っても使えないカスタマージャーニーマップになってしまうのだ。

それを解決するのが、「個票と集約の2種類のカスタマージャーニーを作る」ことだと村山氏はいう。個票とは、一人のユーザーごとに一枚のカスタマージャーニーマップを作ることだ。

一人の消費者にどのような体験と気持ちの変化があったかが、生っぽく描かれたカスタマージャーニーマップを作ると、具体的な施策につながりやすい。さらにその個票を数十人分まとめて、集約のカスタマージャーニーマップを作る。

個票と集約の両方を作る

具体的な例で紹介しよう。ある化粧品カテゴリの例だ。化粧品の売り場には、美容部員が相談に乗る「カウンセリング型」と、ドラッグストアなどの「セルフ型」がある。どちらで買うかについて、集約したのが次の図だ。

集約のカスタマージャーニーマップ

これを見ると、カウンセリング売り場に行かない人には、次のような4つのタイプがいることがわかる。

  1. カウンセリングはなんとなく怖いからセルフ型
  2. 買う物が決まっているので、今回はセルフで十分型
  3. 事情があって仕方なくセルフ型
  4. 自分で選びたいからセルフ型

集約のマップでは、このように消費者セグメント全体がどう分岐しているかがわかる。もし自分がカウンセリング売り場を持つ化粧品メーカーのマーケターで、カウンセリング売り場に来る人を増やしたいのであれば、個票を見ると施策につなげることができる。

次の図は、③のタイプの人の個票だ。この人は、カウンセリング売り場を避けなければならない理由があったが、それをケアすればカウンセリング売り場に来てくれる可能性がある。

個票のカスタマージャーニーマップ

この個票を見ると、いつもどのような買い方をしているか、どのようなメイクに力を入れているかなどがわかる。そして今回はセルフ売り場で買ったが、その背景は次のようなものだ。

  • 今まで使っていたものがなくなったので、買い足した
  • 本当はじっくり相談したいが、赤ちゃん連れだったのでそうもいかず、さっと買って帰れる(のでセルフ売り場で購入)
  • 赤ちゃん連れで買い物しているので時間がなく、本当は産後の肌も見てもらいたかった

このようなエピソードがわかれば、カウンセリング売り場に戻ってもらうための施策として、「赤ちゃん連れでも待てる待合室を作る」「事前にWebで予約できる」などを思いつくことができるだろう。ポイントは次の2点だ。

  • 全体像(もちろん必要)を作るだけでは、具体的な施策にはつながりにくい
  • それを解決するには、個票と集約の両方を作ること

消費者の「状態」ではなく「変化」を詳しく描写する

カスタマージャーニーマップを作る際には、ポストイットに消費者の体験や心情を書き込む。たとえば、「Webで○○というキーワードで検索した」や「もともとこういう悩みを持っている」などだ。

しかし、ポストイットの中身を子細に書き込むこと自体は、重要ではないと村山氏は言う。なぜなら、不満や離反が「何と何の差分から来ているのか」わからないからだ。重要なのは、ポストイットから次のポストイットへと変化する、矢印の部分だ。

状態Aから何かの変化が起こり状態Bになった、その「変化のストーリー」を把握することが重要で、それがわかっていなければ消費者の変化をマーケターが狙って再現できない。村山氏は、「マーケターの仕事は、消費者を知ることではなく、消費者を変化させること」だと言う。

つまり解決方法は、カスタマージャーニーマップでは変化の過程を詳しく描写するべき(消費者の状態ではなく)ということだ。

そのために、消費者変化の構造をストーリーとして読み取れるように記述する必要がある。それをデジタル一眼レフカメラの例で模式化したのが次の図だ。

消費者変化の構造を「ストーリー」で把握する

たとえば、「子どもが生まれたのでデジタル一眼レフを買った」という人がいるとしよう。一番左の「メーカーの情報よりも、自分と同じように初心者からデジタル一眼レフを使いこなせるようになった人のブログの方が、ずっと自分にとって役立つ情報だと気づいた」というのが元の状態だ。

その後、子どもの成長に合わせて使い込み、カスタマイズするようになる。

そしてブログで「子どもの成長と共に使い込んで味が出る、頑健さとカスタマイズの幅の広さ」といった情報に触れることで、「使い込んだ道具の“味”があるという良さに気付いた。長年使っても、しっかりサポートしてくれるメーカーの実績があることを知った」というように、デジタル一眼レフのイメージが変わる。

すると次にその人は、「長く使っている人が、どんな風に使いこなしているか知りたい」という気持ちに変化してくる。

カスタマージャーニーマップで大事なのは、

  • 消費者がもともとどのような状態だったのか
  • どのような情報に触れて
  • 認識がどう変わったのか

という変化の部分を描くことだ。それを知るためには、アンケートやインタビューなどいくつか手法がある。インタビューはインタビュアーが思いつきで質問するのではなく構造化されていることが重要で、メジャーな手法に「ラダリングインタビュー」がある。

具体的な事象から抽象的な気持ちへ落とし込む「ラダーアップ」と、抽象的に気持ちから具体的な機能などに落とし込む「ラダーダウン」があるが、ラダーアップの例が次の図だ。

ラダリング

ちなみに、カスタマージャーニーマップに感情の波グラフをつけることがあるが、これはカスタマージャーニーマップからコミュニケーション戦略を設計する場合にはほとんど役には立たない。なぜなら、感情の変化っぽく見えるが変化のトリガーやエピソードがまったく描かれていないためだ。変化したこと自体がわかっても、その理由がわからなければ施策にはたどりつけない。

もし感情グラフを書くなら、その問題がどれくらい深刻か点数で答えてもらうなど、どの程度の機会損失があったかを集計する方が有効だろう。ポイントは次の2点だ。

  • カスタマージャーニーでは、消費者の変化を丁寧に描写、変化の因果関係をファクトベースで把握する
  • 「事前期待 → きっかけ・ギャップ → 認識の変化 → 変化後に求めるモノや行動」が拾えるように、構造化されたデータ収集方法が必要

データ収集はインタビューだけでなくアンケートでもシングルソースデータでもできる。カスタマージャーニーはワークショップで作ることが多いが、データを使って作らなければ、制作者の想像の範囲を絶対に超えない。家族や同僚にでもいいので、インタビューすることで情報を得て描くと、より生っぽいものができる。

必要なのは媒体を並べることではなく「媒体の役割」を定義すること

冒頭で挙げた一般的なカスタマージャーニーマップでは、4つのフェーズの下の方に媒体名が書いてある。これで施策化したような気がするが、実はどうするかは書かれていない。このフェーズでこの媒体を使うというのは、当たり前のことで、カスタマージャーニーでは「このフェーズで、この媒体で、どのような情報を提供するか」を書かなければ意味がない。

また、書かれている媒体は、「現状やっていることなのか」それとも「やるべき希望なのか」を混同していることがあるが、これはしっかり分けて考える必要がある。媒体戦略として描くなら、媒体の種類だけでなく少なくとも次のような内容が必要だ。

  • 媒体の直接効果、費用対効果、ターゲット/シーン適性
  • 媒体間導線の効果、媒体間遷移の規模、遷移確率

カスタマージャーニーではこれに加えて、各媒体がどのような役割を果たしたのか、今後どのような役割を担うべきなのかという、媒体ごとの目標設定を行うべきである。

媒体の役割を定義することで、「どの媒体や顧客接点でどのような体験をしたから、後の行動がこう変化した」という学びを得て、「だから、購買行動やパーセプションをこう変化させるために、この顧客接点でこうすべき」というストーリーにつながる。

先ほどの一眼レフカメラの例で、人を動かすために媒体でやらなければいけないことを模式化したのが次の図だ。

人を動かすのは媒体ではなく、情報の組み合わせ

先ほどの図よりも、ブレークダウンがひとつ細かくなっている。

もともとの状態の左上では、「デジタル一眼レフカメラは初心者お断り感があって、興味はあるが抵抗がある」という人がいる。そのような人が「初心者でも使えるカメラはどんなものがあるか知りたい」と思って検索するのはどのようなときか(子どもが生まれた、Webで記事を見た、友人から聞いた……)。

また、「初心者 カメラ」で検索した人には、どのようなコンテンツを提供すればいいのか(利用者の体験談、専門家の解説、機能の具体的な検証……)。

「どの媒体に」だけでなく、「どのタイミングで」「どのような情報を」提供するかまでを設計するのが、カスタマージャーニーの優れた使い方だ。まとめると、ポイントは次の3点だ。

  • 媒体は所詮媒体で、媒体が人を動かすのではない
  • 顧客接点ごとに「役割」を定義して、どんな情報を、どんな切り口で伝えれば消費者が変化するのかをきちんと捉える
  • どこで情報を欲するかに合わせて、媒体は後で決めればよい

カスタマージャーニーは現状と理想の2つ作る

カスタマージャーニーマップでポストイットに書き込むときには、現状の消費者を描こうとしているのか、ブランドが理想とする消費者を描こうとしているのか、どちらか意識していないと後で役に立たない。

どちらが良いというわけではなく、たとえば現状に課題があるなら現状を把握してどこをケアするか考えるべきだし、まったくの新製品なら理想の消費者像を書くしかない。

ただし、これを混同するとうまくいかない。解決策は、「いついかなる時でも、カスタマージャーニーは2つ作るべき」だと村山氏は言う。

ひとつは現状の消費者の状態(As is)のカスタマージャーニーマップで、もうひとつは本来こうなってほしい(To be)という理想のカスタマージャーニーだ。次の図は、菓子を題材にしている。

カスタマージャーニーは2つ作るべき

さらに、2つのカスタマージャーニーを並べ、ギャップを埋めていく。これがマーケティング戦略になる。現状と理想を、施策で埋めていくのだ。

2つのカスタマージャーニーの差分を埋める

マーケターの仕事は、カスタマージャーニーマップを作ることではなく、カスタマージャーニーを使って消費者の変化を設計し実現することだ。そのためのポイントとして、次の2点がある。

  • 「消費者の現状」と「ブランドの理想」を混同しない
  • 2本のカスタマージャーニーで変化を設計する

最後に村山氏は、次のような目的別のチェックポイントを紹介した。

  • コンテンツマーケティングにカスタマージャーニーを使う場合

    → どんな情報を与えて、消費者をどう育てるかを設計する

  • Webサイト(オウンドメディア)に使う場合

    → コンテンツマーケティングと同様。サイトで与える情報によって、消費者のどんな変化を狙って起こすのかを設計する

  • リアル媒体との組み合わせ

    → 狙う消費者変化を実現するための、デジタル媒体・リアル媒体の役割を明確にする

  • 顧客育成(ナーチャリング)にカスタマージャーニーを使う場合

    → 育成計画全体は「集約」で見て、各段階の育成施策は「個票」から具体施策を作る

マーケターの仕事は、消費者を知ることではなく、消費者を動かすこと。カスタマージャーニーも、知るためではなく動かすために作り、活用しなければならない。

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この記事の筆者

【執筆】

柏木 恵子
ITジャーナリスト

【撮影】

鹿野宏

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