KPIにようこそ | KPI大全 第2章

良いKPIとは、明確な定義、適切な表現形式、期待値、行動への扇動を持ち合わせたもだ。
よろしければこちらもご覧ください

第1章で述べたように、KPIは、大きくてみにくいエクセルシートや、複雑なアプリケーションソフトはいやだと通常の会社が思っていることへの回答となる。KPIについての考え方をひとことでいうならば、技術的データを収集し、それをビジネスに適した言葉で表現するということだ。

  • KPIは、生データではなく、比率、パーセンテージ、平均で表現される。
  • KPIは、円グラフや棒グラフではなく、タコメーター、温度計、赤信号(など何か意図を示すもの)
  • KPIは、ただの表ではなく、その時々の状況や、変化を強調する。
  • KPIは、ビジネス上の重要な行動につながる。

適切なKPIはすべて行動につながるという最後の項目こそ、最も重要な点である。大切なので繰り返して言うが、『適切なKPIはすべて行動につながる』のだ。乱暴な言い方をすると、「指標が急に動いたり、想定外の動きをしたときに、メールや電話で知らせたり、助けを呼びにいったり、という行動をおこさせるものでなければ、それはKPIと呼ぶに値しない」ということである。

KPIとは何か

これらを念頭に置きながら、詳しく見ていってみよう。KPIとは、なるべく多くの情報を伝えられるようにデザインされた数字である。良いKPIとは、明確な定義、適切な表現形式、期待値、行動への扇動を持ち合わせたものである。

  • KPIの定義

    KPIは常に割合、比率、平均や百分率(%)の形をとる。生データのまま、ということはない。生データはアクセス解析レポートの説得力を増すことはできるが、それだけでは判断のしようがない。以下の例を見るとわかるように、生データはKPIほどは有効ではない。

    たとえば、ある月曜日に1万件の注文があったとしよう。これは一見、すばらしいように思える。しかし、その前の週には10万件の注文を受けていたとしたら、決して良いとはいえないだろう。さらに、かなりのお金をかけて獲得した100万人の訪問者の中から獲得した注文がたったの1万件だったらなおさらである。

    このように、文脈がなければ、1万という数字はただの数字にすぎない。良いとも悪いともいえないのである。つまり、これだけでは何も教えてくれないのだ。これがKPIは常に比率や平均であるべし、という主張の根拠である。だが、KPIレポートから生データを除外すべきだ、というわけではない。生データは、レポートに意味づけをし、議論を促すためには、むしろ必要なのだ。私が言いたいのは「生データはKPIではない」ということだけである。

    KPIは、比較されたデータをうまく要約するようにできている。本書を書く前には、多くの人々が「どのデータの比較に意味があるのか」という議論に多くの時間を費やしていたが、本書の定義を読むだけで、かなりの時間を節約できる。

  • KPIの表現形式

    KPIで最も大事なことは「見せ方」(時間経過に伴う変化をどう強調するか、閾値に基づく警告をどう発するか、など)だと言いたいのは山々だが、実際にはそうではなくて、「価値のある行動につながるかどうか」のほうがはるかに重要だ。しかし、KPIレポートを読む側からすれば、色やビジュアルをうまく盛り込んだレポートの方により興味をひかれるということには、多くの企業が気づいている。以下の2つの表を見比べてほしい。

    図1 その週と前の週の値を表示する一般的なKPIレポート
    図2 その週と前の週の値に加え、変化の方向を示す記号、変化率、目標値、達成率、警告メッセージを表示するKPIレポート(注意すべき指標にはアンダーラインを引く)

    サイトの問題点を簡単に、一目で把握できる2つ目の例の方が、望ましいスタイルである。警告メッセージはなかったとしても、下向きの矢印と赤字(赤は世界共通で「危険」を示す色)を使うだけで、注意を払うべき指標が明確になる。

    KPIレポートを作成するときは、以下のチェックポイントを押さえよう。

    • 指標が常に時系列に沿った比較になっていること。
      KPIの値は、年齢や電話番号などの「固有値」を除いて、1期間の値だけで表示してはならないKPIの報告を受ける人が「昨日のデータ」「先週のデータ」などの過去の値を覚えていることはありえない。「先週の今日」「昨日」「先週」「先月の今週」などを組み合わせて、過去と比較してどのようになったかが明確に分かるようにしよう。

    • 太字は「良好」網掛けは「注意」アンダーラインは「危険」。最も悪い事を示すなら「二重のアンダーライン」。エクセルを使っているなら、「条件つき書式」を使って分かりやすい書式使いをしよう(カラー印刷が可能な職場なら、色使いで表現するなど自由にカスタマイズしよう)。

    • 数値が好転していれば「↑」、悪化していれば「↓」。数値の状態は、色だけでなく、好転しているか、悪化しているかを簡単な矢印で示し、さらなる文脈が読み取れるようにしよう(たとえば、太字の赤かつ、赤の下矢印がついていたら、急激に悪化している、ということ)。

    • 変化は「変化率(%)」で表現する。通常、KPIには「期待値」が設定されるが、その期待値がどこかを、KPIレポートの読み手がわかるようにしなければならない。そして、もし時期をまたいだ比較をするのであれば、少々手間をかけて、計算をしよう。簡単におさらいをすると、
      ({今期の値}-{前期の値})÷{前期の値}={前期~今期の変化率}
      となる。

    • 閾値(ボーダーライン)を設定し、警告を発する。指標の色分けをする際に、実際に得られた数値や比率と事前に設定した閾値とを比べて、警告を発するようにしよう。たとえば、「注文コンバージョン率」が5%悪化していたら「やや注意」、10%なら「注意」、20%を超えたら「警告」というように。

    • 目標値を設定し、達成度をレポートに盛り込む。 KPIを使うにあたり、目標値を設定することはとても大事だ。同時に、その目標の達成度を計測し、しかるべき人に報告することも必要だ。それにより、もし指標が目標値から大幅に離れていたら、警告を発することができる。

    以上のことを考慮して、本書で記述するKPIの説明は、すべてエクセルシートと連動して理解できるようになっている。うまく活用すれば、表を作る時間は短くてすむのだ(表2を参照)。あなたは必要なデータを入力し、閾値を設定し、誰にでもわかるように注釈を加えて、あとは軌道に乗せるだけでいい。

    それだけで、まわりから尊敬の念を集められるだろう。

  • 想定される結果

    KPIレポートの表現上のポイントは、目標値を設定し、それにどれだけ近づいたかを議論することである。指標をただ追うだけの仕事ではないのである。

    逆に、毎月毎週の継続的な改善プロセス(測定、レポート、分析、最適化)のために使ってこそ、KPI(と本書)は真価を発揮する。Webサイトを最適化する唯一の理由は「ビジネスの改善」である。単に測定するだけでは意味がない。設定した目標に向かって、たゆみなく努力しよう。

    目標を達成できなくても、目標を定めることにより、人々の目はKPIに向かわざるをえなくなる。次のレベルに行きたいと思うのなら、高めの目標値を(ただし、現実的な範囲で)設定して、それが達成できれば、四半期ごとにボーナスを出そう。自由になるお金は、多くの人々にとって目標値へのインセンティブとなる。

  • 行動

    KPIに対する反応は、すぐに対応するかほっとして胸をなでおろすかのいずれかでしかない。ただ無表情でみているだけではいけない。「この数値が10%改善したら、誰を誉めるか?」「この数値が10%悪化したら、誰を叱りつけるか?」を自問自答してみてほしい。どちらの問いにも明確な答えが出せないのであれば、それはKPIではなく、ただの測定値である。

    世の中にはただのデータであれば、すでにあふれているほど多くある。多くの人々が必要としているのは、意思決定に役立つデータである。生データだけしか提供できないのであれば、問題の中に埋もれているに過ぎない。しかし、明確な行動を促すデータを提供すれば、解決策を提示することになる。あなたがすでに後者をやっていれば、それはとてもすばらしいことだ。

    本書で説明している指標は、とても優れていて役に立つ数値だ。本書では、さまざまな文脈のなかで、それぞれの指標に基づいてどのような行動を起こすべきかを述べたので、読者のかたたちはいまどんな行動をとることが可能かを常に意識してもらえると思う。もし、「このKPIに対しては、他の行動も取りうる」というアイデアがあれば、ぜひ聞かせていただきたい。

  • KPIではないもの
  • KPIをどう表現したらいいか
  • 全員に50項目ものKPIを送りつけてはいけない
  • KPIはどのように使われるべきか?
  • 業種特有の指標について

KPIではないもの

生データは、KPIではない。これに反対する賢い人もたくさんいるが、それでも誤りは誤りである。KPIと生データを1つのテーマで一緒に使用してはいけないとは言っていないし、ましてや隣り合わせで表示してはいけないわけでもない。実際に、訪問者数、訪問数、ページビュー数、収益額、注文数など、いくつかの実数を表示するのは、多くの場合、悪い考えではない。ただし、行き過ぎは禁物だ。膨大な生データを盛り込んでしまったら、それはKPIレポートではなく、誰も理解できない・誰も使わないレポートになってしまう。

もし生データがKPIだという議論をしたいのであれば、ゴミ箱行きのアドレスまでメールしてほしい。

KPIをどう表現したらいいか

表現形式についてこれまで本書に書かれてあることすべて読んだのに、なお、表現についてあるのかと驚かれるかもしれない。KPIをどう構成して表現するかはわかっただろうが、それをどのように提供すればいいのかを知る必要がある。

形式(フォーマット)

KPIレポートのフォーマットは、組織によってさまざまだ。Eメール、ワード、エクセル、パワーポイント、ダッシュボードなど。私の場合は、エクセル (Microsoft Excel)のような表計算ソフトを主に使用する。これまでに述べた最良の表現形式を実現するのには、エクセルが最適である。また、多くのアクセス解析ツールでは、エクセル形式でデータを抽出でき、レポート作成の手間を大幅に減らすことができる。データの抽出を自動化して、レポート作成の時間を節約できれば、より分析に集中することができる。

パワーポイントを使うつもりなら、注釈を付けた表を用い、重要な指標に絞ってプレゼンテーションをするのがよい。表をそのままスライドに貼り付けても、読みづらくなるだけである。スライドが読みづらいと、聞き手にメッセージを伝えることは難しい。

ほとんど全てのベンダーが推奨するKPIレポートの定番フォーマットは、アクセス解析ツール上で利用できるダッシュボードである。これは「KPIレポートを見る人がアクセス解析ツールにログインしてくれる」という前提のもとに成り立っている。しかしダッシュボードでは、表示される指標が固定化されていることが多く、柔軟性にかけることが多い。確かにダッシュボードは、(温度計や速度計のような)直感的な表示ができるが、十分な情報を盛り込めるとは限らず、そのためデータ十分有効活用できなくなってしまう。

タイミング

KPIレポートの作成間隔が、3ヶ月以上開いてしまうようなら、どれだけ良いレポートを作ったとしても、それは時間の浪費である。むしろKPIレポートを作らないほうがいいかもしれない。組織による違いはあれど、KPIは頻繁に確認してはじめて、ビジネスの意思決定に有効なものとなる。ECサイトの場合は日別のレポートを、その他の類型のサイトでは週別のレポートを確認すべきである。

KPIレポートに多くの時間を割くことができない場合でも、KPIレポートの作成、注釈付け、配布という一連のプロセスだけは欠かさないようにしたい。そうすることで、受け取る側が常に情報を最新に保ち、指標に関してのより生産的な議論ができる。KPIに関するミーティングがあるときはいつでも、議題に関連するレポートを事前に用意できるよう、努力しよう。同様に、アクセス解析ツールにも頻繁にログインして、データの関係性を読み解くセンスを維持しよう。言うは易く行うは難しで、実際に欲しい結果を出すのは、案外難しいのだ。

注釈

これまで何度か触れてきたが、KPIレポートに注釈を加える作業は、指標を適切に扱うために必要な作業である。KPIは行動を促すべきものだが、指標に適切な注釈をつければ、より「適切な」行動が引き起こされる。書くことが特になくても、最低限、閾値を超えた値を示す指標に対して「アクセス解析チームは問題を認識しています。早急に取るべき行動を提示する予定です」という注をつけて、無用な電話や会議を減らそう(図3)。

図3 KPIのトップライン・サマリーとして冒頭に挿入された「調査中」の注釈

「KPIの階層モデル」に関するガイドライン

組織の中で、誰が、どのようなKPIレポートを受け取るべきかを決めることは大変重要である。業種ごと・役職ごとにどの指標が適切であるかについては、4章で詳しく述べる。原則として私が強く勧めるのは、「誰に何を」を決める際に、「階層モデル」に沿うことだ。階層モデルを無視して、関係者全員に全ての指標を送りつけても、よけいな仕事を増やすのがオチだ。私が提唱する基本モデルは以下のとおりである。

  • 経営層 ―― 経営層向けのレポートには、2つから5つのKPIを、担当する分野に応じて選択する。たとえば、オンラインショップの総責任者であれば、注文コンバージョン率コンバージョン当たり平均コスト1人当たり平均収益の指標を、その他仕事に必要な計測値とあわせて確認する必要がある。

  • 管理職層 ―― 管理職層向けのレポートには、5つから7つのKPIを選択する。これは、経営層向けの指標に加えて、それぞれの部署や商品ラインに応じて、適切な指標を加える。たとえば、マーケティング部門の副部長は、経営層が見る指標に加え、現在展開しているそれぞれのキャンペーンごとのコンバージョン率を見る必要がある。

  • 実務責任担当者 ―― 実務担当者向けのレポートには、7つから10の指標を選ぶ。これは、管理職層向けの指標に、個々のキャンペーン、プロモーション、ページごとの詳細なKPIレポートを加える。たとえば、オンラインマーケティング部門のディレクターは、管理職層と同じ指標を参照した上で、「アクティブな上位10キャンペーンのコンバージョン率」を見る必要がある。

実務責任者より下のかたたちには、アクセス解析ツールを使い慣れることをお勧めする。実務責任者は通常、キャンペーン・製品・ページのすべてに対して責任をもつので、適切なKPIレポートを見るだけでなく、アクセス解析ツールから直接必要なデータを集める方法に慣れておいた方が良い。そうすべき主な理由は、通常KPIがきっかけとなって、より現場の人間を巻き込んで問題調査と修正を行っていくからである。

  • 全員に50項目ものKPIを送りつけてはいけない
  • KPIはどのように使われるべきか?
  • 業種特有の指標について

全員に50項目ものKPIを送りつけてはいけない

組織の中での役割とビジネスモデルに応じた、指標選びのガイドラインは、以上に挙げたものと、4章で詳述するものがある。経験上、KPI設定にあたり、非常に重要なことがる。

いかなるKPIレポートにも、手に余る量の指標は不要。最大でも、10個。

このことを何度となく言ってきたが、30個もの指標のKPIレポートを作成する人が後を絶たない。指標の多さについて指摘すると、「経理の誰かが使うかもしれないので・・・」「みんながこの数字に慣れるように、いつも入れているのです」などといった答えが返ってくる。

いかなる規模・種類のビジネスにおいても、「データはあふれている」という事実があり、それを解消するためにKPIは存在する。それなのに、不適切なデータを含んだ巨大なエクセルシートが、価値を生み出すことができるだろうか。その答えは「不可能」である。KPIの選定に際しては、以下に挙げる3つの簡単なガイドラインに沿ってもらいたい。

  1. 階層的に ―― 「KPIの階層的モデル」に関するガイドラインに沿って、受取人が自分のグループ、部署、事業部、商品ラインに直接影響を与える指標だけを理解すればいいようにすること。
  2. 集中的に ―― エクセルシート1枚に収められる程度に、簡潔にまとめられるようにすること。包括的なデータよりも、より具体的なデータを盛り込んだ方が、きちんと見てもらえる。
  3. 提案に対してオープンに 指標の妥当性や有用性に少しでも疑問を感じたら、KPIレポートを受け取る人に、その指標が10%変動したらどういう行動を取るかを尋ねてみること。十分な回答が得られなければ、その指標をレポートから除外してかまわない。

せっかく綺麗なKPIレポートを作っても、冗長で、妥当なデータが少ししか入っていないレポートは、結局誰にも見てもらえないこともある。半年後に泣きつきたくなければ、上記のアドバイスを検討してほしい。

KPIはどのように使われるべきか?

KPIの最適な使い方を、2つの例で説明しよう。

  • 例1) Webサイトのシニアマネージャーが、1週間の仕事をスタートする。メールを開き、当該週、その前の週、1か月前の1週間の3つの指標を比較したKPIレポートを読む。値を確認すると、重要なKPIはすべて改善傾向であり、問題はすべて既知のものである。レポートを閉じて、忙しい一日の仕事に着手する。
  • 例2) Webサイトの上級マネージャーが、1週間の仕事をスタートする。メールを開き、当該週、その前の週、1か月前の1週間の3つの指標を比較したKPIレポートを読む。レポートはどこも真っ赤である。コンバージョン率は著しく下落し、1人当たり収益は23%も減少。原因は、最近立ち上がったキャンペーンに関係があると考えたため、担当者に連絡し、建設的な議論を始める。

どちらのケースでも、Webサイトをビジネスのチャネルとみなして、その日・その週をどう乗り切るかという、迅速な意思決定ができた。1人目のマネージャーは、個々の項目に関する細かいことは、個々の担当者に聞けば大丈夫だと認識して、そのまま一日の仕事に移った。2人目のマネージャーは積極的に動いて、早急にミーティングを設定し、問題を明らかにして解決の方法を議論する必要があった。彼のチームのメンバーが同じレポートを読んでいるとすれば、急な召集にも何ら驚くことなく、すぐに反応する用意ができているのが望ましい。

KPIは、人々とWebデータやとるべきアクションとの関係を簡単にするためのツールである。データを使わないアナリストは、自身にとって使いやすい形式のみでデータをもらえるので、KPIを使うことで、より短時間で業績を評価し、適切に反応できる。言い方をかえれば、分厚いレポートを送ると、ほとんどの人はそのうち注意を払わなくなる。

KPIは、社内や会議におけるデータの共有にも役立つ。全社員が同じレポートを見るべきであるため、ミーティングである参加者だけが「(指標選択、測定期間、計算などが)誤った」データを見ている、ということがない。毎週同じレポートを見ていれば、それが定着し、共有知となる。こうして、足並みをそろえて1つの問題を考え、解決に向けてともに行動できる。

KPIにどのように反応したらいいのか?

アクセス解析にKPIを用いるべき唯一の理由は、オンラインチャネルを最適化するように組織を動機づけることである。組織が積極的にデータを活用しようと思わない限り、労力をかけたKPIレポートも、組織のメンバーに対する提供も、何の助けにもならないのである。

最近の私の研究で、アクセス解析に対する投資についてどのように考えるべきか、非常にシンプルな事実を発見した。そのアイデアとは、成功するためには単に計測技術に投資するだけではいけないというとだ。もちろん技術やその技術を使う人に投資しなければそもそも成功しない。しかし、それらの投資のまわりにしっかりした運用プロセスを構築しなければ失敗する確率が高い。KPIを使用することはこのプロセスを作る最適の方法だ。もちろん、組織がこのようなことに興味をもっていなければ、ただのレポートだけが作られるだけでその組織に重要な影響を与えることはできない。

さて、こうした枠組みの中で、KPIレポートを受け取った人は、どのような反応をすればいいのだろうか?簡単には言えないが、たとえば私のビジネス(本を売ること)を測定するKPIの1つが低下したら、私はどこが悪くてなぜ悪いのか、すぐに理解しようとする。どのKPIが悪化しているかによっては、多少は迅速に、問題点に集中できる。収益関係のKPIをまず参照し、それ以外のKPIはあとから参照する。その理由は、私は自分のオンラインビジネスを可能な限り成功させたいと思っており、KPIはビジネスの目的とビジネスの成功に直結するものであるからだ。

これこそが、肝に銘じておくべき重要なことである。KPIはあなたのビジネスの成功に直結しているのである。あなたの人生における成功が、ビジネスにおける成功と密接に結びついているのなら(ほとんどのビジネスパーソンがそう考えているが)、なおさらKPIに特別な注意を払うのが合理的である。これらの指標がただの数字ではなく、組織がどれだけ成功しているのかを示す数字だということ折を見て人々に意識させること必要がある。このような行動が、オンラインチャネルの最適化をめざして丁寧に活動しなければならないという組織の意識を高めることになることを願う。

業種特有の指標について

Bob Pageという、指標を熟知した優秀な人間が、あるコメントをくれた。私が提示するKPIリストには、業種特有のKPIが1つもない、というのだ。たとえば、オンラインメディアサイトにおける「ストリーム完了率」や、不動産のオンライン販売サイトにおける「約定率」などの指標である。Bobは大変いい指摘をくれた。

本書に挙げているKPIのリストは、すべての業種の特徴をふまえたものであるというわけではない。しかし、KPIを使い始める際のガイドラインとしては有用だと思うし、業種特有のKPIをどのように定義し、どのようにレポートするかを理解する助けにはなるはずだ。あなたの作成したKPIのリストに対して、「そのリストはよさそうだが、私の仕事に必要な指標が抜けている」というコメントをもらったら、何が足りないのか、それはどこで入手するのか、KPIレポートにどのように盛り込むべきかを尋ねてみよう。それが組織内で十分認知されており、行動につながるものであれば、おそらくKPIとして良い選択であろう。

そして、あなたの考えた業種特有のKPI指標は、本書をより良いものにするために、ぜひ聞かせていただきたい。

この記事の筆者

この記事は、Web Analytics Demystifiedの創設者でありシニアパートナーであるエリック・T・ピーターソン氏による書籍『The Big Book of Key Performance Indicators』の日本語版です。原著作者の許諾を受けて株式会社デジタルフォレストが翻訳し、同社の開催する「Web解析マネジメント実践講座」において参考書としているコンテンツを、Web担当者Forum向けに特別に公開しているものです。

※この日本語訳版に関するお問い合わせは、デジタルフォレストまでお寄せください

エリック・T・ピーターソン 著
株式会社デジタルフォレスト 手嶋進、入谷聡、清水昌浩 訳

Original Author: Eric T. Peterson, Senior Partner and Founder, Web Analytics Demystified

テーマ別カテゴリ: 
記事種別: