ソーシャルアプリが1か月で100万人も集められた裏事情 - 明日のモバイルほろ酔い語り

なぜ1か月で100万人が集まるのか、清水節が展開。
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ここは、東京下町のとある居酒屋。板だけ載せた酒瓶ケースの上に、ずらりと焼鳥やもつ煮を並べ、路上で立ち飲みが基本の店だ。気さくなおかみさんが、手作りの肴を振る舞ってくれ、深夜までずっと賑わっている。

そんな気取らない店に、IT系勤務のホットなやつらが夜な夜なつどって業界の噂話に花を咲かせ、ときには激高しときには愚痴をこぼし、ときには成功を喜び合う……。店内では、聞き逃せないような最新情報、そしてモバイルの未来に関わるような貴重なアイデアが飛び交っているのだ。

今日も、おもしろそうな会話が耳に飛び込んできたようだ。

文、写真:清水亮(ユビキタスエンターテインメント)

今回のテーマは、「ソーシャルアプリ」。mixiやFacebookなどのSNSで提供されている、コミュニティ機能なども採り入れたゲームアプリが、いま大きな盛り上がりを見せている。日本では携帯電話事情も絡み、モバゲーやGREEなどが独自展開を見せつつ、とくに今年は、一般にも知名度を高めた。今回はソーシャルアプリの成り立ちをさまざまな観点から切り取っていく。

登場人物

筆者=自称ゲームメカニズム研究家。ゲームデザインの研究書として執筆した「ネットワークゲームデザイナーズメソッド(翔泳社)」「ゲームデザイン誇大妄想狂(工学社)」がある。モバイルCMS「ZEKE CMS」を開発するUEIの社長。
T氏=もと通信キャリア勤務。筆者とは長年の知己。コンテンツに詳しい。
K氏=もとゲームメーカー勤務で現在は大手ソフトハウス勤務。携帯電話のファームウェアの開発者。筆者とは長年の知己で口は悪いが根は善良な職人気質のプログラマー。

大ブレイクのソーシャルアプリ、そこに秘められた可能性とは?
記事後半で展開される清水節に要注目!

■最近のモバイルを牽引するのはキャリアではなくなってる?

Androidケータイ
(docomo PRO series HT-03A)

「最近お仕事はどうですか?」

T氏「それがさっぱりなんですよねえ」

「え、さっぱり?」

T氏「もうここ数年、ずっとそうなんですけど、キャリアが主導でビジネスをやる時代じゃなくなってきたんですよね」

「その傾向は強まっているように感じますね。実際。いまはどうやって公式メニューに乗るかということよりも、どうやってモバゲータウンにアフィリエイトしてもらうかということが大事になってきてるね」

T氏「そうなんですよ。それに端末に新機能を載せても、肝心の端末が売れてないですから」

「昔は新端末が出ると、それにワッと飛びつく人が一定数いて、そこにくっついた新機能を試してみたくてコンテンツに入会する、という好循環があったからねえ」

T氏「そう。今は端末の価格が上がってしまったので、そういう消費行動がなくなってきたんですよ」

「それで各キャリアが開発工数のかからないAndroidへの移行を表明してるわけか」

T氏「理由はそれだけじゃないんですけどね」

K氏「だいたいさ、キャリアの要求が増えすぎなんだよ

「というと?」

K氏「もともとはちょっとしたネット機能のついた端末、っていう話だったのに、それがどんどんエスカレートしていって、今はJavaScript動かせとかマルチタスクやれだとかさ、そもそもそんな設計してないっつーの」

T氏「でも10年前と比べたら技術も進歩しているし、ハードが進化したらOSやソフトも進化していってもらわないと」

K氏「だからね、それはそうなんだけど、ケータイの場合、進化が速すぎるわけ。半年に一度バージョンアップするソフトなんて、ないよ。ない。聞いたことない。けど、ケータイはやってる。やり続けて来た。この10年で、20回だよ。バージョンアップ20回。その間にどれだけ機能が増えたと思う?」

「最初はモノクロ2値のGIFしかサポートしてなかったしね」

K氏「通信速度だって最初はクンロク(9.6Kbps)だろ? それがいまは10Mbpsだよ。そこのファームだってただ買ってくればいいってわけじゃない。調整がいるんですよ。カラー化にJavaに動画にFlashにPDF? いまのケータイは戦艦大和だよ。こんなに載せてどうするっていう」

「けど、iPhoneだと、そういうのが全部載っていても使い易いんだよね」

T氏「う、それは……」

K氏「そういうのもね、おれたちに言わせたら後だしジャンケン。あとから作ったほうがそりゃイイモノできるよ。当然じゃない。ゼロから作り直していいならそうする。けど無理でしょ? いままでどれだけ長い時間をかけてハードとソフトとSDKを揃えて、それをコンテンツ制作者とユーザーにアピールしてきたと思う? そんなの明日いきなり捨てられないでしょ? みんなiPhoneがいいことなんかわかってるよ。けどやりたくてもできねえんだよ!」

「なんでキャリアはそういうものをもっとやっていかないんですかねえ……」

T氏「お金がないんですよ!」

K氏「そう! 金がないんだよ! というか、金が出ない。出してくれない」

「えーっ、だけど、ケータイって儲かってる印象あるんですけど」

K氏「端末開発はもう赤字。真っ赤っか。それをいままではなんとか販売奨励金とかでごまかしてきた。それが法律が変わって禁止されてから、端末販売は激しく鈍化しちゃったしね」

「そうなんだ……」

T氏「でも、そうはいっても1世代ごとに500万台くらいは売れてるから、まったく買われてないってわけじゃないんですけどね」

K氏「いまのケータイをゼロから作り直して満足いくものにするにはどれだけ急いでも5年はかかると思うよ。けど、5年もの間、そんな膨大な開発予算出してくれないでしょ。誰も」

「うーん……」

K氏「だからAndroidにいくしかない。Androidはもちろんそんなに良くもないんだけど、さほど悪くもない。Androidを土台にすれば、5年かかるところが2年で済むかもしれない。そこだよ。ミソは」

「Androidはまあ直接触るといろいろクビをかしげざるを得ないところもあるけど、OSとしては悪くないからねえ」

T氏「まあ詳しくは言えないですけど、すでに国内キャリアはAndroidの投入を明言しているところもいくつかありますからね。全体的にそうなっていくのではないかと思います」

そろそろ本題に。大人気のソーシャルアプリ、その人気の背後にあるのはカジュアルゲームのデザインパターン

■コンテンツはどうなるの?

ソーシャルアプリの例
(mixi『サンシャイン牧場』)

K氏「ところで清水んところはどうなのよ」

「僕のところっていうと?」

K氏「コンテンツってことだよ。ハードがコレだけ苦戦してるから、コンテンツもさぞかし苦労してるだろうなって思って」

「それが最近はそうでもないんですよねー」

K氏「えっ?」

「SNS向けのソーシャルアプリ、いわゆるmixiアプリとかモバゲータウンのゲームとかがいま凄いことになってるんですよね」

T氏「あれは凄い人気ですね」

K氏「へー。ニュースで見たけど牧場のゲームとかだろ? あれのどこがおもしろいのか、長年ゲーム会社にいた俺にはわからんのだが」

「あれのおもしろさを伝えるのは難しいんだけど、要するにいまはカジュアルゲームの時代っていうことかな」

T氏「それはありますねー。キャリアの影響力が下がってきているのも、モバゲーやGREE、mixiのようなソーシャルサービスの方が圧倒的にユーザーの接触時間が長くなってきていることに1つの原因があると思うんですけど、もうそこではヘビーなゲームらしいゲームは求められていないんですよ」

K氏「へー」

「たとえば最近流行りの位置ゲーっていうのはその好例なんだけど、『ケータイ国盗り合戦』なんか凄くウケてるんだよね。けど、ゲーム性はほぼゼロのスタンプラリーという……」

K氏「え、なにそれ?」

「『ケータイ国盗り合戦』は、位置情報を使ったスタンプラリーゲームなんだけど、『合戦』とついているわりにはまったくバトルとかの要素がないのね。それで、ログインするととり合えず『国盗り』ってボタンがあって、そのボタンを押すと『新宿歌舞伎町を制圧!』とか表示されるの」

K氏「それだけ? メッセージだけ?」

「いや、たまに『いやー、新宿歌舞伎町地域を制圧するのは大変じゃったわ』なんていう台詞が出たりするけど」

K氏「そういうことじゃないだろ。それだけなの? 本当に」

「あとはアバターを着せ替えたり、アイテムを集めたりするんだけど、アイテムを使う場所は特にないっていう……」

T氏「あれ本当に流行ってますよね。うちの旦那もはまってますよ」

K氏「(ケータイをいじりながら)へー、ほー、本当にただ『国盗り』ってボタンを押すだけなんだな」

「これがまー我々ゲーム脳人類からすると「えっ?これでいいの?」って感じなんですけど、実は結構おもしろいんですよ。結局、僕、これを始めてからすごい遠出するようになりましたね。しかもクルマで。道々で国盗りしていく感覚が楽しいんですよ」

T氏「自分が実際に移動するっていうのがいいんですよねー」

K氏「すげえな。いままでのゲームの概念とはまるで逆だな」

「位置ゲーのおもしろさっていうのは、それまで現実を縮小してテレビ画面に押し込めてそのリアリティを競っていたゲームの対極にあるもの。位置ゲーは、逆に現実を裏返してるわけだよ。つまりゲーム空間は現実世界で、ケータイはコントローラに過ぎないっていうね。僕は位置ゲーはARゲームの走りだと思ってる」

T氏「ARって?」

K氏「オーグメント・リアリティだっけ?」

「ARは、オーグメンテッド・リアリティ、拡張現実感といって、最近いろいろなところで脚光を浴びている考え方ですよ。とはいっても、ARの概念自体は大昔からあるバーチャル・リアリティとまったくいっしょなんだけどね。当時は技術がまだ未熟で、妄想レベルではそういうのもあったけど実現することはできなかった。」

K氏「VRかー。流行ったなー。特にアーケードとかだと羽田の某社がかなり力を入れてたよね」

「プレステのエポックメイキングなところって、いわばVRを家庭用ゲームに持ち込んだ初めての機械っていうところだったんじゃないかと思うんだけど、そこいくといまケータイゲーム、とりわけ位置ゲーみたいなゲームと、プレステみたいなゲームって本当に真逆なんだよね」

K氏「でもさー、これってどのくらいの人数が遊んでるんだ?」

「ケータイ国盗り合戦は40万人くらいって言ってたかな? 他にも最近は『まちつく!mixi版』なんかがスマッシュヒットを飛ばしているよね。あっちは1か月で会員数が100万人突破したらしい」

K氏「100万人! いまどきPSPのゲームでも1万本売るのが難しいという時代に……」

結局タダで遊べるゲームも多いし、わざわざPS3で遊びたいタイトルもないんだよね」

T氏「ケータイはしょせん暇つぶしの道具ですから。それが発達すると他の暇つぶしに時間が割けなくなるんですよね」

K氏「恐ろしい話だなおい」

いよいよ清水節が大展開、カジュアルゲーム人気の背後にあるデザインパターンとは?

■カジュアルゲームのデザインパターン

「んでね、僕思ったんだけど、カジュアルゲームに求められているのっていわゆる今まで僕らが『ゲーム』だと思ってきたものとは違うんじゃないかと」

K氏「またお得意のアレか」

「まあお得意のアレなんだけど、こんな図(下図)になってると思うんだよね」

パターン1(カジュアルゲームの基本デザイン

T氏「ああ、まさに、いまのカジュアルゲームってだいたいこんな感じですね。GREEのゲームもモバゲーのゲームもすべて当てはまる」

K氏「なんだこれ、ゲームというよりパチスロじゃないか」

「そのとおり。というか、僕は長年、なぜ人はパチスロにハマるのか理解できなかったんだよね。最初は、それがギャンブルだからだと思っていた。けど、家庭用ゲームやケータイアプリとしてもパチスロのクローンは売れてるわけ。もうそれはギャンブルじゃない。ということは、『ギャンブルだからおもしろい』のではなくて、そもそもおもしろいものであって、『ギャンブルだからおもしろさがわかる人も多かった』んじゃないかと」

T氏「え、清水さんパチスロやるんですか?」

「いや、僕は人生がギャンブルだから……」

K氏「さすが。で、パチスロのゲーム性ってこんなもんだと」

「あとは見立ての問題で、パチスロっていうのは要するに法律の問題で、たとえば当たる確率なんかは非常に厳密に決まってる。だから見せ方や体験を工夫するしかパチスロをおもしろくする方法はないわけで、それで版権ものとかがやたら多い」

K氏「冬ソナなんか大ヒットらしいよな」

「で、パチスロがおもしろいのって、要するにスリルとインセンティブがあるからなんだよね。それがかなり高速で行ったり来たりする。スリルっていうのはお金が減って行くってことで、インセンティブはそれが増えることなんだけど」

「けど、驚くべきことにゲームセンターのコインゲームは男女問わず人気のある遊びで、これはインセンティブはコインが増えるっていう部分にはあるけど、実際には換金できない。換金できないのにインセンティブがあると錯覚するところが凄いんだよね」

T氏「あれは満足感あるんですよね。500円の元手でこんなに勝ったぞっていう」

「で、僕はゲームセンターのコインゲームは過渡的なものとして捉えているんだけど、要するにコインを換金不能にしてもおもしろいことをそれで証明できてる。次のステップとして、そもそもコインを賭けたり増やしたりする投機性は実際に必要なのかと考えてみた」

K氏「うん、それで?」

「よく考えたら、それすら要らないかもしれないと思ったんだよね。たとえばそれはコンピュータゲーム自身が証明しているように、人はインセンティブが『物語』であっても満足するものなんだ。いや、物語ですらなくてよくて、自分が何かをやったという証が、スコアなり勝敗なりの数字として残ればそれでいい」

K氏「なるほど」

「けれども、たとえば頭を使ったりとか反射神経を使ったりするゲームは疲れるし、そもそも習熟するまで遊べないものが多過ぎる。ケータイみたいな環境ではほんの数秒だけ時間を潰せればいいから、家庭用ゲームみたいに何時間も腰を据えて遊ぶゲームだったり、ゲームセンターみたいに数分から数十分遊んでも結果が毎回リセットされるようなゲームデザインは、そもそも向いていない。ケータイの場合、ルールさえ理解したくない訳だから、何も考えずに遊べるゲームがいい

K氏「だからパチスロなのか」

「正確には、パチスロを作ることではなくて、ユーザーからの介入や習熟を極限まで減らした結果、パチスロ的になるということだと思うんだよ。日本のパチスロはそれでも複雑で、レバーとボタンがあるけど、アメリカのスロットはレバーしかないんだよね。僕はケータイのカジュアルゲームはレバーだけでいいと思う

K氏「でもそれだけだと飽きるだろう」

「そう。飽きちゃう。飽きちゃうからコンテキストを持たせるんだよ。さっきの図でいうと、確率αだけで勝ち負けが決まっちゃうと飽きちゃう。だから確率αと確率βが必要。確率αで次の段階に進んで、ここで確率β、できればユーザーからのなんらかの操作への介入で当たりはずれが決まると完璧」

K氏「パチスロでいえば予告リーチや確変に相当する処理か」

T氏「確変に入ると燃えるんですよね」

「この確率α、βをアイテムで変動させると、コンテキストができる。そして当たりゲットの「集合M」と書いてる部分があるけど、この集合Mが位置によって変化すると位置ゲーになる

K氏「結構単純なんだな」

「それで、こういうのを基本として、この図みたいな外部構造を持たせると、さらに長く遊ぶことができる」

パターン2(中期的ゲーム要素)

K氏「これは?」

「これは『Mob Wars』や『MafiaWars』といったゲームで良く用いられているデザインパターンで、ミッションをクリアすると経験値がたまり、経験値がレベルを上げ、レベルをあげるとミッションがアンロックされるという非常にシンプルな構造を示したもの」

K氏「こんなのおもしろいの?」

『Mob Wars』の画面

「結局、ユーザーが求めているのは数秒間の暇つぶしなので、一度の操作は数秒以下で終わり、操作と操作の間に意味付けをするコンテキストが生まれればいい。実際、『Mob Wars』をはじめとしたこのスタイルのゲームは、Facebookアプリで大量にクローンが作られるほど大人気なんだよね」

T氏「日本のケータイゲームでもこういう型式のものは増えてきてますね」

K氏「これだったらすぐ作れそうだなあ」

「あとはコミュニティ要素。これをどう絡めて行くかっていうのが肝なんだよね。そこもいくつかデザインパターンはあるんだけど、まだ図にしてない」

T氏「でもケータイのゲームって飽きさせないようにする工夫が大変なんですよね。やりっぱなしだとユーザーもついて来ないから」

「だからね、僕はこれほんと10年前からだけど、ケータイゲームの運用にこそCMSが必要だとずっと思ってて、10年前に作った最初のゲームの時点ですでにかなり高度な管理ツールは作ってたんだよ」

K氏「まあ当時は各社いろんな工夫をしてましたわなー」

T氏「でもCMSっていまの清水さんのご専門じゃないですか」

「そうなのよ。だからうちのZEKE CMSにソーシャルゲームが作れるプラグインを作ってですね、売り出したんですよ。Web担ではニュースとしてさらっとしか扱ってくれなかったのが残念なんだけど……

■今日のまとめ

K氏「いやー、飲んだね」

T氏「今日はアレですね。とり合えずソーシャルゲーム作ろうよと」

K氏「おれも趣味で作ろうかなー」

「ギャンブルが嫌いな人も勉強のためにパチスロやってみよう、とか」

T氏「ソーシャルゲームのお問い合わせは清水さんまで、とか(笑)」

その十二! 
いま人気の「ソーシャルゲーム」をまず徹底的に遊んでみるべし!

この記事の筆者

清水 亮
株式会社ユビキタスエンターテインメント
代表取締役 兼 CEO

電気通信大学在学中に米Microsoft Corp.の次世代ゲーム機向けOSの開発に関わり、1998年末に株式会社ドワンゴ入社。1999年に同社で携帯電話事業を立ち上げる。2002年退社し、米 DWANGO North America Inc.のコンテント開発担当副社長を経て2003年独立。2005年、独立行政法人情報処理推進機構により、天才プログラマー/スーパークリエイターとして認定される。

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