2023年は日本の“リテールメディア元年”になる!? なぜ注目されているのかを徹底解説!
昨年から「リテールメディア」がデジタル界隈で話題になることが増えてきました。すでに米国ではネット広告市場の中でも成長著しいジャンルの一つとなり始めています。日本でも増えていくことが予想されるリテールメディアの基礎から、現在の課題や今後の展望までを解説していきます。
リテールメディアの定義と市場規模
リテールメディアの定義ですが、「リテール=小売」「メディア=媒体」という言葉のとおり、小売事業者がECサイトや実店舗を広告媒体として提供するWeb広告、アプリ広告やデジタルサイネージ広告のことです。最近では、小売事業者自らが構築、運営する広告事業を総称して使う人も多いかもしれません。
米国の調査会社Insider Intelligenceによると、米国のリテールメディア広告費は2024年に610億ドル(8兆円弱)で全デジタル広告費の19%を占めると予測しています※1。
日本においても、株式会社CARTA HOLDINGSが2022年9月に発表したリテールメディア広告市場の推計予測によると、2022年のリテールメディア広告市場は135億円、2026年には約6倍の805億円規模に拡大すると予測されています※2。
リテールメディアが注目を集めている背景
リテールメディアはすごく新しい概念というわけでは決してありません。Amazonは、出店しているマーチャントとユーザーをつなぐことを目的に、2012年頃から広告商品を提供し始め、広告事業に関しても成長を続けています。
ですがここ数年、Amazonと同じように広告媒体の開発および提供に力を入れている会社は世界中で急激に増加しています。この背景には、言うまでもなく、2020年以降の新型コロナウイルス感染症の影響によるEコマースへの大きなシフトがあります。
生活者が実店舗に物理的に行けないため、小売事業者はECサイトに力を入れることが必要となり、ECサイトでの購入を促進する手段を作りつつ、新たな収入源を確保するためにリテールメディアに続々と着手しました。
「リテールテック」と呼ばれる、小売事業に関連した技術の著しい進歩も背景にあります。これにより、実店舗におけるデジタル化が進んだことも挙げられます。たとえば、
- デジタルサイネージの導入
- 店舗分析
- 来店測定 など
さまざまなことが可能になり、リテールメディアを構築しやすい土壌が整ってきました。
また、近年の個人情報保護の動きが加速していることや、それに関連してブラウザ各社がサードパーティCookieのサポート廃止を実施または予定していることも関係しています。
- Apple Safariはすでにサポートを廃止
- Google Chromeは2024年後半にサポート廃止予定
これによる影響としては、これまでサードパーティCookieがあることで可能だったターゲティング広告や広告効果測定は、今までと同じようにはできなくなります。予算を投じて広告を出しても、広告効果が下がったり、効果測定がしづらくなったりするのを広告主は回避したいと考えます。
そこで、ブランドを中心とした広告主は小売事業者が保有する、実店舗で収集し・ユーザーに利用許諾を取ったファーストパーティーデータと、それを活用したリテールメディアの持つポテンシャルに期待を寄せているのです。
ブランド、生活者、小売事業者それぞれのメリットは?
ブランドのメリット
まず、ブランドがリテールメディアのもっとも大きな価値と感じているのは、小売事業者が生活者の許諾ベースで収集・保有し、マーケティング利用可能なファーストパーティデータを活用できることです。たとえば次のようなデータです。
- 店舗やECサイトで購入した際に記録される購買データ
- 実店舗の来店・回遊データ
- ECサイトや会員向けアプリの利用ログなどの行動データ など
購買データからは「どんな商品に興味があるか」「いつ頃買う可能性があるか」「頻繁に買ってくれるロイヤル顧客か」といったことを分析でき、そのような情報をベースにした精緻なターゲティングを行い、広告やクーポンを配信できます。
またブランドは、Google、Facebook、Instagramといった大手広告プラットフォームや、Amazonのようなモール以外の信頼性が高く、関連性のあるメディアでの露出機会を増やすことができます。
小売事業者のECサイトで目にする広告や実店舗のサイネージ広告は、リーセンシー効果が高いとされています。リーセンシー効果とは、直前に接触した広告が購買に影響を与える効果のことをいいます。リテールメディアでは、次のようなことが起きやすいのです。
- ECサイトでふと目に入った広告の商品が気になって買ってしまった
- 店舗内のサイネージ広告を見て商品をつい手にとってしまった
上記からわかるように、購入意向の強い人が集まる場で、データをもとに購入する可能性が高いと思われる人にピンポイントで広告を届けられるので、ブランドにとってリテールメディアなら、高いコンバージョン率や費用対効果を期待できると言えるでしょう。
ブランドは効果測定面でもメリットを享受できます。リテールメディアでは、広告キャンペーンが見込み客を生み、実際に売上に及ぼした影響について直接把握できます。このことを「クローズドループ測定」または「クローズドループアトリビューション」と言います。売上につながったかは計測できず、推定するしかない他の施策と比較すると、費用対効果を把握でき、投資の意思決定がしやすいため、ブランドにとっては大きなメリットとなります。
生活者のメリット
生活者にとってのメリットはなんでしょうか?
リテールメディアへ参加する広告主が増えれば、興味関心に合う商品とマッチングする機会が増えます。また、小売事業者は自社における購買を促進するために掲載する広告なので、生活者にとってもユーザー体験を損ねるようなものにはならないはずです。広告の本来的な機能である「情報の伝達」「商品の説明」を期待できます。
小売事業者のメリット
小売事業者は基本的に利益率は高くありませんが、本業より利益率が高いとされるリテールメディアと合わせることで全体としての利益率を引き上げることができるようになります。デジタルを活用し、本来は固定費である店舗を逆に収益化するという意味では、小売事業者にとってはビジネス変革、つまり真のDX(デジタルトランスフォーメーション)の実現を意味します。
その上で小売事業者は、これまで接することが多かったブランドの販促担当者だけでなく、新しく広告宣伝担当者との関係性を深めることができるようになったことも大きな点です。
このようにリテールメディアは、ブランド、生活者、小売事業者それぞれにとってメリットが多く、だからこそ多方面で注目されているのです。
国内外の事例、代表格は「Walmart Connect」
米国を中心に、すでに多くの小売事業者がリテールメディアに参入していますが、やはり代表格は米国のスーパーマーケット大手ウォルマートが運営する Walmart Connectでしょう。
Walmart Connectの米国における純広告収入は、2021年は21億ドル(約2,700億円)で、2024年には45億2000万ドル(約5,900億円)に達し、米国のリテールメディアにおいてデジタル広告費の8.2%のシェアを占めると、Insider Intelligence, Inc.社は予測しています。また、Walmartは2024年末までに、Snap、Twitter、Yahoo!を抜いて、米国のデジタル広告費全体の1.5%を占める第8位のポジションに就くとも予想されています※3。
「2025年までにトップ10を目指す」と同社自身が宣言していたので、現実となる見込みがあります。すでに100以上の広告メニューがあり、ECサイトや実店舗での広告配信から、最近ではTikTokやRokuとのパートナーシップを発表し、ソーシャルメディアやコネクテッドTVにも、その配信面を拡大しようとしています。
日本においては、全国で2500以上のドラッグストアを展開するツルハホールディングスが提供している「ツルハAD プラットフォーム」が、一足早く国内で運営されているリテールメディアです。グループ各社を横断するID-POSデータを、会員向けアプリやGoogle、Yahoo!、SNSなど外部広告プラットフォームへの広告配信に活用し、国内ブランドの成功事例も報告されています。
日本の小売事業者がリテールメディアを始める上での
ポイントと現在の課題
日本の小売事業者がリテールメディアを構築する上で何が必要になるかは、「ヒト」「モノ」「カネ」「情報」という4大経営資源で語るのがわかりやすいかもしれません。
情報
前述のとおり、リテールメディアの核となる購買データや行動データです。広告配信に活用できる質と量が担保されていることはもちろんのこと、オムニチャネルで収集し、活用できるようになっているか、生活者の許諾を適切に得ているかなど、利用する上でクリアすべき点は多くあります。
ヒト
小売事業者は多くの場合、リテールメディア、特にデジタル広告事業は新しい取り組みになります。広告プラットフォームを構築したり、広告商品を企画したり、広告営業の戦略を立てたり、広告主が求める効果につながるよう運用していく必要があります。これには専門性が求められるので、外部パートナーの選定はもちろん、小売事業者内部でも、専門性をもったチームが必要になってきます。
モノ
広告事業を成功させるために必要なものはさまざまありますが、中でも小売事業者のデジタルへの取り組みには規模感が必須です。広告業界では「広告在庫」などという言い方をしますが、広告を配信するための場が一定のボリュームを持っていないと広告を打つ先として魅力的になりません。
日本の小売事業者はこれまで実店舗でのビジネスが中心で、オンラインのビジネスにはあまり注力はしてきませんでした。前述のとおり、新型コロナウイルス感染症の広がりをきっかけにECサイトへシフトしましたが、自社サイトだけで広告事業を成り立たせるほどECサイトのユーザー数も販売量もまだ大きくはありません。
よって、日本のリテールメディアの場合は、GoogleやFacebookなどの外部施策への広告配信を先に行い、自社のECサイトやアプリを大きくしながら広告媒体として育てていく、という流れになるのではないかと思います。
カネ
広告は事業として成長するまでにある程度の時間と投資が必要になります。経営が事業にコミットし、全力で、やれることをすべてやりきる気構えと、中長期でじっくり育てていく視点と根気が必要になると考えています。
今後の展望を予想
冒頭で米国の市場予測について述べましたが、この後を追うように、2023年は日本においても新しいリテールメディアが出現する年になりそうです。「広告事業を開始した」と表明する小売事業者のプレスリリースを数多く目にすることでしょう。
小売事業者側、外部パートナー側にかかわらず、リテールメディア従事者は増えていくことになると思われます。多くの新しい仕事が生まれることも期待できます。
ブランドによるリテールメディアの試験利用や成功事例も増え、広告予算のシフトも徐々に見られることになるのではないかと思います。
また、数多くのリテールメディアが存在する米国ではすでに見られる現象ですが、点在するリテールメディアを一つ一つ活用していくことは大変になっていきますので、それらを一元管理できるシステムやサービスが出始めています。こういったところが広告代理店やアドテクプレーヤーの新たなビジネス機会となっていくのではないかと考えています。
リテールメディアはビジネスとしてどのように成長していくかも注目に値しますが、生活者としてもデジタルを取り入れた、小売における近未来の買い物体験はどうなっていくのか、とても楽しみですね。
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