AIでリスティング広告はどう変わる? 媒体社と広告代理店がすべきこと

自動化に向いていることと、向いていないこと
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AIが進歩すると、リスティング広告はどのように変わっていくのだろうか。それについて媒体社と広告代理店はどう対応していけばいいのだろうか。

AIでリスティング広告はどう変わる」と題した「Web担当者Forum ミーティング 2016 秋」のセッションでは、アイレップの帷氏が運用型広告におけるAI(人工知能)の現状をプレゼンテーションし、さらに、ヤフーの富岡氏を交えてトークセッションを行った。

株式会社アイレップ 執行役員 広告運用トレーニング&ナレッジメント本部 本部長 第2ATD本部 本部長 帷 勝博氏(左)と
ヤフー株式会社 マーケティングソリューションズカンパニー デジタル広告営業本部 パートナーディベロップメント2部 セールス2 マネージャー 富岡 拓海氏(右)

AIの普及と機械学習

2016年3月にGoogleのAIであるAlphaGoが囲碁の世界チャンピオンに勝利、9月にはGoogle・Amazon・Facebook・IBM・マイクロソフトがAI団体「Partnership on AI」を創設、さらにロボットやIoTの動きも活性化しており、AIに関する話題に事欠かない昨今だ。マーケティングの世界でもAIはすでに動いており、AIのカテゴリーの中でも運用型広告と関連が高いのは機械学習だ。

「機械学習」とは何だろうか。ウィキペディアで調べると、次のように書かれている。

ある程度の数のサンプルデータ集合を入力して解析を行い、そのデータから有用な規則、ルール、知識表現、判断基準などを抽出し、アルゴリズムを発展させる。(中略) そのアルゴリズムは、第一にそのデータが生成した潜在的機構の特徴を捉え、複雑な関係を識別(すなわち定量化)する。第二にその識別したパターンを用いて、新たなデータについて予測を行う

噛み砕くと、

過去の複数の事象から規則性を見出し、未来を予測すること

となり、運用型広告の世界においてもこの意味で機械学習が使われている。

では、具体的に機械学習はどのように学習を行っているのだろうか。

帷氏はヒエログリフ解読を例に取り説明する。

問1で「アイレップと書いている」ということを機械に学習させた後に問2を解読させると、正答率が高くなる。これはコンピュータプログラムが過去の事象(問1)から規則性や法則を見出して学習を行い、その後の判断に役立てたからである。これが機械学習だ。

「ヒト」と「機械」

それでは、今後ヒトと機械のかかわり方はどうなっていくのだろうか。「20年後に60パーセントの仕事が機械に置き換わる」という説もあり、「この先人間はいらなくなってくるんじゃないか」という極端な意見もある。

しかし、ヒトと機械は戦うものでもどちらかを選ぶものでもない。帷氏は次のように主張する。

ヒトと機械が共存していく世界をどうやって作っていくかが、広告代理店やヤフーなどの媒体社にとって大切になってくる

共存する方法を考えるためには、それぞれが得意なことはなにかというところから始めるべきだ。

ヒトが得意で機械ができないこと
  • 感受性(感じる力)
  • 独創性(0から1を生み出す、過去になかったものを考え出す力)
  • 意志
機械やコンピューターが得意なこと
  • 計算処理:(多くのものを素早く処理する)
  • 記憶力
  • 正確性
  • 体力:無限大

帷氏は次のように繰り返す。

ヒトがもっている特有の力と、コンピューターが持っている力をどう使っていくかが重要になってくる

運用型広告における「自動化」

次に帷氏は、現在主流となっている運用型広告の時間と効果の関係性についてグラフを元に話を進める。

運用型広告は、かけた時間に比例して効果が上がっていくものではなく、初期は効果が上がるが、時間が経つにつれて効果の上昇は漸減していくものだ。やろうと思えばやることはいくらでもあるのだが、現実的な工数とROIを考えると、どこまでやるか、また自分自身がどこまで手を動かすかが重要な問題になってくる。

そこで運用型広告の自動化だ。帷氏はその歴史について年表を提示しながら説明する。

運用型広告の世界で重要な指標として、次の4つのレバーがある。

  • 入札
  • キーワード生成
  • アカウント構造(管理)
  • クリエイティブ生成

2009年までは4つのレバーの操作や調整はすべて手動で行われていることが多く、アカウント構造も細分化された大量のアカウントを運用するのがよいとされてきたが、2011年くらいから変化が起こる。

まずは入札の自動化だ。2005年ごろから自動入札の技術はあったが、日本でも取り入れるところが多くなったのが2011年頃だ。

それまでは担当者が手動で作っていた入札対象キーワード生成も、2013年頃から自動化されるようになってきた。

2014年には、Googleが提唱する「hagakure」の影響で、それまでは大量・細分化がよいとされていたアカウント構造が、少量でシンプルな構造になっていく。

自動化が難しいと思われていたクリエイティブに関しても、2016年には一定のルールやロジックを当てはめて半自動的にクリエイティブを生成できるツールが出現してきている。

2010年からの5年間で、入札、キーワード、アカウント構造、クリエイティブという運用型広告における重要なレバーがすべて自動化されてきているのだ。

最後に帷氏は運用型広告における自動化の種類を整理する。

  • 高度化 ―― 機械学習による運用チューニングの自動化

    例:自動入札、広告ローテーションの最適化

  • 機械化≒自動生成 ―― データフィードなどの活用による広告配信の自動化

    例:データ自動挿入機能(ヤフー)、広告カスタマイザ(Google)

後者に関しては機械学習を用いているのではなく、一定のルールを与え、そのルールに基づいて広告配信内容を自動で生成しているという意味である。

自動化にはいろいろな意味があり、なにをどう自動化するかということを適切に捉える必要がある。

自動化やAIという言葉が使われることは多いが、運用型広告においては、高度な運用を実現するための自動化なのか、人がやっていたことを置き換える自動生成の文脈の自動化なのかということに着目すべきだと帷氏はまとめる。

以上で帷氏のプレゼンテーションは終了、続いてヤフーの富岡氏とのトークセッションに入る。

自動入札って使うべき? なぜ? どう?

ヤフー株式会社
マーケティングソリューションズカンパニー デジタル広告営業本部
パートナーディベロップメント2部 セールス2
マネージャー
富岡 拓海氏

富岡 使うべきではと考えています。特にスポンサードサーチのような検索連動型広告では、キーワードをどんどん追加していくとアカウントがどんどん肥大化していきます。

本来ひとつひとつのキーワードに対してクリエイティブも入札も細かく指定するべきですが、限られたリソースでは限界があると思います。

さらに、時間帯やマーケットニーズを汲み取ろうと思うと工数がかかってしまうことがあるのではないでしょうか。

自動入札を使えば、マーケットデータを元に適切なキーワードを適切な価格で機械が自動的に入札してくれます。

特に力を入れてやりたいところにリソースを投下するためには、自動入札をうまく使っていく必要があると感じます

  クリエイティブを見つつ、膨大なキーワードに対してひとつひとつていねいな価格帯を導いて設定しようとすると、それだけで日が暮れてしまいます。

自動入札を使うべきだというのはわかりますが、Adwordsとスポンサードサーチでは機能的に異なる点もあると思います。

スポンサードサーチの自動入札機能を使う場合の工夫やノウハウといったものを教えてください

富岡 データの統計優位性を保たせディープラーニングを行う必要があると思います。

そのために、スポンサードサーチでも構造をシンプル化すると良い傾向にあります。今まで分散していたアカウント構造やプロモーション構造をまとめて、データの集約を行ったうえで、あとは機械の学習に任せれば、機械が質の高いターゲティング、入札設定を実現してくれます。

  自動入札はどのようなものに使うかで効果が180度変わるととらえています。

どういったデータをインプットするかというのももちろんですが、不必要なデータをきっちり外すことも重要です。また、どのようなグルーピングに対して、どのような目標設定をするかによっても動きが変わってきます。

弊社の事例を見ていくと、最初は低めの目標値にしながら徐々に高くしていくケース、逆に最初は高めに設定しておいて、徐々に下げていくほうが成功するというケース、どちらもあります。

また、アカウントにおけるキーワードの数、いわゆるビッグキーワードとテールキーワードの獲得値の比率がどちらに寄っているかによっても、最初の目標設定が変わってきます。

なんとなく機械がやってくれるんだろうと任せてしまうと自動入札はうまくいきません。

ブラックボックスではありますが、アルゴリズムを極限まで理解したうえでアカウントに対して最適なやり方を探っていくことが重要です。

ツール自体は有用ですが、使い方を誤ると暴走してしまうこともあるということです

富岡  データをたくさん入れるというのは、あくまでも参考書を渡しているにすぎません。ご理解いただきたいのは、参考書を買っただけでいきなり頭がよくなるわけではなく、学習までには時間がかかるという点です。

早ければ2週間程度で効果がでてきますが、長い時は1か月ほど安定しない場合もあります。

導入する際は、短期的な挙動に捉われず様子を見ていただければ幸いです

  ヤフーでもGoogleでも、「最初の1か月はがまんしてください」と言われますね。

ただ、代理店の立場からすると、お客様のことを考えて1か月は放置できないだろうというのが本音ではあります。

試行錯誤した結果、最初は過去のデータが少ないため、いろいろなことを試しつつ最低でも1週間は様子をみなければいけないというのが社内共通の見解です。

それでもだめなときは、目標値やグルーピングの設計を組み換えたりいろいろなことを試しますが、やはり1か月待つのは厳しいと思っています

媒体社は何を自動化する? 代理店は何を自動化する?

富岡  短期的にはヒトをどう捉えるかの自動化ではないかと思います。ターゲティング設定、時間帯、どの枠でアプローチするのか。このあたりは人の手を介さなくても、自動化できるところではないかと思っています。

中長期的には、クリエイティブをどうするかが焦点になってくると思います。

パターンの組み合わせで生成するなら容易ですが、パターンなしでクリエイティブをイチから作るのは、相応の技術力や時間が必要になってくるのではないかと思います。

また、オフラインのプロモーションとオンラインをどうつないでいくのかという課題もあります。

データでつなげない文脈のあるところは代理店の力を借りながらしっかり設計していく必要があると思います

  「クリエイティブがこういうふうに自動化されればもっとおもしろいのに」といったアイディアはありますか?

富岡  素材を用意してもらい、出し方をパターンに応じて実際の掲載結果画面にあてはめていき、一番いいパターンを使って効果を最大化していく「ダイナミックバナー」と呼ばれる仕組みは、すでに各媒体社がやっています。

この先は、フォーマットが動画素材になったとき、そのクリエイティブをどう生成していくかもポイントになると思います。

近い将来、素材ゼロから動画を作るといった世界が来たら面白いですね。

  広告代理店の観点からは、「パターン化」や「ルール化」というキーワードが大事だと思っています。

たとえばEC、飲食店、ホテルなど店舗名や商品名が変更されることが多いクライアントでは、データベース上で変更しても広告などにうまく反映されないことも多く、クレームにつながります。

このようなことを防ぐためには、データベースといろいろなものを接続したうえで、内容が更新されたら掲載内容も更新するという処理や置き換えのルールを設定していく必要があります。データベースと連動したルール設定は今後自動化していけるだろうと考えています。

また、異常値がでたときのアラートなども自動化されていくでしょう。

そうなると広告代理店の仕事はなくなっていくのでしょうか。

わたしはそうは思いません。飛行機の運転は基本自動運転ですがパイロットは必ず乗っています。パイロットの役割は、なにかが起こったとき、ちょっとした微修正を機械に与えることです。この先いろいろ自動化されていっても、すべてを機械に任せるという時代にはならないと思います。

正しく動いているかどうかのモニタリングや、そうでない時に少しでも早く軌道修正を行うことが広告代理店の役割になると思います。

「飛行機のパイロット」や「教習車に乗っている教官」のような役割こそが広告代理店が提供できる付加価値になるかなと感じています

これからのアドマンに必要なスキルは

  自動化の波が来ているなかで、アドマンに求められるものはなんでしょうか。また、どういう能力を持った人が活躍していけるのでしょうか

富岡  ひとことでいうとコンサルティングができるかどうかではないかと思います。

今までのアドマンは、「どの枠をいくらで買い付けて、そこに対してどういう表現をするのか」という、いわゆるマーケティングのアドプロモーションに特化して考えればよかった。しかし、データを細かく取得できるデジタルマーケティングは、これまでより経営や商品開発などに直結しやすくなっているのではないでしょうか。

そこではクライアントの経営や組織構造を理解し、組織にどんなデータが散らばっていて、それをどうまとめればデジタルにおいて最大活用できるのか、また、それをどのように経営や商品開発、各々のマネージメントなどのレベルまでに展開できるかというところまで考えたうえで、広告の文脈から提言ができる人材が求められているではないかと思います。

これはあくまで私の考えですが、どのように思われますか?

  これまで代理店はパワープレイで多くの案件を同時にまわせることが存在価値という面もありました。しかし時代は変わりつつあります。私が考えるアドマンに求められる能力というのは主に2つあります。

1つは、今起きている状況を正しく把握する力。これはこの先も絶対必要です。

機械がどう動いているかはもちろん、数字変動ひとつが許容できる動きなのかそうでないのかを見極める力。機械や数字に踊らされることなく、いま起こっていることを正しく把握して、次のアクションを考えられる力は今後も必ず必要になります。

もう1つは妄想力。いろいろなことを妄想する力は、特にこの先必要となってくると思います。ユーザーひとりひとりがなにを思い、どういう状況でそこにいるのかというのをどれだけ妄想して、その人の感情にどれだけ訴えられるのかというのが、人の持つ感受性を生かす場面だと思います。妄想して企画に落としていく力。これからのアドマンに必要なのはこういった独創性だと思います。

富岡 いいですね。妄想力、すなわち先を見据えてどう動くか考えられる力は今後さらに必要になってくるスキルだと思いますね。

  「これからの時代はDカップだ」とおっしゃっている方がいました。いままでのPDCAは、ずっとプランニングしているだけでDO以降をやっていないんじゃないか。変化の速い時代においてはDCAP(Dカップ)。Pが一番最後でいいんじゃないかという主旨です。

小さいことでもいいので行動からはじめて、その結果、チェックしてアクションして、それから最終的な目標に到達するためにプランニングしていく ―― そういう流れで動かしていくほうが、デジタル時代においては有効なんじゃないかなと思っています

AIがもたらす未来のマーケティングは?

富岡  今後のデジタルマーケティングはマス広告のように、いかに需要を喚起していくかというニーズがより強くなってくると思います。

今までブランディングはテレビのような1対多のメディアで成り立っていましたが、1対1のデジタルメディアでどうブランディングをしていけばいいのでしょうか。

そのためにはAIをうまく活用し、広告を見ている人達がどのような状況にいるかを認識したうえで、そのニーズに対してしっかりと応える。もしくはニーズをあぶりだすくらいの感覚で広告配信ができるようになればデジタルマーケティングの需要はもっと増していくと考えています。

「デジタルマーケティングはブランディングができない」といわれることもありますが、デジタルマーケティングだからこそ出来るブランディングがあると思っています。

IoTやデジタルサイネージなど様々な媒体のパターンを用意し、それぞれの特性をしっかり理解して提供できる状態を整え、クライアントのみなさまが安心して出稿できるプラットフォームを業界全体で作っていくことが理想ではないかと思っています。それが実現できれば、デジタルマーケティングはこの先に進んでいけるのではないでしょうか。

  今までは1対1というと、どれだけ1人にメッセージを届けられるかが主流でしたが、これには限界があります。これからの時代は手元にあるデバイスだけが接触点ではありません。冷蔵庫や電柱など複数人が同時にアクセスできるものがデバイスとして広がっていく時代が来ます。

「1対多」といっても、そこにいるひとりひとりではなく複数のヒトにどう届けていくか、また、「多」をどうグルーピングし、そこに対する意味づけをどうしていくかも重要になっていきます。

さらに、大量のデータを収集し、AIの力を利用しつつ、先ほどお伝えしたようなスキルをもって人間がそれを把握して企画していくということが重要になっていくのではと思っています。

デジタル時代の媒体社と広告代理店の姿勢

デジタルの導入によって細分化が進んだが、ここからさきは「どう拡大をしていくか」がポイントだ。デジタルサイネージやIoTなどがデバイス化していったときに、そこからどうアクセスさせていくか。そこに関しては媒体社も努力しなければいけないし、広告代理店はクリエイティブやシナリオの部分で入ってコンサルティングを提供していかなければいけない。そうすることでマーケティングの最大化が図られていくというのが、理想的な流れになるのではないか。

デジタル時代には、従来のようないわゆる御用聞きではなく、媒体社も広告代理店もクライアントも同じ立場でマーケティングに向き合っていく、チーム編成が大事になっていくだろう。

この記事の筆者

【執筆】

田口 和裕

フリーライター。前職は広告代理店系のWebサイト制作会社。得意分野は主にコンシューマ向けウェブサービス。近著に『Facebook集客術』(秀和システム)、『いますぐはじめるFacebookナビ』(共著、毎日コミュニケーションズ)、『Evernote Perfect Guide Book』(共著、ソーテック社)などがある。

【撮影】
鹿野宏

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