ソニーB2B商材サイトのウェブサイトとウェブマスターの成長物語/ソニー“bit-drive”の場合

見込み顧客・既存顧客との接点としての企業Webサイトをソニーで担当
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PR 2.0の現場から
ネットPR時代を生きる広報&マーケティングパーソンへ

多くの企業ウェブサイトのオーナーが広報部であるというのは、ご存知のとおりです。

従来の広報の仕事に新しくサイトの運営が増えたと同時に、インターネット時代のPR活動としてマスメディアが対象の広報活動からインターネットを通じたあらゆるステークホルダーとのコミュニケーションへの変化にも対応しなければなりません。

広報のプロフェッショナルがウェブサイトのオーナーのプロフェッショナルになるためには、大きな意識改革が必要です。

この連載では、試行錯誤の中、成功のルールを発見しつつある企業の広報担当者から、成功のルールを導き出すまでのプロセスやノウハウをレポートしてきます。

神原 弥奈子(株式会社ニューズ・ツー・ユー 代表取締役社長)

ソニーの“bit-drive”(ソニーブロードバンドソリューション株式会社 bit-drive事業部門)
http://www.bit-drive.ne.jp/

B2B企業においてインターネットを活用した顧客の獲得やサポートはすでに常識となっています。ソニーブロードバンドソリューション株式会社のbit-drive事業部門は、B2Bのサービスを提供しています。

見込み顧客との接点として企業Webサイトで情報を提供していくと同時に、既存顧客への最新情報をタイムリーに提供する場としても活用することで、競合ひしめくオンラインマーケティングにおいて独自のブランドを確立してきたbit-driveのウェブマスターである加藤氏にお話を聞きました。

ブランディングプロジェクトとWebサイトのリニューアル

2009年9月に、それまでのソニー株式会社からソニーブロードバンドソリューション株式会社に事業が統合された、ITソリューションサービスのbit-drive(ビット・ドライブ)。bit-driveには、見込み顧客向けにサービスをお知らせするセールスサイトと、既存のお客さま向けに技術情報やよくある質問、資料などを提供するお客さまサポートサイトの2つのサイトがあります。両方のサイトのウェブマスターを2004年から担当しているのが、加藤さんです。

加藤 裕美子 氏
ソニーブロードバンドソリューション株式会社
bit-drive事業部門
bit-drive営業部 営業推進課
営業企画グループ 係長

現在、フォームなどの作成は同じフロアにいる技術部に依頼し、リニューアルや大規模な修正は制作会社にアウトソーシングしますが、「日々の更新やちょっとした制作は自分たちでやっている」(加藤氏)という運営体制です。

bit-driveでは、2007年に事業全体の「リブランディング」(ブランドの再定義)を実施し、それにあわせてセールスサイトもリニューアルしました。リニューアルを進めたコアは、プロジェクトメンバーの「どこを切ってもbit-driveだとわかってもらえるように」という思い。

ソニーは大きい会社ですが、bit-driveは2000年にできたばかりの部署でもあったので、マニュアルもなく、ルールもありませんでした。7年経って気がつくと、そのサイトは、思っていることと見せていることが違う状態になってしまっていました」(加藤氏)

bit-driveの新しいブランドは3つの色で構成されています。緑がbit-drive、青がソニーブルー、赤が情熱を示し、それが丸だったり、3本線があったりという展開で利用されています。

円や3本線などの形で緑・青・赤の3色が使われているbit-driveのブランドシンボル。

当時は、人によってはサービス名も省略して書いていたりということもありました。(このプロジェクトで)bit-drive事業部門の中に一体感ができて、ブランドシンボルを入れたノベルティを作ったり、お客さまに提案する資料も同じものを使おうとしたりという意識がでてきました。

どこをみてもbit-driveは同じだというクオリティを出すために、現在はウェブチームが表記のルールも含めて、一覧表を作って管理しています」(加藤氏)

このリブランディングのプロジェクトは、ウェブだけでなく、カタログなどの営業ツールも連動させたもの。この機会に、外注先が変わっても同じガイドラインで制作できるように、初めてWebサイトのガイドラインを作成したそうです。

加藤さんのお話から、ウェブマスターが、ブランドマネージャーの役割も担っていることがわかります。

クロージング率の高いウェブからのリード
コンテンツは、「誰に何を伝えるか」の視点で
お客さまサポートサイトのFAQにSEO効果が
リスティング広告、メルマガ、ニュースリリースの3本立てで
ネットでのトライ&エラーは「失敗も資産」の発想で

クロージング率の高いウェブからのリード

営業部というと、bit-driveの各サービスを売るチーム。加藤さんが所属している営業推進グループの役割は、営業部の営業活動をサポートするツールを用意することです。セミナーやキャンペーンを実施したり、マーケティングデータの分析をするなど、営業推進グループの仕事は多岐にわたります。加藤さん自身も、Webサイトの企画・運営だけでなく、オンライン広告も担当しています。

セールスサイトには、オンラインからの申し込みのフォームも用意されています。オンラインで申し込みを完結させる方向性もあるものの、ウェブチームでは、オンライン申し込みよりもあえて資料請求してもらうほうを重視しているという。その理由を聞いてみました。

試行錯誤の結果、まずはお客さまに資料請求やお問い合わせをいただいたのち、営業マンに繋ぐほうが、オンラインでの申し込みよりも、確実にクロージングできるということがわかりました。現在は、よりよい引き合い(=リード)を営業に繋ぐことをミッションとしています。

ネットでは、データがとても細かく入手できます。そのデータを基にすぐ分析を行うこともできます。社内ではすでにウェブでの資料請求の顧客のクロージングがかなり高いということが証明されていて、即時性が必要な短期のキャンペーンにもすぐに対応できるので、社内からのウェブチームへの期待も高いんです」(加藤氏)

サービス紹介ページでは、右下の「資料請求」が「お申し込み」よりも大きく表示されている。

bit-drive のサービスは、「オンラインでクロージングするよりも、顔を見ながらの営業がより確実」(加藤氏)だという判断は、実際のオンライン申し込みの内容やその後の契約内容などのデータが示すもので、営業部全体の共通認識でもあります。

コンテンツは、「誰に何を伝えるか」の視点で

bit-driveの2つのサイトでは、各サービス担当者からいろいろな情報が集まり、それらをコンテンツとして掲載しています。その際に重要となっているのは、このサイトを見ている人は誰なのかという視点です。

たとえば売り込み的な情報をお客さまサポートサイトのほうに載せたいという要望があった場合には、『それはセールスサイトにキャッチコピーをつけて掲載しましょう』と提案します。お客さまサポートサイトはあくまでも、解決したい問題があるお客さまのための場所ですから。

コンテンツをもっている人とサイトへの掲載の関係でいうと、各担当者に『あなたがこのコーナーのオーナーですよ』ということを明確にしていくことで、『自分がコンテンツを用意すればそれをウェブで公開してもらえる』という認識が徐々に広がっていったようです。現在は、載せたい情報が担当者たちから自発的に出てくるという流れになっています」(加藤氏)

お客さまサポートサイトの技術情報は、技術担当者がまとめた内容を掲載し、セールスサイトでは、サービスの各担当者が用意した素材をベースに、見せ方はウェブチームがディレクションを行っているそうです。そうすることで、伝えたいことを伝えたい相手に伝わる形でコンテンツが増えていきます。

実際、お客さまサポートサイトはテキスト中心の構成ですが、一方のセールスサイトには、インターネット勤怠管理“インターネットタイムレコーダー”の特徴をマンガで解説した「快傑・美渡(びっと)商事劇場」といったコンテンツもあります。

マンガコンテンツの「快傑・美渡商事劇場

勤怠管理をしている、主に人事・総務の方は、ルータやインターネット接続といった商材の対象となる技術系の方とは違って、ITにはそれほど明るくない方では?と想定し、そういった方に向けてわかりやすいコンテンツをと考え、この“快傑・美渡商事劇場”を作成しました。リブランディングしてサイト全体は“スタイリッシュでカッコいい”イメージとなりましたが、サービスのターゲットを考え、わかりやすいほうがよいということで、マンガのコンテンツも試してみました」(加藤氏)

既存のお客さま向けのお客さまサポートサイトでは、「bit-driveのウェブに来たら疑問がすべて解決する」という目的を明確にし、セールスサイトでは、サービスごとのターゲットをきちんと想定してコンテンツを作る。ユーザー視点のWebサイト作りが徹底されていることがわかります。

お客さまサポートサイトのFAQにSEO効果が

お客さまサポートサイトでは、お客さまにサービスをより理解してもらうことを目的にしていると同時に、問題が原因でサービスを解約する(契約更新しない)のを防ぐことで売上を維持するという役割もあるという加藤さん。セールスサイトが資料請求数を指標としているのに対して、お客さまサポートサイトではどんな数字を指標としているのでしょうか?

bit-driveにはインフォメーションセンターがあり、主に電話やメールでのお客さまからのお問い合わせを受けるメンバーがいます。そのお問い合わせ内容をウェブの“よくある質問”に載せることで、問い合わせ件数が減り、インフォメーションセンターのメンバーは口頭の説明に加え、『このページをご覧ください』とウェブに誘導することで対応の時間を減らすことができたということも指標の1つです」(加藤氏)

実際、お客さまの全体数は増えていても、問い合わせの件数が横ばいという成果もでています。

bit-driveのお客さまサポートサイトにアクセスして驚いたのは、ほとんどの情報が広く一般公開されている点です。つまり、ログイン画面の前にほとんどの情報が公開されていて、企業情報の変更などにだけ、ログインが必要となっています。その理由について、加藤さんに聞いてみました。

bit-driveでは、『技術情報としてこういった情報を提供しているんですよ』、という情報公開そのものがPRに繋るという考えで、全部公開することにしました。ところが、ユーザー以外の人に対してのSEO効果もあることがわかりました。FAQコーナーに意外なところから直接アクセスいただいていることもあるんです」(加藤氏)

実は、もう1つ、ウェブチームではメインテナンスの効率化という点も考えていたという。

(サイトに)認証をかけると、サイトの更新を技術部に依頼しなければならず、ウェブチームでは即時修正ができません。(サイトの)修正を自分たちで行い、すぐに反映でるように動的なページにはできるだけしないように考えました。技術系のお客さまに対しては、迅速な情報提供を最優先するためにビジュアルベースではなく、文字ベースのページ構成としました。」(加藤氏)

サポートサイトのコンテンツが一般に公開されているのには、運用の自由を手に入れるための工夫もあったのですね。どうしても運営側の自己満足になりがちなWebサイトですが、ここでもユーザーの目的に合わせた柔軟な発想がうかがえます。

リスティング広告、メルマガ、ニュースリリースの3本立てで
ネットでのトライ&エラーは「失敗も資産」の発想で

リスティング広告、メルマガ、ニュースリリースの3本立てで

ウェブチームでは、日々のメインテナンスを内部制作でまかなっている以外に、bit-driveのメルマガやニュースリリース発信も担当しています。「ウェブチームの販促活動は効率的で優秀」と社内では言われているそうです。

現在は、WebサイトのPVは、劇的に伸びる状態から、現状維持という状況に変わっていたという加藤さん。担当者それぞれが自発的になりコンテンツが充実してきたが、ある程度のコンテンツが蓄積されると、SEOだけでは集客できないというジレンマが生まれていたそうです。

そんな中、リスティング広告、メルマガ、ニュースリリースを効果的に組み合わせた結果、相乗効果があったと指摘します。

いろんなサービスが同時に立ち上がる時期に、あらかじめ計画を立て、リスティング広告とメルマガ、そしてニュースリリースを効果的に組み合わせることで、去年と比較するとPVで1~2割増、ユニークユーザーも1割程度増えて、資料請求数も増えるようになりました。

ニュースリリースのよいところは、ずっとアーカイブとして残ること。広告によるPV増は一時的なものだったりしますが、1年前のニュースリリースからアクセスがあると“ロングテール”を実感します」(加藤氏)

オンライン広告については、「私たちのサイトでは、バナー広告では成果が出にくいので、記事広告が中心」という加藤さん。記事広告もWebサイトにコンテンツが蓄積できるよう、二次使用できるこようにしています。

サイトのキャッチコピーや、メルマガの見せ方、ニュースリリースの原稿も、リブランディングを意識して、トーン&マナーをあわせていきたい」という加藤さん。コンテンツの拡大とブランディングを念頭に、オンラインマーケティングの費用対効果を追求しています。

ネットでのトライ&エラーは「失敗も資産」の発想で

コンサルタントに頼んで戦略を策定してもらうのではなく、すべてウェブチームでPDCAをまわしてきたという加藤さん。変化の激しいネットの情報について、どのようにして情報収集をしてきたのでしょうか?

アクセス解析のツールは何がよいのか検討するときも、リスティング広告に挑戦するときも、どこの業者がよいのかは、セミナーで勉強しました。とにかく、いろんなセミナーに顔を出して情報収集・比較検討していました。セミナーの主催者さんに『また来ましたね』なんて言われたり(笑)」(加藤氏)

当初は複数の外部パートナーに自分が指示を出しながらやっていたリスティング広告やSEO、アクセス解析についても、現在は1社にまとめて発注することで、時間とコストの削減になったと言います。

過去の失敗も資産、自らの失敗も資産、として絶対に残さないといけない」という加藤さん。

今までお金を掛けて蓄積してきた資産が無駄になることがないようにという視点で、“今”だけでなく、“これから”もふまえて、施策を展開しています。

◇◇◇

ウェブの担当者として、ご自分でセミナーに参加して情報収集をするなど、成果を出してきた加藤さん。

ウェブマスターである加藤さんのお話から、企業にとってウェブサイトが情報ハブであるのと同様に、ウェブマスターも情報ハブとして、正しい情報を周囲に伝え、事業を推進していく力が重要だということに気付きました。

bit-drive事業部門は、2009年9月1日にソニーブロードバンドソーリューション株式会社に統合されました。今後、同社の他事業部門で運営するWebサイトとの統合など、今後、Webサイトの運営に変化が出てくるかもしれません。ネットのユーザーに認知されたドメイン名の重要性など、インターネットの特性をよく理解しているbit-driveのWebチームが持つ運営ノウハウは、新体制においても大きな役割を果たすことだと思います。」

この記事の筆者

神原 弥奈子(かんばら みなこ)

1993年株式会社カプスを設立。1995年からウェブサイト制作に関わり、エンタテイメントからITまで、幅広いジャンルのコンテンツの企画・制作に携わる。
2001年株式会社ニューズ・ツー・ユー設立し、同年News2u.net開設。
2010年よりネットPR発想のWebソリューションを提供する株式会社パンセを設立。
現在、株式会社ニューズ・ツー・ユー、株式会社パンセの代表取締役社長。

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