Webマーケはデータと仮説から。でも大組織ならではの悩みも/NECとNECソフトの場合

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PR 2.0の現場から
ネットPR時代を生きる広報&マーケティングパーソンへ

多くの企業ウェブサイトのオーナーが広報部であるというのは、ご存知のとおりです。

従来の広報の仕事に新しくサイトの運営が増えたと同時に、インターネット時代のPR活動としてマスメディアが対象の広報活動からインターネットを通じたあらゆるステークホルダーとのコミュニケーションへの変化にも対応しなければなりません。

広報のプロフェッショナルがウェブサイトのオーナーのプロフェッショナルになるためには、大きな意識改革が必要です。

この連載では、試行錯誤の中、成功のルールを発見しつつある企業の広報担当者から、成功のルールを導き出すまでのプロセスやノウハウをレポートしてきます。

神原 弥奈子(株式会社ニューズ・ツー・ユー 代表取締役社長)

多数のグループ企業を抱える日本電気株式会社(以下、NEC)。NECでコーポレートWebサイトを統括しているのは、カスタマーリレーション推進本部

また一方、グループ企業の1社であるNECソフト株式会社(以下、NECソフト)では、ウェブを担当しているのは人事総務部秘書広報室と営業本部営業推進グループです。

多くのステークホルダーとダイレクトに結びつく企業Webサイトは、大組織の中でどのように位置づけられ、運営されているのでしょうか。NECとグループ企業のネット戦略の現状と課題についてお話をお聞きしました。

カスタマーリレーションが統括するWebサイト

現在、NECのコーポレートサイトを運営しているのは、カスタマーリレーション推進本部。これまで取材してきたなかで、カスタマーリレーション部門でコーポレートサイトを統括しているケースは初めてです。どういった経緯で、このような体制になったのでしょうか?

朝火 英樹 氏
日本電気株式会社
カスタマーリレーション推進本部
Webコミュニケーショングループ
マネージャー

2008年4月までは、宣伝部にてNEC企業サイトの企画・運営を推進してきましたが、カスタマーリレーション推進本部に機能ごと移管し、現在に至っています。カスタマーリレーション推進本部では、現在、NEC企業サイト、eマーケティング、Wisdom(NECの会員組織)、および展示会・イベント・セミナー、NECのユーザー会の企画・運営・推進など、お客さまとの直接コンタクト機会に関する施策を担当する部門です。

宣伝部がマスメディアを活用した企業ブランディング・製品プロモーションを担当しており、私たちカスタマーリレーション推進本部は宣伝部と連携しながら、よりCRM的な要素をもって、情報発信およびマーケティング施策全般を統括・推進しています」(NEC・朝火氏)

入社から約10年、人事の教育部門にいた朝火さんですが、99年に希望してBIGLOBEへ異動。そして2006年からマーケティング本部でウェブを活用したマーケティングやプロモーションを担当したというバックグラウンドをもつ方です。特にBIGLOBE時代に、販促プロモーションから広報、展示会、キャンペーンを担当したことで、ウェブを活用した広報への関心も高くなったそうです。

一方、グループ企業であるNECソフトでは、現在、Webマーケティングという観点でのサイト統括は営業本部。NECのグループ企業といっても、各社の状況によって体制は大きく異なるようです。

野坂 洋 氏
NECソフト株式会社
営業本部
営業推進グループ
リーダー

NECソフトでは、全社広告やネット広告、販促ツールなどを営業本部が担当しており、広報は秘書広報室が担当しています。ウェブについてはコーポレート系コンテンツは秘書広報室が担当していますが、営業サイドのコンテンツ担当は営業本部になっています。実態はNECのマーケティング本部と同じですね。

以前は、necsoft.co.jpとnecsoft.comにWebサイトが分かれていたのですが、Webサイトの統合プロジェクトで現在のnecsoft.comに全体を吸収しました。現在は、秘書広報室と営業本部でプロジェクトチームを作り、運営にあたっています」(NECソフト・野坂氏)

自社Webサイトを、ユーザーをはじめステークホルダーと直接コミュニケーションできる場と考えてカスタマーリレーション部門で企画/運営を担当しているNEC。一方、B2Bビジネスが中心のNECソフトでは、より営業に近い場所で、マーケティングの視点からウェブを活用しているということで、グループ間でもその活用はさまざまだということです。

企業サイトの評価指標は、仮説を立てながら(NEC)

コーポレートサイトの評価指標は、企業規模や事業内容、また運営の目的によって大きく異なります。「コンシューマ系やEC直販系の事業は比較的(指標を)見つけやすいが、B2B領域では明確な指標を持っているところはまだ少ないと思います」と朝火氏。事業が多岐にわたるNECの場合、どのような指標を掲げて、評価しているのでしょうか。

サイトのアクセス解析データやダウンロードの履歴のデータはありますが、それだけですべてのB2B売上を分析・指標化できるわけではありません。NECのWebサイトでどんな行動をしているかを把握できても、(大きな組織の中の)各営業部門のところで情報が途切れてしまう場合があるのが現状だからです。そこで、仮説を作って考えたいと思っています。

たとえば、『見込み客となる人は、検索などでウェブに来訪して、製品詳細や事例を閲覧するはずだ。そうすると、ある製品での検索キーワード数と、事例ページのユニークユーザー数の推移と、問い合わせの件数には相関関係があるはずだ』といったようなストーリー作りをして検証しています。少なくとも企業サイト全体のユニークユーザー数やトップページのPVのみ管理するというだけでは、今はもう指標ではありません。

NEC企業サイトへの「来訪検索キーワード」も毎月上位400ワードくらいはデータとして取っています。上位数十位はほとんど変化ないのですが、100位以下で伸びている検索キーワードをチェックして、事業部と連携しながらコンテンツ拡充やセミナー開催などの施策を実施しています」(NEC・朝火氏)

オンラインでの閲覧行動とオフラインでのB2B営業など、複数のコンタクトポイントにわたって因果関係を結びつけられないのが現在の悩み」だという朝火氏、「NECとしてウェブをどういう見方で評価していくかは、現在も模索中です」とのこと。「事業と密接に関連した指標を見つけたいですね。PVやユニークユーザー数からの脱却が課題です」というNECでは、さまざまなデータから、いろんな仮説を立てて検証を続けています。

効果測定の鍵は、リードの育成(NECソフト)

自社でのビジネス展開と同時にNECからの請負の案件も多いNECソフト。アクセス元はNECグループも多く、NECグループの社員がNECソフトのWebサイトにあるフォームから問い合わせてくることもあるということです。NECではアクセス解析ツールとして、オムニチュアのSiteCatalyst(サイトカタリスト)を導入していますが、NECソフトでも同じくサイトカタリストを導入し、効果測定も積極的に実施しています。

四半期ごとにマーケティング予算の投入分野を決めています。2008年の第二四半期は、建設業界向けERPにフォーカスしたキャンペーンを実施しました。コンバージョン率や問い合わせにどれだけ結びついたかをチェックしています」(NECソフト・野坂氏)

キャンペーンの効果測定では、問い合わせ件数やコンバージョン率を、キーワード広告やニュースリリースなどの間で比較しているという野坂さん。比較の際には絶対数ではなく、コストパフォーマンスを比較しているそうです。いま最大の課題は、入力フォームの最適化(使いやすさの改善)とのこと。

フォーム入力段階での離脱率は以前から気にしていたのですが、アクセス解析ツールを入れたことによって数字で問題点を示せるようになり、予算化できました。

大きなポイントとしては、リード(見込み客)の育成をどうしていくのかがあります。リードがどうフォローされ、クロージングされたか。どういう履歴をたどったリードが営業にとって良いのか。どういうアクションをしている人がホットで、クロージングして割に合うかを見ています。同じフロアに営業のスタッフがいるので、どういう行動をする訪問者が望ましいリードなのかを一緒にテストしています」(NECソフト・野坂氏)

野坂さんは、投資したコストを収益性にどう結び付けるかを、「CRMに足をつっこんでいる感じで」営業と一緒に考えているそうです。

広報部門とすみわけを行い展開するネットでのニュースリリース。
ニュースリリースは、メルマガと同じ感覚で

ニュースリリースは、メルマガと同じ感覚で

NECでは、ニュースリリースによる情報発信も活用しています。採用を検討するにあたって、広報を統括しているコーポレートコミュニケーション部に相談した朝火さん。マスコミ向けの広報ではなく、「ネットを活用したプロモーションツール」としてカスタマーリレーション推進本部でニュースリリースを利用することにしたそうです。

広報はプレス向けのリリースが中心。一方で、私たちカスタマーリレーション部門からすると、ウェブのニュースリリースは一般向けの情報発信なので、メルマガやバナー広告などWebプロモーションに近い感覚なのです」(NEC・朝火氏)

発表する内容については、広報部に確認を依頼するそうですが、タイムラグや修正対応などのワークフローでの問題はなかったのでしょうか?

広報のメンバーとは、密に連絡をとるようにしています。NECの広報案件と内容が重複しないように配慮をするなど、配信予定やリリース原稿などを事前に連絡することで、連携をとっています」(NEC・朝火氏)

NECソフトでは、プレスリリースとニュースリリースをどのように考えているのでしょうか?

私たちも、プレスリリースとニュースリリースはまったく違うという考え方でとらえています。PRを戦略的にマーケティングに組み込んでいくという発想です。支社の営業や支社独自のニュースは、広報サイドからプレスリリースとして情報発信しづらいですよね。元気のある地方の支社のイベントなどの小さなニュースを情報発信するツールとして、ニュースリリースを活用しています。

逆に、プレスリリースでありがちな人事や組織改正などの(一般の人にとって)おもしろくないものは、ニュースリリースとしては掲載していません」(NECソフト・野坂氏)

目的にあわせて、ニュースリリースの活用方法も運営方法も異なる両社ですが、とはいえ、「お客さま側からすると、ニュースリリースもプレスリリースに見えるのも事実です」と朝火さんが指摘しているように、リリースだけでなく、広告も含めて、企業から発信される情報としてユーザーが受けとめているという視点が大事だと思います。

C&Cユーザーフォーラムで実感した「リリース=コンテンツ」

C&Cユーザーフォーラム & iEXPO」は、カスタマーリレーション推進本部で企画・運営している展示会です。2008年11月に開催された「C&Cユーザーフォーラム&iEXPO2008」では、開催に関連するニュースリリースを6回も発信しています。どういう目的でリリースの内容や回数を分けたのでしょうか?

今回はリリースの内容を、『事前告知』や『見どころ紹介』などに分けて情報発信しました。イベント告知のマスプロモーションやバナー広告はもちろんこれまでと同様にしているのですが、雑誌や新聞広告では伝えきれない内容をリリースで伝えるという試みです。あらかじめリリース発信のスケジュールを決め、それにあわせてランディングページとしてのオフィシャルサイトも公開しました。そこから確実に申し込みへの導線を作ったんです」(NEC・朝火氏)

「C&Cユーザーフォーラム & iEXPO」は大きなイベントであり、展示内容もさまざまです。「展示によってターゲットが違うので、ターゲットごとに分けて伝える」ためにニュースリリースを活用したという朝火さん。ニュースリリースは告知だけでなく、「SEO施策の要素」や「ブランディング要素」も強いと言っています。

結果として、一連のニュースリリース経由で、実に150人以上の方がイベントに事前登録されたことが検証され、そのコンバージョン率は20%以上だったそうです。メールマガジンで培ってきた経験をニュースリリースに応用した今回のリリース活用マーケティングの手法は、一定の評価を得られたようです。

今回は実行できなかったのですが、メールマガジンでよく使う手法をニュースリリースでも使うという考え方があるんです。何回かニュースリリースを出していって、会期が近づいた段階では、ニュースリリースの誘導先をランディングページではなくて直接申し込みページに飛ぶように切り替えるという手法です。しかも、ニュースリリースを最初に表示した状態でURLが見えるようにして。そうすると、ニュースリリースがランディングページの役割をするようにできます。ニュースリリースがメディアでありコンテンツそのものであるという考え方ですね」(NEC・朝火氏)

担当者に求められるのは、経営企画的な視点

さまざまなバックグラウンドを持った人が集まってスタートした企業のウェブ部門ですが、大企業においても、Web担当者は不足しているのが現状です。ウェブを統括する立場から見てお二人は、どんなスキルや視点がウェブ担当者に必要だと考えているのでしょうか?

私たちがいま求めているのは、スペシャリストではありません。いま必要なのは、戦略・方針を描いてルールを作り全社レベルで推進できる人です。経営企画的な要素がいまの企業サイトには必要なのです。あとはやはり、Webコミュニケーションの仕掛けを運営システム的な面も含めて理解できる人ですね。

私自身、以前にBIGLOBEに所属したスキルが今、大いに役立っています。宣伝広告・プロモーションの考え方も、マス広告ではなくウェブ中心で検討する習慣がついていたので、メディア・ツールとしての企業サイトの重要性や、プロモーションにおけるメディアニュートラルの考え方は非常に納得できました」(NEC・朝火氏)

一方、より営業的、マーケティング的な視点でアプローチをしているNECソフトの場合はどうでしょうか?

そうですね、唯一求めているのは『常に発信していくこと』でしょうか。自ら発信する人しか情報収集はできないですから。新人には『ブログを書け』と言っています。あとはコミュニケーション能力。(オンラインマーケティングへの理解促進のために)プレゼン資料を作ってグループ内で説明するよりも、メンバーに『明日の広告』(佐藤 尚之著)を読んでもらった方がより理解してもらえたというようなこともあり、形にとらわれず、いろいろな手法を使っての共感者作りを心がけています」(NECソフト・野坂氏)

マスやウェブという分け方はもうやめましょう、フラットに考えられないと何もできないですよ」という朝火さん。企業にとって、もはやウェブはあって当然のコミュニケーションツールなのです。「あとは実践。場数を踏んで、どれだけ経験できるか」(NEC・朝火氏)。従来型の“コミュニケーション”を脱却し、新しいことに挑戦して得てきたお二人の経験の深さを感じます。

維持・運営と新しい取り組みのジレンマ

企業規模が大きくなればなるほど、Webサイトのボリュームも増えていきます。それらの運営・維持をしつつ、新しいことに取り組むのもウェブ担当者の仕事。「Webサイトの維持・運営の比重が高くなっています。やっても、やってもきりがない」という朝火さん。その一方で、話題になった3D仮想空間「セカンドライフ」にも進出するなど、新しい取り組みにも挑戦しています。こういったチャレンジとサイト運営のバランスについてどう考えているのでしょうか?

新しいものには、手をつけておきたい。セカンドライフは、Web新技術への試行とパブリシティ効果を期待して実施しました。トライアルとしてやっていたので明確な効果がうまく出せたか課題はありますが(笑)」(NEC・朝火氏)

Webサイトのルールやガイドラインはグループ企業を含めた全社に向けて提供しています。でもその一方で、一度ルールを決めてしまうと改訂するのが難しいという問題もあります。日々、ウェブの環境・トレンドは変化しているのに、逆に自らルールを決める難しさを感じます」(NEC・朝火氏)

NECソフトでの野坂さんの課題はどういったものなのでしょうか?

『コンバージョン率』などのウェブ独特の指標を、誰でもわかる指標にどうやって落とし込んでいくのかが課題です。問い合わせが何回目の人は案件が進捗しやすい、といったような情報に組み替えてあげる必要があるのです。ルールを作るといった高い視点が大事ですね」(NECソフト・野坂氏)

思いとしては、SIerの(B2Bの)マーケティングプラットフォームを作りたい」という野坂さん。営業の近くで、営業と連携しているからこそ見えることがたくさんありますし、その分、課題も増えてくるのかもしれません。

◇◇◇

NECグループでは、定期的に「ウェブ活用推進連絡会」というミーティングを開催しています。グループ各社からウェブを担当する人たちが100人以上集まる情報交換会だそうです。会では、NECグループ全体のWeb戦略・方針や、施策の進捗状況、各社の成功事例を共有するなど活発な意見交換が行われており、NECソフトがアクセス解析ツールとしてオムニチュアのサイトカタリストを導入したのも、この連絡会での情報交換がきっかけだったそうです。

個別の施策としてではなく、全社レベルでウェブをメディアかつツールとして機能させていくことがいくことが求められている」というNECの朝火さん。「ニュースリリースは、RSSフィードと同様にコンテンツをネット上に解き放つ感じ」だというNECソフトの野坂さん。お二人をはじめ、グループ各社のさまざまな施策と成功体験が共有され、柔軟に対応されています。大企業ならではの課題もありながら、ITの最先端の企業であるスピード感を感じました。

この記事の筆者

神原 弥奈子(かんばら みなこ)

1993年株式会社カプスを設立。1995年からウェブサイト制作に関わり、エンタテイメントからITまで、幅広いジャンルのコンテンツの企画・制作に携わる。
2001年株式会社ニューズ・ツー・ユー設立し、同年News2u.net開設。
2010年よりネットPR発想のWebソリューションを提供する株式会社パンセを設立。
現在、株式会社ニューズ・ツー・ユー、株式会社パンセの代表取締役社長。

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