渡辺隆広氏の語る「これからのサーチマーケティング User Experience」
すぐに役立つSEOの話は一切しない。
あれば話をしたいが、そもそもそんな話はない。
このほど開催された「サーチエクスペリエンス コンファレンス 2016」において、株式会社アイレップの渡辺氏は、会場に集まったWeb担当者たちに対して、開口一番にサーチマーケティングの現実を突きつけた。小手先のテクニックで劇的に改善するほど、デジタルマーケティングは甘いものではない。デジタルの世界で起きている現実を理解し、その中でさまざまな試行錯誤を繰り返していくことでしか、マーケティングは実を結ばないのだ。
では、Web担当者はモバイル・スマートフォンが主戦場となりつつあるこれからのサーチマーケティングにおいて、何をすべきなのか。渡辺氏は「これからのサーチマーケティング User Experience」と題した講演で、検索エンジンを巡るユーザーエクスペリエンスの変化に対してマーケティング担当者がどのように対応していくべきなのかを示した。
スマホがもたらした検索行動の変化
まず、渡辺氏が紹介したのは、スマートフォンの普及を背景にしたユーザーの検索行動の変化だ。
たとえば、カナダのMediative社のアイトラッキング調査の結果を2005年と2014年で比較をしてみると、2005年の検索行動は検索結果の上位に視点が集中しているのに対して、2014年の検索行動では結果上位を中心にページの右部や下部にまで視点が分散していることがわかる。
検索結果に掲載される情報が多くなり、ユーザーが検索結果に何かしらの答えを探しに来ている。検索結果が単なる(リンクの)リスト表示から動画や画像、地図などさまざまなフォーマットのコンテンツが提供されるようになったことで、検索結果そのものが変わってきた(渡辺氏)。
また渡辺氏は、Microsoftが行った調査を取り上げ、スマートフォンの文字入力におけるオートコンプリート機能の活用などを背景に、モバイル検索のクエリ文字数がデスクトップよりも長くなっている点や、モバイルの検索セッションの時間が短くユーザーが素早く情報を検索している点などを紹介。
そして、ユーザーの行動範囲もデスクトップやタブレットに比べて広く、ユーザーがニーズを抱いた瞬間に検索行動を取るマイクロモーメントがより強くなってきていることを、改めて示した。
モバイルユーザーの検索では“今すぐ情報が欲しい”、“今すぐ課題を解決したい”というニーズが多くなり、ページが表示されるまでの時間に対する受忍限度(待てる時間)もデスクトップに比べて短い。だからこそGoogleはスピードを重視し、AMPなどモバイルフレンドリーの技術を開発している。
そして、スマートフォンの普及によってネットにおける購買行動にも変化が見られている。つまり、ユーザーはPCとスマートフォンを行ったり来たりしながら情報収集を行い、購買の意思決定を行っていくということだ。
PCだけで完結していた2000年ごろまでと比べて、ちょっとした空き時間に情報を調べられるようになってきたことで、人の態度変容の発生に大きな変化が生まれてきている(渡辺氏)。
- ユーザーが検索を通じて答えの発見、課題の解決をする傾向になった
- “今すぐ答えが知りたい”、“今すぐ知りたい”という速さに対するニーズが高まった
- スキマ時間の情報収集が購入などの意思決定に影響を与えるようになった
こうしたユーザーの変化を踏まえて提言した。
PCとモバイルではユーザーの検索行動は全く異なる。SEOではキーワードの検索ボリュームやコンバージョンの有無ばかりに注目しがちだ。しかし、ひとつのキーワードでも、その検索シチュエーション=マイクロモーメントにおけるユーザーの意図と文脈によって、そのキーワードの意義は大きく異なるという点を抑えていかなければならない。
ユーザーの変化に合わせて、Googleも変わっていく
では、こうしたユーザーの検索行動の変化に対して、Googleをはじめとする検索エンジンはどのように変化し、応えてきたのだろうか。渡辺氏は、次に検索を取り巻く世界の変化を紹介した。
まずは、情報流通構造の変化だ。2000年までのWebサイトでは、そのサイトにリンクを貼るのは外部のWebサイトが中心でありSEOの評価ではこの“被リンク数”が大きな役割を果たしてきた。
しかし、現在ではリンクを貼るのはSNSやLINE、ブログのアカウント=ユーザーが中心となり、外部サイトによる被リンクだけでなく、ソーシャルネットワークによる細かいリンクの拡散が生まれることになった。またユーザーはSNSのタイムラインを通じて情報や話題にアクセスするようになり、メディアが発信する一次情報を話題化させる「まとめサイト」なども登場した。
Webのエコシステムが変わってきたことで、Google(によるSEOの評価)も変わっていかなければならなくなった(渡辺氏)。
それに対応して、検索エンジン(Google)も変化した。これまでは、ページ本文内における検索文字列とのマッチングやSEO対策が上手なサイトが評価され、検索結果の上位に表示してきた。さまざまなSEOのテクニックが乱立したのもこの時代だ。
しかし2010年以降は、検索文字列とのマッチングではなく、ユーザーの検索文字列=検索意図に対する課題解決や回答の提示を実現しているサイトであるかが問われるようになった。加えて現在、Googleはユーザーがその価値を認めるサイトを積極的に評価しようと変化しているという。
GoogleはSEOそのものを否定するわけではないが、SEOが上手でも中身が伴わないサイトは評価したくないという思いが根本にある。人工知能やディープラーニングなどの技術革新によって、Googleは人間の価値判断基準をサイト評価に導入しようとしている。本来、Webサイトの情報を評価するのは、Webではなくユーザー自身だ(渡辺氏)。
では、具体的にGoogleは人間の価値判断基準をどのように導入しようとしているのか。そのひとつが、「ユーザーエクスペリエンス指標」の追加だ。これまでのGoogleのSEOでは、相互リンクの多さなどを基にしたPageRankを主な評価指標としてきた。
しかし、Googleはこれに検索ユーザーの意見を反映させる「UXシグナル」を追加したのだという。具体的には、検索結果の中でユーザーがどれくらいそのページにアクセスしたか=検索意図に対する答えを見に行ったかを評価指標にするのだ。もちろん、不正プログラムなどによるクリックスパムなどは排除される。
Googleは何がしたいのか。
かつてGoogleは、検索クエリと検索結果の関連性しか評価していなかった。しかし彼らは、検索の動機(疑問や課題の発生)から検索行動を起こし、検索結果から参考になるコンテンツを探し出して、疑問や課題を解決するという一連の流れを完璧なものにしたいと考えている。
Googleは検索を、ただの検索ではなく、ユーザーの日常生活における疑問や課題を解決するシステムとして構築しようとしている。すると、必然的にGoogleのサイト評価はユーザーエクスペリエンスが中心になっていく(渡辺氏)。
- 検索をユーザーの疑問や課題を解決するシステムにしようとしている
- ユーザーの疑問や課題を解決できるかどうかがサイト評価の中心になってきている
- 実際のユーザー満足度をもサイト評価に組み込もうとしている
UX時代のサーチエンジンマーケティング9か条
では、こうした検索エンジンをめぐる昨今の変化を踏まえて、Web担当者はどのような姿勢でサーチエンジンマーケティングを考えていかなければならないのだろうか。渡辺氏は、9つの項目に分けて説明した。
1. 「検索エンジンフレンドリー」を意識する
検索ユーザー体験のことを第一に考えつつも、良いコンテンツだと検索エンジンに評価してもらうための最低限の工夫は欠かせない。どのような内容のコンテンツなのか、どのような検索ニーズに応えるのかといった“評価シグナル”を明確にして、検索エンジンというコンピュータがWebサイトの情報を処理・理解・解釈しやすいように工夫しよう。
Googleも完璧ではないし、コンピュータには限界がある。“良いコンテンツ”だと検索エンジンに対してはっきりと手を挙げることが重要(渡辺氏)。
2. SEOとUXのバランスが大事
SEOの担当者のフォーカスは検索エンジンに当ててしまいがちだが、実際には検索ユーザーの課題解決(UX)と検索エンジンからの評価(SEO)、両者のバランスが重要だ。これはWeb担当者の業務内容にも関連があることだが、両者を両立しようとすれば業務範囲は限りなく広がってしまう。SEOで“何をする必要がないのか”を考えよう。
私がインハウスの担当者であれば、まず“SEOの責任範囲ではない仕事”つまりSEOでやらなくてもいいことを決める。そして、社内でどのようなリソースを活用できそうか探る(渡辺氏)。
3. SEOの最新動向よりもGoogleの狙いをおさえよ
SEOの最新情報をキャッチアップすることは、SEOにとって必ずしも重要ではない。それよりも、Googleの狙いや意図をしっかりおさえることのほうが重要だ。
2000年代まではアルゴリズムによってSEOの評価が行われていたので、最新の評価ルールを知ることがSEOにとって重要だった。
しかし今はAIやディープラーニングといった“人間の評価”を取り入れており、そこには「Googleだからこうしなければいけない」というイレギュラーなアルゴリズムは存在しない(渡辺氏)。
たとえば、モバイルSEO。GoogleにはWebサイトをURL単位ではなく情報単位で取り扱うという方針があるが、これは同じコンテンツでPC版、スマホ版、AMP版があった場合にそれをひとまとめにしてユーザーの利用環境に合わせて検索結果に出現させるという、ユーザーにとっては当たり前の対応だ。
またWeb制作では、レスポンシブ・デザインでPCとスマホにダイナミックに対応するか、異なるコンテンツを作り込んでいくかが議論になるが、これは結果的にUXを考えて決めていけばよい話であり、SEOの問題ではない。
4. 自然リンクもエンゲージメントの問題
2000年代までは、いかにして被リンクを増やすかがSEOの重要なテーマであったが、最近ではGoogleが検索エンジンスパム対策を十分に行っているため、意味のない被リンクは評価されない。
とはいえ、オーガニックな被リンクはそのコンテンツが有用であることの証明であり、SEOにとって重要なことは今でも変わらない。そこで、最近では自分で被リンクを作っていく「Link Building」から、誰かがそのコンテンツをSNSなどで紹介する「Link Earning」が重要となっている。
つまり、被リンクを作るのではなく、コンテンツを視聴したユーザーから共感や賛同を獲得して関係性を構築していく(その結果としてリンクが自然に増える)ことが、SEOとなるのだ。
これからのSEOは、広報・PR部門とも協働しなければ解決しない部分も出てくるのではないか(渡辺氏)。
5. 文脈と意図の単位でマーケティング施策を行う
サーチマーケティングの本質は検索キーワードであることは間違いないが、重要なのはその背後にどのような意図や文脈が含まれているのかということ。
たとえば、格安スマホを提供する企業は、SEOを行う検索キーワードに「格安スマホ」「格安SIM」をチョイスするだろう。では大手キャリアの割引プランの名称は、格安スマホ企業が狙う検索キーワードの対象になるのか。
一見無関係に見えるが、そのキーワードを検索するユーザーには「通信コストの見直しがしたい」という意図があるのだから、これも対象となるのである。このように、本来のSEOでは対象にしないようなキーワードであっても、ユーザーの意図を踏まえると場合によってはビッグワードよりも重要になってくるのだ。
ユーザーの意図を考えていくと、必然的に潜在顧客にリーチできるコンテンツが何か、潜在顧客にどのようなコンテンツを見せれば興味を持ってもらえるかがはっきりしてくる。SEO戦略とコンテンツ戦略を一体で考えていくことができるようになる(渡辺氏)。
6. 検索結果からユーザーの意図を探る
Web担当者は検索キーワードのランキングは熱心にチェックしていても、そのキーワードの検索結果に何が表示されているのかにはあまり興味を持たない。検索結果は、Googleがユーザーの意図を解釈して作り出したものであり、そこに表示されるサイトは「ユーザー意図に対して適切に答えを提供している」とGoogleが評価したものである。検索結果を見るだけでGoogleの狙いを理解することや競合サイトの動向を知ることができる。
被リンク重視のSEOでは関係なかったが、コンテンツの内容が問われる現在ではチェックする価値はおおいにある(渡辺氏)。
7. UXデザインに「正解」はない
検索ユーザーのランディングページとしてコンテンツのユーザー満足度を高めるためには、そのコンテンツが課題や疑問を持った検索ユーザーの期待に応える内容かどうかを考えなくてはならない。ただこれには明確な答えはなく、100%の満足度を実現することはできない。ユーザーとデータをみてWeb担当者自身が最適解を追求する必要がある。
ここでGoogleのことを気にする必要はない。ただし、重要なのは単なるユーザーではなく検索してコンテンツに来訪したユーザーが課題を解決できるかを考えることだ(渡辺氏)。
8. UXデザインの基本的なベストプラクティスをおさえよ
とはいえ、UXデザインにはさまざまな“型”が存在する。ユーザーが検索する“求めている情報”の性質に対して、どのような情報提供のフォーマットが適切かを考えることが重要だ。たとえば、アパレルなどの商品を一覧表示するページが文字ばかりで商品の写真がほとんどなければ、洋服を探しているユーザーの期待には応えられない。
「この検索クエリの種類であれば、検索結果の上位に表示されるコンテンツはこのレイアウトを採用している」という一定の傾向はみられる。中には、競合の中で人気のWebサイトのレイアウトを参考にしたほうが、効果が高いという意見もある。これもGoogleを基準に考えるのではなく、検索ユーザーの満足度を第一に考える施策だ(渡辺氏)。
9. コンテンツはテキストだけではない
かつてのSEOではコンテンツはテキストで公開するものと考えがちだったが、実際にはテキストだけがコンテンツというわけではない。内容によっては、テキストよりも動画のほうがユーザーの期待値に応えて反響を得られる場合もあるし、動画で表現したほうがわかりやすいコンテンツでも、ユーザーのシチュエーションを踏まえたらテキストと静止画のほうが使い勝手がよい場合もある。
大前提に“コンテンツはテキストで作る”と考えがちだが、ユーザーに価値を提供するサイト、ユーザーが満足してくれるサイトを構築することを第一に考えないといけない。テキスト以外のコンテンツが最適な場合もある(渡辺氏)。
SEOに“コンバージョン重視”の姿勢を求めることは適切ではない
最後に、渡辺氏はサーチマーケティングが何を目指すべきかについて語った。
まず、渡辺氏は指摘した。
SEOを売上や顧客リードの獲得を目的として広告と並列で考えている企業は少なくない。
さらに説明を加える。
中長期的に効果を追求するSEOに、広告と同じような短期的効果を求めるのは、効率的ではない。SEOで効果が生まれるのに12か月掛かったとして、それまで効果を待てる企業がどれだけあるのか。短期的効果を求めるのであれば、広告に投資すればよい。
渡辺氏は、SEOと広告が同じ土俵で扱われていることに疑問を呈した。
ユーザーは、いわゆる“指名買い”でない限り、購買行動に至るまでの間に何度も検索を繰り返す。その繰り返しの中で接触するコンテンツやブランドがユーザーにさまざまな影響を与え、最終的なコンバージョンに至るのだ。
もちろん、検索を繰り返す中で気分が変われば、別の検索を行うことでユーザーはカスタマージャーニーから外れていく。また戻ってくることもある。何かにインスピレーションを受けて、突然検索から購買行動に動くこともある。検索ユーザーは、いわゆる「購買ファネル」の理想通りに行動することはないのである。
ユーザーが検索を繰り返すこと=ユーザーの中にさまざまな「知りたい」が生まれていくことに対して、渡辺氏は、次のように指摘。
購買の意思決定を支援すること以外にも、SEOでできることはもっとたくさんある。
たとえば潜在顧客に対しては、最初に想起してもらうための認知獲得、比較検討段階での疑問解決など、そして既存顧客に対しては顧客満足度の向上、トラブルの解決、ロイヤルカスタマーの醸成など。ブランドの価値を高めたり、コンバージョンをアシストしたりするためのさまざまな効果が期待できるのだ。
SEOの目的はコンバージョンではなく、さまざまな興味関心を持った検索ユーザーに応えて関係を構築していくことである。むしろ、短期的なコンバージョンを求めるのであれば、広告を活用すればよいのであってそこでSEOに固執する必要はない。
モーメントを意識してさまざまな目的のためにコンテンツを整えていけば、それはGoogleからの評価にも繋がり、マーケティングに多くの価値を生み出すことになる。サーチマーケティングで解決できることはたくさんある(渡辺氏)。
会場に集まったWeb担当者に対して、マーケティングにおけるSEOの位置づけを改めることを促した。
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