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最前線の米国に学ぶ

CMSが急速な広がりをみせている米国。今まさに、エンタープライズレベルのCMSとして積極的なビジネス活用が進む状況とその要因を、CMS担当者のスキルの特徴、コンテンツマネジメント全般に関する専門家コミュニティの活動、CMSに特化した専門メディアの存在といった側面から紹介する。

篠原稔和(ソシオメディア)

CMSの源流と米国での発展

ウェブサイトの構築や運営をきっかけに、「CMS(コンテンツ管理システム)」に出会った人たちにとっては、ウェブサイトを介した情報の生成から配信までをトータルに管理するためのシステムのことをCMSと理解しているかも知れない。しかし、データによって組み立てられる一定の情報を取り扱う技術としての「コンテンツマネジメント」という考え方は、30年以上もの歴史を持っている。すなわち、電子データによって構成される文書が登場して以降、「文書管理」や「記録管理」などと呼ばれていたものは、それぞれ時代的な背景や利用する技術は異なってはいるものの、データ管理のための仕組みという点からは、常にコンテンツマネジメントであった。これらの間における大きな違いは管理する対象の違いに他ならず、文書管理が紙、記録管理がマイクロフィルムやデータベースを対象としてきたのに対して、現在のコンテンツマネジメントはまさにウェブ上のドキュメントを対象としているということができる。

このようにウェブによるドキュメントの生成や配信を自動化する仕組みが、いわば現在のCMSの主流とされているわけだが、その源流を捉えるにはウェブサイトを対象としたCMSの始まりとその発展を振り返ることが重要である。まず、ウェブサイトを活用する初期の多くのプロジェクトでは、データの収集から情報としての編集や見栄えとしてのデザインに至るまでのウェブドキュメントの「生成プロセス」が必要だ。そして、それらを一定のサイクルに従ってインターネット上に配付していくための「配信プロセス」、目まぐるしいほどのデータや内容そのものに対する変更や更新を繰り返す「運用プロセス」といった各工程を、1人ないしは特定の人々によってまかなっていた。そこへ、ますます複雑化する作業を少しでも効率化する仕組みとして、初期のウェブサイト向けのCMSが登場する。そのニーズと効用は、まさに昨今のブログの隆盛によって、個人がウェブサイトを構築して活用することが従来に比べて格段に容易になったことからも想像ができるであろう。

しかし、その後ウェブサイトの規模が飛躍的に拡大し、企業や組織におけるウェブサイトの役割が変化するにつれて、ウェブサイトに関わる人や組織の数も増加し、管理のための要求も一気に高まってきた。たとえば、ウェブサイトに掲載する情報を決定する人々、デザインを考える人々、仕組みを技術的に支える人々など、複数の人々による作業が同時で進行するような状態を迎えているのがその一例だ。特に、掲載する情報を決定する人が、特定の担当ベースから各部門の責任者にまで広範に及ぶようになり、これまでのような個人や少人数のチーム内でのコミュニケーションだけでは、ウェブサイトの全体業務をとりまとめられなくなってしまった。ここに至ってウェブサイト向けのCMSも、多岐にわたるチームの協働(コラボレーション)のサポートや、仕事の流れ(ワークフロー)のサポートのための機能を備えざるを得なくなってきた。

同時に、米国を中心に、旧来からのコンテンツマネジメントが扱ってきた文書管理や記録管理を代表とする基幹業務や日常業務などの中核となるデータや情報が、インターネット上のウェブを通して開示され、それらをウェブ上のシステムで共有できるような動きも出てきている。この変化は、先のウェブサイトの権限が部門の責任者にまで広がる動きと呼応し、まさに従来からのコンテンツマネジメントとウェブによるドキュメントを対象とするCMSとが融合する「エンタープライズ・コンテンツマネジメント(ECM:Enterprise Content Management)」の時代の到来と言えるであろう。ここでは顧客と企業独自の資産とが直結することによってビジネスが成立する、いわば企業レベルのコンテンツの基盤が整い始めているわけだ。それにもかかわらず、日本ではいまだに一部の企業を除いて、CMSというとウェブサイトを管理するためのシステム(WCM:Web Content Management)といった領域の議論にとどまったまま、発展の路を閉ざしてしまっているかのようである。そこで、このような状況を打開するための方策について、CMS活用を牽引する米国の状況からヒントを探っていきたい。

CMS担当者におけるスキルの源流

CMS担当者におけるスキルの源流

まず、CMSを担当する企業や組織内の人材に目を向けると、米国では、従来からの文書管理や記録管理の担当者や昨今のWeb担当者、そしてCMSに関するコンサルタントやアナリストの中に、特定のスキルを持った人材が登用されていることに気づくことがある。それらは、いわば情報管理のための専門技能と総称することができ、とりわけ、図書館情報学などの専門分野に習熟した人たちの存在をあげることができる(図1)。

図1 米国のCMSやウェブ担当者には、情報管理の専門技能を有する人材が多い

そもそも移民によって作られた新しい国であった米国では、国としての歴史の浅さを一気に補うために、数多くの公共図書館が実業家たちの出資によって建設されてきた。特に、米国最初の図書館が1830年代に誕生して以降、1930年代までの約100年の間に2,000を超える図書館が建設される勢いにあった。しかしその一方で、実際の図書館を管理・運営する技能をもった人材が圧倒的に不足する、といった深刻な問題を引き起こすことにもつながっていった。

そこで、それらの人材を育成すべく、図書館のための教育課程の成立や大学院での図書館学科の設立、図書を分類整理するための目録規則の整備などが急速に進められることになる。その結果、情報を検索するための高度な情報技術や、知識や情報などにアクセスするための専門知識が加速度的に発展し始める。また、情報の蓄積方法や利用方法、データベースの構築技術、情報ニーズと情報探索に関する探求など、情報を扱うための高度な教育と研究が盛んに行われてきたのである。そして、これらの教育を受けた人材が、大学や図書館などの専門機関に輩出されるだけでなく、企業や各種団体などにも進出して積極的に情報管理の役割を担うようになる。まさにこういった流れが、今日の企業内での文書管理や記録管理などの専門職の技能へとつながっていると言えるであろう。

この様子は、米国で開催される情報管理に関するテーマの各種イベント、たとえば、CMSやナレッジマネジメント(知識管理)のためのイベントなどの場に出向くと顕著に体感できる。イベントにおけるスピーカーやワークショップの講師はもとより、聴講者として参加している企業の担当者に至るまで、この分野の知識を持った人たちが多数活躍しているのだ。こういった人たちに顕著な技能としては、情報技術に関する知識と実践に加え、利用者が必要としている情報を選択して用意するスキル、資料や情報をさまざまな基準で分類整理するスキル、分類整理された情報の固まりに対して利用者にわかりやすい名前やキーワードを付けるスキル、そして、資料や情報などを一定の場所に格納したり廃棄したりするスキルなどを挙げることができる。

CMSの発展を支えるコミュニティ活動

次に、CMSの発展と成長を支えるコミュニティ活動の存在に注目したい。そもそも米国では、CMS担当者たちが集うコミュニティ活動として、2つのタイプがすでに存在している。

1つ目は、CMSのベンダー企業が中心になって組織化される、ベンダーごとのユーザーコミュニティである。これは、日本でも一部のベンダーによって行われている活動であるが、CMSを提供するベンダー企業が主催し、購入したユーザー企業の担当者を定期的に集めることで、製品に関する新しい情報や他社における製品の使い方などを知るための機会を催している。その形式は、年に1度の大きなイベントとして提供するものから、定期的なセミナーや研究会があり、ユーザー企業の担当者たちは、その場を通して実際のCMS導入のノウハウを交換し合っている。

図2 CM Pros(Content Management Professionals)の公式サイト。現在、日本語を含む11か国語の対応を進めるなど、世界的な規模での活動を展開している。
http://www.cmprofessionals.org/

2つ目は、企業内のCMS担当者やCMS構築のためのインテグレーター、コンサルタントから構成される非営利の専門家コミュニティの存在だ。非営利のコミュニティ活動の代表としては、米国を中心に700名を超えるCMSの専門家たちで構成されている「CM Pros(Content Management Professionals)」(図2)が大きな役割を担っている。そもそもCM Prosは、さまざまな分野で活躍してきたコンテンツマネジメントに関わる専門家たち30名が発起人として名を連ね、2004年に設立された。ウェブによるCMSを含むコンテンツマネジメント全般に関する情報や事例の共有促進を目的として、これまでにウェブサイトやメーリングリストによる情報提供、セミナーやイベントなど世界中のCMS専門家に向けて積極的な活動が繰り広げられている。CM Prosの具体的な活動目標と内容としては、図3のような項目が挙げられている。

CM Prosの活動目標

  • 仲間が調査・吟味した知識を収集・発展させ、体系化して配信すること
  • コンテンツマネジメントの主要な課題について、自ら学ぶとともに仲間に教えること
  • コンテンツマネジメントにかかわる専門家、企業リーダー、製品ベンダー、大学・教育機関の教育者の間での交流の促進
  • コンテンツマネジメントの実務と事例について、優れた実践例を見つけ出し、精錬・発表して推奨すること

CM Prosの活動内容

  • さまざまなコンテンツマネジメント領域において、ベストプラクティスを開発し、公開すること
  • コンテンツマネジメント関連のイベント情報や求人情報をキャッチし、公開すること
  • コンテンツマネジメントの用語やニュースに関し、信頼のおけるソースを公開すること
  • 各種業界メーリングリストを作成・管理すること
  • 実務者向けに会議を企画し、重要な課題について討議すること
  • CM Prosのウェブサイト、ディスカッションフォーラム、ナレッジWiki、シンジケート・ウェブサービスを管理すること
図3 CM Prosの具体的な活動目標と内容
CM Pros Mission」より

ここでは、ベンダー製品や組織内での役割などの垣根を越えて、積極的に各種情報や事例を交換すると同時に、コミュニティの場そのものが、自らの専門技能を伸ばし、キャリアを蓄積していくためのプラットフォームとなっている様子をうかがい知ることができる。メンバー各自は、仕事の成果を持ち寄って情報交換をしながらも、コミュニティそのものを支えるための役割も担うことで、自らが自分たちの仕事を取り巻く業界の成立に貢献することになっているのだ。

CMSに特化したメディアの存在

CMSに特化したメディアの存在

最後に、CMSの発展を後押しするさまざまなメディアの活動がある。ここでは、ウェブサイトからの情報提供を柱とするタイプ、ウェブサイトと連動しながらリアルなイベントの場を提供するタイプとに分けることができる。

まず、ウェブサイトからの情報提供としては、Tony Byrne氏が主催する「CMS Watch」(図4)が代表的なメディアとしての機能を果たしている。CMS Watchは、2001年にスタートした技術レポートと技術コラムによって構成されるコンテンツマネジメントに関する総合情報サービスである。技術レポートは、CMS Watchの核となっている「The CMS Report」を始め、「Enterprise Portals Report」「Enterprise Search Report」「Records Management Report」の4種類によって構成されている。特に、年に2回発行される「The CMS Report」は、中堅以上の企業の担当者とCMS導入を担当するシステムインテグレータやコンサルタントを対象にした調査レポートとして高い評価を得ている。企業の担当者にとっては、選定候補となる詳細な製品リストが得られることや、成功例や各種事例を通して、共通の失敗やコスト上の失敗を防ぐことに役立てることができる。また、システムインテグレータやコンサルタントにとっては、顧客の要求定義書をまとめることに活用したり、コンサルタントの重要性を強調したりするためにも使うことができる。その他にも、CMS Wire、CMS Reviewといったウェブサイトによる情報サービスもCMSに特化したメディアとして支持を得ている。

CMS Wire
CMS Review

図4 CMS Watchのサイト。The CMS Reportなどの調査レポートの販売と同時に、定期的なコラムやCMSに関するニュースが掲載されている。
http://www.cmswatch.com/
コラムの日本語訳は、DESIGN IT!サイトで紹介中。

次に、リアルなイベントの代表としては、1993年にFrank Gilbane氏が設立したThe Gilbane Groupによって2004年より毎年3回(サンフランシスコ、ワシントンDC、ボストン)にわたって開催されているイベント「The Gilbane Conference」がある。このイベントで、ベンダー、アナリスト、コンサルタント、企業ユーザーのいずれからも中立的な立場を貫き、その企画の姿勢と内容には定評がある。また、先にあげたコンテンツマネジメントの非営利団体であるCM Prosとも連携を図るなど、専門家コミュニティからも高い支持を得ている。その他にも、今年から始まったInfoToday社による「Content management 2006」や、The Center for Information-Development Managementによる「Contents Management Strategies」なども注目したい。

Content management 2006
Content Management Strategies

これらのCMSに特化したメディアの存在は、CMS製品の単なる紹介の域を超え、製品の評価情報や比較情報、さまざまな事例やベストプラクティスなど、先のコミュニティ活動と同様に、市場のより一層の活性化を促していると言えるであろう。同時に、本来、さまざまな領域を横断した専門スキルが求められるCMSの関連領域について、方法論や職制を明らかにしていく上でも、テーマに特化したメディアは欠かすことのできないものとなっている。

このようにCMSを牽引する米国では、企業内外における情報を管理する人材の背景による違いに加え、その人材が自ら学んで成長していくための機会と場所が数多く存在しているがわかる。これらの存在が、専門家の育成や専門情報を蓄積していくためのプラットフォームとして機能していることは明らかである。

ウェブ管理からコンテンツマネジメントへ

今後、日本においても、ベンダー企業がユーザーに情報交流の機会を提供するのに加え、ベンダーを横断したユーザー企業担当者やシステムインテグレータ、コンサルタントによる積極的な情報交流の場を作っていくことが求められるようになるであろう。そして、CMSに特化した情報の流通や専門メディアが生まれてくれば、各種領域を横断したCMSに関わるスキルや技術がより明確になっていくに違いない。これらの活動を通して、日本でも、広範なコンテンツを扱う人材の育成が進み、ウェブサイトのコンテンツだけではなく、企業の基幹業務や日常業務などとも連携できる、まさに「ビジネスに直結したエンタープライズレベルのCMS」へと発展するための下地作りが進むことを期待したい。

CM Prosでの会合(ボストンオフィス)の様子
左から、Bob Doyle氏(CM Pros)、Tony Byrne氏(CMS Watch)、筆者、Theresa Regli氏(CMS Watch)

もしあなたが、CMSを単なる「ウェブサイト更新ツール」だと捉えていたならば、少し視野を拡げてみてほしい。「コンテンツマネジメント」という切り口でCMSを捉えれば、もう一段階ビジネスの発展が考えられるはずだ。米国でも起きた流れは、すでに少しずつ日本にも起きつつあるのだから。

※この記事は、『Web担当者 現場のノウハウVol.3』 掲載の記事です。

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この記事の筆者

篠原 稔和(しのはら としかず)
ソシオメディア株式会社・代表取締役

2001年、「UX Design Consulting」をテーマに掲げるソシオメディア株式会社を創業。企業のイノベーションをUXデザインによって実現するための「UX戦略コンサルティング」「デザイン・リサーチ」「コンセプト・デザイン」「ユーザーインターフェース・デザイン」といったソリューション活動で数多くの実績がある。

また、自らもUX戦略のコンサルタントとして、UXを企業戦略の中核に据えるための活動に従事。2014年から「UX戦略フォーラム」を主催し、UXを企業が戦略的に推進するための国内外の知見やノウハウ、事例の紹介に努めている。

これまでに、

など、数多くのUX関連書籍に関わる。

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