写真に写り込んだ彫刻は著作権侵害なの?/【漫画】僕と彼女と著作権・第1話

Web制作会社に勤めて3年目の山ノ内くんが、いきなり直面した著作権問題とは!?
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結論から言うと、OKらしい?

今回の写真なんですけど、結論から言って、著作権的にOKなんですよね?

問題ないわ。

よかった~。で、どうしてOKなんですか?背景にオブジェがばっちり写っててもいいんですか?

いい? 大事なポイントを3行でまとめるわ。3行でまとめるわ大事なポイントを。

  1. オブジェの著作権は保護されているため、写真を撮る行為は制限される
  2. ただし、写真撮影が複製や翻案にあたらないなら許される
  3. オブジェが公開の場に飾ってあるなら許される幅がさらに広がる

…さっき、大事じゃないとこを2回言いましたよね?

何か文句あるの? おとなしく聞かないなら説明しないわよ!

……スミマセン。おとなしく聞きます。

著作権とは?

著作権っていうのは、ひとことで言えば「著作物の利用をコントロールする権利」よ。

はい。ちなみに、オブジェは著作物なんですね。

そうね。このオブジェは著作物ね。

じゃあ「利用をコントロールする権利」っていうのは、どういう権利ですか?

これはいろいろあるんだけど、まず「複製する権利」から説明するわ。

 

複製?

コピーするってこと。

なるほど。

著作物を複製できるのは、原則、著作権者か、著作権者から権限を与えられた人だけよ

ということは、著作権者に断りなくコピーしちゃいけないってことですね。たとえば、酷似したオブジェを勝手に作るのはNGですね。

そうよ。わかってきたじゃない。

写真に撮るということは、オブジェをコピーしていることにはならないんですか?

オブジェを写真に撮るのは複製(コピー)にあたる?

「コピー」って何なのか、自分の言葉で言ってみなさいよ。

ええと…「そっくりなものを作る。」

だいたいあってる。

著作権法上は、複製とは「印刷、写真、複写、録音、録画その他の方法により有形的に再製すること」と言われてるわ。

オブジェを写真撮影すると複製にあたる場合もある?

あるかもね。表現方法が厳密に同じでなくてもいいの。たとえば、同じく著作物である絵画の複製写真なんかは複製にあたると考えられているわ。

ちょっと待ってくださいよ!それなら、今回オブジェを写真に写すのは、複製なんじゃないですか?

ここが難しいのよね。いい? 1回しか言わないわよ。「表現上の本質的特徴が実質的に同一じゃないなら複製には当たらない」わ

「表現上の・・・本質的特徴」?

このオブジェ、前からはもちろん、横からも、後ろからも、上からも斜め下からも眺めることができるものよね。

はい。よく覚えてませんが、そうでした。

表面の質感とか、採光や角度による表情の違いとか、そういうものを見る人に感じ取ってほしいのよね。

オブジェだし、そういうもんですよね。

確かにこの写真からは、一方向から見たオブジェの形はわかる。ただ、これだけでオブジェの表現したい本質が感じ取れるかしら?

写真には小さくしか写っていないし、立体的にどういう形をしているのかもわかりにくい。無理っぽいですね。

もとの著作物の本質的特徴が感じ取れないなら、複製権の侵害にはあたらないわ

おお!

まあ、オブジェを写真に撮る場合、「複製権」より「翻案権」の問題と考える人もいるわ。

ほ、翻案?

翻案とは、著作物の「表現上の本質的な特徴を維持しつつ、表現形式を変えた新しい著作物を作ること」。小説の映画化なんかも翻案ね。

なるほど。あ、もしかしたら、ここでも、もとの「著作物の表現上の本質的特徴」が感じ取れないなら「翻案権侵害にならない」ってことですか?

そういうこと。わかってきたじゃない。まあ、私の説明でわからないほうがおかしいんだけど。

開放されている場所に置いてあるオブジェなら、自由に利用していい?

う~ん、それでも、やっぱりこの写真はグレーな気がしてきた! 本質的特徴が感じ取れるかどうかなんて、判断基準として曖昧すぎですよ~!

そうよ。身の回りに著作権侵害の危険はてんこ盛りなのよ。こんな地雷だらけだったら危ないわよね?

確かに!

たとえば小学生が西郷さんの銅像を写生したら複製権か翻案権の侵害になるとしたら?

ああ、そんな…。

一生懸命描いた…先生にも褒められた…親父さんが「話は聞いた。よくやったな」。

「おめでとう!」「ありがとう!」って感じでね。

でも著作権侵害。

ええーーーっ!!??

っていうのは冗談で。

…じつは、例外的に、「公開の場に、恒常的に置かれている美術の著作物は、かなり自由に利用してよい」ことになってるのね。

ま、モロに写っているものを使って商品化するとかはダメな場合もあるけど、今回みたいに端っこにちょっとはOKでしょ。

なん…だって…。

この写真、公園で撮ったものよね。

……(うなずく)。

だから今回は結局OKなのよ。

……ちょ、それを先に言ってくださいよ!! ずっとめっちゃ真剣に悩んだじゃないですか!! ひどいですよ!

うっ…うるさーい! あくまでこれは例外なんだからねっ! 勝手に著作物を複製したり翻案したりするのは原則著作権侵害なのっ!

原則を覚えないで例外を語るなんて100年早いわー!

うわー。開き直った…。

写りこみには注意!

それにしても、写真を撮るときには、オブジェとか看板とか壁画、建築物、ポスターなんかの写りこみに気をつけるってのは基本よ。

今回は何とかなりそうだからよかったものの…。

本当にありがとうございます!

べっ別に、会社の案件が炎上しないようにしただけで、あんたのために教えたわけじゃないんだからねっ。

それでも有栖川さんがいてくれてよかったです。

ふ、ふん。…そうそう、写真への著作物写りこみの可否は、これまでずっと要件が曖昧なままで問題になってたのよ。

著作権法改正審議で取り上げられて、平成25年1月1日~の著作権法改正では、今より詳しい要件が定められる予定よ。

そうだったんですね。勉強になります。これからも、よかったら著作権のこと、教えてほしいです。

だから、あんたのために教えてるんじゃないってば!

…まあ、理解してくれて嬉しかったし…ちょっとだけなら…。

どうしたんですか? 何か顔が気持ち悪いですよ?

何でもないわ! バカーーー!

第2話に続く

この記事の筆者

JURI(木村充里)

暁の法律事務所 代表弁護士。訴訟、予防法務など幅広く業務を取り扱う。最近ではクラウドサービスやコンテンツを利用させるサービスの権利処理など、Webと著作権に関わる案件が増えている。ヴォーカリストとしても活動中。

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