ヒラのWeb担当でも経営者と共有できる“ものさし”をもつべし <サイト立ち上げ期 その2>

大切なのは、経営者と共有できる“ものさし”を理解すること
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※中堅Web担当者としての
考え方や、仕事の進め方の
ヒントを、Webサイトの
「立ち上げ期」「成長期」
「安定期」「衰退期」の
ステージ別に解説する。

前回は、Webサイトの立ち上げ期の秘伝として、「競合と同じ土俵で戦うな」ということを解説した。

今回は、同じくWebサイトの立ち上げ期に多い「予算が少ない」状況から、どうやって成果を上げ、Webサイトを成功させるかを解説しよう。

経営者と共有できる“ものさし”とは?

前回の事例でお話ししたのは、次のようなものだった。

あるフランチャイジー(特約店)の募集をした企業が、業界で有名な某広告メディアサイトに広告掲載したところ、応募は多数あったが成約に結びつかず、結果、企業名を直接検索したユーザーの成約率が高かった。

今回は、また別のケースを紹介しよう。

企業向けにある商材を販売する企業Aがいたとしよう。その商材は競合も多く、営業マンは激戦を強いられている。営業部隊は顧客アタックリストを作り、電話や訪問を重ねクロージングするというのが営業の流れだ。経営陣は、“アタックリストの件数が増えれば増えるほど成約数が増える”との考えから、Webサイト構築を指示した

そこでWeb担当者は、少ない予算で効率的にサイト集客をするために、SEOやSEM施策を計画し、KPIを「問い合わせ・資料請求件数」と決め、Webプロモーション活動を行った。それなりの数の問い合わせ・資料請求件数を獲得できた。

しかし、その後、サイトを通して獲得した問い合わせや資料請求の顧客アタックリストに対して営業部隊が実際にコンタクトして案件化しようとしても、反応が非常に薄かった。そのため、営業部隊からは、サイトからの見込み顧客リストは手間ばかり掛かってクロージングできない“使いものにならないリスト”と烙印を押されてしまった。さらに指示を出した経営陣からも文句を言われる始末。「一体、どうすれば良いのか」と途方に暮れるWeb担当者……。

このようなケースの企業担当者からの相談をよく受ける。「予算が少ない」というWeb担当者の悩みに対して、私からのアドバイスは「数ではなく率を求めろ!」だ。

第2回となる今回は、この「率=獲得単価」を決めるための、Web担当者への秘伝をお伝えしよう。

(1)数ではなく、率で考えろ。

経済が右肩上がりの時代には、マス的な思考・施策が一般的だった。昔は需要が拡大し続けていたため、“率”の追求に時間をかけるよりも、量を獲得するスピードに比重が置かれていた。しかし、超成熟したマーケットでは、ユーザーニーズが多様化を極め、従来型の量を追い求める手法をとってもなかなか成果は上がらない。前回でも話したとおり、今は「ターゲットに刺さるモノを、刺さる場所に送り込む」という“率”の思考をしなければならない時代なのだ。

読者のなかには、上司や経営層から「数を集めろ」と指示されるため、“率”の思考に移行できない、という人もいるかもしれない。確かにWebサイトの成長期においては正解の場合もあるが、立ち上げ期から「Webは“率”である」というコンセンサスを上司や経営層と握っておかないと、後々「折角立ち上げたのに、“数”が上がらないじゃないか!」と文句を言われることになる

“Webマーケティングは、PUSH型ではなくPULL型であること”をWeb担当者自身が再認識すべきだ。

では、その“率”を上げるとは、どういうことになるだろう? それはまず、図1にある黄金ラインを見つけることだ。

図1 潜在顧客(マス)から消費者(成果)へと絞り込まれる黄金ライン

つまり“ホットユーザーを見つけること”から始まるだろう。もし“ホットユーザー”が存在しないのであれば、商売自体を見直す必要がある。

とはいうものの、ホットユーザーを見つけるのは準備が大変だ。そのため「とり合えず数を稼ぐ」という発想になり、アフィリエイトなどの広告でまかなおうとするケースがよく見受けられる。しかし、それでは少ない予算の無駄遣いであり、その施策から得た顧客や潜在リストは使えない可能性が高い。

Webへの集客数を増やせば資料請求数が増え、売り上げが上がるという単純な考え方ではWeb担当者として失格だ。

ゴール(成約)からどういう要素がポイントとなるかを、巻き戻しながら調査することが重要だ。Webサイトの“ホットユーザー”の仮説を見つけるには、たとえば次のようなことを調べてみるといいだろう。

  • 営業部隊が今まで成約できた顧客の属性分析(成約率)
  • 営業部隊が訪問などで汲み取ったニーズの傾向分析
  • 営業が見込客へ訪問した回数
  • 営業がアポを取れた件数とそのベースとなるリスト件数

また、このステップと同時に、立ち上げたWebサイトのアクセス解析ができるようにしておくことが大前提となる。立ち上げ期においては、最低限、「どこから来たユーザーがコンバージョンしたか」を分析できるようにすべきだ。

Google Analyticsであれば検索エンジン経由のユーザーはどういうキーワード検索でコンバージョンしたかを計測できる。メディア掲載やアフィリエイトなど参照元サイトからの流入も、リダイレクトページなどの設定により、比較的簡単に参照元サイト別のコンバージョンを計測できる。

効果測定ができるようにしておけば、“量”を求めがちな経営層に対しても“率”の話ができる。数値化されたものでコミュニケーションをとれば、納得してもらえるものだ。

他部署とのコミュニケーションの壁を越えるには

Web担当者は他部署から協力が得られないケースが多々ある。おうおうにして「仕事が増える」と思われてしまうのが原因だ。でも、あなたは量を求めているのではなく“率”を求めているのであり、もっと言えば、相手の部署の仕事が「今より楽に成果・効果を上げられる」ことを伝えられれば、協力を得られやすくなる。

さらに、継続的に協力を得るためのコツは、常に施策と成果を共有することだ。

大げさな報告書は必要なく、Webサイトでこんな施策をしたらこういう成果が上がった、と簡潔に常日頃報告するのだ。この共有をし続けていれば、こちらからお願いをしなくても向こうから新たな黄金ルートのヒントを教えてくれるかもしれない。

・(2)小さなヒットをコツコツと打つ
・(3)PDCAよりCACA
・(4)獲得単価を見つけ出せ
・経営層から予算を引っ張る準備と交渉術

(2)小さなヒットをコツコツと打つ

“ホットユーザー”の仮説が立てば、前回お伝えした「ターゲットに刺さるモノを、刺さる場所に送り込む」段階となる。

「小さなヒットを打つ」とは、小さな施策の積み重ねから「黄金ルート」を少しずつ見つけ出すことだ。Webサイトの効果測定ができていれば、施策Aが良かったのか、施策Bが良かったかが判断できる。この繰り返しのなかからあなたのWebサイトにおけるオリジナルの指標を見付け出していくのだ。先にも述べたが、経営者は“量”の話をしがちだが、成約につながる過程の“率”の指標を見つけ出し共有することが、経営層の納得と信頼を勝ち得ていくのだ。単純な問い合わせや資料請求件数だけでなく、もう一歩深掘りした数値指標を見つけ出すことがポイントとなる。

また、この段階では多種多様な施策にチャレンジしてみてほしい。くどいようだが、効果測定ができることが必須だ。

Web→リアル 一気通貫の効果測定

たとえば人材派遣会社Webサイトを例にとると、コンバージョンポイントの1つとして、求職者の「登録申し込み」がある。もちろんこの「登録申し込み」が一定量あることは重要な指標なのだが、Webサイトの「登録申し込み」を獲得するだけで彼らのビジネスが完了するわけではない。その後リアルの窓口に来社してもらい、直接面談した後に「登録完了」となる。さらには登録したユーザーが企業とマッチングし、晴れて業務を開始してから派遣会社として収益があがるのだ。

一般的には、Webからリアルチャンネルに移行したときに、データが途切れてしまう場合が非常に多い。進んだ人材派遣会社であれば、Webの登録データとリアルチャンネルを連動してWebのコンバージョンを計測している。

特定のWeb集客施策でリアルチャンネルに送り込んだユーザーが、リアルでの収益率が高い、という事が見えるような「Web→リアル一気通貫の効果測定」がこれからの時代は求められてくる。

(3)PDCAよりCACA

この段階で、PDCAサイクルを回して施策の精度を上げていく、と考えたくなるが、壮大なPDCAサイクルをプランニングして実行しても成果はなかなか見えてこない。そこでおすすめする秘伝は、「C(Check)→A(Action)の回転を短期間で繰り返すこと」だ。サイト立ち上げときにおける長いスパンのPDCAサイクルは、たとえるならアマチュアがホームラン狙いで大振りするようなものだ。アマチュアであれば、まずはバントでバットに確実に当てることから始めよう。

このCAサイクルを何度も回すことで、「黄金ルート」すなわち高いROIを見つけ始めた、ということになるのだ。

また、先述の事例のようなアタックリストを営業部隊に提供することである場合、自分の部署からリストが手離れしても、リストのなかの1件1件がどういう結果になったかを追えるようにしよう。そこまで追ってこそ「黄金ルート」と呼べるのだ。

(4)獲得単価を見つけ出せ

高いROIを発見できた!と言っても、この段階でそれだけに少ない予算をすべて投下するのは無意味だ。もっといろいろと試していこう。小さなヒットを打つための小さな失敗であれば、この段階で大きな痛手にはならないし、むしろ今後を考えれば「このパターンはない」ということが学習できるよい機会となる。自分で最適だと思った範囲のなかで、できるだけ多くの施策を打ってみる。そうすると、いろんな小さなヒットを狙っているうちに、獲得単価の幅が見えてくる。さらに施策ごとに獲得できる件数も見えてくるだろう。

次に、さまざまな結果が得られてくれば、それらを整理して獲得単価の許容範囲を見つけ出そう

たとえば、獲得単価が1,000円から3,000円のさまざまな施策で、100件獲得できたとする。この獲得単価幅で、この件数は許容範囲かどうかを検証するのだ。もちろん獲得単価が低いことに越したことはないが、件数が少ないのでは意味がない。獲得単価と獲得件数を吟味しながら、ここでさらに“黄金ルート中の黄金ルート”の仮説を立てるのだ。それが許容範囲になっていく。

ここまで来れば、経営層にも予算獲得へ向けた合理的な説明・説得ができる材料が出揃ったといえる。

経営層と共有する“ものさし”とは、決して“量”ではなく、“率”すなわちROIなのだ。

どこから来た潜在顧客がどれだけ獲得につながったか、流入先ごとの獲得数を計測したデータを取り続け、「徹底的な数値による報告」の習慣化とROIに特化した報告が、“ものさし”を共有することになる。

経営層から予算を引っ張る準備と交渉術

経営層というものは、最終的には投資対効果しか見ていない。このことは、Web担当者といえども肝に銘じておいてほしい。「今どきWebは重要だ」ということは理解していても、投資対効果(ROI)が低ければコストセンターだと判断されてしまい、必然的に予算は縮小傾向になる。たった1人のWeb担当者であったとしても、経営者の目線を知っておくことはビジネスマンとして重要だ。

これを踏まえて、経営層から予算を引っ張り出す交渉術の秘伝をお教えしよう。それは「経営層に獲得件数だけを言わせる」ことだ。

獲得単価1,000円~3,000円のさまざまな施策で合計100件/月を獲得したとしよう(許容範囲を検討すると、実際には1,500円から2,800円で90件/月といったところだろう)。

“率”のものさしで共有したはずでも、経営層は“量”でも判断しなければならないので、獲得件数を約10倍の1,000件/月が可能かどうか尋ねてくる。期間も3か月ほどになるかもしれない。ここであなたが答えるべき言葉は「ムリです!」ではなく「プランニングします」だ。テストマーケティング段階での予算は、単純計算だが、約20万円/月しかなかったものが、200万円/月になり、3か月総額で600万円になるかもしれない。

こうなると次のレベルでの外部パートナーを選定するコンペも可能になる。詳細は次回で解説するが、経験則から言えば、500万円を越える予算規模であれば、一定レベルを越えた外部パートナーを使えるようになる。ノウハウや実積を専門的に持っているため、想定しているROIよりも効率的になる可能性もある。

もちろん、もっと少ない獲得件数を言われることもある。その場合は、予算額をもとに外部パートナーにコンペ可能か相談すれば良いのだ。外部パートナーが無理と言うのであれば、再度あなた自身で施策実施し、次の予算獲得のチャンスまで実績を積めば良いだろう。

ただ、獲得単価を無闇に低めに設定される場合は、しっかりと経営層と議論すべきだ。獲得単価を低くすると獲得件数も下がることを、論理的に数値で経営層に示せば良い。もしくは、獲得単価を低くする理由を聞けば、もしかすると自分でも気づかなかった方法を知る機会になるかもしれない。こうやって立ち上げ期のWebサイトに経営陣も深く巻き込むことができれば、結果的にWebサイトの成功への近道になる。

◇◇◇

次回は、立ち上げ期を脱し、成長期に入ったWebサイトを、どうやってさらに成長させるかをテーマに解説しよう。

この記事の筆者

高松 建太郎(たかまつ けんたろう)(文・イラスト)

株式会社クリエイティブホープ Webインテグレート事業部 マネージャー(プロデューサー)。 2000年大手Web構築ベンダーに入社。5年間で数多くのWebサイトコンサルティング・構築をWebディレクター、プロデューサーとして手掛ける。2006年国内最大手賃貸不動産メディアに入社。グループの物件検索サイト全面リニューアルをプロデュース。その後、Webシステム統合プロジェクトのプロジェクトマネージャーを務める。2008年株式会社クリエイティブホープ入社。発注企業側と受託側双方の豊富な経験を生かし、多数の企業のWebサイトコンサルティングおよびその構築で活躍中。

ツイッター:@takamartie
株式会社クリエイティブホープ:http://www.creativehope.co.jp/

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