ソーシャルメディアをやっても次の月から売上がアップするわけじゃない/ハウスウェルネスフーズの場合

ハウスウェルネスフーズのウェブとソーシャルメディアへの取り組みとは?
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PR 2.0の現場から
ネットPR時代を生きる広報&マーケティングパーソンへ

多くの企業ウェブサイトのオーナーが広報部であるというのは、ご存知のとおりです。

従来の広報の仕事に新しくサイトの運営が増えたと同時に、インターネット時代のPR活動としてマスメディアが対象の広報活動からインターネットを通じたあらゆるステークホルダーとのコミュニケーションへの変化にも対応しなければなりません。

広報のプロフェッショナルがウェブサイトのオーナーのプロフェッショナルになるためには、大きな意識改革が必要です。

この連載では、試行錯誤の中、成功のルールを発見しつつある企業の広報担当者から、成功のルールを導き出すまでのプロセスやノウハウをレポートしてきます。

神原 弥奈子(株式会社ニューズ・ツー・ユー 代表取締役社長)

ハウスウェルネスフーズ株式会社
http://www.house-wf.co.jp/

C1000ブランドで親しまれているハウスウェルネスフーズ。武田薬品の食品部門からハウスウェルネスフーズに変わったのが2006年。その新しいスタートにあわせて、同社ではブログを中心にインターネット上でのブランドの認知拡大を図ってきました。その親しみやすいブランドイメージの背景には、お客様と同じ立場と視点でコミュニケーションしてきた“ソーシャルメディアの活用”があります。

今回は、同社のウェブでのお客さま対応全般を担当している営業企画部販売企画グループの丸山佳代さんに、ハウスウェルネスフーズのウェブとソーシャルメディアへの取り組みについてお話をうかがいました。

お客様の生の声を聞く現場の経験が生きています

ハウス ウェルネス フーズ株式会社
営業企画部 販売企画グループ 主任
丸山 佳代 氏

ビタミンレモンと、ちょうど同期なんです」(丸山氏)というように、丸山さんが入社したのはビタミンレモンが誕生した1991年。ビタミンレモンのルート営業、事務、商品開発で調査やパッケージデザインなどを経験した後、お客様相談室の電話受付業務を担当。そのお客様相談室と平行して、1999年からホームページの運営に関わっていたそうです。

(お客様相談室は)お客さまの生の声を聞く現場で、お客さまが言っていることを真摯に受け止めるという経験ができました。お客様相談室での経験がなかったら、ソーシャルメディアでお客様と真摯に向き合うことはできなかったかなと思います」(丸山氏)

マーケティングからお客さま相談室まで経験をしたうえでのウェブ担当。これまでの経験は今の業務にどのように役に立っていますか?

CMを作ることは楽しかったけど、実は何か違和感のようなものがあったのです。その一番の理由は、お客さまの顔が見えないこと。お客様を蚊帳の外において物事を進めている感じがして、それなのに一番大きな金額をつかってもいいのかなって思っていたんですね。

広告の企画制作って『きれいな作品を作りたい』という思いで賞を獲るような作品を作ろうとしがちですが、それよりも、もう少しお客さまの近くで、『ふつうのお客さまにとってどうかな』『意味があるのかな』というところを改めて考えるようになりましたね」(丸山氏)

言葉を整理して出すことができるインターネット

お客さま相談室でお客さまとの電話でやりとりをした経験と、インターネット上でのやりとり。どのような違いがあるのでしょうか?

(電話で)お叱りを受ける場合は、先方が激昂した状態にあるので、真摯に対応してもこちらの気持ちが伝わらないこともあります。話し言葉のときは、一度発してしまった言葉は取り消されないので、緊張感は電話の方がすごくあります。インターネットならば、こちらも言葉を整理して出すことができます。インターネットのほうが、電話よりもお互いに余裕をもってやりとりができる状態にあると思います」(丸山氏)

ときには、メールでのお問い合わせに対してお電話をすることもあるそうです。

すごく怒った文面でメールを送ってこられた方に直接電話をすると、実はそんなに怒っているわけではないということがあるんですね。パソコンで文字を打つことで気持ちの整理がされることもあるようです。(メールを)送ったことで満足をすることもあるのかもしれないですね」(丸山氏)

書くという行為を通じて、お客さまの気持ちに変化が生じる。こちら側も書いたものをレビューできる。そういった“時差”を活用することで、よりよいコミュニケーションができるのかもしれません。

企業とお客さまとの間に“エンゲージメント”はありえない?
ブログもツイッターもまず自分で経験してから
ツイッターで寄せられたエピソードをWEBコミックに
丸山カラーで統一されたネットでのブランドイメージ
ソーシャルメディア担当者に必要なスキルは「話を聞くこと」

企業とお客さまとの間に“エンゲージメント”はありえない?

4月からの新体制における会社からのミッションは、「より広いお客様に自社の情報を受け入れられる形で発信しなさい」ということ。それに対して、丸山さんなりに考えて、自分に課しているミッションは「お客さまと友だちになること」だそうです。

「お客さまと友だちになる」ということは、具体的にはどういう関係なのでしょうか?

『エンゲージメント』という言葉には少し違和感があるので、私は『お友だち』という言葉をつかっています。というのも、私の感覚では、お客さまと企業の間でエンゲージメントはあり得ないと思うんですよ。エンゲージメントって、もっと家族とか親友としてのイメージですね。企業とお客様でエンゲージメントというのは、なんだか怖くて宗教っぽいと私は感じてるんですよ。だから、エンゲージメントじゃなくて、知り合いじゃなくて、友だち

あと、一度友だちという関係になってしまうと、下手なことがないかぎり、嫌われないですよね。友だちなら、言いたくないことも言ってくれるかな、という期待もあります」(丸山氏)

流行のキーワードではなくて、丸山さん自身が活動の中で考えて見つけた「お友だち」というキーワード。そこから、ハウスウェルネスフーズとC1000というブランドの持つ親しみやすいイメージが、自然と伝わってきます。

ブログもツイッターもまず自分で経験してから

現在、ブログを活用したファンページやツイッターでの新しいプロモーションなどに取り組んでいるハウスウェルネスフーズですが、丸山さんの個人のブログ、そしてツイッターでの経験がそのスタート地点となっているようです。

もともとホームページでは、商品情報を拡充するよりも、お客さまが喜んでくれる読みものやコンテンツを増やしていこうと考えて構成していました。お客さまと近いからこそ、メリットのある、楽しんでいただけるものを提供したいという思いがありました。

でも、ホームページにいくらステキなコンテンツやサービスを取り揃えても、お知らせしなければ見に来てもらえない。そのために広告予算をつかうよりは、自ら外に行って知っていただき、お客さまに来ていただければいいと思ったんです。

私がブログを始めたきっかけは、仕事のためです(笑)。ブロガーさんとお付き合いするってどんな感じかを知りたかったんですね。で、自分でブログをやってみたら、ブロガーというのはネタ探しに困るものなのだということに気づいたんです」(丸山氏)

また、ご自身が大好きだったブロガーさんがブログで(少し違和感がある形で)アフィリエイトを始めたことがあり、読者としてすごくがっかりした経験があるという丸山さん。「商品がきっかけで、お客さまのブログの媒体力が下がるようなことがあってはいけない」(丸山氏)という発言に、あくまでもお客さま視点でコミュニケーションを考える信念を感じます。

ツイッターで寄せられたエピソードをWEBコミックに

今日マチ子 × Twitter1000人 きいろいきもち presented by C1000
http://www.c1000days.jp/

この夏にスタートしたC1000ブランド20周年企画のツイッターキャンペーン「きいろいきもち」は、サイトからのお題に対してツイッターから寄せられたエピソードを、漫画家の今日マチ子さんが1枚のWEBコミックとして発表するという、ユーザーとの双方向のコラボレーション企画。「“今日マチ子さんとやりたい!”という思いで、私も直接お手紙を書いて、お願いして、やっと受けていただいた」(丸山氏)という思いの詰まった企画です。

  • 1000人と一緒に作りあげる、たった一つの物語はじまる! ~今日マチ子×Twitter1000人 「きいろいきもち」~が8月18日からスタートします!
    http://www.news2u.net/releases/73698

私すごく不器用なので、自分で体験しないとわからないんです。ツイッターも個人的に始めたのが1年前で、その温度感や他社さんの動きをみながら、やっちゃいけないポイントを整理して、やっと公式に始められたんです。

ツイッターを使った企業と人のコミュニケーションとして、東急ハンズさんや、日産さん、加ト吉さん、NHKPRさんは、よくやっていると思います。そういう他社さんの動きを横目に、ツイッターをツールとして使うキャンペーンができるのじゃないかと、半年くらい考えていました」(丸山氏)

すでにWebサイトでは、寄せられたエピソードから今日マチ子さんが描いたWEBコミックが公開されています。キャンペーン終了の2月までの予定をお聞きしたところ、「実は、1,000人じゃなくて、ずっとやっていく予定なんです。参加してくださった方には、形でお返ししようかなと思っています」(丸山氏)とのこと。これからもお題は続きますので、ぜひみなさんも参加してみてください。

丸山カラーで統一されたネットでのブランドイメージ
ソーシャルメディア担当者に必要なスキルは「話を聞くこと」

丸山カラーで統一されたネットでのブランドイメージ

現在の丸山さんのご担当は「ウェブを使ってお客様とやり取りをする分野すべて」とのこと。ハウスウェルネスフーズのオフィシャルサイト、プロモーションサイト、ソーシャルメディア、キャンペーンサイトの運営からニュースリリースまで、担当しています。

この組織になったのは2010年の4月。以前のマーケティング部から、営業本部になりました。グループの中では、半分が支店の統括と流通対策。そして、全社的なキャンペーンの施策と管理。もう半分が私と4マスのバイイングになります。

現在、広告と売り場の連動性が薄くて、そこで現場と広告とお客さまを1つにつなげて、より強い施策ができないのか。現場の意見を広告に反映させることができないのか、実験的にやっている状況です。

社内での担当は1人ですが、それぞれのサイトは社外にパートナーがあり、管理ややりたいことをお願いする形になっています。外部のファンサイトと関心空間については、自分で企画も考えて、ブラッシュアップしています」(丸山氏)

外部のパートナーもうまく活用しながら、ハウスウェルネスフーズのオンラインでの情報発信や対応をすべて担当している丸山さん。担当者が1人だからこそ、全体のトーン&マナーが統一でき、インターネット上のどこからみてもハウスウェルネスフーズのイメージが崩れないというメリットがあるんですね。

ソーシャルメディア担当者に必要なスキルは「話を聞くこと」

これからソーシャルメディア上のコミュニケーションがより活発になってくることは間違いありません。どこの企業でも担当者の確保、育成は大きな課題だと思います。

丸山さんソーシャルメディア担当者に必要なスキルを聞いてみたところ、まず挙げられたのが「話が聞ける人」ということでした。

(話をしていて)まず否定から入る人や、1つの言葉で自分の理論に持っていく人は、ソーシャルメディア担当に向いていないと思います。ソーシャルメディアは『伝える』メディアではなく『やり取りをする』メディアですから、聞くアクションをできないと、お客さまが求めていることはわからないです。

ソーシャルメディアでうまくやるには、自分が転校生としてクラスに入って来たと思って行動するのがいいと思います。転校生として入ったときに、いきなり全員にアメを配りますか? そうではなく、一人ひとりと会話をしていくなかで、自分の言葉で、お友達作りをしていきますよね? だから、Twitterでまず商品プレゼントをすることはしないし、一方的な情報を投げっぱなしにするのではなく、お客さまと同じ土俵で同じ感覚でお話をする。お客さまと会話を楽しむ、ということだけです」(丸山氏)

ソーシャルメディアに関して丸山氏はさらに「ごくごく一般的な人であれば、誰でもできると思います」と断言。一方で、「仲良くなったからと行って、商品を買ってくれることを期待しちゃいけないんですよね」(丸山氏)と、釘をさします。

ソーシャルメディアをやったからといって、次の月に売上が3倍になるわけじゃないんです。ソーシャルメディアで友だち作りをするのは非常に年月がかかることを理解しなければいけません。ソーシャルメディアへの参加は、短期決戦型ではなくて、企業にとってライフワーク的な行動だと考えなければいけません。一歩一歩お客様と一緒に歩いていくことを、しっかりと長くやっていくものですから」(丸山氏)

従来の企業のマーケティング活動とは異なる時間軸で、しっかりとお客さまと向き合う必要があるソーシャルメディア。その特性をしっかり理解したうえで、企業としての体制を整備していく必要があります。

◇◇◇

「お客さまとお友だちになる」というハウスウェルネスフーズのウェブでのイメージができてきた丸山さん、次の課題は「誰が担当になっても同じクオリティを提供できるようにすること」だといいます。

現在、ソーシャルメディアで成功している多くの企業の課題として「そのスキルが属人的であること」があると思います。ハウスウェルネスフーズについても、これまでの成功を支えているのは、丸山さんの考え方、そしてソーシャルメディア上での“お作法”が合っていたということにあると思います。

では、その成功体験を企業内にナレッジとして蓄積し、汎用性のあるものにしていくにはどうすればいいのでしょうか。

長期的なお客さまとの「お友だち」の関係を維持していくには、徹底したお客さま視点が不可欠です。企業がお客さまとどのようにつながっていたいのか。ソーシャルメディアを通じて、それがはっきりと見えてくると感じます。

この記事の筆者

神原 弥奈子(かんばら みなこ)

1993年株式会社カプスを設立。1995年からウェブサイト制作に関わり、エンタテイメントからITまで、幅広いジャンルのコンテンツの企画・制作に携わる。
2001年株式会社ニューズ・ツー・ユー設立し、同年News2u.net開設。
2010年よりネットPR発想のWebソリューションを提供する株式会社パンセを設立。
現在、株式会社ニューズ・ツー・ユー、株式会社パンセの代表取締役社長。

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