デジマ4つのマイルール

「少年時代の夢」が決め手でJリーグに転職。安定よりも後悔しないキャリアを選んだ理由とは

デジマのキャリアを探る新連載。大手企業からスポーツ業界に飛び込んだJリーグ・マーケティング部の鈴木氏に、仕事やキャリアのマイルールを聞いた。

子どもの頃の夢か、大手企業の安定路線か。キャリアにおいては究極の選択といえるだろう。

キャリアで選択に迷うとき、やりたい気持ちが確実にある。きっと、やらない後悔のほうが大きいだろうと判断し、2つの懸念点があったけれど、なんとかなると割り切り入社を決めました。

こう話すのは、公益社団法人日本プロサッカーリーグ(以下Jリーグ)でマーケティングを担当する鈴木章吾氏だ。

鈴木氏は新卒で日本生活協同組合連合会に入社し、キリンホールディングスと野村総合研究所でマーケティングの仕事をしてきた。そんなある日、鈴木氏はJリーグがマーケティング担当を募集していることを知る。大のサッカーファンである鈴木氏にとって、Jリーグで働くことはいつかかなえたい夢だったのだ。

転職を決意した鈴木氏は、22年にJリーグに入社した。そんな鈴木氏のキャリアや仕事の4つのマイルールについて聞いた。

公益社団法人日本プロサッカーリーグ(Jリーグ) 事業マーケティング本部 マーケティング部 マーケティング担当チーフオフィサー 鈴木章吾氏

人生の転機は突然に。キャリアの選択をどう意思決定したのか

鈴木さんの4つのマイルール

ルール1キャリアの選択で迷ったら「やる」

鈴木氏は新卒で日本生活協同組合連合会に入社し、宅配のEC受注システムの開発や運用を担当。その後、購買データを活用した商品開発や販売促進を経験した。10年ほどが経ち、組織内でやりたい仕事は一通り経験した実感があり、転職を考えはじめる。そんなときに転職サイトで見かけたのが、大手飲料メーカーのキリンホールディングスの求人だった。

2017年当時、キリンは大手消費財メーカーの中で、デジタルマーケティングやデータ活用が進んでいる組織でした。せっかく転職するなら大きなフィールドに身を投じて、自分の成長を追い求めたいと考えました(鈴木氏)

キリンホールディングスで2年ほど経験を積んだ後、幅広い業界のBtoCのマーケティングや新規サービス開発を担当することに興味をもち、転職エージェント経由で野村総合研究所(NRI)に転職する。それまでは事業会社でのキャリアを積んでいたが、NRIではクライアントのマーケティングを支援するコンサルタントを経験。仕事にも慣れ、長く働き続けようと思っていた矢先、鈴木氏に転機が訪れる。

Jリーグがマーケティングポジションを募集していると知ったのだ。

幼い頃からJリーグのサポーターで、大学時代は鹿島アントラーズのオフィシャルショップや県立カシマサッカースタジアムでアルバイトをしていたほど。いつかサッカーに関わる仕事をするのが私の夢で、ポジションも自分のキャリアにぴったり。運命的なものを感じ、応募せずにはいられませんでした(鈴木氏)

Jリーグから内定が出たものの、決断までは大いに迷ったのだという。その理由は2点ある。1つは、これまで大手企業に勤めていたので、安定路線を捨てる決断に勇気が必要だったこと。チャレンジしたい想いはあったが、家庭や子どもの将来などを考えると即断できなかった。2つめは、その時点ではスポーツ業界に飛び込んだ先のステップが見えにくいことだった。

鈴木氏は、最終的にどのような意思決定によって、Jリーグへの転職を決めたのだろうか。

キャリアで選択を迷っている時点でやりたい気持ちがある。自問自答する中で、これまでのキャリアにこだわらず夢を追いたいという思いが強くなりました。「次のステップが見えにくい」という懸念は、裏を返せば同じようなキャリアを経験する人が少ないともいえる。ならば、自分のキャリアにとっても間違いなくプラスになるだろうと発想を転換しました。最終的には、やらない後悔のほうが大きいだろうと判断し、覚悟を決めてJリーグに転職しました。入社後は、確かな手応えを感じながら、新しいチャレンジを楽しんでいます(鈴木氏)

これまでのキャリア

スポーツは生もの! 機動力の高いチームの作り方

ルール2メンバーが能動的に動けるよう、確定前の施策も「予告」

Jリーグのマーケティング部は、ファン・サポーターの拡大を目的とした「toCマーケティング戦略」の設計と実行を担当する。具体的には、大規模なプロモーション施策や戦略設計、公式アプリなどのCRMに関わるプロダクト開発などだ。

鈴木氏がJリーグに入社して実感したのは、これまでのマーケティングとの違いだ。

スポーツは生ものです。世のトレンドや週末の天気にもスタジアムの動員数は影響を受けます。動員数などのKPIはワールドカップやWBCなど大きなイベントを加味して何カ月も前に立てますが、予測通りにいかないことが多いです。そのため、事業計画は細かく立てすぎず、余白を残すことを意識しています(鈴木氏)

実際に、日本代表が活躍した22年のFIFAワールドカップ(以下ワールドカップ)の後にサッカーへの関心度は高まり、23年のWBC直後は野球への関心度があがったことも肌で感じた。こうしたトレンドや流れを察知したら、メンバーと共に議論やアイデア出しを行い、施策の打ち出しの強さやタイミングを直前に変更することもある。

Jリーグのマーケティング部は10名と非常に少数精鋭の組織です。この体制を生かさない手はない。大きな組織では直前に施策を変えることは難しいですが、今の組織なら前日や当日でも変更できる。機動力は相当高いです(鈴木氏)

さまざまな企業でマーケティングをしてきた鈴木氏が、業種や企業が変わっても大事にし続けているルールがある。

未確定でやらない可能性のある施策でも、周囲に予告するようにしています。決定事項になってから伝えるのでは準備不足になったり、メンバーが能動的に動けなかったりすることがあるからです(鈴木氏)

予告されることによってメンバーは心のスタンバイができる。予告しておいたものの、結果的にやらなかったときには「ごめん」と伝える。このルールはこれまでの組織でも効果を発揮していて、メンバーや外部のパートナーの意識が、受動から能動に変わることを何度も実感したのだという。

鈴木氏のこれまでの人生において、Jリーグは大きな影響を与えてくれた存在。

ルール3ロジカル・エモーショナルのどちらも大事にする

鈴木氏のこれまでキャリアは、デジタルやWebに関連したマーケティング経験が長かった。そのため、Jリーグでは重要なリアル体験やマスでの露出を、置き去りにして施策やサービスを考えてしまう自分にも気づいたのだという。

私はどちらかというと理詰めで進めていく傾向があり、調査結果などからロジカルに判断しがちです。しかし、サッカーを観戦した満足度にはさまざまな要素が関連します。応援したチームが勝つか負けるか、天気がいいか悪いかなど、ロジックでは解明できない部分が多い。また、ライトなファンがスタジアムに行きたくなるにはエモーショナルなアプローチが必要です。ロジカルとエモーショナルという、相反する要素のバランスが大事だと思いました(鈴木氏)

一人でロジカル・エモーショナル両面をカバーするのは難しいと考えた鈴木氏。専門ではないエモーショナルな部分をカバーするため、有識者や組織内でエモーショナルな施策が得意な人をプロジェクトに入れるようにした。

また、Jリーグのマーケティングにおいては、コアな既存ファン向けの施策と、新規ファンを取り込む施策を明確に切り分ける必要がある。

たとえば、Jリーグは開幕から今年で30周年を迎え、41都道府県60クラブにまで拡大しているという事実を、新規ファンはほとんど知らない。まずはそこからコミュニケーションをスタートさせる必要がある。

2022年の年末から23年の前半にかけてはワールドカップの熱狂があったばかりなので、「ワールドカップに出場した選手たちは、Jリーグで成長し巣立っていった」という打ち出しをしました。さらに、プロモーションにはライト層にも知名度のあるワールドカップ出場選手を起用しました(鈴木氏)

サッカーにおいてはスタジアムがサポーターの熱量の発信源であるため、「いかにスタジアムに来てもらうか」を重視している。そのため、23年のゴールデンウィーク期には全国で14万人を招待する過去最大規模のキャンペーンを展開している。こうしたキャンペーンによって、多くの新規ファンがスタジアムを訪れ、その後も3割程度の方がリピート来場しているという成果が出ている。

一方、コアなファンにとってのサッカーは、趣味の一つではなくライフスタイルや価値観に大きな影響を与えるくらい大きな存在だという。

今年(23年)はJリーグ開幕30周年の節目です。『昔、Jリーグを観に行ったな』『両親がサッカー好きだったな』など、過去を思い出してもらうようなコミュニケーションや仕掛けも考えています(鈴木氏)

Jリーグは2023年5月15日で開幕30周年。その施策について語る鈴木氏。

定性と定量の両面から、データを捉えられる面白さ

ルール4ときには自分の信念や勝ちパターンを捨てる

Jリーグでデジタルマーケティングに携わる面白さややりがいについて、鈴木氏に改めて聞いた。

Jリーグは熱量の高いファンベースの組織なので、キャンペーンを告知したら、即座にTwitterで「これ、いいね」とコメントがあるなどリアクションがリアルタイムでわかります。こうした定性的な反応と、実際にチケット購入や来場につながったかという定量的なデータの両面をとらえられることが面白いです。サポーターの愛が深いゆえに、新しい打ち出し方をするときは、サポーターの反応を想像しすぎてフラフラになることもあります(笑)(鈴木氏)

鈴木氏はJリーグに入ったことで、マーケティングの手段がデジタルだけではないことを実感した。強引にデジタルで解決したり、やり切ろうとしたりする自分からも脱却しつつあるのだという。最後に、今後どんなデジタルマーケターでありたいか、鈴木氏にうかがった。

「理論と実践」「ロジカルとエモーション」など相反する要素のどちらかに偏らず、ときには自分の信念や勝利の方程式、勝ちパターンですら変えられる、臨機応変で柔軟なマーケターでありたいです。多様な価値観をもち日々変化していく人たちに、機動力高く対応するために必要な心構えだと思っています(鈴木氏)

再掲:鈴木さんの4つのマイルール
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