BtoBマーケティング最前線

「AIにデータを取り込んでも、当たり前の結果しか出てこない」データ活用のよくある失敗

「データ分析したらLTV向上アイデアが見つかるかも知れない」「1to1コミュニケーションをとれば、LTVが向上するかもしれない」そんな失敗事例を多数紹介します。
  • 顧客データをしっかり分析したら、LTV(顧客生涯価値)向上のアイデアが見つかるかもしれない
  • データを使って顧客と1to1コミュニケーションをとれば、LTVが向上するかもしれない

と、淡い夢を見ている経営者やDX(デジタルトランスフォーメーション)担当者は多くいらっしゃることでしょう。

社内に散らばっているデータを統合し、分析したくなる気持ちはわかります。しかし結論から言えば、意図せず社内にたまっていたデータを後から活用しようとしても、うまくいくケースはほとんどありません。失敗事例から、その理由を紐解きます。

LTV(ライフタイムバリュー)の罠』(著:垣内勇威氏 出版:日経BP)

データを統合しても、当たり前な結果しか出てこない

はじめに、あるBtoB企業の事例を紹介します。

AIで商談や受注につながりやすい顧客リストを作成 → 失敗に終わる

この会社では「インサイドセールスチーム」の発足に伴い、AIを使って「商談や受注につながりやすい順番に顧客リストを並び替える」というトライアルを始めました。過去の取引データとWebサイト閲覧データをインプットし、顧客をスコアリングするというシンプルな仕組みです。AIを使った取り組みということで、経営陣をはじめ、全社の期待を集めたプロジェクトでした。

しかし結果は極めて残念なものでした。AIによって出力された顧客リストは、「過去の受注金額が大きい会社」か「企業規模が大きい会社」を上から順番に並べたものと大差なかったのです。何度か調整を加えても有益なリストを得ることはできませんでした。これならAIなど使わなくても、手動で並び替えができてしまいます。

失敗の原因は、「データの不足」です。営業担当者が過去の取引履歴をしっかりデータ入力していなかったため、企業名と受注金額くらいしかわからない顧客リストが散見されたのです。それに、営業担当者が接触した時とWebサイトを閲覧した時しか顧客接点がなく、顧客の状況をリアルタイムに把握できるデータもありませんでした。

RFM分析でも起こりがちな失敗例

こうした失敗はBtoCビジネスでもよく起こります。たとえば、ECサイトでRFM分析をおこない、優先度の高い顧客にクーポンを付与するようなシーンです。RFM分析とは、Recency(最近の購入日)、Frequency(購入頻度)、Monetary(購入金額)の3つの指標で顧客をランク付けする有名な手法です。RFM分析でも、「去年はたくさん買っていたが、今年は全然買っていない顧客にクーポンを送ろう」くらいの自明な施策しか出てきません。

このようにデータの量と質が不足した環境では、人間の経験論に勝る結果は期待できないのです。

無理やり「カスタマイズメール」を送って無駄が増える

また、「顧客データを活用して1to1コミュニケーションをとり、LTVを向上させよう」ともくろむケースもよくあります。

1to1コミュニケーションは、「対人接客」においてその真価を発揮します。たとえば、既存顧客から電話がかかってきたら、契約内容と対応履歴、適切なアップセル方針まで瞬時に画面へ表示させる、といった使い方です。

一方で、デジタル上の1to1コミュニケーションは失敗しがちです。一番良く見かけるのは、無理やりターゲット別にカスタマイズしたメールを送り工数が肥大化するケース。「マーケティングオートメーション(MA)ツールを使って、お客さま別に最適化したメールを送る」と言うと聞こえがいいので、浅はかな意思決定者ほど安易にGOサインを出しがちです。しかしこれは、工数と制作費用を空費する、無駄な施策の典型例です。

旅行会社のメール失敗例

ある旅行会社において、MAツールを導入したときの事例を紹介します。「ツールを使いこなせ」というミッションを与えられた担当者は、次々とメールの種類を増やしました。最初に追加したのは「過去に京都旅行を購入した人に、京都の特集記事をメールする」という地域別の施策です。残念ながらこれは失敗に終わりました。一斉配信で全員に京都特集を送ったときと比べて、開封率や申込率がまったく変わらなかったのです。ならば人数を絞らず一斉配信したほうが大きな成果が得られます。誰に送っても同じような反応しかない無難なメールを、特定のユーザーに送っても効果がないという典型的な失敗パターンです。

さらにこの企業では、「過去に京都旅行を購入した人が、自らWebサイトに訪問して京都のページを見たら、京都の特集記事をメールする」という施策に取り組みました。申込確度の高いユーザーに絞るために条件を追加したのです。しかしこちらも、配信できる数があまりに少なく失敗しました。たとえ顧客データがたくさんあったとしても、条件を細かく絞り過ぎては配信ボリュームが出ないという、これもまた典型的な失敗パターンです。

カードローン会社の1to1失敗例

また、顧客に合わせてWebサイトに表示するコンテンツの並び順を自動で出し分ける施策も、成果が出ることは非常にまれです。あるカードローンの会社では、ランディングページに出す情報を数十通り用意し、過去の閲覧履歴に応じて出し分けていました。しかし残念なことに、すべてのパターンを検証したものの、成果の差はまったく出ませんでした。カードローンの訴求は、大ざっぱに言えば「お金を素早く借りられる」ことに尽きるため、コンテンツを数十通り作っても大きな差が出ないのです。さらに閲覧履歴データだけでは、顧客の深いニーズを探ることができません。

 

もちろん、1to1コミュニケーションが成果につながるケースもあります。「今まさに購入を検討しているユーザーに最後のひと押しメールを送る」「特定の顧客にだけクーポンを配り、コストのばらまきを避ける」といった施策は有効です。しかしこれらはいずれも狙いが明確であり、用いるべきデータも明確です。

とりあえずたまったデータと、とりあえず導入したツールがあるからという理由で、無理やり1to1コミュニケーションを取ろうとすると失敗するのです。

ゴミのようにたまったデータは、分析してもゴミのまま

ここまで紹介してきた失敗事例のように、とりあえず社内にたまっていたデータを統合して分析・活用しようとしても、データの質と量が足りないが故に、うまくいかず途方に暮れます。

その結果、「どうせ活用しないのなら、わざわざデータを集めなくても良いのでは」と思う人が増え、頑張って統合した顧客データは再び散らばり始めます。そうなればまた「顧客データ統合プロジェクト」の機運が高まるという、負のサイクルに陥ります。顧客データ統合を主導するシステムベンダーだけが何度も稼げる構図が完成するのです。

顧客データ統合の失敗サイクル

本気でデータを活用したいのであれば、偶然たまっているデータだけでなんとかしようとするよりも、必要なデータを新たに集めるほうがはるかに効率的です。

しかしそのためには、 全社一丸となって「顧客データを集めること」にフォーカスする社内文化の醸成が欠かせません。営業担当者は商談履歴をすべて記録し、マーケティング担当者はメールやサイトを充実させて顧客接点を増やし、広報担当者は社内外で起こっている大きな環境変化を記録し、それらの顧客データを統合できる会員基盤を作らなければならないのです。

LTV向上の一手を「失敗事例」から学ぶ

2023年7月現在、「LTV 成功事例」で検索しても、サブスクの事例と顧客管理ツールの宣伝しか出てきません。あらゆる業種における成功事例が見当たらないのは、LTV向上に取り組んではみたものの成果が見いだせず、静かに葬り去られているプロジェクトが多いからでしょう。

拙書『LTV(ライフタイムバリュー)の罠』では、LTV向上に取り組むためのフレームワークの紹介に加えて、大量の失敗事例を紹介しています。過去に学び、「我こそは成功事例を作りたい」という方は、ぜひご覧ください。

LTV(ライフタイムバリュー)の罠』(著:垣内勇威氏 出版:日経BP)

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