Web解析のためのKPI大全

全員に50項目ものKPIを送りつけてはいけない

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全員に50項目ものKPIを送りつけてはいけない

組織の中での役割とビジネスモデルに応じた、指標選びのガイドラインは、以上に挙げたものと、4章で詳述するものがある。経験上、KPI設定にあたり、非常に重要なことがる。

いかなるKPIレポートにも、手に余る量の指標は不要。最大でも、10個。

このことを何度となく言ってきたが、30個もの指標のKPIレポートを作成する人が後を絶たない。指標の多さについて指摘すると、「経理の誰かが使うかもしれないので・・・」「みんながこの数字に慣れるように、いつも入れているのです」などといった答えが返ってくる。

いかなる規模・種類のビジネスにおいても、「データはあふれている」という事実があり、それを解消するためにKPIは存在する。それなのに、不適切なデータを含んだ巨大なエクセルシートが、価値を生み出すことができるだろうか。その答えは「不可能」である。KPIの選定に際しては、以下に挙げる3つの簡単なガイドラインに沿ってもらいたい。

  1. 階層的に ―― 「KPIの階層的モデル」に関するガイドラインに沿って、受取人が自分のグループ、部署、事業部、商品ラインに直接影響を与える指標だけを理解すればいいようにすること。
  2. 集中的に ―― エクセルシート1枚に収められる程度に、簡潔にまとめられるようにすること。包括的なデータよりも、より具体的なデータを盛り込んだ方が、きちんと見てもらえる。
  3. 提案に対してオープンに 指標の妥当性や有用性に少しでも疑問を感じたら、KPIレポートを受け取る人に、その指標が10%変動したらどういう行動を取るかを尋ねてみること。十分な回答が得られなければ、その指標をレポートから除外してかまわない。

せっかく綺麗なKPIレポートを作っても、冗長で、妥当なデータが少ししか入っていないレポートは、結局誰にも見てもらえないこともある。半年後に泣きつきたくなければ、上記のアドバイスを検討してほしい。

KPIはどのように使われるべきか?

KPIの最適な使い方を、2つの例で説明しよう。

  • 例1) Webサイトのシニアマネージャーが、1週間の仕事をスタートする。メールを開き、当該週、その前の週、1か月前の1週間の3つの指標を比較したKPIレポートを読む。値を確認すると、重要なKPIはすべて改善傾向であり、問題はすべて既知のものである。レポートを閉じて、忙しい一日の仕事に着手する。
  • 例2) Webサイトの上級マネージャーが、1週間の仕事をスタートする。メールを開き、当該週、その前の週、1か月前の1週間の3つの指標を比較したKPIレポートを読む。レポートはどこも真っ赤である。コンバージョン率は著しく下落し、1人当たり収益は23%も減少。原因は、最近立ち上がったキャンペーンに関係があると考えたため、担当者に連絡し、建設的な議論を始める。

どちらのケースでも、Webサイトをビジネスのチャネルとみなして、その日・その週をどう乗り切るかという、迅速な意思決定ができた。1人目のマネージャーは、個々の項目に関する細かいことは、個々の担当者に聞けば大丈夫だと認識して、そのまま一日の仕事に移った。2人目のマネージャーは積極的に動いて、早急にミーティングを設定し、問題を明らかにして解決の方法を議論する必要があった。彼のチームのメンバーが同じレポートを読んでいるとすれば、急な召集にも何ら驚くことなく、すぐに反応する用意ができているのが望ましい。

KPIは、人々とWebデータやとるべきアクションとの関係を簡単にするためのツールである。データを使わないアナリストは、自身にとって使いやすい形式のみでデータをもらえるので、KPIを使うことで、より短時間で業績を評価し、適切に反応できる。言い方をかえれば、分厚いレポートを送ると、ほとんどの人はそのうち注意を払わなくなる。

KPIは、社内や会議におけるデータの共有にも役立つ。全社員が同じレポートを見るべきであるため、ミーティングである参加者だけが「(指標選択、測定期間、計算などが)誤った」データを見ている、ということがない。毎週同じレポートを見ていれば、それが定着し、共有知となる。こうして、足並みをそろえて1つの問題を考え、解決に向けてともに行動できる。

KPIにどのように反応したらいいのか?

アクセス解析にKPIを用いるべき唯一の理由は、オンラインチャネルを最適化するように組織を動機づけることである。組織が積極的にデータを活用しようと思わない限り、労力をかけたKPIレポートも、組織のメンバーに対する提供も、何の助けにもならないのである。

最近の私の研究で、アクセス解析に対する投資についてどのように考えるべきか、非常にシンプルな事実を発見した。そのアイデアとは、成功するためには単に計測技術に投資するだけではいけないというとだ。もちろん技術やその技術を使う人に投資しなければそもそも成功しない。しかし、それらの投資のまわりにしっかりした運用プロセスを構築しなければ失敗する確率が高い。KPIを使用することはこのプロセスを作る最適の方法だ。もちろん、組織がこのようなことに興味をもっていなければ、ただのレポートだけが作られるだけでその組織に重要な影響を与えることはできない。

さて、こうした枠組みの中で、KPIレポートを受け取った人は、どのような反応をすればいいのだろうか?簡単には言えないが、たとえば私のビジネス(本を売ること)を測定するKPIの1つが低下したら、私はどこが悪くてなぜ悪いのか、すぐに理解しようとする。どのKPIが悪化しているかによっては、多少は迅速に、問題点に集中できる。収益関係のKPIをまず参照し、それ以外のKPIはあとから参照する。その理由は、私は自分のオンラインビジネスを可能な限り成功させたいと思っており、KPIはビジネスの目的とビジネスの成功に直結するものであるからだ。

これこそが、肝に銘じておくべき重要なことである。KPIはあなたのビジネスの成功に直結しているのである。あなたの人生における成功が、ビジネスにおける成功と密接に結びついているのなら(ほとんどのビジネスパーソンがそう考えているが)、なおさらKPIに特別な注意を払うのが合理的である。これらの指標がただの数字ではなく、組織がどれだけ成功しているのかを示す数字だということ折を見て人々に意識させること必要がある。このような行動が、オンラインチャネルの最適化をめざして丁寧に活動しなければならないという組織の意識を高めることになることを願う。

業種特有の指標について

Bob Pageという、指標を熟知した優秀な人間が、あるコメントをくれた。私が提示するKPIリストには、業種特有のKPIが1つもない、というのだ。たとえば、オンラインメディアサイトにおける「ストリーム完了率」や、不動産のオンライン販売サイトにおける「約定率」などの指標である。Bobは大変いい指摘をくれた。

本書に挙げているKPIのリストは、すべての業種の特徴をふまえたものであるというわけではない。しかし、KPIを使い始める際のガイドラインとしては有用だと思うし、業種特有のKPIをどのように定義し、どのようにレポートするかを理解する助けにはなるはずだ。あなたの作成したKPIのリストに対して、「そのリストはよさそうだが、私の仕事に必要な指標が抜けている」というコメントをもらったら、何が足りないのか、それはどこで入手するのか、KPIレポートにどのように盛り込むべきかを尋ねてみよう。それが組織内で十分認知されており、行動につながるものであれば、おそらくKPIとして良い選択であろう。

そして、あなたの考えた業種特有のKPI指標は、本書をより良いものにするために、ぜひ聞かせていただきたい。

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