[マーケターコラム] Half Empty? Half Full?

なぜ無脂肪乳のフラペチーノをホイップ大盛りにしてしまうのか? 人の不合理な行動をオルタネイトモデルで読み解いてみる

マーケターによるリレーコラム、今回は瀬川義人氏。マーケターはどのように「不合理そうな合理」に向き合うべきかを解説します。
 

みなさん、こんにちは。
岐阜でB2Bマーケティングの仕事をしている瀬川(@motoy0shi)です。

以前に、私が某カフェを訪れたときの出来事です。店内で女性がフラペチーノを注文していました。「〇〇フラペチーノをください。無脂肪乳でお願いします」。そしてその後、一言付け加えました。「あの、ホイップを増量してもらえますか?」

そのとき、僕は思ったのです。
「無脂肪乳なのに、ホイップを増量するってどういうこと?」

普段暮らしていると、このような一見矛盾する選択をよく目にします。一方で、こういった不合理な行動は、本当に不合理なのでしょうか。もしかしたら、私たちが気づいていない「合理」が隠されているのでしょうか。

人の心理がどのように動いているかを知ることは、マーケティングの仕事においてとても重要です。

そこで今回は、顧客理解のフレームワークである「オルタネイトモデル」を使って、人の不合理な行動の裏にある心理を読み解き、マーケターが不合理な行動に対してどのように向き合うべきか、考えていきたいと思います。

身の回りにたくさんある不合理な行動

一見、合理的に生きていそうな私たちですが、思い返してみると、たくさんの不合理な行動があるのではないでしょうか。

  • ダイエットをしているのに、つい高カロリーなデザートを選んでしまう。
  • 節約を決意していても、衝動買いしてしまう。
  • 期限が迫っている仕事があるはずなのに、ついSNSを見てしまう。

先ほどのフラペチーノの例もまさに矛盾しているように見えます。フラペチーノを無脂肪乳に変更するのは、カロリーを減らしたいから。でも、ホイップを増量することで、カロリーは減るどころか、むしろ増えているかもしれません。

これらの不合理に見える行動は、本当に不合理なのでしょうか。

不合理な行動の裏には、その人にとっての「合理性」がある

一見、不合理に見える行動。しかし、その人の立場に立って考えてみると、その人なりの合理性があることが見えてきます。

たとえば、健康を意識しているのに、高カロリーなデザートを選んでしまう場合。その人の立場に立ってみると、こんな思考が見えてこないでしょうか。

普段は健康を意識して、低カロリーな食品を選んで買いがち。でもそのせいで、本当に食べたいものを我慢しているので、小さなストレスが溜まっている。あるとき、仕事で小さなミスをして、凹んでしまった。今日ぐらいは、自分への慰めとして、美味しいデザートでも買って食べよう……。

言い換えると、健康的な生活を送りたいという文脈(コンテキスト)においては、高カロリーなデザートは避けるべきですが、頑張っている自分を慰めたいという文脈においては、デザートは受け入れられるのです。

こういった不合理そうな行動をより深く理解するために便利なのが、「オルタネイトモデル」です。

オルタネイトモデルとは?

オルタネイトモデルとは、芹澤連氏が著書『“未”顧客理解』(日経BP、2022年)で提唱している顧客理解のためのフレームワークです。

芹澤氏によると、人の行動は4つの要因で決まります。

  • きっかけ:「その行動は、どんな状況で起こったのか?」
  • 欲求:「その行動は、どんな欲求に根差しているのか?」
  • 抑圧:「その行動は、どんな制限や条件付けを受けているのか?」
  • 報酬:「その行動をすると、どんな良いことがある(悪いことが起きない)のか?」

行動には、まず「きっかけ」があります。「きっかけ」があった後、本能的な反応である「欲求」が起こります。ただその欲求のまま行動するわけでなく、社会性や理性がその欲求にブレーキをかける「抑圧」が起こります。「欲求」と「抑圧」の間で揺れ、最終的に「報酬」が最大化するように、起こす行動が決まるのです。

思い返すと、私が愛用しているMacBook Proを購入したときも、似たような思考をしていました。

数年使っていたMacBook Proが限界に感じていた矢先、新製品が発売されました(きっかけ)。

Apple信者である私としては、新製品を紹介するWebサイトを隅々まで見て、どうしても買いたいと思いました(欲求)。

一方で、高額な出費になるため、心の中では「本当にそんなに高いものは必要?」という声が聞こえてきます(抑圧)。

目を瞑って、買った後の自分を想像しました。「これがあれば、仕事はもっと捗るし、ワクワクした毎日が過ごせるに違いない」(報酬)。

最終的には、「これは自分への投資なんだ」と言い聞かせて、MacBookを購入しました(行動)。

まさに「欲求」と「抑圧」の中で揺れて、MacBookを買っていたのです(笑)

オルタネイトモデルを使って不合理を読み解いてみる

では、冒頭のフラペチーノを買った女性はどのように思考したのか、オルタネイトモデルを使って解釈してみたいと思います(実際に聞いたわけではないので、私の想像です)。

普段の場合

ふとSNSで、新作のフラペチーノを紹介している友人の投稿を見かけたとします。

心境としては「新作が出たんだ。せっかくだから飲んでみたい」という欲求が生まれます。なんなら、大好きなホイップクリームも大盛りにしたい。ただ最近、外食も多かったし、カロリーが高そうだから、今日は控えたほうがよいかなと抑圧が起き、フラペチーノを飲むのを我慢するという行動をとります。

我慢することで、健康に気を遣っている自信をさらに持ちます。

 

仕事で疲れている場合

ふとSNSで新作のフラペチーノを紹介している友人の投稿を見かけたとします。最近ずっと忙しかった仕事も、ようやくひと段落しそうです。せっかくだから、頑張った自分に何かプチご褒美を与えたいと考え、投稿で見かけたフラペチーノを飲もうという欲求が生まれます。せっかくだから、ホイップも増量したい。

カロリーをとるのは罪悪感がありますが、頑張った自分を労ってあげたい。それなら、無脂肪乳に変更すれば、カロリーも自分の罪悪感も減らせそうです。

結果的に、無脂肪乳のホイップ大盛りフラペチーノを飲んで、「仕事を頑張る自分って偉い。明日からも頑張ろう」と思ったのでした。

 

こう見てみると、欲求と抑圧の間を揺れて、人の行動は決まっています。一見外からは不合理な行動のように見えても、本人にとっては「合理的」な行動なのです。

マーケターはどのように「不合理そうな合理」に向き合うべきか?

では、マーケターとしてはどのように「不合理そうな合理」に向き合えば良いのでしょうか。

先ほどのフラペチーノの例で紹介したとおり、人の行動は文脈で大きく変わります。だからこそ「ん?」と、一見理解できない行動を見かけた際は、どういった文脈にいるのかを見定めることが重要です。

  • どういった文脈に置かれているのだろうか?
  • どういった欲求があるのか?
  • どういった抑圧が働いているのか?

こういった視点で観察してみることで、より顧客への理解は深まるのではないでしょうか。

そして、顧客の理解が深まれば、逆にその「不合理そうな合理性」をマーケティング施策に生かすことができます。

先ほどのオルタネイトモデルを見てみると、アウトプットとしての行動は、顧客にとっての報酬(=ベネフィット)が何であるかによって決まります。すなわち、適切な文脈において行動したくなるベネフィットを訴求できれば、行動をとる確率は上がると言えます。

その文脈とベネフィットを発見することが、新しい顧客を創造する糸口になるのではないでしょうか。

おわりに

この記事では、オルタネイトモデルを使って、一見不合理な顧客の行動の裏にある合理性を見てきました。不合理な行動に見えても、ある文脈においては、きちんとした合理性があることがわかります。そしてその合理性を理解することが、新しい顧客を生み出すきっかけになるはずです。

なお、この記事ではオルタネイトモデルについてあまり深く触れられませんでしたが、『“未”顧客理解』ではより詳しく解説されているので、興味を持った方はぜひ読んでみてください。

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