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「マーケターの生存戦略は希少性を磨くこと」Moonshot代表・菅原健一が考えるマーケター向け講座とは

経営アドバイザーのすがけんこと菅原健一が考える「働き方」「経験値」そして「Web3」。

経営アドバイザーのすがけんさんこと菅原健一さんが代表を務める「Moonshot」が今年7月、4周年を迎えました。

5年目を迎え、活動の幅を広げるすがけんさんのツイートを見ていたら、「海外ではBizDev/Marketingに変わりただのマーケターはきつい」という投稿を発見しました。

「ただのマーケターはきつい」とはどういう意味なのか?この際、すがけんさん主宰の若手マーケター向け講座「マーケピザ」をMarketing Nativeで久しぶりに開講していただこうと思い、お話を聞いてきました。

(取材・文:Marketing Native編集部・早川 巧、撮影:海保 竜平)

そのポジションは適切か、会社と働き方の再確認を

――すがけんさんの7月のツイートが気になって、お話を聞いてみたいと思っていました。「マーケは海外ではBizDev/Marketingに変わりただのマーケターはきつい」とありますが、具体的にどういう意味ですか。

https://twitter.com/xxkenai/status/1547054879213924353?fbclid=IwAR3ik3hsrrepkAjnDc6IZWSAB_sdqa4NwObfaEfp02rGvwOgKx1JuhBj1Mw

ただ商品を一方通行で売っていた時代から、サブスクリプションやSaaS、D2Cをはじめ、ビジネスモデルも多様化してきました。それなのに、いつまでも「自分はマーケターだから、プロモーションの仕事しかしません」「商品づくりには関与しません」では通用しなくなるから、マーケターもサービスをつくる側の関与者になろうという意味です。

そう言うと、諸先輩方から「そもそもマーケティングの4Pには、ProductもPriceもある」とご指摘を受けることもあるのですが、実際にはまだ「テレビCMを打つのが仕事」と考えているマーケターもいらっしゃいます。そうではなく、これからのマーケターはサービスをつくる側にも関与していないと、できることが限られていって厳しくなる可能性がありますよ、というメッセージです。

――とはいえ、自分1人で「プロモーションだけでなく、BizDevにも関わりたい」と言ったところで、社内のマーケティングの部署がプロモーションのみを担当するところであれば難しいですよね。

いい質問です。少し古いのですが、レンタルDVD店とNetflixの例えを挙げます。自分が今マーケターとしてレンタルDVD店に所属していたらどうしますか?頑張ってレンタルDVDの人気が復活するように努力しますか?そうではなく、レンタルDVD店を辞めて、Netflixのような業態の会社に行きますよね?マーケターなのに、自らポジショニングを間違えた会社に所属しているとは、滑稽だと思いませんか。

――なるほど、そうですね。

そうですよ。だから自分がこれから素直に伸びる領域に所属しているかどうかを再点検したほうがいい。規模の大きさや伝統という軸ではなく、現時点で考えて今後10年、20年、あるいは100年先まで伸びる、もしくは伸びる余地がある会社なのかをまず見極めるのが先ですね。

――マーケターとして、BizDevにも関わりたいなら、そういう経験を積める会社にまず身を置くべきだ、と。

例えば、私がスマートニュースにいたときは、セールスとマーケティングの両方を見ていました。そうするとやはり「サービスを変えてマーケティングしよう」「マーケティングしてわかったことでサービスを変えよう」と打ち手の数が増えて、良い循環が生まれます。その2つが分かれていると、セールスは「マーケティングが悪い」と言い、マーケティングは「プロダクトが変わらない限り、マーケティングしても意味がない」と責任の押し付け合いになりがちです。部署ごとにKPIが違って、仲良くない会社が多いですから。

――だからマーケターはBizDev/マーケティングを担い、CMO的な立場で横串の提案ができる存在を目指すべきだということですか。

そうですね。だから私もMoonshotでは、社長としか仕事をしないと決めています。なぜかというと、セールスの調子が悪いときはセールスをテコ入れする必要があるし、マーケティングがイケてないときはマーケティングを変える必要があるからです。また、本当に改善が必要な場所は、相談が来たところとは異なる可能性もあります。部署を超えた改善提案をするためには、社長に直接動いてもらえる立場にいることが大切です。マーケターもプロモーションだけではダメで、事業、あるいはプロダクトの開発にマーケティングの知見やリサーチしたデータをもって関与できるような存在を目指すべきだと思います。

毎日の生活でビジネスモデルを意識し、思考する訓練を

――そんなマーケターになるために、身に付けたほうがいい能力やスキルなどはありますか。

ビジネスモデルを考えるスキルは重要です。「ビジネスモデルの勉強をする」というと堅苦しいですが、その前に一人の消費者として「自社のプロダクトはお客さまにとって、良いサービスを提供しているか」「自分が消費者なら自社のプロダクトを使いたくなるか」と考えてみるのが大切です。消費者はプロダクトを選ぶ際、企業から来たメールやテレビCM、広告を見比べたり、Webサイトを訪問して試供品を取り寄せたりしながら、競合他社と比較検討して購入を決断します。それなのに、マーケターがそうした努力を怠っているのでは、進化する顧客のニーズを捉えられるわけがありません。

まして自社のプロダクトがレンタルDVD店の例にようにイケてるサービスを提供できておらず、それでも「売らなければ」「CPAを安く抑えなければ」と頑張ってしまうのは、素直に良い商品だから買いたいと思っている消費者を騙していることになり、大げさに言うと「悪」に近いと思います。そんな場所に身を置いていて良いのかを考えたほうがいいですね。

ビジネスモデルについては、毎日の買い物の際も考えることは可能です。例えば、なぜ今日もスターバックスコーヒーを買ってしまったのか、なぜ今日はスタバではなくセブン-イレブンのコーヒーにしたのだろうかと、つい自分がしてしまった何気ない消費行動について、言語化できるように考えてみるのも1つの方法です。前から気になっていた新作の発売日だったのか、SNSで見たのか、Instagramに画像や動画を上げたかったのか、通勤途中でたまたま飲んでいる人を見かけたのか――いろんな選択肢がある中で消費者はなぜそれを選んだのか、視野を広げつつ思考を深めていくとビジネスモデルを考える良い訓練になると思います。

――同じツイートに「コミュニケーションも変わったし」とあるのは、どういう意味ですか。

コロナによって対人接触を避けるニーズが高まり、オンラインサービスが非常に伸びました。私がCVO(Chief Value Officer:最高価値責任者)として入っているEコマースサービスの「Appify」もその1つです。

コロナの状況は一進一退のような感じですが、コロナとの接し方はある程度わかってきて、今度は人との接触に飢える人が出てきました。それは「元の日常に戻ってきた」というより、多様化だと思います。例えば、大規模なフェスで大勢と集まるのはまだ抵抗があっても、「SANU」(サヌ)さんのように月5.5万円で自然の中にセカンドホームを持てるサブスクリプションサービスが出てきて、5~6人で軽く集まったりするニーズは高まっている気がします。

だから、人とのコミュニケーションも、大勢でワイワイやりたい人もいれば、こぢんまり集まりたい人もいるし、もっとオンラインでつながりたい人もいます。「SANU」さんのようなサービスはコロナ前にはなかなか出てこなかったけど、コミュニケーションが多様化する中で誕生した新しいビジネスの一つと捉えています。

――こぢんまりとしたサービスで、マネタイズできるのですか。

だからビジネスモデルが大事なのです。従来のメーカーによる大量生産・大量消費、薄利多売のマスマーケティングのままでは、人口減少の影響をまともに受けて、売り上げは減るし、人件費は高騰します。そういうものづくりは厳しくなっていくと思います。

一方、売り上げではなくて利益額だけを見れば、その利益額を100分の1の消費者で達成できることもあります。その1つがD2Cです。

大手企業のトップの中には「売り上げ100億円以下のD2Cは遊び」のようなことをおっしゃる方もいますが、確かにD2Cが1社しか存在しないなら、そうかもしれません。でも、ものづくりのハードルがそれほど高くない現代に、若い世代がYouTuberやTikTokクリエイターみたいになって自分たちがメーカーになり、100社、1000社と出てきたらどうですか?だいぶ削られませんか?品質はほとんど一緒で、流通にお金を払わない分、値下げされた商品を作ったり、あるいは値下げせずに品質の高い商品を作ったりしたら、それなりに競争力はありますよ。

例えば、私があるブランドのバッグを経営している20代の男性にマーケティングを教えたら、月の売り上げが30万円くらいだったのが、約3年で年商約2億円になりました。利益率は約50%。そんな人が1000人いたら、もう2000億円です。こうなるとさすがに「遊び」では片づけられないでしょう。

経験値を重ねて、希少性を高めることの強さ

――ほかに、このツイートも気になりました。「そろそろ日本も世界から見向きもされなくなる」とは、随分後ろ向きですね。「新しいことをしないといけないフェーズ」とはどういう意味ですか。

https://twitter.com/xxkenai/status/1552820409284071425

前向きな内容ですよ(笑)。働き方・生き方はもっと自由に開放された形になっていく一方で、当然厳しい部分も出てきます。働き方については私がMoonshotでしているように、短時間で最大のパフォーマンスを発揮する、あるいは求められる方向に向かうと思います。毎日出社して、残業して長時間拘束され、個人より組織が重視されるところにいても、これから何十年も仕事人として生きていくときに、損する気がします。そんな環境にいて、5年後、10年後に会社から「いらない」と言われたら、オシマイですからね。そうではなく、個人として発揮すべき仕事のパフォーマンスが明確になっていて、短時間で成果を出す方向にいったほうが、個人の生存戦略としては重要だと思います。

――組織の中で安定して働ければいいと考えている人には、少し厳しくなりますね。

そうですね。でも、大手企業の社員でさえ、「いつか厳しくなりそうだな」「人口が減ったら、売り上げも減りそう。大丈夫かな」と思っている人は少なくないはず。それなのに、「何とかなるだろう」と現実逃避して最後まで動こうとしない人は、一番損すると思います。それなら最初から実行したほうがいいですよね。

せっかく副業・兼業がOKの会社が増えてきたので、まずそこから始めてみるのはどうですか。私がMoonshotを立ち上げたのも、スマートニュースで結果を残したときに、自分が役に立ったと感じた時間はわずか10%くらいだったと気づいたことがきっかけです。残りの90%はマネジメントをはじめ、おそらく自分以外の人がやっても同じ結果が出たでしょう。「自分ならではのアウトプットが出せた」「ほかの人よりも生産性の高い仕事ができた」と感じたのは10%ですね。

その上で、自分は個人としてどういう時間の使い方、売り方をすればいいかを考えたときに、その10%を10社に提供して100%の時間として提供したほうが、社会から見た一個人としての活躍の度合いも大きいし、当然収入も上がると考えました。

この働き方には副次的な効果があり、スマニューに2年いて身に付いた1社分のノウハウをMoonshotの2年間で「2年×10社=20社」分、得られました。世の中のコンサルタントが1年で4プロジェクト担当するとした場合、5年分の経験値を2年で獲得したことになります。そこに加えて、エンジェル投資を年間30プロジェクト、2年で60プロジェクト手掛けたので、スペシャリストとしての10%の能力を1社だけで発揮していたときと比べて、15年分の経験値を2年で獲得した計算になります。仕事を依頼するとき、2年の経験しかない人と15年分の経験を持つ人とを比較したら、普通は経験値豊富な人を選ぶはず。その結果、仕事が次々舞い込むようになりました。そんなふうに1社で働くのではなく、自分の能力や高めたい部分を数多くの企業に提供する働き方が今後増えてくるだろうし、自分のためにもなると思います。

よく「生産性」と言われますが、私のような働き方は時間の有効活用という点でも最高です。そういう話は会社の上司には不都合な部分も多いので、教えてくれる機会はあまりないと思います。だからこういう記事を読んだり、外部の人の話を聞いたりして自分で考え、判断するのが良いですね。

――でもそれって、能力の高い人でないと難しいのでは。

いや、実は意外とそうでもなくて、私より年齢が上で、素晴らしい有名マーケターの方がたくさんいらっしゃいますが、おそらくその方々と変わらないレベルの仕事量は来るし、同等以上の時給で仕事を頂けているのは、私の能力が高いわけではなくて、経験値が特殊だからだと思います。先ほど申し上げたように経験を積み重ねた結果、私と同レベルの経験値を持つ人があまりいないのがポイントとして大きいのであって、優劣よりも希少性が重要だと思います。

――では、若手マーケターへのアドバイスとしては、「勇気を持って行動しよう」ですか。

「希少性を磨こう」ですね。世の中が不安になってくると、どうしても安定志向を強めて、みんなと同じことをしたがる人が多くなりますが、それでは逆にコモディティ化して「別にあなたでなくてもいい」「時給の安い人のほうがいい」と判断され、さらに不安な要素が強まるだけです。でも希少性が高く、唯一の存在になれると、そうはなりません。

今日のテーマに戻ると、もし「BizDev/マーケティング」のできる人が周りに少ないのであれば、希少性を高められるチャンスになるかもしれません。最初は失敗もあれば、悔しい思いもするだろうけど、きちんとやっていけばユニークなノウハウと経験値が高まって、希少性の高い存在へと成長していけるはず。そうなれば、仕事の依頼が殺到する存在になれると思います。

Web2からWeb3に変わって起こりそうなこと

――わかりました。最後に2つ。Moonshotが4周年を迎えて5年目に入ったとのことで、立ち上げからの4年間で変わったと感じることは何かありますか。

メディア環境が変わりました。YouTubeやInstagram、TikTokを見る人が増加し、視聴時間も増えました。ABEMAもそうですね。消費者がテレビよりSNSに接触する時間が増えたことで、広告もSNSに出稿される機会が増えました。

また、「YouTuberになりたい」と考える人が増えたように、YouTubeやTikTokなどで簡単に表現者になれるようになったのも大きなポイントです。テレビの時代なら地上波7チャンネルが中心だったのが、今ではYouTube、TikTokで数えきれないほどのチャンネル数が存在します。その結果、テレビCMのように何回も見せられるのではなく、二度と同じコンテンツに触れてもらえないかもしれないと考えて、「1回見ただけでフォローしたくなる魅力があるか」が重要になり、非常に高いクオリティをコンテンツの作り手が求められるようになりました。

YouTubeやTikTokが「YouTuber」や「TikToker」ではなく、「クリエイター」と呼んでリスペクトするように、これからますますコンテンツが重要になっていくと思います。当然、クリエイターもぼんやりしたコンテンツではなく、フォローしてもらえるクオリティを必死で作らないと、何のアテンションも取れないでしょう。マーケターも広告代理店に依存して、「A案かB案か?」「B案を改善してBダッシュで」などと言っている時代ではないのです。

――最後は、バズワードのようになっているWeb3についてのお考えを教えてください。

あえてわかりやすく言うと、インターネットが国と国をつなげ、PCだけでなくスマートフォンが世界中に普及した結果、ネット誕生前には存在しなかったいろんなサービスが世界各国で利用されるようになりました。だからこそ、ビジネスモデルの秀逸なGAFAMのような会社が世界中からお金を吸い上げる仕組みも出来上がってしまいました。それがWeb2です。

Web3は、いわば国そのものを作ろうとする活動です。「メタバース」という土地と「NFT」というお金、「イーサリアム」というブロックチェーンの技術と、そこに内包される「スマートコントラクト」という約束事。それらを基に「AからBにお金を動かしたとき、10%は製作者に入る」のようなルールが作れると、もうほぼ国に近い状態を作り出せると思います。そんなふうに土地とお金と法律がある、国のような状態を作り出そうとしているのがWeb3だと考えています。

銀行口座を持っている人が少ない東南アジアで、10年ほど前から「Grab」というUberのようなタクシー配車アプリが立ち上がり、今では東南アジア8カ国で宅配サービスからオンラインショッピング、デジタル決済、保険、公共料金、自動車ローンの支払いまでをカバーするスーパーアプリになっています。運営会社もユニコーン企業に成長しました。こういうGrabのようなウォレット、送金機能が、例えば世界中で使われているTwitterに付いたら、お金をメタバース上に貯めて送金・決済できるので、もう銀行が不要な世界が出来上がります。そうなれば爆発的に取引が拡大するでしょうし、企業のビジネスモデルにも大きな変化が現れる可能性があります。そしてそれは、遠い未来の話ではないと考えています。

「あつまれ どうぶつの森」もメタバースの一種なので、日本の企業もチャンスは大きいでしょうね。ワクワクする未来を感じます。

――本日はありがとうございました。

Profile
菅原 健一(すがわら・けんいち)
株式会社Moonshot代表取締役社長、株式会社Appify Technologies CVO(Chief Value Officer:最高価値責任者)。
企業の10倍成長のためのアドバイザー業を創業。社会や企業内に存在する「難しい問題を解く」専門家。グローバル企業含めクライアント10社、エンジェル投資先20社の計30社のプロジェクトを並行して進めている。過去に取締役 CMO で参画した企業を KDDI子会社へ売却、そのまま経営を継続して売り上げ数百億円規模へ成長させる。スマートニュースを経て現職。
Twitter:@xxkenai
Instagram:https://www.instagram.com/xxkenai/

「Marketing Native (CINC)」掲載のオリジナル版はこちらマーケターの生存戦略は希少性を磨くこと――Moonshot代表・菅原健一(すがけん)のマーケター向け講座「マーケピザ・Marketing Native編」

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