ライバルには教えたくないキーワード広告の勝ち組戦略
~成果を出すための達人の思考とノウハウ
日本に上陸してからオンライン広告のあり方を大きく変え、検索エンジンからの集客手段として当たり前となった検索連動型広告。多くのマーケティング担当者がその重要性を理解している反面、そのメリットを十分に活かせていないのが現状だ。いま、広告主には変化が求められている。検索連動型広告を運用する上でマーケティング担当者が成すべきこととは何か、改めて探っていこう。
泉 浩人(株式会社ルグラン)
パナマが日本にやって来るヤァ!ヤァ!ヤァ!
「パナマ」のコードネームで知られるオーバーチュアの「新スポンサードサーチ」への移行が、米国に続き、日本でも4月中旬からいよいよ始まった。最大のポイントは、広告掲載順位の決定方式が変わる点である(変更は全広告主が新プラットフォームへの移行を完了した後となる)。現在のようなクリック単価による掲載順位の指定はできなくなり、代わって、クリック率などによって決まる「品質」が掲載順位の決定に大きな影響を与えるようになる。
「パナマ」による仕様や仕組の変更については別の機会に触れるとして、本稿では、「パナマ」が日本のネット広告ビジネスにもたらす変化について論じてみたい。
「パナマ」がもたらす変化を一言で表現するならば、検索連動型広告を「順位」で管理する時代の終焉であり、また、ROI(Return on Investment、投資収益率)やCPA(Cost per Acquisition、顧客獲得コスト)などの「広告効果」で管理する時代の幕開けでもある。この変化が「チャンス」になるか「脅威」になるかは、広告代理店および広告主の意識変革にかかっている。
掲載順位脳から脱却すべし
これまで、オーバーチュアを利用する広告主にとっての最大の関心事は、自社の広告が何番目に掲載されるかということであった。そして、オーバーチュア最大の広告配信先であるヤフーは、日本の検索市場で半分以上のシェアを持っているため、突き詰めると、日本におけるSEMとは、ヤフー(Yahoo! JAPAN)での上位掲載を巡る入札合戦であったと言っても過言ではない。
入札によってリアルタイムで掲載順位が変わるオーバーチュアのシステムのおかげで、広告主は24時間・365日、管理画面の前から離れられなくなった。だが、「本業」を抱えた広告主がパソコンの前に座り続けることなどできるはずもなく、多くは広告代理店に問題の解決を委ねた。この結果、検索連動型広告市場の急成長に歩調を合わせ、多くの広告代理店も飛躍的な成長を遂げ、一気にIPOを果たす代理店も誕生した。
だが、こうした旧来の「世界観」はパナマによって大きな変革を迫られることになる。
オーバーチュアの新スポンサードサーチのシステムは、広告掲載順位の決定方式を始め、多くの点で、グーグルのアドワーズ広告に非常に近いものとなる。だが、誤解を恐れずに言うならば、日本においてアドワーズは主体的に管理されてこなかったのが実際の姿だ。
その大きな理由は2つある。第一に、掲載順位をコントロールできないため、多くの広告主は、代理店に何を依頼すべきかがよくわからなかったこと。第二に、オーバーチュアに比べると検索数が少ない分、利用額も少なくなるため、代理店、広告主双方にとって関心が低かったこと。この結果、アドワーズはオーバーチュアの「添え物」として、請求を一本化するといった程度の理由で代理店に預けられはするものの、広告管理という点では、ほとんど放ったらかしにされることも少なくなかった。
したがって、このまま「パナマ」によってオーバーチュアが「グーグル化」した場合、オーバーチュアも主体的に管理されなくなる可能性が高い。もちろん、支払いの面で、引続き代理店を利用するメリットは残るが、代理店に支払う手数料の金額が多くなれば、それに見合う「付加価値」が問われることは明らかである。まして、主体的に管理されない広告の利用額が伸びるはずもなく、そうなれば、代理店のみならず、日本のネット広告市場の成長も踊り場を迎えることになってしまう。
パナマ後の世界では掲載順位をコントロールできない
では広告主や代理店は何を頼りにすればいいのか?
キーワード広告大国イギリスのROI/CPA脳に学べ
日本と同様に、広告代理店のプレゼンスが高く、グーグルのシェアが77%※1を超える英国において、検索連動型広告市場が停滞しているかというと、実はまったく正反対のことが起こっている。英国では、日本よりも数年早く検索連動型広告のサービスが始まったにもかかわらず、2006年も引続き前年比51%もの成長を遂げ、またネット広告全体に占める検索連動型広告の割合も57%※2に達している。
一方、今年1月に発表されたアウンコンサルティングの推計によれば、2006年の検索連動型広告市場は、成長率は前年比56%であるものの、ネット広告全体に占める割合は27%に留まっている。ちなみに、前年の比率は22%であることから考えると、検索連動型広告市場の成長は、主にネット広告市場全体の拡大によるものであり、他媒体から検索連動型広告への大幅な予算シフトは起こっていない。
なぜ、英国の広告主は、掲載順位の指定ができないアドワーズ広告に資金を投下し続けるのか?そして、多くの広告主が広告代理店を利用し続ける理由はどこにあるのか?
英国の広告主に見られる最大の特徴は、ROIやCPAといった広告効果に対する高いこだわりである。したがって、アドワーズにおいて掲載順位の指定ができないことは、広告主にしてみればさしたる問題ではない。期待したROIやCPAが実現できているかが、広告費用を追加・継続して投入するかどうかの重要な判断基準となっているのだ。
「パナマ後」状態が長かった英国では、キーワード広告の指標は順位や総額ではなくROIやCPA!
とはいえ、グーグルにおいて期待した広告効果を上げるための戦略を立てることは、オーバーチュアにおいて自社のリスティング広告を常に1位に掲載することに比べると遥かに難しい。そこに人々が広告代理店の力を必要とする最大の理由がある。そこでは、深夜まで広告管理をするマンパワーではなく、高い提案能力でCPAやROIを改善できる代理店に評価が集まる。実際、総勢50人程度の新興代理店が、一気に首位に躍り出るといった「下克上」も起こっている。もちろん、この陰には、広告効果を追求する広告主の期待に応えられずに凋落していく代理店も少なからずあることは言うまでもない。
つまり、英国では、広告主が求める広告効果を実現できた代理店がシェアを伸ばし、一方、期待する広告効果が得られた広告主は、さらに多くの資金を検索連動型広告に投ずるというプラスの循環によって引き続き市場が拡大しているのである。
これら英国の事例から、日本の広告主が、そして広告代理店がパナマ後の世界を勝ち抜くための法則をまとめてみよう。
順位至上主義 → CPA/ROI主義へと意識変革する(広告費総額ではなく費用対効果を判断基準にする)
広告代理店に対しては、順位の保守ではなくCPA/ROI向上の提案を求める
順位至上主義 → CPA/ROI主義への意識変革を促すために広告主を啓蒙する(=代理店の存在意義)
高いCPA/ROIを実現するために必要な提案能力を持ったスタッフを育成する(=代理店の付加価値)
大げさに言えば、パナマ後も検索連動型広告市場の成長を維持できるかどうかで、日本のマーケターの知見と成熟度が測られることになる。頑張れニッポン!
コメント
通りすがりの大阪人
CPA/ROI向上のための施策としては、
より、コンバージョンレートの高いコンテンツを作る、
競合と比較した場合のサービスを向上といったところなのでしょうか。
CPA/ROI向上といっても、具体的なところがピンときませんね。
CPA/ROI向上
編集部の安田です。
サイト側での施策としてはコンテンツやサービスになりますが、ここでの話題はキーワード広告の出稿をどう判断するかが中心ですね。
たとえば、これまではクリック単価が安くて多くクリックされるキーワードを重視していたとします。でも、実はそのキーワードからきた人のコンバージョン率が低い(relevancyが低い)場合、クリック単価はそのキーワードの2倍するけれどもコンバージョン率は3倍になる他のキーワードを重視するべきですよね。
そういう判断をするのがCPA/ROI向上への入り口ですね。
もちろん、今までもキーワード広告で順位やクリック数ではなく最終的なコンバージョン数重視の判断をしていたならば、これからも変わりませんよ。
そして、ROI/CPAを正しく調べるには、アクセス解析やコンバージョンカウンタなどによるデータ収集と分析が必須になります。これは経営や投資を成功させるには経理や財務のデータが重要になるのと同じですね。