米国カンファレンスは日本と何が違う? 生成AIで「自分の分身」を作り仕事をやってもらう未来がすぐそこに!
アメリカのサンディエゴで開催された「SMMW(Social Media Marketing World) 2024」に参加してきました。
世界中から数千人のマーケターが集まる、業界最大級のSNSマーケティングに特化したカンファレンスで、3日間にわたって開催されます。
Instagram、YouTube、X(旧Twitter)、Facebook、LinkedIn、TikTokといった各SNSにおけるトレンドやハウツーを掘り下げるセッションはあったものの、最大の関心事は生成AIでした。「マーケターとして、生成AIをどのように活用し、どう共生すべきか?」という問いは、多くの参加者にとって重要なテーマであったようです。実際、すべての基調講演のテーマは生成AIでした。
よって、本レポートでは各SNSについての細かな話はせず、ほぼ生成AI一本で話を進めます。ということで、SMMW2024で得た知見と会場の様子をお届けします。
サンディエゴの街の様子
本題に入る前に、まずはサンディエゴについて紹介します。サンディエゴは年間を通して穏やかで温暖なエリアです。メキシコとの国境に近いことから、ラテンアメリカ文化の影響も強く、多様な文化が混在している街です。
サンディエゴ動物園やシーワールド・サンディエゴなどの観光地、アメリカ海軍、アメリカ海兵隊の軍事関連の施設もあります。映画『トップガン』のロケ地としても有名で、ファンには聖地といったところでしょうか。
SNS系カンファレンスはカリフォルニア開催が多い
アメリカのSNSカンファレンスは、カリフォルニア州での開催が多い印象です。
- (シリコンバレーなど)テクノロジー企業やスタートアップ企業が多い
- ベンチャー・キャピタルも集まっている
- 先進的なビジネス文化があって、新しいアイデアや技術にオープン
- 国内外からアクセスしやすい
- 様々な文化、価値観、歴史的背景を持つ人々が交流する多様なカルチャー
これらがカリフォルニア州で開催される理由だと筆者は思います。日本からだと、東部や中部に比べて飛行時間が短く、行きやすいですね。
AI文脈のセッションを中心に参加
海外まで足を運んでいながら、こんなことを言うと身もフタもないのですが、Web関連の最新情報だけなら日本にいても手に入ります。
各SNSのアルゴリズムの読み解きとか、エンゲージメントを高めるコツとか、コンテンツ生成のオペレーションの仕組みとか、海外のYouTubeやニュースサイトを見ればわかりますし、SMMWのようなカンファレンスに参加しても、良くも悪くも「想定通り」なこともしばしば。
そこで今回、筆者は「生成AI」に狙いを定めました。このジャンルにおいては、まだ日米で情報格差が大きいと思っていて、具体的には、
- ChatGPTをWebマーケターとしてどう利用できるか?
- 海外ではどのような利用がスタンダードなのか?
を学びに行くというスタンスです。
ちなみに、アメリカのWebマーケターは、「生成AIは、自分のキャリアを脅かす存在か?」という問いに7割が「NO」と答え、「生成AIは、自分の仕事をよりよくしてくれる存在か?」に9割が「YES」と回答し、圧倒的に受け入れるマインドが出来上がっているようです。
2023年9月の調査で、7割のWebマーケターはChatGPTを業務に活用しているという結果もあります。今なら8割を超えていてもおかしくないでしょう。
3日間、隙間なくセッションに参加しまくって、伝えたいことはたくさんあるのですが、全部紹介するわけにもいかないので、印象的だった『Digital Doppelgänger: How to Supercharge Your Content and Your Work Using the Magic of AI(デジタル・ドッペルゲンガー:AIの魔法を使ってコンテンツと仕事を強化する方)』というアンドリュー・デイビス氏の基調講演を紹介します。
生成AIで「自分そっくりの分身」を作る
アンドリュー・デイビス氏は世界的なキーノートスピーカーです。デジタル・マーケティング・エージェンシーを設立&売却し、NBCでTVプロデュースを手がけ、ドキュメンタリー映画を制作し、さらにはベストセラー作家でもある、という多彩な実績をお持ちの人物です。
ドッペルゲンガーとは、自分自身の姿を自分で見る幻覚の一種で、「自己像幻視」とも呼ばれる現象のこと。ドッペルゲンガーに会うと不幸や災いが起こると言われます(自分自身のドッペルゲンガーに会うと死が近いなんて言いますよね)。
ドッペルゲンガーの定義は脇に置いて話を進めると、生成AIは次のようなことが得意です。
- 自然言語の理解と生成
- 知識や情報の抽出
- 文章の分類と感情分析
- 擬態と模倣
一方で、検索エンジンのように「正解を探すツール」としかみなさないと、その本領を発揮できません。しかし、世間一般では、生成AIはまだ”検索エンジンの一種” の使い方が大半です。
デジタル・ドッペルゲンガーは講師であるアンドリュー氏の造語で、仮想世界で人の行動や好みを正確に模倣するAIによって作られたデジタルツイン…要は「自分とそっくりの姿をした分身」を生成AIで作ろうぜ! という主張です。
自分の言葉遣い、表現や言い回しの癖をChatGPTに学習させ、クローンを作り上げ、その人(?)にタスクを任せたり、コンテンツを生成したりするという考え方です。
たとえばメールを書く場合、こんな流れになります。
- 自分:ChatGPTに指示をする
- ChatGPT:ドラフトを書く
- ドッペルゲンガー:それを編集して完成させる
- 自分:メールを送る
<従来>
<提案>
では「どうやってドッペルゲンガーを作るか?」ですが、手順は難しくありません。普通にChatGPTに話しかけるように自分の過去のコンテンツを大量に食わせ、学習させるのみ。
ただ、高機能なGPT4と言えど、暴走することもあります。そのときは都度「待て待て、このルールに則ってって言ったよね?」「Cという情報は頼んでいないよね? 指示したのはAとBだよね?」と引き留める必要はあります。
やり取りに20~30分かかることもザラですが、粘り強く会話を続けると精度がアップし、「自分がゼロから書いたかのよう」なコンテンツが生まれるわけです。
動くドッペルゲンガーも作ってみた
講師のアンドリュー氏は、文章生成するドッペルゲンガーだけでなく、自分の声を学習して実際に動いて話すアバター的なドッペルゲンガーも作っていました。
まず、自分の写真を元にMidjourneyかDALL·E 3でドッペルゲンガー(ドリュジニ君)の姿を生成します。
次に、テキストを音声に変換できるツール「ElevenLabs(任意の言語で瞬時に自然なAIボイスを作成できる)」に自身の文章を読ませ、リアルなAIボイスを生成します。これがドリュジニ君の声になります。
最後に、アバター動画を作成できるAIツール「HeyGen」で動かしつつ、AIボイスを話させれば、話して動くドリュジニ君の完成です。
ドリュジニ君はジョークも言うし、あたかも人と会話するかのような演出がされてはいましたが、あくまでプレゼン用に作られたスタンドアローン的なモノでしかなく(たぶん)、実際にChatGPTよろしく、プロンプトにバシバシ答えていく…わけではありません(そこまでの掘り下げはなかった)。
アンドリュー氏が暗示した未来は、2023~24年時点では「主人を模倣する」しかできなかったのが、「主人のニーズを先回りして予測する」ようになり、将来的には「主人から独立して判断し、アクションする」ようになる可能性です。
そんな世界が実現されたら筆者ならば、仕事はすべてドッペルゲンガーに任せ、月曜の朝からサウナ三昧の生活を送るつもりです。
生成AIは、AI(Artificial Intelligence)ではなく、IA(Intelligence Augmented)である
Intelligence Augmentedとは、「強化された知性」という意味です。人が知性をもって生成AIを使うとき、単なる外部知能以上の価値を持ちます。
アンドリュー氏は「ヒトとAIがチームとしてコラボレーションしたとき、AI(Artificial Intelligence)ではなく、IA(Intelligence Augmented)となり、ヒトが単独で創造できる以上の価値をもたらす」と述べています。
AIの捉え方を、縦軸をエンゲージメント、横軸を自己決定権の4象限に置いたとき、
左上:神格化(盲信?)
左下:ただの道具
右下:使い倒せる召使い
右上:パートナー(仲間)
右上の「パートナー」として関わっていくことが、ベストなアプローチなのではないか、というメッセージで締めくくられました。
「つながる」「楽しむ」よう設計されたカンファレンス
さて、セッションから少し離れて、参加者の目的意識、カンファレンス設計の部分についても触れてみます。
男女比は5:5&平均年齢は40歳以上
カンファレンスの参加者は、フリーランスやスモールビジネス経営者もそれなりにいますが、過半数は会社員で、学びを持ち帰って自社にフィードバックする方が多いです(日本とそこは同じ)。
そして、女性の比率がかなり高いです。過去に参加したコンテンツマーケや動画マーケのカンファレンスでも女性が目立っていたのは、日本との大きな差かもしれません。
ヨーロッパなど、アメリカ国外からの参加者らに訊いてみたところ、「社を代表して来ることのできる特別な機会である」「ある意味、特別な権利をもらっているわけで、毎年参加できるとは限らない。よってしっかり吸収する」と答えてくれました。
参加者の平均年齢は外見から推測するしかないですが、おそらく40〜43歳くらい。夜に「90年代音楽縛りのパーティ」が開催されていたのと、会場BGMがコテコテの90年代ロック&ポップスだったので、間違いないでしょう。
90年代前半に大学生だった筆者(53歳)の懐かしい曲(Oasis, Jamiroquai, Bruce Springsteen, Green Day, Bruce Hornsby, Foo Fighters, Tears for Fears, Fleetwood Mac)がコンサート会場のように鳴り響いていました。
『つながり』を非常に重視するカルチャー
日米のカンファレンスの一番の違いが「参加者同士でつながろうとするか」です。いわゆるネットワーキングですね。
日本でのカンファレンスを想像してほしいのですが、静かに座ってスマホや資料を眺めていて、隣に偶然座った人と会話はしません。が、こちらはめちゃくちゃ話します。そこら中で大声で活発に話し合っていて、やかましいほどです。げらげら笑ってたり、突っ込んだ会話をしていたり。でも、実は5分前に知り合ったばかりなんてことがザラです。
主催者も「ネットワーキングこそがリアルの醍醐味」とわかっていて、参加者限定のFBグループでは自己紹介を促すし、毎日お題を出して会話が盛り上がる工夫をします。業界のスモールグループを作って共通の興味関心を持つ人たちを取り持ってくれることもあります。
なので、開催直前になると、「現地の気候は?」「夜の食事のオススメレストランは?」「空港からホテルへのアクセスは何が安い?」「〇〇業界同士で朝ごはん食べようよ」という情報がひっきりなしに交わされます。
カンファレンス中は、広いホールにズラッと丸いテーブルが並べられ、広告代理店、小売り、アナリスト、コンテンツマーケ、Instagramマーケターなど、業界や課題別のミートアップテーブルが用意されます。
そこに行くと同じ課題を抱えた人同士で出会いやすい、という仕組みですね。なんなら、セッションを飛ばしてネットワーキングに励む人もいるほどです。(録画で後から視聴可能なので問題ない)
さらに、主催者はカンファレンス終了後も、互いに学びあったこと、実務でどう生かしているか、を共有し合うオンラインミーティングを開催しますし、FBグループはそのまま使えるので、会話や情報交換が(帰国して1週間以上経ったいまも)続いています。
ネットワーキングが重視される理由
アメリカ人がネットワーキングに貪欲なのには、いくつか理由があります。
① 文化的な価値観の違い
アメリカでは、個人の人間関係やコミュニティがビジネスの成功に重要だと考えられています。強力なネットワークを持つことが成功の鍵となる場合が多いため、イベントやカンファレンスでのネットワーキングは積極的に行われます。意外にコネ社会なのです。
② ビジネス環境の違い
スタートアップ企業やベンチャー企業が盛んであり、新しいビジネスチャンスやパートナーシップを見つけるために積極的にネットワーキングを行います。日本では、大手企業や伝統的なビジネスモデルが主流であり、ビジネスの機会やパートナーシップが相対的に限られている場合があります。そのため、個人のネットワークよりも組織のネットワークが重視されることがあります。
③ コミュニケーションスタイルの違い
シャイで控えめな日本人とは真逆で、オープンなコミュニケーションが一般的なアメリカでは、初対面でも積極的に対話します。典型的な日本人の私は、あのテンションについていくのは正直しんどくて、ホテルに帰ると疲労感でぐったりします(笑)。
③はともかく、①と②の実利を求めてネットワーキングに励むので、仮につながってもビジネスに発展しにくい外国人とは積極的には交流しない様子ではあります。
では、〆は本場メキシカンタコスの写真で。
旨すぎて毎晩通いました。
手前の細長いのは肉ではなく、サボテンです。
食物繊維やミネラル、ビタミンを豊富に含み、身体に良いとのこと。
以上、SMMW(Social Media Marketing World) 2024のレポートでした。
アメリカのカンファレンスの雰囲気が伝わったでしょうか?
ソーシャルもやってます!