[マーケターコラム] Half Empty? Half Full?

身近なダークパターンから感じた、エシカルなビジネスの重要性

マーケターコラム、今回は村石怜菜氏。生活の中に浸透しているダークパターンと規制強化などを紹介します。

みなさん、こんにちは。村石怜菜です。

突然ですが、皆さん、鱒イクラをご存知でしょうか。私はイクラが大好きで、2023年のふるさと納税でも、もちろんイクラを注文しました。返礼品が届き、「さぁ解凍して食べるぞ!」とワクワクしながら、容器の中のイクラを見てみると、「あれ? 卵の粒が小さい…?」。早速食べてみると、以前購入したふるさと納税のイクラと明らかに食感が違うのです。

容器の蓋を見てみると「鱒イクラ」という文字が。注文した返礼品のイクラが鮭ではなく、鱒の卵だったという出来事がありました。恥ずかしながら、鱒のイクラがあるということを知らなかったこと、そして、以前、別の自治体の返礼品のイクラは鮭の卵だったので、届く返礼品も鮭の卵であるだろうという思い込みと、商品名に「イクラ」という記載のみで「鱒」の記載がなかったことなどの原因により、引き起こされたしくじりでした。

後から商品詳細ページを確認してみると、商品説明文の方には、鱒の卵である旨の記載がありました。レビューを見ると私と同様の勘違いをした購入者からのコメントが見受けられ、同じ返礼品の2024年分の商品名を見たら、きちんと商品名に「鱒」が追記されていました。意図的に鱒という文字を商品名に入れなかったのかどうかは定かではありませんが、思い込みや慣れから確認を怠らないようにしようと思った一件でした。

ユーザーを欺くために意図的に誘導するダークパターンの浸透

ふるさと納税での一件は商品情報の不足と、私の確認不足が原因でしたが、2023年を思い返すと、それよりも悪質な手法である「ダークパターン(Dark Pattern)」という言葉をよく見かけるようになったと実感した年でした。皆さんの中でも、ECサイトで不必要なオプションがついたまま決済を完了してしまった、気づいたらサブスクリプション会員になっていた、もしくは、会員になりそうになったという経験をされた方も多いのではないでしょうか。

「ダークパターン」とは、ECサイトやWebサービスのUI(User Interface)上で、消費者に不利な判断や意思決定に誘導する手法のことを指します。ダークパターンとして私がよく目にするのは「〇〇名がこの宿泊プランを見ています(早く予約しなきゃと促す)」や「残りあとわずか(実際の在庫よりも過小に表示し、購入を促す)」といったようなものです。特にITの分野では、サービスの役務提供がオンライン上で完結することがほとんどのため、UI上のテキスト情報が通常のオフラインサービス以上に重要になってきます。

また昨今では、翻訳サービスの精度が上がり、海外サービスを利用することへの心理的障壁も下がったことにより、海外のサービスも気軽に登録・利用する人も増加しているのではないでしょうか。海外のサービスでも、日本向けにローカライズしているサービスはまだわかりやすいUIになっている場合が多いですが、一部分だけ日本語表記だが、会員登録や決済サービスに進むと別のASPを利用していて英語表記に変わってしまうことも多くあるので、注意が必要です。

フリートライアルにひそむ危険性に気をつけて

昨年、海外の生成AI系のサービスをフリートライアルで登録しましたが、マイページを見たら、試用期間終了後は自動的に年間契約に移行すると小さく記載されているのを発見。目立たないくらいに小さく書いてあるので見落としていました。しかも、その額、なんと7万円! 月額費用が数千円でも1年分だと高額になります。

不安に思ってマイページ上から支払いメニューを探して確認してみると、不安は的中。案の定、フリートライアル終了後はサブスクリプションへ移行する契約になっていました。こういう料金体系を採用しているサービスって、だいたいマイページや退会までの導線がわかりにくいことが多くないですか? あくまで私の経験値ですが…。

サービスは本格リリースしたばかりで、UIがわかりにくく、ユーザビリティが良くなかったので、課金される前に即刻退会手続きをしようとするも、さらにトライアル期間を延長しないかという提案が表示されました。「このまま芋づる式にずるずると延ばすと、いつ退会して良いのかわからなくなり、気づいたら課金されているという状態になる」と自分に言い聞かせ、無料期間延長という誘惑に釣られることなく、退会しました。

フリートライアルの会員登録時にも、クレジットカードなどの決済手段を登録させるサービスやアプリはよく見ますが、まさか月額ではなく年額が一括で課金されるサービス設計になっているとは思っていなかったので、気づけて良かったです。私は、料金体系にその企業の思想が濃縮され、反映されると考えているので、料金体系がわかりやすいサービスに好感を抱くタイプです。

ダークパターンへの規制が国際的に進んでいる

ダークパターンは2010年に登場した言葉です。GDPR(General Data Protection Regulation:一般データ保護規則)はEUでの個人のデータ保護強化のため、2018年5月に施行されたものですが、ダークパターンへの規制にもつながっています。

また、米国などでもダークパターンへの法整備が進んでいます。昨年も米連邦取引委員会(FTC:Federal Trade Commission)が解約手続きを意図的にわかりにくくしたなどでアマゾン・ドット・コムを提訴したというニュースが報じられましたが、この動きは米国だけでなく、他国にも見られます。例えば、2023年11月30日には、インド政府もダークパターンの利用を禁止する規制を発表しました。そのガイドラインには13のダークパターンが定義されています。

日本では、消費者庁が毎年消費者月間に合わせて行っている「詐欺防止月間」の2023年のテーマとして「ダークパターン」を取り上げました。ニュースや新聞記事などで取り上げられる機会も増えたので、記憶に新しく、またUI/UXなどに携わっていない人にとっては初めて耳にする機会だったかもしれません。

エシカルなビジネス - 透明性と誠実な情報提供

インターネット上で商品を販売したり、サービスを展開したりする上で、エシカル(倫理的)か否かという観点が、年々重要になってきていると感じています。マーケターやサービス開発などに従事している方々は、景品表示法や特定商取引法といった消費者を保護する法律や、サービスドメインに関する法律を把握している必要があります。企画の実行や機能の追加、サービスをリリースする際には、社内承認・法務チェックなどの段階を経ることが一般的でしょう。

前述したダークパターン規制の他国事例の流れは、今後も拡がっていくと考えられます。自社サイトやサービスのUI/UXがダークパターンに当てはまっていないかどうか、エシカルかどうかのチェック体制の強化など、体制の整備などが必要になってくるのではないでしょうか。

消費者側がより注意深くサービスを利用し、契約内容や課金方式を理解することももちろん重要です。一方、企業やサービス提供者は、顧客に対して透明かつ誠実な情報提供が求められ、誤解を招かないようなサービス設計がますます必要不可欠になると考えられます。今後も動向をチェックしていきたいと思います。

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