大正製薬が“怒りの声明”の理由は? 大正製薬VSサントリーウエルネス、訴訟の詳細と争点を解説①
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三浦知良選手と歩んだ4年でかけた広告費はおよそ40億円――。大正製薬は今年8月、イメージキャラクターの起用をめぐる訴訟の判決を受けて声明を発表した。怒りの矛先は、訴訟相手の代理店だけでなく、サントリーウエルネス(以下、サントリー)にも向けられている。
編注:イメージキャラクターの起用をめぐる大正製薬の訴訟とは? プロサッカー選手の三浦知和選手を自社のイメージキャラクターとしていた大正製薬。三浦選手の広告出演管理を行うハットトリックと広告出演契約を結んでいた。これを踏まえて「リポビタンDX」の広告出演を打診したところ、ハットトリックは拒否。すでにサントリーの「セサミンEX」の広告に出演させる決定をしたことが理由だった。大正製薬は21年1月にハットトリックを提訴するも、東京地裁は請求を棄却。大正製薬は2023年1月に控訴したが、高裁も請求を棄却。これを受けて大正製薬は“怒りの声明”を発表した。 |
広告会社変更から見解の相違か
突然の声明は、同業者を驚かせた。「敗訴にもかかわらずあえてリリースするとは相当な怒りだ」、「渉外力のある両社であれば違った解決ができなかったか」、「あまり三浦選手のイメージがない」、「一方的な主張で内情がわからない。逆にマイナスイメージでは」などの反応が寄せられた。
騒動は共感が広がらず空振りに終わりそうだ。声明は高裁判決を受けたものだが、上告は「予定していない」(大正製薬)。サントリーへの直接的な働きかけなど追加的な対応も「これだけで予定はない」(同)という。それでもやり切れない思いを発信した背景に何があったのか。まず騒動を振り返る。
「錠剤」の記載ないからサントリーに正当性あり? 大正製薬は控訴するも棄却
大正製薬は16年、電通(のちに博報堂に変更)を通じて、三浦選手の広告出演管理を行うハットトリックと広告出演契約を結ぶ。契約は、「大正製薬と電通」「電通キャスティングアンドエンタテインメントとハットトリック等」との間で交わされた。
だが、代理店を博報堂に切り替えた後の20年10月、錠剤タイプの「リポビタンDX」の販売にあたり広告出演を打診したところ、契約書に「錠剤」の規定がなく、すでにサントリーの「セサミンEX」の広告に出演させる決定をしたことを理由にハットトリックがこれを拒否。見解の相違が生じて21年1月、東京地裁にハットトリックを提訴するに至った。
大正製薬は、訴訟で「錠剤」も「リポビタンDシリーズ」に含まれ、他社製品への出演は競合禁止規定に反すると主張。ただ、契約書に「錠剤」に言及した記載はなく、昨年12月、地裁は大正製薬の請求を棄却する。今年1月に控訴したが、高裁も7月、一審判決を容れる形で請求を棄却。これが“怒りの声明”につながる。
声明では、業界慣習として出演者が競合禁止規定に基づき、競合製品の広告に出演しないことを当然の前提として企業は高額な契約金を支払うと説明。仮に競合製品への出演が許されれば、「莫大な金額を費やして築き上げたイメージを競合他社に瞬時に奪われる恐れがある」と主張する。「リポビタンD」への起用を知りながら、広告に起用したサントリーの行為にも「問題がある」と指摘した。
広告費用40億もイメージキャラクター奪われる
大正製薬は、訴訟の内容について、「リリースがすべて。公表していない」と多くを語らない。
ただ、訴状では大正製薬の言う「莫大な金額」を明かしている。三浦選手との契約金は、5500万円。16年以降、4年に渡る契約金は2億7720万円、選手の広告制作費は約2億9661万円、広告媒体費は約33億8053万円を投じていたことがわかる。金額を知り「まあ確かにこれだけの投資を思えば、怒りたくなる気持ちもわからなくもない」(前出同業者)との反応も聞かれる。
損害賠償請求は、イメージキャラクターを起用できず、展開できなくなった広告の制作費に相当する逸失利益、広告の差し替え費用(約24万円)など約2592万円。訴状からは、「約60年にわたり手塩にかけて育ててきた主力シリーズのプロモーションを軽んじ、契約上の権利を侵すもの」、「商習慣上もありえない」と、イメージキャラクターを奪われたことに対する悔しさがにじむ。敗訴を受けても何か言わずにはいられなかったのだろう。
サントリーは適切な契約を主張
訴訟に絡み、巻き添えをくらった形のサントリーだが、三浦選手の広告起用には「適切な契約を締結し、それに基づきタレントを起用しており問題ないと考えている」。声明への対応も「予定していない」とする。
大正製薬の主張はなぜ認められなかったのか。背景には、「錠剤」の解釈をめぐる大正製薬の“誤算”があったようだ。
法廷の争点は「競合」に当たるか
大正製薬は、広告出演の競合禁止規定に反するとしてハットトリックを提訴した。法廷ではサントリー主力の「セサミンEX」が競合にあたるかが争われた。
大正製薬は16年、三浦知良選手の広告出演に関する契約を電通と結ぶ。20年8月、代理店を博報堂に変更。電通契約をベースに、「大正製薬と博報堂」「博報堂キャスティング&エンタテインメントとハットトリック等」との間で契約が交わされた。
契約を通じて、20年10月に発売した新商品「リポビタンDX」の広告に出演させる権利、競合他社の広告に出演させない権利があると主張。ハットトリックがこれを認識しつつ、新商品の広告出演を拒否し、競合他社の広告に出演させたことが不法行為にあたると提訴した。
ハットトリックとの契約範囲は?
契約の範囲は、「リポビタンシリーズのためのテレビ、ラジオ等の広告全般」。競合する第三者の広告への出演禁止に関する条項(一部抜粋して要約)は、
(1)リポビタンシリーズと同種・類似の商品(エナジードリンク、ゼリー飲料、ショットドリンクを含む)を対象とした第三者の広告宣伝
(2)主力商品(医薬品、医薬部外品)と同種・類似の商品を主として製造販売する第三者の広告宣伝
(3)機能性飲料、トクホ、機能性表示食品に該当する飲料、その他の保健効果効能、身体防衛機能、老化抑制機能等の体調を整える効果効能をうたう清涼飲料を対象にした第三者の広告宣伝
――などを定める。同様の契約を博報堂キャスティング&エンタテインメントとハットトリックも結ぶ。法廷では、新商品の広告出演拒否が契約違反となるかが争点の一つになった。
大正製薬は、広告出演の権利について、シリーズは飲料やゼリー飲料などがあり、固形の錠剤(健康食品)を除く条件はないため、栄養ドリンクに限定されるものではないと主張。栄養ドリンクは同様の効果を持つ錠剤がシリーズで販売されるのが一般的なため「商品イメージ」を重要な要素として考慮すべきとした。「リポビタンDX」は、「リポビタンD」と同様「疲労回復」、「元気」のイメージで訴求するため、シリーズの一つと訴えた。
ハットトリックはシリーズは飲料のみで、錠剤が含まれるとは解釈されないと主張。「健康食品」が含まれないとの理解を前提に明記が検討されたが、記載されなかった交渉経緯があるとした。
サントリーの行為は競合禁止規定に該当する?
もう一つの争点は、サントリー商品の広告出演が競合禁止規定に反するかについて。サントリーは、20年11月23日~21年5月19日に「セサミンEX」、今年4月15日~6月11日に「グルコサミンアクティブ」のCMに三浦選手を起用した。
大正製薬は、シリーズに「リポビタンDX」(錠剤)が含まれることを前提に、「『セサミンEX』も同様(疲労回復、予防等)の効果を持つ錠剤であるため同種・類似の商品」と主張。「エナジードリンク等」はあくまで例示に過ぎず、契約の趣旨からすれば、「商品イメージと同一・類似かによって判断すべきであり、飲料か錠剤ないし健食という基準で判断すべきではない」とする。
(2)の規定の「医薬品・医薬部外品」との記載も「健食の違いは効果をうたえるかに過ぎない。商品イメージに差はない。医薬品、医薬部外品に限定する意味合いで記載されたのではない」と主張。対象は、「商品イメージ、売上構成比、市場シェア、広告宣伝費を考慮して広く解釈されるべき」とした。このためサントリーは同種、類似の商品を製造販売する事業者とする。
ハットトリックは「錠剤」「健食」は契約外と主張
ハットトリックは、新商品は契約が拘束する“シリーズ”に含まれず、「エナジードリンク」などの記載を踏まえると対象は飲料に限定され、錠剤、健食は除外されるとした。また、「シリーズの印象、イメージと同一、類似かなど主観的で広範すぎる基準で判断すべきではない」などと指摘した。
※次回(第2回)に続く
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