オウンドメディアがブームで終わったワケ
編集者として複数のメディアを手掛け、現在も新媒体「テクノエッジ」の立ち上げに奔走している鷹木 創さん。鷹木さんは『オウンドメディアのつくりかた - 「自分たちでつくる」ためのメディア運営』の著者でもあります。
鷹木さんがこの本を出版した2017年当時は、オウンドメディアに何度目かのブームが到来。企業広報関係者たちの間で、話題になっていました。しかし、ブームはやがて下火に。
オウンドメディアはなぜ、一過性のブームとして捉えられるようになってしまったのでしょうか。
鷹木さんは、「『オウンドメディアは開設するのに費用がかからないし、簡単にできる』と考えてやりはじめた担当者が、当時は多くいました。
でも、取り組んでみたらたいへんなことがたくさんあるし、期待していたような結果も出ない。それで、ブームのまま終わってしまった」のだと言います。
ここでいう「結果」とは、ページビューが万単位で稼げ、売上が伸びたり、認知度が急にはね上がったりするといったこと。
それまで※ペイドメディアでやってきたこと、それによって得た結果を、オウンドメディアにも期待したひとが多かったということです。
※ペイドメディア
企業が費用負担をして広告を掲載するメディアのこと。例)TVやラジオのCM、新聞・雑誌・Webなどの記事広告、イベントのスポンサーシップなど。
メディア運営、なにがたいへん?
オウンドメディアの運営をするにあたって、とくに何が障壁となるのでしょうか。
鷹木さんによると、「オウンドメディアは金銭的には無料でも開設できますが、実は『工数』という『コスト』が高い」のだそう。
実際、オウンドメディアの記事を制作するさいに必要となる各所への社内調整は、結構な手間。記事を作成したあとも、さまざまな部門で内容チェックを受けるため、1記事を発信するまでに、1ヶ月から1ヶ月半ぐらいかかることもざらにあります。
こんなに力をこめて記事をつくったのに、社長や関係部署の上長が内容を気に入らず、記事がお蔵入りになってしまった......などという話も、当時はよく聞きました。
「私が編集長を務めていた『Engadget日本版』のような商業メディアなら、記者と編集長が合意さえすれば記事を出すことができます。迅速に大量の記事をつくれるので、それらをTwitterなどのSNSで拡散することでメディアが自然に育っていくんです」と鷹木さん。
しかし、社内確認に比較的手数がかかるオウンドメディアでは、それが難しいのです。鷹木さんは「オウンドメディアでは記事の大量生産ができないぶん、『記事をどう出すか 』や 『どういうひとたちを自社のメディアに呼び寄せるか 』を考えることが、より重要になる」と、教えてくれました。
企業はなんのためにオウンドメディアを使うべきか
次に、企業がオウンドメディアを使う意味を考えてみたいと思います。
鷹木さんは前提として、「企業の事業とオウンドメディアでやりたいことが、連動していなければならない」と言います。
そして、編集会議のたびごとに「なんのためにこの記事をつくるのか」「いまの当社に、この記事が本当に必要なのか」と問うことからはじめているという、ある企業の例を話してくれました。
「オウンドメディアの運営では、こうした問いを続けることが本当に大事なんです。
なぜなら、問いを何度も繰りかえすほどに企業の哲学が磨かれ、やがてよいブランドができあがっていくから」なのだと、鷹木さん。
「企業はなんのためにオウンドメディアを使うべきか」。この問いに対する回答は、各企業ごとにさまざまあるでしょう。
しかしひとつ言えるのは、オウンドメディアの運営をすることで企業は、自社のあり方や商品・サービスを問い直し続けたり、自社と生活者の関係を考え続けたりする貴重な機会を得られるということです。
そしてこれこそが、企業がオウンドメディアを運営する意義のひとつなのではないでしょうか。
最後に鷹木さんは、みなさんの参考になりそうなオウンドメディアの事例を5つあげてくれました。
オウンドメディアの立ち上げを検討されている方々や、これまでの自社メディア運営を見直したいと考えている方々は、ぜひ参考にしてみてください。
参考になるサイト5選
東急エージェンシー 「JASON RODMAN」
2019年開設。
もともと東京都渋谷区に拠点を構えていた東急エージェンシー。会社の文化にも色濃く影響している “ 渋谷のストリートカルチャー ” を再現するため、このメディアを開設した。半年で200万PVを達成。(現在は株式会社TWOが運営)
スマートニュース「Media Tech」
2019年開設。
鷹木さんを含む、スマートニュースの有志が開設。メディアパートナーに向け、メディア運営の可能性や新しい考え方、方向性、アドバイスなどを提示している。読者対象やメディアの目的が明確で、ターゲットにメッセージが届きやすい設計になっている。
GMOインターネットグループ「i4U」
2021年開設。
リブランディングの一環で、GMOが長く運営してきたメルマガを補完するメディアとして立ち上げられた。GMOが得意とする、インターネットに関する深くておもしろい情報などを発信。一般的な記事とGMO関連の記事が、絶妙なバランスで配置されている。
カインズ「となりのカインズさん」
商品情報を “ 読んでたのしいコンテンツ ” に仕上げて提供しているのが特徴。店頭で店員が接客しているときのような、読者をもてなしている雰囲気があるメディア。記事は外部ライターが執筆しており、コンテンツをしっかりつくり込んでいることがわかる。ほかにも、クリエイターや専門家による各ジャンル(DIYや掃除、園芸など)を掘り下げた読み物も多数。
メルメクス「心に残る家族葬」
「葬儀」をテーマに、幅広い内容のコラムを掲載。扱うテーマが限定されていても、切り口を工夫することで記事のバリエーションをふやせることがよくわかる事例。企業の事業と、オウンドメディアでやりたいことが明確に連動している。
登壇者プロフィール
鷹木 創さん
テクノコア 代表取締役 /『オウンドメディアのつくりかた』著者
テック系メディア「テクノエッジ」を運営する株式会社テクノコアの代表取締役。2002年にインプレスに編集記者として入社。以後、「アイティメディア」、「Engadget日本版」などの編集部で活躍。Engadgetでは編集長として就任前よりPVを5倍、売上を6倍以上に伸長させた。その後スマートニュースに転職。国内有数のニュースアプリ開発会社においてメディアビジネス開発を担当。2021年からはフリーランスとして、IBM、Google などのオウンドメディアをサポートしている。
聞き手
徳力基彦さん
noteプロデューサー / ブロガー
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