広告アカウントの設計はシンプルさが重要 ~考えるべき4つのポイント~
昨今のプライバシー保護のトレンドを受け、運用型広告のインハウス化(内製化)が改めて注目されています。そこで、本連載ではインハウス支援のサービスを提供しているアタラとオーリーズが、インハウス体制での広告運用におけるヒントを解説します。
第3回では、広告アカウントの設計時に考えるべきポイントを解説します。本記事では、Google 広告(検索連動型広告、ディスプレイ広告)を中心に解説していきます。運用型広告を普及させた立て役者であり、現在も業界で覇権を握るGoogle 広告の構造は、他の広告媒体も大いに参考にしており、Google 広告の構造・設計を基礎部分から理解できれば、他の広告媒体でも流用できるからです。
早速、広告アカウント設計時に考えるべきポイントを紹介します。それは、以下の4点です。
- ポイント①
広告アカウント設計は“シンプルな設計”にする - ポイント②
シンプルな設計を行うには「自動入札機能」と「アカウント構造」の理解が大切 - ポイント③
検索連動型広告は、テーマ整理、キーワード選定、広告訴求の検討、広告グループ、キャンペーンの順で設計する - ポイント④
ディスプレイ広告は、目的・KPIの確認、入札戦略、オーディエンス、広告フォーマットの順で設計する
それぞれ詳細に説明していきます。
ポイント①
広告アカウント設計は“シンプルな設計”にする
広告アカウントの設計について、皆さんに質問です。今運用しているアカウント、キーワードやターゲティングごとにキャンペーンが乱立して煩雑になっていませんか?
実は、広告アカウントは、広告媒体や広告配信形式(検索連動型広告、ディスプレイ広告、動画広告…etc)を問わず、キャンペーンの目的に対して機械学習が最適な結果を出せるよう、できるだけシンプルなアカウント設計にすることが大切です。
機械学習が発達する前のアカウント設計は、運用者目線での扱いやすさが重視され、キーワードやターゲティングごとにキャンペーンを細分化するのが主流でした。
しかし、機械学習が発達して入札やターゲティングの自動化機能が進化すると、AIに広告配信の大部分を委ねる機会が増えたため、AIに学習させ、ポテンシャルを最大限引き出すデータ量・質が重視されるようになってきました。AIに効率よく学習させるため、データを貯まりやすくして、サンプルを増やせるようなシンプルな設計にしましょう。
シンプルな設計でキャンペーン数を減らし、機械学習に必要なデータを沢山ためることで、コンバージョン数の最大化やコンバージョン単価の低下など、キャンペーンごとに設定したKPIが達成しやすくなります。
ポイント②
シンプルな設計を行うには「自動入札機能」と「アカウント構造」の理解が大切
シンプルな設計を行うには「自動入札機能」と「アカウント構造」の理解が大切です。それらの理解していない状態ではそもそも広告アカウントの設計が難しいためです。広告アカウントの設計を行う前に、自動入札機能とアカウント構造に関して説明します。
「自動入札機能」を理解しよう
キャンペーン設計を行う前に「自動入札機能」について知っておきましょう。
Google 広告では、「自動入札機能」を「自動入札戦略」と呼んでいます。簡単に言うと、「目標に応じて入札戦略のタイプを選択することで、入札単価の設定やキーワードへの入札単価を設定することなく、データに基づいてAIが最適化しながら入札してくれる機能」です。
「自動入札機能」について覚えておきたいポイントは以下の2点です。
- 広告の配信目的に応じて多様な「自動入札機能」がある
- 「自動入札機能」には多様なデータが用いられている
それぞれについて紹介します。
1.広告の配信目的に応じて多様な「自動入札機能」がある
Google 広告では、目標に応じて以下のような「自動入札機能」が用意されています。目標によって、機能を選びましょう。
目標 | 自動入札機能 | 概要 |
---|---|---|
サイトアクセスを増やす | クリック数の最大化 | 予算内でクリック数を最大化できるように入札単価が自動的に調整される。 |
視認性を高める | 目標インプレッション シェア | Google 検索結果ページの最上部、上部、または任意の場所に広告が表示されるように、自動的に入札単価が設定される。 |
目標コンバージョン単価でコンバージョンを増やす | 目標コンバージョン単価(CPA) | 指定した目標コンバージョン単価でコンバージョンを最大限に獲得できるように入札単価が自動的に設定される。 |
各コンバージョンの価値が異なる場合に、目標広告費用対効果(ROAS)を達成する | 目標広告費用対効果 | 指定した目標広告費用対効果でコンバージョン値を最大化できるように、入札単価が自動的に調整される。 |
予算全体を使いながらコンバージョンを増やす | コンバージョン数の最大化 | コンバージョン数を重視して最適化する。 |
予算全体を使いながらコンバージョン値を増やす | コンバージョン値の最大化 | 予算を過不足なく消化しつつ最大限のコンバージョン値を得られるよう、入札単価が自動設定される。 |
2.「自動入札機能」には多様なデータが用いられている
Google 広告の「自動入札機能」は「高度な機械学習」と「コンテキストに基づくさまざまなシグナル」が利用されています。ただし、機械学習のアルゴリズムは非公開になっており具体的にどのようなデータが用いられているか詳細は不明です。一方で、シグナルに関しては、公開されているため一覧にまとめました。
- デバイス
- 所在地
- 地域に関する意図
- 曜日と時間帯
- リマーケティング リスト
- 広告の特性
- 表示言語
- ブラウザ
- OS
- ユーザー属性(検索とディスプレイ)
- 実際の検索語句(検索キャンペーンとショッピング キャンペーン)
- 検索ネットワーク パートナー(検索キャンペーンのみ)
- ウェブサイトのプレースメント(ディスプレイ キャンペーンのみ)
- サイトでの行動(ディスプレイ キャンペーンのみ)
- 商品属性(ショッピング キャンペーンのみ)
- モバイルアプリの評価(今後対応予定)
- 価格競争力(ショッピング キャンペーンとホテル キャンペーンのみ)
- 季節性(ショッピング キャンペーンのみ)
- ホテルと旅行プランの属性(ホテル キャンペーンのみ)
自動入札機能では、上記のシグナルを活用しながら目標達成に向けてオークションごとに自動で調整されます。設定した目的(コンバージョン数の最大化やCPA・ROASの最適化など)を達成する可能性が高い場合、入札単価を引き上げ、低い場合、入札単価を引き下げます。
「アカウント構造」を理解しよう
広告アカウントの設計をするためには、まず「アカウント構造」の理解が大切です。Google 広告は以下のような、 アカウント、キャンペーン、広告グループの3層構造になっています。
また、 アカウント、キャンペーン、広告グループでてきる主な設定と、ヘルプページを表にまとめました。各階層で何ができるのか事前に理解を深めておくと、広告アカウントの設計だけでなく、実際に広告を配信する際に、各階層で何を設定する必要があるのかイメージがつきやすくなるかと思います。
階層 | 設定 | ヘルプページ |
---|---|---|
アカウント |
…etc | |
キャンペーン |
| |
広告グループ |
|
ポイント③
検索連動型広告は、テーマ整理、キーワード選定、広告訴求の検討の順で設計する
次はいよいよ広告アカウントの設計についてです。これもGoogle検索を例にして、検索連型広告とディスプレイ広告について解説します。それぞれ広告アカウントの設計方法が異なりますので、その点を踏まえながら読み進めてください。まずは、検索連動型広告を解説します。
キャンペーンや広告グループを必要以上に細分化しすぎないように注意しましょう。キャンペーン設計を考えるときの主な手順は以下の通りです。
- テーマ整理
- キーワード選定
- 広告の訴求の検討
それぞれの手順について説明します。
1. テーマ整理
最初にテーマを整理する理由は、配信したかった検索クエリに対して抜け漏れを防いだり、不必要なキャンペーンや広告グループを作成してしまったりするのを防ぐためです。
テーマの整理はウェブサイトのカテゴリー構成を参考にします。たとえば、下記の画像のカテゴリー構成は「ワイン」と「ビール」です。そのため、テーマは「ワイン」と「ビール」になります。このテーマを元にして、キーワード選定や広告訴求を考えていきます。
ただし、ウェブサイトのカテゴリー構成に合わせてテーマを作るときの注意点があります。それはカテゴリ構成に合わせて不必要にテーマを増やしたことで、広告グループも増えてしまうことです。
上図のワインの例でいうと、白ワイン、赤ワイン、ロゼがそれぞれカテゴリーとして分類されてしまっている場合は注意が必要です。本来はワインのカテゴリに全て内包できるのに細分化されたカテゴリのまま広告グループを作ってしまうと、自動化機能が働きにくくなってしまうので注意しましょう。
ポイントは、ウェブサイトのカテゴリー構成をそのままテーマにして広告グループにするのではなく、カテゴリー構成をもとにテーマを整理した上で広告グループを決めることです。
2. キーワード選定
テーマの整理ができたら、次にキーワードの選定を行います。サービスや商品のニーズに合うユーザーに広告を表示するには、キーワード選定が重要です。選定する際のポイントは下記の通りです。
ポイント | 詳細 |
---|---|
ユーザーの目線でリストを作成する | 自分がその商品やサービスを探す立場であればどのような単語で検索するか考える。 |
具体的なキーワードを選択する | テーマに関連する具体的なキーワードを選ぶ。ただし、キーワードが具体的すぎると、検索数が少なく配信が出ない可能性がある。 |
一般的なキーワードを選択して、より多くのユーザーに広告を表示する | 幅広く広告を表示したい場合は、一般的な単語を選ぶと効果的。ただし、一般的すぎるキーワードを選ぶと、意図しない検索でも広告が表示される可能性がある。 |
キーワードの選定が完了したら、キーワードの重複や抜け漏れがないか確認しましょう。
補足ですが、キーワード選定と一緒に「マッチタイプ」と「除外キーワード」もチェックしておくと、効率的に広告を配信できます。
3. 広告の訴求の検討
次は、選定したキーワードをもとに広告の訴求を考えていきます。訴求を考える際のポイントは以下の通りです。
ポイント | 詳細 |
---|---|
独自のセールス ポイントを強調する | 送料無料、豊富な品揃え、魅力的な商品やサービス、特典など、優れた点をユーザーに訴求する。 |
価格、プロモーション、限定サービスを記載する | ユーザーの意思決定に役立つ情報を提供する。 |
ユーザーに行動を促す | 「購入」「今すぐお電話を」「ご注文」「お申し込み」など行動を促すフレーズを入れる。 |
少なくとも 1 つのキーワードを含める | 広告文にキーワードを含めることで、ユーザーが探している情報に関する広告であることをアピールできる。 |
広告とランディング ページの内容を一致させる | ランディング ページには、広告で宣伝しているプロモーションや商品の情報を記載する。 |
ここまでテーマやキーワードの選定、広告訴求を考えてきましたが、これができれば自然と広告グループの作成も完了します。最後に、マーケティング目標にあわせて、配信地域、日予算、入札戦略、配信デバイスを決めればキャンペーン設計は終了です。
ポイント④
ディスプレイ広告は、目的・KPIの確認、入札戦略、オーディエンス、広告フォーマットの順で設計する
検索連動型広告の次は、ディスプレイ広告のキャンペーン設計を解説します。ここでもGoogle ディスプレイネットワーク(GDN)を例に解説します。まず前提として、ディスプレイ広告も検索連動型広告と同様に自動化機能の働くシンプルなキャンペーン設計にしましょう。下記の順でキャンペーン設計を進めていきます。
- 目的・KPIの確認
- 入札戦略
- オーディエンス
- 広告フォーマット
1. 目的・KPIの確認
ディスプレイ広告の配信を行う際は事前に広告クリエイティブ(静止画や動画)を用意します。制作のポイントは、以下を考慮することです。
- 広告の目的
- ターゲットユーザー
- 自社製品/サービスの特徴や長所
クリエイティブを用意したら、広告の目的とKPIを確認します。自社の状況に合った広告配信にするためです。たとえば、同じ広告主でも、購入数を最大化したい時もあれば、ROASを改善したい時、平均コンバージョン単価を下げたい時など、状況によって達成したい目的やKPIは様々かと思います。
目的と目標を設定せずに入札戦略やオーディエンスを決めてしまうと、意図したユーザーに広告が配信されず、広告効果の良し悪しが判断できない上に、目標が明確でないために改善に向けた取り組みも困難になるので気を付けてください。
入札戦略
入札戦略は、広告の目的に合わせて選びましょう。GDN(Googleディスプレイネットワーク)では、拡張クリック単価、クリック数の最大化などの自動入札戦略や、コンバージョン数の最大化や目標広告費用対効果など、スマート自動入札戦略が提供されています。たとえば、平均コンバージョン単価を維持しながら、できるだけ多くのコンバージョンを獲得したい場合、「目標コンバージョン単価」を選びます。
オーディエンス
次にオーディエンスを決めていきます。オーディエンスも入札戦略と同様に、広告の目的・KPIに合うように設定しましょう。GDNでは、ユーザー層の興味や関心、ニーズ、行動パターンなどに応じたオーディエンスが用意されています。たとえば、最近の購入意向に基づいてユーザーにリーチできる「購買意向の強いセグメント」や、大学卒業や結婚、引っ越しなど人生の節目を向けているユーザーにリーチできる「ライフイベント」などさまざまなオーディエンスがあります。
広告媒体によっては、1広告グループ内で複数のオーディエンスを設定した場合に、オーディエンスごとの成果を確認できないことがあります。その場合は、広告グループごとにオーディエンスを分ける必要があります。ただし、ここでも広告グループを細分化しすぎないよう注意しましょう。
広告フォーマット
次に、広告フォーマットを決めます。GDNでは、レスポンシブディスプレイ広告、イメージ広告があります。たとえば、クリエイティブを厳密に管理したい場合は、イメージ広告を利用しましょう。レスポンシブ ディスプレイ広告は、画像、広告見出し、説明文などを組み合わせて自動的に広告が生成されるのでクリエイティブの管理が難しいためです。
最後にマーケティングの目的に合わせて、配信地域、日予算、配信デバイスなど細かい設定をすれば、キャンペーン設計が完了です。
キャンペーン設計を元にキャンペーンを作成
ここまで、キャンペーン設計ができたら、キャンペーンを作成します。Google 広告では、管理画面とGoogle 広告エディターからキャンペーンを作成できます。たとえば、Google 広告エディターでは、下記の作業を行えます。
- オフライン環境での編集
- URLを一括で変更
- 複数のキャンペーン、広告グループ、広告を一括で編集
- キャンペーン、広告グループ、広告の複製
…etc
複数のキャンペーンを一括で編集する際や新規広告をすべてのキャンペーンに入稿する際など、作業量が多い時に非常に便利なツールです。ヘルプページに操作方法の記載があるので使ってみてください。
最後に
本記事では、Google 広告(検索連動型広告とディスプレイ広告)を中心に解説していきました。改めてアカウント設計で大切なポイントは以下の4つです。
- ポイント①
広告アカウント設計は“シンプルな設計”にする - ポイント②
シンプルな設計を行うには「自動入札機能」と「アカウント構造」の理解が大切 - ポイント③
検索連動型広告は、テーマ整理、キーワード選定、広告訴求の検討、広告グループ、キャンペーンの順で設計する - ポイント④
ディスプレイ広告は、目的・KPIの確認、入札戦略、オーディエンス、広告フォーマットの順で設計する
このように、広告アカウントを設計するときは広告媒体の設定手順通りに進めるよりも、まずは設計を考えてみてください。次回はインハウス運用者が抑えておきたい広告配信開始前にチェックすべきポイントについて解説します。
おまけ
Google 広告以外の媒体に関する自動入札機能、アカウント構造、オーディエンス、キャンペーン作成に関して情報をまとめました。広告アカウントを設計する際に参考にしてみてください。
ヘルプページ一覧 | ||||
---|---|---|---|---|
広告媒体 | 自動入札機能 | アカウント構造 | オーディエンス | キャンペーン作成 |
Yahoo!広告(検索) | 自動入札とは | 検索広告のアカウント構造(階層構造)について | キャンペーンの作成 | |
Yahoo!広告(ディスプレイ) | 自動入札とは | ディスプレイ広告のアカウント構造について | ディスプレイ広告(運用型)のターゲティングはどんな種類がありますか? | キャンペーンの作成 |
Facebook広告 | 入札戦略について | Facebook広告の構造について | オーディエンスについて | 広告マネージャでキャンペーンを作成する |
LINE広告 | LINE広告の基礎知識③(入札編) | LINE広告のアカウント構造 | オーディエンスを使って配信する | キャンペーンを作成する |
Twitter広告 | 入札とオークションに関するよくある質問 | キャンペーン構成の考え方 | Twitter広告のターゲティング | Twitter広告キャンペーン作成ツール |
Criteo | 入札エンジンと最適化について | キャンペーン管理 | オーディエンスについて | キャンペーンの作成 |
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