フリーミアムは、数あるビジネスモデルの中でも「無料」を生かしたモデルです。フリーミアムの採用により成功している事例も多くあることから、ご存じの方も多いでしょう。しかし、具体的なマネタイズ方法やメリット・デメリットなどをきちんと理解していなければ、自社の製品やサービスにも導入して良いか的確な判断は難しいものです。
この記事では、フリーミアムの意味や無料トライアルとの違い、代表的な成功事例などをご紹介します。
フリーミアムとは?
フリーミアムとは古くからあるビジネスモデルの一つです。まずは意味と由来、注目されるようになった背景やマネタイズ方法について解説します。
フリーミアムの意味と由来
フリーミアム(freemium)とは、「free(無料)」と「premium(割増料金)」の2つを掛け合わせた造語です。具体的には、基本的なサービスや製品の機能を無料で提供し、有料でさらに高度なサービスや追加機能などの利用を可能にするビジネスモデルを指します。
2006年にアメリカのベンチャー投資家であるフレッド・ウィルソンがジャリド・ルーキンの発案をもとに提唱したとされています。
フリーミアムが注目されるようになった背景
2009年に書籍『Free: The Future of a Radical Price』がヒットしたのを契機に、フリーミアムは世間に広く認知されました。執筆したのは『WIRED(ワイアード)』の元編集長クリス・アンダーソンで、「ロングテール」の提唱者としても有名な人物です。同書の日本語版で『フリー<無料>からお金を生み出す戦略』も出版されています。
書籍の中ではフリーミアムの特徴について、従来の無料サンプルと無料にする割合が異なる点が取り上げられています。従来の無料サンプルは少量で消費者の購買につなげようとするのに対し、フリーミアムは無料で利用する多くの消費者を有料の利用者で支える仕組みになっています。その例として紹介されているのが、オンラインサイトの5パーセント・ルールです。
一方、デジタル製品においては、無料と有料の割合はまったく異なる。典型的なオンラインサイトには五パーセント・ルールがある。つまり五パーセントの有料ユーザーが残りの無料ユーザーを支えているのだ。
出典:『フリー<無料>からお金を生み出す新戦略』(NHK出版、クリス・アンダーソン著、高橋則明訳、小林弘人監修)
従来の無料サンプルでは提供するサンプルの数が増えると製造コストもかかるのに対し、デジタルで提供する製品やサービスは基本ができていればサンプルの提供コストは限りなくゼロに近くなります。このようにフリーミアムはデジタルコンテンツとの親和性が高いこともあり、多くの企業に取り入れられるようになりました。
フリーミアムのマネタイズ方法
利用する機能などに制限を設け、多数の無料ユーザーの一部を有料ユーザーに移行させて収益化するのがフリーミアムの特徴です。そのため、まずは気軽に製品やサービスを利用してもらい、無料ユーザーの母数を増やすことが重要となります。何を無料・有料にするかは製品やサービスによってさまざまな形態がありますが、以下のような例が挙げられます。
- 基本的な機能を無料にし、拡張版の機能を有料にするタイプ
- 一定の通信容量やストレージ容量を無料にし、それ以上は有料で提供するタイプ
- 基本的なコンテンツは無料で提供し、有料会員のみ限定のコンテンツを提供するタイプ
- オンラインゲームやソーシャルゲームのように、基本的な機能やサービスは無料で提供し、必要に応じてその都度課金が発生するタイプ
- 顧客の種類に応じて制限するタイプ(例:創業したばかりのスタートアップ企業は無料、それ以外は有料)
など
例えば、YouTubeでは無料ユーザーが動画を視聴する時は広告が流れますが、「広告が流れない」「動画の一時保存が可能になる」など拡張版の機能を利用できる有料のプランが用意されています。
フリーミアムと無料トライアルの違い、サブスクリプションとの関係
フリーミアムと類似する仕組みに無料トライアルがあります。ここでは、フリーミアムと無料トライアルの違いと、近年採用する企業が多いサブスクリプションとの関係性について解説します。
フリーミアムと無料トライアルの違い
無料トライアルは、ほぼ全ての機能やサービスを利用できる代わりに、利用する期間に制限があります。期間に制限はあるものの、ほぼ全ての機能やサービスを利用できることから、利便性を感じたユーザーに有料プランの購入を検討してもらいやすいのが特徴です。
フリーミアムは、サービスを利用する期間に制限はないものの、利用できる機能などに制限があります。
- 無料トライアル:期間で制限
- フリーミアム:機能などで制限
フリーミアムとサブスクリプションの関係
そもそもサブスクリプション(subscription)は定期購読や予約購読、寄付などを意味する言葉で、一般的に定額料金を支払うと利用できるコンテンツやサービスのことをサブスクリプションサービスと言います。ユーザーは利用する商品やサービスの数ではなく、期間に対価を支払います。
フリーミアムの中には、有料の機能やサービスを提供する際にサブスクリプションモデルを採用しているケースがあります。例えばメッセージングアプリの「Slack(スラック)」はフリーミアムを採用しており、機能に制限のある「フリー」は無料で使えますが、「プロ」や「ビジネスプラス」などの有料プランは月額で料金を支払う仕組みです。
また、無料トライアルの後にサブスクリプションに移行するサービスも数多くあります。
サブスクリプションサービスについては以下の記事でも解説していますので、あわせて参考になさってください。
関連記事:サブスクリプションサービスとは?押さえておきたい定額制との違い
フリーミアムのメリットとデメリット
フリーミアムを収益モデルとして採用する際は、メリットとデメリットの両方を押さえておく必要があります。それぞれ見ていきましょう。
フリーミアムのメリット
・ユーザーに気軽に体験してもらいやすい
フリーミアムは製品やサービスの一部を無料で提供するため、ユーザーが利用するハードルが低くなり、新規顧客の拡大につながりやすい点がメリットの1つです。ユーザーが製品やサービスの利用を検討し、踏みとどまる時間も短縮されやすくなります。
・口コミが創出・拡散されやすい
フリーミアムには、有料の製品やサービスと比べて他者に気軽に紹介しやすいというメリットもあります。紹介や口コミにより製品やサービスが拡散されれば、認知拡大が期待できるでしょう。新規ユーザーの獲得にもつながる可能性があります。
また、ユーザーが増えることによって、口コミだけでなくフィードバックも数を集められるようになるため、製品やサービス内容の向上に有益な情報も収集しやすくなります。
・有料プランを検討、購入するハードルを下げられる
フリーミアムは無料プランを提供することにより、有料プランを検討したり、購入したりするハードルを下げられます。無料でサービスや製品を利用したユーザーが成功体験を得られれば、有料プランに移行してもらえる可能性があります。これは、利用にあたって社内稟議が必要とされるケースがあり、導入のハードルが高いBtoB向けの製品やサービスにおいても言えることです。
フリーミアムのデメリット
・事業の初期段階から黒字化するのが難しい
フリーミアムは基本的な機能やサービスを無料で提供して新規顧客を獲得し、有料プランに移行するユーザーを増やしていくビジネスモデルのため、事業の初期段階から黒字化するのは難しいと言われています。ユーザーに価格設定と機能がミスマッチであると感じられたり、有料プランを利用する価値に気付いてもらえなかったりすると、黒字化するにはさらに時間を要し、コストばかりがかかって事業が立ち行かなくなるおそれもあります。
・制限する内容を見誤ると、有料プランへ移行させる難易度が高くなる
フリーミアムは、制限する機能やサービスの設計を誤ると、有料プランに移行させる難易度が高くなります。ユーザーが有料プランに移行するのは、お金を払ってでも利用する価値のある製品やサービスと納得したときです。無料版の機能を解放しすぎると有料版へ移行するユーザーが少なくなり、逆に制限しすぎると有料版を検討するほど利用してもらえない可能性があります。
ユーザーに有料プランを選択してもらうためには、無料で提供する機能やサービスの設計のほか、移行してもらうためのアプローチや仕組みづくりも重要です。
なお、クリス・アンダーソンは著書の中で、有料ユーザーの割合は5%を損益分岐点とし、利益を上げるには10%が望ましいとWeb2.0企業向けに述べています。有料ユーザーの割合が多い場合は、無料版の機能の制限しすぎで新規顧客を最大限獲得できていない可能性があると言います。
フリーミアムを収益モデルとして利用することを考えているウェブ2.0企業に対する私のアドバイスは、ユーザー全体に対する有料ユーザーの割合は五パーセントを損益分岐点にすることだが、望ましい割合は一〇パーセントだ。それ以上の有料ユーザーがいる場合は、無料版の性能を絞りこみすぎていて最大数の潜在顧客をつかまえていない可能性がある。一方、割合が一〇パーセント未満のときは、無料ユーザーを支えるコストが高すぎて利益をあげられない恐れがある。
出典:『フリー<無料>からお金を生み出す新戦略』(NHK出版、クリス・アンダーソン著、高橋則明訳、小林弘人監修)
フリーミアムの主な成功事例
最後に、フリーミアムを採用し、事業を成長させた事例を5つ紹介します。参考にしてみてください。
YouTube
アメリカ発祥の大手動画配信サイト「YouTube」は、基本的に無料で利用できるフリーミアムを採用しており、動画の視聴や投稿を行うことができるサービスです。2018年から提供を開始した有料のサービス「YouTube Premium」では、無料トライアルからサブスクリプションにつなげる方法を採用しています。「YouTube Premium」は、月額または年額の利用料金を支払うとYouTubeの動画が広告なしで視聴可能となるほか、動画の一時保存やバックグラウンドでの再生などができるようになるサービスです。
YouTubeは基本的な機能を無料で利用できるようにすることでユーザー数の増加につなげ、無料プランのユーザーが視聴した動画広告と、有料プランユーザーの課金などによって利益を得ています。
Zoom
アメリカのZoom Video Communicationsが提供するWeb会議ツール「Zoom」もフリーミアムを採用しているサービスの1つです。基本的には無料プランで利用できますが、3人以上のミーティングは使用時間に上限が設けられるなど、機能に制限があります。無料ユーザーがZoomを利用してミーティングを実施したり、人にすすめたりすることによって、新たなユーザーの獲得につながり、機能制限を不便に感じたユーザーがさらに有料プランへ移行する流れができていると考えられます。
Slack
もともとはTiny Speckと呼ばれる企業の社内用チャットツールとして作られた「Slack」は、チャット以外にもビデオ会議やデータの共有、Googleドライブとの連携など、ビジネスに適した機能が備わっています。2022年4月時点で有料プランの利用企業数は16万9000以上となっています。
Slackの無料プランはファイルストレージの容量やビデオ通話ができる人数、検索可能なメッセージ履歴の件数などに上限があります。上限を超えると有料プランにアップグレードするよう促される仕組みです。プランがアップグレードするごとに利用できる機能が増えるため、無料プランでSlackの仕組みに慣れて利用価値を感じたユーザーが企業の規模や利用したい機能に応じて選べるようになっています。また、有料のプロプランやビジネスプラスプランを無料トライアルで試せる点も、有料プランを検討しやすい1つのポイントになっていると考えられます。
Dropbox
オンラインストレージサービスの「Dropbox」は、あらゆるデバイスからクラウド上にデータの保存・共有などができるWebサービスです。無料で利用できる個人向けのプランには、利用できる容量やリンク可能なデバイス数などに制限があります。まずは無料で利用し、容量が上限に達してユーザーが「もっと利用したい」と感じた場合に有料プランへ移行する流れになっています。
Spotify
Spotifyは音楽ストリーミングサービスです。基本的には無料で楽曲を聞けることから利用が広まり、成長しました。無料プランでは間に広告が入ったり、オフラインで再生できなかったりするなどの制限があり、有料プランではそうした制限がなくなります。有料の「Spotify Premium」では、個人向け、家族向け、学生向けなど様々なプランがあり、無料トライアルも経て選べるようになっています。ユーザーのニーズに合った有料プランを多数用意しているだけでなく、無料ユーザー側でも広告によって収益を得られるようにしている点がポイントです。
いかに有料プランへ移行させるかが難しいフリーミアム
フリーミアムは無料プランで集客し、有料プランで収益を得るのが基本的なマネタイズ方法です。フリーミアムモデルで収益を上げるには、無料・有料の線引きや、有料プランに移行してもらえるような仕組みづくりなどがポイントとなります。成功している製品やサービスは、有料プランに無料トライアル期間を設けたり、定期的に通知したり、様々なプランを用意したりするなど、無料ユーザーを有料ユーザーに引き上げるための工夫をしています。また、そもそもプロダクトに魅力がなければ、基本版が無料でも製品やサービスは広がっていきません。フリーミアムは事業によって向き・不向きもありますので、今回ご紹介したメリットやデメリットなどを参考に検討してみてください。
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