はてなが訊く「オウンドメディア成功の法則」

メルマガにKPIは不要! 解約率ほぼゼロ、圧倒的に読まれるコンテンツづくりの秘訣

熊本発・地方企業ターゲットのメルマガ「週刊クマベイス」。東京の登録者(サブスクライバー)をも熱狂させる理由は何か?田中森士氏にうかがった

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本連載では、株式会社はてなの磯和太郎氏をインタビュアーに迎え、さまざまな人にオウンドメディアの運営、コンテンツ制作、継続の秘訣について訊いていく。第8回は、コンテンツマーケティング支援を行う株式会社クマベイス 代表取締役 CEO 田中森士氏に、メールマガジン(以下、メルマガ)配信施策についてお話をうかがった(所属・役職は取材当時)。

2016年創刊のメルマガ「週刊クマベイス」。毎週水曜に一度も休むことなく発行を続け、269回を配信(取材時点)。オーディエンス(読者)との信頼関係構築や顧客獲得に大きく貢献している。

情報過多の時代。だからこそメルマガの価値がある

磯和:クマベイスさんのメルマガ「週刊クマベイス」は以前から読んでいます。メール配信を始めたきっかけや目的について教えてください。

田中:2016年から毎週水曜日に配信しており、開始から5年ほど経過しました。盆も正月も休まず配信していて、現在269回号です。開始した当時、すでに情報過多の時代で、多くの人がちゃんと情報に向き合う時間がないと私自身感じていました。そうした中、メルマガはメールボックスに届き、それ以外の情報が入らない状態で読んでもらえるので、自社のマーケティング活動に使えると考えたのが最初のきっかけです。

弊社は「真摯なマーケティングを通した健全な社会の実現」というミッションを掲げています。それは「搾取するマーケティング」に疑問を持っているからです。正しいマーケティングとはなんぞやと考えたとき、その手段の1つにメルマガがなり得るのではないかと思い至りました。

磯和:配信ターゲットは決めていますか?

田中:地方の中小企業の経営者、マーケティング担当者をターゲットとしていますが、最近は東京の読者も増えています。コンテンツマーケティングの情報をメルマガで配信している企業がそれほど多くないからかもしれません。

磯和:確かに、テキストコンテンツを使ったコンテンツマーケティングではWebサイト・ブログが中心で、メルマガは更新情報の配信に使っているという企業が多いですよね。

田中:世の中にオウンドメディアは増えていますが、既視感のあるコンセプトやコンテンツばかりで、特徴のあるものが少ないように思います。オウンドメディアはすべての人にオープンなので、コンテンツ内容を自主規制してしまうことが理由の1つではないでしょうか。メルマガは、基本的に登録者だけに届くため、より踏み込んだ内容を伝えられます。

書き方としても、オウンドメディアはジャーナリスティックに客観的に書くことが多いと思いますが、メルマガは一人称で書けるので、読者と距離が縮まっていくと感じます。

田中森士氏
株式会社クマベイス代表取締役CEO/コンテンツマーケティングコンサルタント/ライター。熊本市在住。熊本大学大学院で消費者行動を研究した後、熊本県立水俣高校で常勤講師として勤務。任期満了後、産経新聞社に入社。神戸総局、松山支局、大阪本社社会部を経て退職し、2015年、コンテンツマーケティングの代理店・株式会社クマベイスを創業した。主に中小企業を対象に、コンテンツマーケティングのコンサルティングやコンテンツ企画・制作を提供するほか、セミナーやワークショップ、講演活動にも積極的に取り組む。バックパッカー時代に培ったフットワークの軽さが取り柄。近著に『カルトブランディング』(祥伝社新書)がある。

反応があるから続けられる。購読者になってから数年後に問い合わせがあることも

磯和:クマベイスさんでは、海外動向についてブログでも公開していますよね。メルマガとの使い分けは?

田中:ブログはメルマガへの導線の1つとして活用しています。『エピック・コンテンツマーケティング』(PHP研究所、2014年)などの著者であるジョー・ピュリッジが提唱する「CONTENT INC. MODEL」のステップが参考になるかと思います。

  • スイートスポットを見つける
  • コンテンツの方向性を決め、尖らせる
  • ベースとなるチャネルを構築する
  • オーディエンスを獲得していく
  • 収益を得る
ジョー・ピュリッジのCONTENT INC. MODEL

オーディエンスとのコミュニケーション手段は、メールが一般的です。メールで関係性を深め、収益につなげていくという概念です。クマベイスの場合は、メルマガ登録から半年〜2年経った後にお問い合わせをいただくことが多く、収益にもつながっています。

磯和:長期的なナーチャリングですね。日本ではまだメルマガを活用しきれていない企業が多いと思います。田中さんがモチベーション高く続けられる理由はありますか?

田中:モチベーションの源泉は、読者の方々から直接のフィードバック、リアクションをいただけることです。お問い合わせもその1つですが、対面のケースもあります。例えばイベント登壇後の名刺交換で「メルマガ読者です」と言ってくれる方が本当に多いんです。そこでの会話の中で、新しいニーズがあることに気づいて、それをメルマガのネタにすることもあります。そうした反応が大きなモチベーションになりますね。

もう1つ、社内では研究内容をメルマガにアウトプットするというルールにしており、メルマガを通して会社全体で成長していけることもモチベーションとなっています。メルマガが私やクマベイス社員の自己研鑽の手段になっているのです。さらにメルマガをまとめたものをKindleで出版しています。

磯和:メルマガの新規登録者の獲得はどうしていますか? いいコンテンツを配信していても、読者が増えないとモチベーションにも影響するのでは。

田中:ブログからの誘導に加えて、外部メディアからの取材を受ける、または外部媒体に寄稿するといった形で社名を露出させると、登録者が増えます。イベントや講演、セミナー、ワークショップの際、最後のスライドでメルマガ登録の案内をしています。

株式会社はてな サービス・システム開発本部 プロデューサー
磯和太郎氏

KPIはいっさい追わない。コストは惜しまずかける

磯和:コンテンツマーケティングで、オウンドメディアやメルマガの運営に疲弊して脱落してしまう企業も多く見受けられます。ネタ切れになることはありませんか?

田中:ネタのためには、惜しまずにコストをかけるしかありません。クマベイスでは社員が勉強したい書籍を経費で買っていますし、海外カンファレンスにも積極的に参加して、現地からの特別レポート配信をしています。短期的な費用対効果を考えていたらできないことですね。

もう1つは読者と直接コミュニケーションをとることです。直接つながっている読者が多いわけですが、今何に関心があるのか、何を知りたいのかを直接尋ねています。「腹を割って話せる読者」が何人いるかはモチベーションにも影響します。読者の顔が浮かぶと筆も進みますから。

磯和:お問い合わせが来るようになるまで時間がかかるというお話もありました。それもオウンドメディアと同じですね。

田中:先ほどのCONTENT INC. MODELは、収益化まで18ヵ月かかるとしています。まずはこれくらい腰を据えて取り組むべきだと思います。

磯和:早い段階で成果を求められると厳しいですよね。メルマガのKGI、KPIは設定していますか?

田中:いっさい設定していません。登録者数は見てはいますが、目標は設定していませんし、開封率、クリック率の測定もしていません。そもそもクマベイスメルマガはプレーンテキストのメールなので、計測のための仕込みをしていないんです。数字に寄りかかりすぎると、小手先のテクニックになってしまうので、あえて追っていません。

ただしチャーンレート(解約率)は時々チェックしています。解約の導線はメルマガ内に明示しており、簡単に解約できるようにしていますが、現在のチャーンレートは、限りなくゼロに近いですね。

実はメルマガを始めた当初、登録者数を増やしたくて、名刺を交換しただけの人にも配信してしまったことがありましたが、直後から解約が多発しました。これは違うなと深く反省し、それ以降は自ら進んで同意して登録してくれた方のみに配信しています。このように自ら進んで登録してくれた人のことを、欧米では「サブスクライバー」と呼びます。事業者が勝手に登録したケースは、これに含まれません。

磯和:「KPIを追わず、コストは惜しまず」という体制だと大変なこともあると思いますが、なぜそれがやりきれるのでしょうか?

田中:長い目で見れば収益になることを実感できているからですね。1年前からメルマガコンサルティングサービスを始めました。新事業開発にもつながっているわけです。ある時からメルマガコンサルのお問い合わせをいただくケースが増え、ニーズがあるなと思い立ち上げました。

BtoCのメルマガは、HTMLメールでブランドの世界観を出す

磯和:他社のコンサルティングをするサービスでは、KPIは設定していますか?

田中:チャーンレートはしっかり見ています。BtoCの場合は、加えて注文数も見ますね。

磯和:クマベイスさん自身はBtoB事業ですが、BtoCとの違いはありますか?

田中:コロナ禍に入ってBtoCの案件が増えています。BtoBと本質は変わらず、倫理観を持って相手に寄り添ったメルマガコンテンツを設計すればよいのです。

磯和:BtoCの場合は、LINE公式アカウントなどもありますが、メルマガならではの良さは?

田中:例えば弊社がお手伝いさせてもらっている、あるBtoC企業では、LINE公式アカウントも併用しています。メルマガは学びのあるコンテンツ、LINEはキャンペーン情報や短いメッセージと、内容に応じてチャネルを使い分けています。

BtoCのメルマガの活用事例を1つご紹介しておきましょう。こちらは北米のアイスホッケーチーム「ベガス・ゴールデンナイツ」のメルマガ(Newsletter)です。以前、ゴールデンナイツの試合をラスベガスで現地観戦したことがあり、それをきっかけにファンになってメルマガに登録しました。コンテンツがすばらしく、ビッグプレイ集やオリジナルグッズ販売情報など、内容が多彩です。メルマガ内のボタンをクリックしたくなるような設計が大変参考になります。

ベガス・ゴールデンナイツのメルマガ申し込みフォーム。公式サイトのトップページに設置されている

企業やブランドの真意が伝わるようなコミュニケーションを取り続ければ、BtoC、BtoBどちらでも成果が出ます。個人的には、どちらかと言うとBtoCの方がやりやすいですね。HTMLでデザインすれば、ブランドの世界観を伝えることができるので、ハイブランドにもおすすめです。

文章は訓練すれば誰でも書ける。ただし、適切なフィードバックが必要

磯和:クマベイスさんのメルマガの運用体制はどうしていますか?

田中:現在は4人体制です。私が責任者として最終チェックし、配信しています。その前段階でデスクが添削したり、書き手にフィードバックしたりしています。コンテンツの質は何より重要です。論理破綻していたら読まれませんし、誤字脱字が多くても読まれません。私自身いろいろなメルマガを登録していますが、編集が入っているかどうかは読んですぐにわかりますね。企業としてアウトプットする以上、最低限の品質は保ちたいところです。

運用するにあたっては、配信カレンダーを作成しています。締め切りを決め、企画会議をした上で、各自が原稿を執筆する。社内の細かいコミュニケーションは必須です。企画の切り口に悩んだら、企画会議の前に相談してもらうようにしています。スケジュールは、月曜日が締め切りで、火曜日に編集および配信予約設定をし、水曜日に配信という流れです。スケジュールを守りさえすればメルマガは続けられます。特に締切は確実に守ってもらう必要があるでしょう。

磯和:マーケターの中には文章作成のスキルがないと悩んでいる人もいます。文章を書くコツなどはありますか?

田中:「書いてフィードバックを受ける」という作業の繰り返し。つまり「1000本ノック」を受けるしかありません。鍛えれば誰でも原稿を書けるようになります。弊社がメルマガのコンサルティングを提供する場合も、最初はクライアントの担当者に原稿を書いてもらってこちらで添削、フィードバックします。繰り返すことで文章スキルが上達していきます。チェックできる人がいない場合は、社内ライター、社内編集者の採用を検討してもいいと思います。

マーケティングには倫理が欠かせない

磯和:メルマガを含めたコンテンツマーケティングで、成果を出すためにやるべきことは何ですか?

田中:倫理観を持って相手に寄り添うこと、これに尽きます。少しでも搾取しようという姿勢が見えた瞬間、相手は去っていきます。同意がないのにメールを送ってはいけませんし、脈絡のない営業メールも意味がありません。倫理観を持って寄り添えば、1対1の人間として信頼関係を構築できますし、必要なときにオファーを出せば聞いてもらえます。とにかくユーザーに有益な情報を提供し、心理的安全性を担保した上で読んでもらうことだと思います。

磯和:ペルソナの設計をしている企業は多いですが、ペルソナが不安なく安心して読めるかどうかは忘れられがちですよね。「必要のない情報やプロダクトを紹介するだけのメールや電話が来るのでは」と躊躇してしまう人もいると思います。

田中:クマベイスの場合は、メールアドレスだけでメルマガ登録できるようにしていますし、営業メールは絶対に送らず、有益な読み物コンテンツのみを提供しています。開封率、クリック率を計測していないというのも読み手にとって安心材料になるのかなと思います。

磯和:心理的安全性を相手に担保することは、企業の責務でもありますし、慎重にやる必要がありますね。クマベイスさんの場合は、倫理的なマーケティングを実践する中で、独自のスタンスも構築されているのだなとお話を聞いていて思いました。

田中:マーケティングには倫理観が欠かせません。意識していない企業が多いので、取り組むなら早いほうが良いですね。倫理観がしっかりしていれば、レッドオーシャンの市場でも有利な位置に立てると思います。Netflixは2020年5月、1年以上利用がないユーザーに契約継続の確認メールを送って、反応がなければアカウントを自動解約すると発表しました。そんな利用者の立場に立ったマーケティングがこれから常識となっていくでしょうし、結果的に企業側の利益にもつながると思います。

編集カレンダーを作り、配信日を守ることが大事

磯和:では最後に、メルマガ配信を続けているものの成果が見いだせないWeb担当者に向けて、アドバイスをお願いします。

田中:まずはペルソナをはっきりさせること。そして運用体制を整え、編集カレンダーを作ること。1回でも配信が遅れると、運用がなぁなぁになってしまうので、配信日を守ることが大事です。

そして、開封率を上げるなどの小手先のテクニックに走らないでほしいですね。弊社のメルマガタイトルは毎回同じ「週刊クマベイス」。第何号という発行回数の番号が変わるだけです。それでも読者との関係が構築できていれば、開封して読んでもらえます。

メルマガ運営は企業のパーパスとつながります。なぜ、企業が存在しているのか、そこからピラミッド式に考えると、メルマガをやっている理由が見えてきますし、無意味な数字に踊らされることがありません。真摯に取り組むことで信頼してもらえる。そして「結果的に」問い合わせにつながります。

磯和:オウンドメディア全般に置き換えても成立するアドバイスですね。ありがとうございます。

聞き手:磯和 太郎(いそわ・たろう)

株式会社はてな サービス・システム開発本部 プロデューサー

大学卒業後、SIerやITベンチャー、フリーランスなどでの開発・Webディレクションを経て、2012年インフォバーン入社。ソリューション担当の執行役員などを歴任し企業のオウンドメディア構築やコンテンツマーケティングを推進。

2017年はてな入社後は「はてなブックマーク」「はてなブログ」のプロデューサーを経て、現在は、企業向けオウンドメディアCMS「はてなブログMedia」およびはてなのブロガーリソースなどを活用したコンテンツ制作支援を含むコンテンツマーケティングサービスの開発を統括している。

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