「一点物の商品販売」「キャラクターコンテンツ」「若年層への認知拡大」――1000年以上の歴史ある京都の寺院「仁和寺」ECサイトの取り組みとは
この記事は、姉妹サイトネットショップ担当者フォーラムで公開された記事をWeb担当者Forumに転載したものです。
888年に創建し、1000年以上の歴史を持つ仁和寺。真言宗御室派の総本山という面がある一方、現在は観光寺院としての側面を持っています。しかし、新型コロナの影響を受け、観光や修学旅行で訪れる人が激減。寺院の維持目的だけではなく、若い世代に文化を伝える役割を担うため、ECサイトを開設しました。物販だけではない、歴史ある寺院のECサイトを通じた取り組みを取材しました。
コロナで参拝者数が激減。参拝できない人の一定ニーズも捉えECを開設
――ECサイトを開設した経緯を教えて下さい。
拝観課 書記 倉信隆憬氏(以下、倉信氏):2020年6月に開設しました。ECサイトでは仁和寺オリジナルのお香や御朱印帳などを販売しているのですが、コロナが原因で直接購入できなくなってしまった方が多数いらっしゃいました。以前から「商品を購入したい」というお問い合わせもあり、システム化するためにもECサイトは必要だろう、という判断で開設しました。
――コロナの影響で参拝者数にどのくらい変化がありましたか?
倉信氏:6~7割減少しました。新幹線の乗車率に比例して変動しましたね。参拝してくださる方が1番多い桜の季節では、2020年は9割ダウン、2021年は緊急事態宣言と被らなかったこともあり少し増えましたが、それでもコロナ前より4割ほど減少しています。
――ECサイトでは仁和寺オリジナルの商品に加えて、高額なもの、一点物が多いかと思いますが、扱う商品の基準などはありますか?
拝観課 課長 金崎義真氏(以下、金崎氏):基準は整理している途中です。ECサイトを運営するにあたり、単価が安いものではなかなか利益につながりにくく、1点あたりのバリューをあげる必要があります。京都の寺院ですので、地域の人たちが制作した京都友禅の御朱印帳など1点でバリューが上がる商品をテスト的に販売しています。
戦略としては仁和寺がブランディングした商品を売るのが1番良いのですが、まだ体制が整っていない状態です。
――一点物の商品開発の軸は開発者と決めているのでしょうか?
金崎氏:「とりあえず始めてみよう」とECサイトをスタートしたので、まだ明確なガイドラインが定まっていません。情報発信力が必要なので、有名な作家さんたちにご協力いただいた商品を扱っています。
――ECサイトで販売している商品は現地でも購入できるのでしょうか?
倉信氏:ほとんどが購入できます。ECサイト限定は一点物の商品だけです。
――ブランディングや製造の体制を整備している段階とのことですが、整備後にECサイト限定で販売したい商品の構想はありますか?
金崎氏:いくつもの課題をクリアした後にはなりますが、仁和寺を知る人の分母を増やすために、20~30代向けの商品を作りたいと思っています。20代なら20代、30代なら30代に合わせて儒教色を残したアイテムを製造・販売して仏教に触れてもらう。その人たちが50代、60代になったら、少し値は張るけれど必要になる念珠を購入していただくというように、年代ごとに段階を踏むような商品構成を作りたいですね。
将来を見据え、仁和寺を知る人の分母を増やしていく
――集客施策はどのようなことを行っていますか?
金崎氏:ECサイトに携われる人員不足ということもあり、まだ実施できていないのですが、考えている施策はあります。
ECサイトへのアクセスを増やすために、仁和寺現地での発信とSNS上で若年層への認知拡大を並行して行うこと。大手のSNSフォロワー数を見ていると、一定の人数で頭打ちになっている傾向がありました。どうやってフォロワー数を増やすかと考えたときに、やはり新規のマーケットを獲得しなければならない。そうすると、仁和寺を知ってから観光などで何度も寺院を参拝できる年数が長い20代、30代の若い方達に絞ってアピールしていくのが必要だな、と。
――仁和寺のTwitterアカウントはありますが、ECサイト専用のアカウント運用の予定はありますか?
金崎氏:SNS運用のスキルを持つ人材が不足しているため、今は実施していません。仁和寺全体での人手は足りており、寺院でチケットを販売するなど現地対応のスタッフはいるのですが、ECサイト関連のタスクに合うスキルを持つ人がいない。
当初、寺院への集客型陣営を計画していたので、切り替えるには時間と手順が必要です。
お寺がやるべきことはECに注力することなのか?
――現地対応している方をECサイト担当へ少しずつシフトさせることは考えていらっしゃるのでしょうか?
金崎氏:そのためには教育をしないといけない。ジョブチェンジをするということは、組織体制を変えることです。
教育費をかけて、教材を入れてインフラも整えて現地の人達にトレーニングする時間や価値を考えると、現状は外注してプロにお任せした方が良い。
ECサイトを運営する以上、最低限のガイドラインや仕組みを整えて、それを担当者は知るべきだとは思いますが、システム面などまですべて内部職員で成立させる必要はないのではないか、と私は考えています。
ECサイトを運営するとなれば、マーケットを拡大することを念頭に置いて取り組まなければなりません。しかし、それに注力するには組織体制を変えることにもなりますから「はたしてそれはお寺がやるべきことなのか?」と二の足を踏んでいます。
――文化や歴史を伝える役目をもつお寺が、ECサイトをメインに運用することは、将来的な費用対効果を考えてどうなんだろうか、というお考えなんですね。
金崎氏:リスクが高ければそれだけ可能性としては高いんです。ただ、それをめざすとなれば運もありますし、体制をきちんと整えるために時間と費用が必要になります。
整備事業から生まれたキャラクターをNFTアート作品に
――「OMURO88」というコンテンツがありますが、そのなかでキャラクターのクリアファイルを見かけました。こちらをECサイトで販売する予定はありますか?
金崎氏:「御室ムスメ」ですね。仁和寺の裏にある成就山に88箇所の霊場がありまして、その整備費用を捻出するために制作したキャラクターです。イラストレーターさんとの間にプロデューサーを入れて、88人違う方にイラストを描いていただいています。
キャラクターコンテンツが好きな客層の人たちに成就山まで来ていただき、88社の現状を見ていただくことをテーマに制作していたので、グッズは現地での販売のみにしていました。
ただ、コロナ禍でストップしてしまい「京まふ(京都国際マンガ・アニメフェア)」でNFTアート(仮想通貨のブロックチェーン技術をデジタルアートと組み合わせたもの)として販売します。広義ではECサイトでの取り扱いに含まれるのではないでしょうか。
18歳以下の参拝料を無料にし、若年層への間口を広げる
――今後取り組んでいきたい施策について教えて下さい。
金崎氏:「これは仁和寺の商品だな」と思ってもらえる、仁和寺というジャンル化された商品を作らないといけないなと考えています。さらに、先ほどもお伝えしたとおり、20代、30代に届くものであれば必然的にECサイトへのアクセスも増えるのではないかと。
――若い世代の認知を広げたいとのことですが、若年層のECサイト利用者はあまり多くないのでしょうか?
金崎氏:50代~60代が多い。そのため、現地の施策と連動し、思い切って18歳以下の方の参拝料を無料にする施策を行っています。今だと1年間に大体2万人~5万人が無料対象になる人数なんです。これが2年、3年と積み重なっていって、そのうちの何割かは大人になってからまた仁和寺を参拝したりしてくれるという考えです。
中長期的な計画なので、まだ結果の測定はできていませんが、18歳以下を無料にすることで、仁和寺の層は若干若返ってくると予想しています。
――18歳以下無料の施策はいつから実施しているのでしょうか?
金崎氏:2年くらい前から段階を踏んで、最初は宝物館や特別展示だけ無料にしていて、完全に無料になったのは2021年6月19日です。京都のタクシー運転手さんが無料条件を知っているので、18歳以下の方を連れてきてくれるようになりましたね。駐車場の利用台数も施策に比例して増えてきています。
――間口を広げた後、ECサイトにつなげる施策は行っていますか?
金崎氏:すぐにではないですが、仁和寺を訪れた若い子達がその魅力をわかってくれると思っています。その人達が20代、30代になった時に「購入してみようかな」と思ってもらえる仏教と関連した商品を今のうちに制作しておいて、ECサイトで販売したい。
倉信氏:仁和寺の持つ雰囲気に合うような、たとえば仁和寺は「御室桜(おむろざくら)」が有名なので桜をモチーフにした商品や、ECサイトをきっかけに仁和寺に足を運んでもらえるような、きっかけを作れる商品を扱っていきたいと思っています。
金崎氏:先ほどのNFTアートなら、オンラインコンテンツなのでマーケットが世界に広がる。日本のアニメはやはり価値が高いと思っています。整備事業の1つとしてコンテンツを制作し、仁和寺が著作権を持つことでいろいろな取り組みができると考えています。アニメというただのコンテンツだけでなく、これをきっかけに仁和寺や成就山に来ていただいたり、ある意味循環型の仕組みが構築できるのではないでしょうか。
オリジナル記事はこちら:「一点物の商品販売」「キャラクターコンテンツ」「若年層への認知拡大」――1000年以上の歴史ある京都の寺院「仁和寺」ECサイトの取り組みとは(2021/11/22)
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