LPのA/Bテストは無駄な仕事? 80点が取れる効果的なデジタルマーケティングの定石を押さえる

デジタルマーケターの仕事は無駄ばかり!? 定石を知れば無駄な作業を省いて事業貢献する仕事ができる

縦型LPはファーストビューとコンバージョンポイントの改善をすれば良いのです。100点を目指してA/Bテストを繰り返すより、定石を知って80点のLPを量産した方が効果的です。

そう語るのは、2020年9月に『デジタルマーケティングの定石なぜマーケターは「成果の出ない施策」を繰り返すのか?』(日本実業出版社)を上梓した株式会社WACULの取締役CIO 垣内 勇威 氏。

今回は、UXデザインコンサルティングを行う株式会社ビービットの執行役員 宮坂 祐 氏がインタビュアーとなって、書籍に込めた思いや紹介されている定石について垣内氏に聞いていく。

新卒でビービットに入社した垣内氏にとって、宮坂氏は元上司。在職中は、仕事の方針を巡って喧嘩したこともあったというが、今でも公私に渡って付き合いがある二人。現在のデジタルマーケティングの仕事に関して、率直に時に辛辣な発言が出ながらも、デジタルマーケターの地位を上げ、価値ある成果を出して仕事を楽しめるようにしたいという垣内氏の思いがあふれる取材となった。

デジタルマーケターの無駄な仕事をなくしたい

宮坂: 垣内さんの書籍の初稿を読ませてもらいました。目次だけでも、「Webサイトリニューアルは80%失敗する」「Webサイトが『人を説得できる』という勘違い」「ブランディングを言い訳にする無駄な仕事たち」といった文言が並び、舌鋒鋭く書かれていて、非常におもしろかったです。デジタルマーケティングに関わる人は全員読むべきと思ったのですが、なぜこの書籍を書こうと思ったのでしょうか?

デジタルマーケティングの定石 なぜマーケターは「成果の出ない施策」を繰り返すのか?

「成果の出ない施策」に終止符を打つ1冊

本書ではアクセス解析データやオープンデータをもとに分析・改善提案・施策評価を自動で行う「AIアナリスト」を利用している3万社を通じて得られた、改善施策の成果データや競合比較でのベストプラクティス、これまでの垣内氏のコンサルティング経験を踏まえた知見が惜しみなくまとめられ、デジタル活用の「正解・不正解」を一刀両断します。

垣内: デジタルマーケティングのコンサルティングを15年やっていますが、いつも同じ提案をして、改善すると「すごいね」と言われます。改善できて感謝されることはありがたいですが、「同じことの繰り返しをしていていいのだろうか? デジタルマーケターが無駄な仕事に振り回されず、意味のある仕事ができる世界にしたい」という思いから書きました。

宮坂: 垣内さんのいうデジタルマーケティングというのは、マーケティング活動全般において、どうデジタルチャネルを使って、売上の最大化、コスト削減をするかといった視点ですよね。

垣内: そうですね、マーケティング全体のどこをデジタル化するか、というところから始まると思います。デジタルで代替できるところ、できないところのつなぎ目が特に改善の伸びしろがあります。

宮坂: そうした前提において、デジタルマーケティングにおける無駄な仕事というのは、どういうことがありますか?

垣内: 局所最適化して、LPのデザインのA/Bテストを繰り返したり、広告を惰性で続けたりといった「本来の成果」につながらない仕事です。「本来の成果」とは、「ビジネス全体」のことです。ビジネス全体を見てどう効率化するか、ドライブするかを考えて、一番伸びる部分にテコ入れすべきですが、手段ありきが多いと思います。LPのデザイン変更は、担当者1人でもできるので、組織をまたがずすぐにできますし、「やった感」はあるけれど、大きな成果にはつながらないですよね。

株式会社WACUL 取締役CIO垣内勇威さん

まずは信頼獲得のためにコンバージョンをあげよ!

宮坂: しかし担当者の立場からみれば、LPのコンバージョンがKPIになっていて、他の施策は手が出せないという事情があります。自分の担当範囲であるLPのA/Bテストをしてコンバージョンを上げるのは、自然な流れでそれを無駄と言ってしまっていいのでしょうか?

垣内: 一番は「LPのコンバージョンがKPI」という仕事をなくすことです。本来はマーケティングのプロセス全体の最適な業務設計をして、組織のKPI設計を変えるべきですよね。これらは管理職の仕事のため、担当者レベルでは、すぐにKPI設計を変更することはできません。

まずはできる範囲で数字を伸ばして実績を積み重ねることで、自分の業務領域を広げていくのがおすすめです。しかし、先程も述べたように数字を上げる仕事のやり方が間違っています。極力無駄なく成果をあげるためにデジタルマーケティングの「定石」を知り、それをやっていけばいいのです。たとえばLPならばファーストビューとコンバージョンポイント以外は直さなくていいです。

ビービット 執行役員 宮坂 祐さん

100点を目指す必要はない。80点に効率的に到達するための定石をおさえよ!

宮坂: 成果を上げることで発言権を得て、マーケティング全体の最適化、KPI設計などに踏み込んでいくんですね。正しい打ち手である定石を知っていれば、無駄を省いて成果を上げられるということですが、A/BテストをしてPDCAをまわすようなやり方は、間違いですか?

垣内: テストして数字を見て改善することは必要なので、それを否定するつもりはありません。ただ、100点満点中80点をとれればそれ以上やらず、もっと他のことに時間を割くべきです。80点は少し勉強すれば到達できますが、100点をとるのはものすごく時間がかかります。80点は定石で到達できますが、95点はユーザー理解が必要、100点を目指すのはアートだと思っています。

LPのCVR(コンバージョン率)で言えば、たとえば1%から2%にあげることはできますが、2.5%、3%を目指すのは労が多すぎます。そのために無限にPDCAを繰り返すのは、時間がもったいないです。

宮坂: 80点をとるための定石を皆さん知りたいでしょうね。この定石は、ビービット時代のユーザー調査などを通して得られた知見、WACULで3万サイトのデータを分析した知見などから導いたものだと思いますが、特に押さえておきたいところはどこでしょうか?

垣内: まずデジタルの活用目的を決めることです。たとえば、LPなら新規のコンバージョン獲得なのか、既存客のリピート購入なのか、何のためにやっているのかをおさえることですね。

EC広告でROASを見るのは思考停止! 本来見るべき指標はCPA

宮坂: 目的が漠然としている例は多いのでしょうか?

垣内: ECの広告のKPIを聞くとROAS(Return On Advertising Spend、広告費用対効果)と答える人がいますが、聞いた瞬間「アチャー、思考停止!」と思います。ECは広告を配信すると、もともと買うつもりだったリピーターが広告経由で商品を購入します。何もしなくても買ってくれるようなリピーターが買えば、ROASは高くなり、広告運用の成果が出ていると誤解してしまうんです。

ECの広告の目的は、定期的に買いに来るリピーターの再訪促進よりも、新規会員獲得にするべきで、KPIは新規会員登録のCPA(獲得単価)になります。

認知広告も同じです。ディスプレイ広告を大量に流して、インプレッションで商品認知をさせる、という人がいますが、バナーだけで商品認知ができるわけがないんです。人々は何回も意識的に見せないと認知しないので、メールアドレスを取得し、会員になってもらい、定期的にメールを送って接触頻度をあげたほうがいいですね。

宮坂: そうはいっても、バナーを載せないと会員獲得もできない、という意見もありますよね?

垣内: コストパフォーマンの視点が必要です。さすがにビュースルーで認知はないとして、バナーの1クリックを100円とすると、継続的に配信し続けないといけません。それをやるならキャンペーンを実施して、CPA 500円で会員獲得してメールアドレスを取得し、その後メールを送り続けたほうが、コストが低くなります。メールアドレスがあれば、その後のコミュニケーションのコストをカットできるからです。

宮坂: 以前、一緒に担当した車のキャンペーンもその理論を実践しましたよね?

垣内: はい。車の買い替え頻度は10年に1回です。以前は購入時に想起できる車種が5車種だったのに、10年前の時点で1.8車種まで減少した、という調査結果があります。それだけ、車への興味が薄れているんです。

10年に1回の買い替えを想定して、車に関心の薄い人たちの認知をとるためにバナー広告を出し続けるのは効率が悪いんです。10年間もバナー広告をその人のために打ち続けるわけですから。そこで、「車のプレゼントをします」というキャンペーンを実施しました。多少はその車種に関心がある潜在顧客が応募するので、その後に彼らにメールを送り続けるのです。もちろん、ほとんどが開封されませんし無視されますが、メールが届いているのを頻繁に見ているため、買い換える時に車種が想起されます。

この企画は、テレビCMの代替として行いました。テレビCMはかっこいい車の動画よりも車種名を連呼するほうが認知に効果がありますが、それをWebで代替するならどうなるかという発想で、メールを送ることでCMと同じ効果が期待できるという仮説で実施しました。実際に、購入者を調査してみると、ほとんどの人がメルマガの会員登録をしていたことがわかりました。

 

宮坂: 生活者の変化を踏まえて、メールによる認知獲得を目指したんですね。

垣内: はい。バナーのインプレッションで認知獲得は、いくらやってもうまくいかないでしょう。だから最初に考えるべき定石は、どのフェーズのお客さんに対して、何を目的に使うのかという型を考えることです。

縦長のLPは無駄! ファーストビューで人の動きが決まる

宮坂: 先程も少し触れた、LPはファーストビューとコンバージョンポイントだけ見ればよいというお話ですが、どういうことですか?

垣内: LPはファーストビューより下は何を書いてもコンバージョン率は変わらないので、縦長にする意味がありません。長くなるほど制作費があがりますし、内容のチェックも大変です。そこに力を入れるなら、ファーストビューを考えたほうがいいでしょう。

宮坂: スマホだと、下の方までスクロールすることも多いような気がしますが、それでも意味がないですか?

垣内: ヒートマップで見ると、下の方まで読まれていると主張する人もいますね。しかし、コンバージョン設定や商材にもよりますが、LPではCVRが5%いけばかなり高く、よくて2%、悪ければ0.5%くらいでしょう。100人きて5人コンバージョンしたらいいほう、という中でファーストビューだけで落ちる人がたくさんいるんです。落ちない人はスクロールしますが、逆にスクロールをさせて逃すのがもったいないです。下のコンテンツは消したほうがCVRが上がるので、ファーストビューに力を入れたほうがいいです。

宮坂: コンバージョンポイントの設定についてはどうですか?

垣内: 当たり前ですがコンバージョンを何にするかでも、コンバージョンレートは大きく変わります。B2Bなら、ホワイトペーパーダウンロードと、営業へのお問い合わせを比較すると、ホワイトペーパーダウンロードならCVRが10%になることもありますが、問い合わせは1%を切るでしょう。

しかし、CV数は単に数を増やせばいいというわけではなく、その後の営業、インサイドセールスのフォローがどこまでできるかをセットで考える必要があり、組織設計の話になります。

宮坂: どこまでをWebサイトに求めるか、ということですよね。

私は営業をやっていた経験があるのでよくわかるのですが、営業とマーケティングの壁もあります。「ホワイトペーパーのダウンロードくらいで、リードをパスするな」と言われることもあれば、営業の商談が減ると「もっと数を寄越せ」と言われることもあります。

宮坂: 本来は、管理職、経営層がファネル設計して各部門のKPI設計をすればいいのですが、それがない場合、現場はどう対応すればいいと思いますか?

垣内: マーケティングが別部署なら、営業の人にどんなリードなら顧客化するのかを聞いて、リードの定義を明確化することですね。リードの判別の手段は2つあります。ひとつは、フォームで項目を追加して入力してもらう、もうひとつはインサイドセールスが電話で見込客に情報を聞くことです。インサイドセールスの立ち上げ時は、マーケティング側に所属させて、マーケティングとしていいリードを作ることにコミットするといいですね。

カスタマージャーニー、ペルソナにも物申す!

宮坂: LPの改善では他にありますか?

垣内: ファーストビューもコンバージョンポイントもそうですが、人が多いところと、売上に近いところに力を入れることですね。コンテンツマーケティングも同様で、訪問数が期待できない記事は意味がありません。ただ、記事を読んでもらえればいつか戻ってきてもらえるという間接効果を期待する人もいますが、現実に記事を読んでロゴを見て認知するというのは都合のいい妄想です。コンテンツでもその場でリード獲得しないとだめです。

宮坂: コンバージョンさせる機会があれば、コンバージョンさせよ、と。

垣内: 時間をかけてカスタマージャーニーマップを作り込むことをやめてほしいです。

宮坂: でもカスタマージャーニーは書きますよね?

垣内: カスタマージャーニーは、今のお客さんがどういう流れで動いているのか、現状理解のために必要です。それがないとどこに網を張るべきか判断がつきません。注意すべきはカスタマージャーニーは操作できないということです。タッチポイントで情報を渡すことはできますが、その後のユーザー行動を変えるのは不可能です。世の中には、マーケターの理想・妄想のカスタマージャーニーが多いです。

宮坂: 作ってもいいけれど、現状のお客さんの可視化のために使うということですね。多くの場合カスタマージャーニーはペルソナもセットですが、どうでしょうか?

垣内: ペルソナもマーケターの理想・妄想で作られてしまうことが多いので、注意が必要です。メンバー同士の合意形成としてペルソナを作ることは意味がありますが、接触状況やユースケース、流入元を見て、「どういう状況で来ているのか」を考察する方が有用です。

メルマガは内容よりも頻度を重視

宮坂: その他にすぐに役立つ定石はありますか?

垣内: メルマガは、配信頻度が重要なので、中身に時間をかけるよりも量を送ったほうがいいですね。ECサイトで新商品が10個あるなら一気にひとつのメールで紹介するのではなく、1個ずつわけて10通送ったほうがいいです。ユーザー調査でもメルマガはECサイト来訪のきっかけに過ぎなくて、メールでじっくり検討して購入を決めることはないということがわかっています。頻度が100点中70点を占めていて、あとはタイトルと本文のファーストビューにリンクがあるかどうかです。

宮坂: 多すぎると配信解除されることもありますが、どれくらいが適切でしょうか?

垣内: B2Bなら週に1回、ECなら毎日でもいいと思います。たくさん送っても解除されないようなロイヤリティの高いユーザーが多ければ頻度高く送ってもいいですし、解除率が上がるようなら下げればいい。ここにこそデータを見てPDCAを回す運用をしてほしいですね。大抵の場合、相当送っても解除率は大きく上がることはないので、送ってしまえばいいと思います。

宮坂: 仕事の目的と意味を考えて定石をやれば、無駄な仕事を排除できますね。それにより生まれた余剰の時間はどう使うべきでしょうか?

垣内: お客さんにとって価値の高いコンテンツの制作ですね。記事、ダウンロード用の資料、セミナーなどです。コンテンツは集客力とイコールですから。小手先で量産したコンテンツではなく、魂を込めて自社の知見をコンテンツ化するのです。

80点の感覚をつかむために知見の民主化をしたい

宮坂: 「80点は取れた」という判断基準はありますか?

垣内: 私はいろいろなサイトを見ているので、これ以上は上がらないということがわかるのですが、それがなければ判断するのは難しいかもしれません。その勘所を伝えるために今回の書籍や、プロダクトである「AIアナリスト」を作っているようなものです。

宮坂: 「AIアナリスト」は同じカテゴリのサイトのCVRを比較できるのでベンチマークになりますね。

垣内: 知見を民主化して共通に使ってもらいたい理由は、私自身もこれまでLPを長くしたり、ボタンを光らせたりといった無駄な時間を過ごしてきたからです。

本来デジタルマーケティングの仕事はデジタルだけの局所最適化ではなく、組織横断での仕事です。まさにセールス&マーケティングのデジタルトランスフォーメーションです。コンテンツ作りのために他の部署に取材にいくこともあれば、コンバージョン設定では営業とホワイトペーパーダウンロードか問い合わせかを調整することもあるでしょう。ECなら商材の仕入れとの調整も必要です。自分の仕事に閉じず、組織調整していくことが次の伸びしろになりますし、そのためにはデータ分析だけでなくコミュニケーション能力が必要です。

宮坂: 最後に、奮闘するデジタルマーケターにメッセージをどうぞ。

垣内: どんなサイトでも、目的にそったKPIが設計できれば仕事が楽しくなります。書籍では、ビジネスモデルを18に分類して、どういう定石が使えるのかを整理しています。施策は、LPなど短期で伸ばせるものと、コンテンツ、メールなど中長期の運用によって成果が出るものがあります。短期で成果を出しつつ、中長期の施策も組み合わせるというポートフォリオを組むような形で設計できるといいと思います。

デジタルマーケティングの「勝ちパターン」は18種類に絞られる

書籍で紹介した定石に従って仕事をすれば、意味のない無駄な仕事を続ける必要がなくなります。その分本来の事業成果に貢献できるようになれば、デジタルマーケターとしての仕事が楽しくなるので、現状の仕事にお悩みの方はぜひ参考にしてください。

※本取材はオンラインで実施
※キービジュアル作成:三苫慧子

デジタルマーケティングの定石 なぜマーケターは「成果の出ない施策」を繰り返すのか?

「成果の出ない施策」に終止符を打つ1冊

本書ではアクセス解析データやオープンデータをもとに分析・改善提案・施策評価を自動で行う「AIアナリスト」を利用している3万社を通じて得られた、改善施策の成果データや競合比較でのベストプラクティス、これまでの垣内氏のコンサルティング経験を踏まえた知見が惜しみなくまとめられ、デジタル活用の「正解・不正解」を一刀両断します。

用語集
CPA / CVR / KPI / アクセス解析 / インプレッション / キャンペーン / クロール / コンバージョン / コンバージョン率 / ダウンロード / ファーストビュー / リンク / 訪問
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