味の素社の「アジパンダ」が商品パッケージから企業キャラクターへ出世。秘密は地道な社内活動?
現在、商品やサービスのプロモーションやPRなどに“キャラクター”を使う企業が増えています。しかし、「思うように活用できていない」「マネジメントの仕方がわからない」という声も少なくありません。
そこで、本連載ではWeb担当者Forumの公式キャラクター「ウェブパン」が、キャラクターを上手く活用している企業の担当者にインタビューし、キャラクターの設定や活用のコツなどについてインタビューします。
パッケージデザインとして誕生し、CMや販促グッズなどにも登場
―― 近年、人気急上昇中のアジパンダくんだけど、誕生のきっかけを教えてほしいパン。
渡邉さん: 2005年に、うま味調味料「味の素」の瓶のデザインにあしらわれたのがきっかけです。モチーフにパンダを選んだのは、新しい顧客層として訴求対象である若い世代や小さなお子さんのいる方に好まれる人気者で、味の素の瓶の形にもしっくり合い、コーポレートカラーである赤白で表現しやすかったからと聞いています。
「アジパンダ」として商品のキャラクターとなり、その後24種類のデザインをおこして「AJIPANDERS」と名付けて総選挙を行なったり、ミニチュア瓶の携帯ストラップを販促用プレゼントにしたり、商品の担当者が中心となって様々な販促企画に活用するようになりました。「味の素」のCMにも登場したことがありましたね。
ウェブパン: はじめから大活躍だったんだパン!
渡邉さん: 誕生時は商品キャラクターで小回りがきいたので、「味の素」の販促を中心に活用が進みました。でも、実はアジパンダが「味の素」のCMに出演したのは2013年が最後で、しばらく「味の素」の販促にあまり活用されない時期もありました。
一方で、コーポレート分野を中心に、引き続き活用が進み、2015年に味の素社の企業キャラクターとして昇格することになりました。このときは、現場レベルで企業キャラクターとしての活用が先行していたため、役割の変更は後追いで、比較的スムーズに決まったように思います。
ウェブパン: 商品キャラクターから企業の公式キャラクターなんて、すごい出世だパン!
――企業の公式キャラクターとしては、どんな活用のしかたをしているのか教えてほしいパン。
渡邉さん: リアルでは、味の素社がネーミングライツパートナーになっている「味の素スタジアム」や「味の素ナショナルトレーニングセンター」などで開催されるイベントへの参加が代表的なところでしょうか。アジパンダの着ぐるみが登場すると会場がすごく盛り上がりますね。
オンラインでは、LINEでアジパンダのスタンプ配信を行ったり、レシピを中心に味の素社の情報を発信するサイトの「AJINOMOTO PARK」でナビゲーター役を担ったりしているんですよ。
アジパンダのグッズも増えていて、キャンペーンなどで特別に制作するノベルティや、川崎工場に併設している「アジパンダショップ」で取り扱っている、販売用のグッズもあります。また栄養士さんなど専門家向けの勉強会で使用する資料や配布物にも登場させることが増えています。
ウェブパン: リアルからオンラインまで、すごい活躍! ノベルティやグッズは活用しやすそうだパン。
商品キャラクター設定を土台に、役割や活用範囲などのガバナンスを策定
―― 大きな会社の企業キャラクターとなると、いろいろと決め事も増えそうだパン……。設定やルールはどうしているパン?
渡邉さん: そうですね。キャラクターの設定は商品キャラクターの時からおおまかに決まっていましたし、「味の素」の販促活動での実績もあって「使い方」も暗黙知として社内に確立しつつありました。それらを明確にガイドライン化することに加えて、役割や活用範囲をより精緻化することに取り組みました。
当社は消費者向けの商品から、企業向けの食品素材、アミノ酸を中心とする研究開発まで幅広い事業を展開しており、商品ブランドも個々のブランドイメージが確立しています。そのため、最初は「アジパンダ」を活用することに難色を示す事業分野や商品もありました。そこで、それぞれのブランドマネジャーや事業担当者などと協議・検証して、活用範囲を決めていきました。
さらに企業キャラクターとしての整理をはじめてすぐに、世界各国にある味の素グループでも活用すべきという意見もあったので、「グローバルアンバサダー」としての整理も並行して進めることになったんです。
―― それもまた整理がたいへんそうだパン……。キャラクターの設定や運用ルールの策定には何を参考にしたんだパン?
渡邉さん: キャラクター運用を体系化したものは、まだあまり確立されていないので、社外のセミナーに参加するなどして、既に知見のある方々のお話を聞くことからはじめました。
キャラクターの役割として、誰もが見ただけでその企業を想起させる「アイキャッチャー」、ユーザーとの交流を促進する「コミュニケーター」、社員の愛社精神や団結力を育む「インナーモチベーター」の3つがあるとおっしゃっていて、まさに「アジパンダ」に委ねたい役割だと考えました。そこを起点にして、いろいろと整理していきました。
――でも、いろいろと決め事を作っても、徹底することは難しいパン?どのようにして活用促進と管理を両立させているんだパン?
渡邉さん: それまで暗黙知としてあったアジパンダの運用ルールを整理・追加して「ガイドライン」として明文化し、それに則って使用しています。どんなパーソナリティなのか、どんな行動や発言がOKでNGなのか、基本的なことは決めていますが、あまり限定し過ぎないようにしています。たとえば小学校5〜6年生くらいの男の子という設定なので「難しいことを言うのは違和感がある」と現場で判断してもらえればと。その上で自由にポジティブな発想で活用してもらいたいと思っています。
このガイドラインは50ページほどにわたっており、2019年の12月からアジパンダ専用のイントラサイトにまとめて公開しています。グローバルアンバサダーになってからの追加・変更事項や、過去の活用事例、関連情報を一括で提供する目的で、イントラサイト化しました。
ウェブパン: アジパンダの使用に関する専用サイトがあるなんてすごいパン!見た目も楽しくて、これなら社員の人たちも「アジパンダを使ってみよう」って思うパン!
現場で自由に活用できるように、使用申請をイントラサイト上でスムーズに
――ガイドライン以外に、社内でもっとキャラクターを活用してもらうためのコツはあるパン?
渡邉さん: 活用のための申請をスムーズにすることですかね。アジパンダも、商標登録前に使ってしまうとトラブルになる可能性があるので、商標チェックも含めて、活用する際には必ず事前申請をしてもらっています。2017年に申請システムを構築したのですが、その申請を前述のイントラサイト上でスムーズにしています。
自由に使ってもらえるイラストを多数用意しておいて、自由に選択できるようにしています。他にも、活用の仕方など気軽に相談してもらえるように、サイトから直接相談できるメール窓口も設けてあります。
ウェブパン: いたれりつくせりだパン!
社員はキャラクターの魅力を伝えるアンバサダー
――でも、サイトや相談窓口の存在を知らない社員さんもいそう……。どうやって社内のみんなにキャラクターを知ってもらえばいいパン?
渡邉さん: 確かにサイトをつくっただけでは浸透しませんね。だから、社内プロモーションは必須です。たとえば、支社で開催される営業担当者に向けた新商品の勉強会では、少し時間をもらってアジパンダを使った販促事例やツールなどを紹介するようにしています。また、オンラインの「AJINOMOTO PARK」も大切な消費者との接点なので、ナビゲーターとしてもっと使ってもらえるように働きかけて、担当者とはかなり緊密に情報交換をしています。
それから、積極的に「アジパンダを使いたい」という社員をしっかりサポートすることも心がけています。彼らはいわばアジパンダの魅力や活用効果を周囲に伝えてくれるアンバサダーです。私は、全ての申請内容や活用事例などを見ることができるので、担当者に詳細をヒアリングしにいくこともあります。
キャラクターの活用は決して強制ではなく、「自分の業務に有益だと思う人が使う」というスタンスでいます。そうして少しずつ地道に社内にファンを増やしてきた結果、味の素社の企業キャラクターになった2015年度には、30件程度だった活用件数が、2019年度には約250件と8倍以上に増えました。
ウェブパン: まるでタレントのマネージャーさんみたいに、キャラクター活用をサポートしているパン!
企業キャラクターは生活者との橋渡し。好感度や親しみを向上させる「会社の資産」として引き継いでいく
―― 企業式キャラクターは、「キャラクターは企業理念と一致しているべき」ともいわれてしまうこともあるパン?
渡邉さん: そこは難しいところですね。名実ともにグローバルアンバサダーとなりましたが、どこまで企業理念やメッセージを背負わせるのかはまだ議論中です。私個人としてはアジパンダに味の素グループの全てのミッションやメッセージを背負わせることにはちょっと違和感があるんですよね。むしろ味の素グループを知ってもらう、親しみを持ってもらうための入り口となる存在というのが、一番いい立ち位置なのではないかと。企業側でも生活者側でもなく、ちょうど真ん中で橋渡しするのが理想的だと考えています。
商品やサービスの販促時や、アイキャッチャーとして使う分には問題ないと思うのですが、コーポレートメッセージを伝えるとなるともう少し整理が必要でしょう。たとえば、ずっと話せない設定だったのを、アンバサダーなら言葉で表現できるほうが望ましいと考え、文字表現での発言ができるようにしました。ただ、音声となるとまだ決めかねているんです。
ウェブパン: ウェブパンも「語尾がパン」という設定が、時々苦しいときがあるパン(笑)。敬語に「パン」はつけにくいし……。キャラクターは目的や役割に合わせて設定する必要があるパン。
キャラクターは売り上げ貢献だけではなく、企業価値への貢献を考える
――キャラクターを運用ってコストも掛かるし、けっこう大変だパン。「効果」や「貢献度」は、どうやって示したらいいパン?
渡邉さん: 生活者の反応はいろいろな方法で定性的・定量的に測定できるようにしています。たとえば、ネット上で「#アジパンダ」で画像を拾ってくるツールを入れて件数や内容をチェックしていますし、2019年の7月には生活者を対象に定量調査を行いました。この時は「アジパンダと企業イメージの関係性」を調べて数値化したのですが、他社のキャラクターとの比較も並行して行い、今後は毎年調査を実施して知見を蓄積していこうと考えています。
実は、キャラクターの認知度の調査は第三者機関でも行われているのですが、企業との関係を調査したものは見つからなくて……。自分たちで設計し、独自に調査することにしたんです。
ウェブパン: 確かにキャラクターに認知度があったとしても、そのキャラクターがどのくらい企業へ貢献しているかを測定するのは難しいパン。
渡邉さん: 社内的には「アジパンダを使ってどれくらい売り上げに貢献したか」を期待していると思うんですよね。でも、数字としてまだその貢献度が表れていなくても、アジパンダを通じて味の素グループの企業価値を向上することが、将来的な売り上げに必ず貢献すると考えています。
実際、社内の使用件数が増えてきているのは担当者にとって、効果実感があったためと理解しています。そのため、KPIは売り上げへの貢献だけではなく、いかに企業価値を向上させるかに設定しています。
また、海外でもアジパンダを使ったプロモーションでうま味調味料「味の素」の売り上げが上がったという報告がありますが、売り上げ増には他のファクターも多いため、アジパンダを活用したこと販売への影響は、活用した部署内で総括してもらっています。その中で、アジパンダの担当である私の役割は、アジパンダをコミュニケーション資産として提供して活用をサポートすることだと考えています。
ウェブパン: グローバルアンバサダーとしての仕事も増えて、今後ますますアジパンダを見かけることが多くなりそうだパン。
渡邉さん: グローバルとしての活用は今後のあらたな挑戦ですね。既にガイドラインは英語で公開されているのですが、民族衣装を着たら親しみを持ってもらえるんじゃないかとか、現地ごとに馴染みのある愛称があった方がいいんじゃないかとか、現地で愛されるキャラクターにするべくいろいろ話し合っているところです。
残念ながら、私は今期で担当を外れることになりました。でも、担当者が変わってもアジパンダがしっかりと活動できる環境を作ってきたという自負があります。
“個人が好きでやっていた”属人的な仕事では担当が変われば途切れてしまいますが、ガイドラインの策定やイントラサイトの整備によって、担当が変わってもアジパンダが味の素グループにとって、意味のある活動ができるように、次につなげられたのは本当によかったと思っています。
ウェブパン: キャラクターを活かすには、愛着だけでなく、明確な目的意識や戦略、社外だけじゃなく、社内での地道な普及活動が大切だとよくわかったパン。今日は本当にありがとうございました!
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