リード獲得数10倍、受注率4倍に増やした、NTT東日本の「インサイドセールスセンター」
いまやWebは強力な「営業ツール」である。リアルでの営業とは違ったアプローチでリード(見込み客)を集められる。しかし、リードを集めただけで、受注に繋がらなければ意味がない。
「デジタルマーケターズサミット 2020 Winter」に登壇した、東日本電信電話(以下、NTT東日本)の鈴木理寛氏は、身をもってその重要性を体感したという。鈴木氏は、インサイドセールス部門立ち上げの理由を赤裸々に語った。
「光コラボ」をきっかけに、営業の力点がBtoCからBtoBへ
鈴木氏は1998年、当時まだ分社化前だった日本電信電話株式会社へ入社。「Lモード」のサービス開発や、「フレッツ・スクウェア」でのコンテンツ運用、「フレッツ光メンバーズクラブ」の立ち上げに携わってきた。4年前に現在の部署へ異動し、NTT東日本の各種サービスをプロモーションするのが主業務だ。
プロモーション担当の鈴木氏が、なぜ販売業務である「インサイドセールス(内勤営業)」の立ち上げに尽力したのか? その背景に、光ファイバー回線サービス「フレッツ光」の販売形態の変更がある。
フレッツ光(当時の名称はBフレッツ)は2001年8月にサービスを開始し、以後着実に利用者数を積み上げてきた。2013年10月には1,000万回線契約を突破するなど順調だったが、次のステージを狙って2015年2月に「光コラボレーションモデル」(以下、光コラボ)を導入した。
光コラボの導入以前は、NTT東日本自身が回線契約促進の最前面に立って、一般消費者向けの営業活動を行っていたが、導入後は回線の卸売の立場へ回ることになった。それまでNTT東日本が行っていた一般消費者向けの営業活動は、回線を仕入れて再販売したい外部事業者などが担うようになっていった。
今まで一般のお客様にむけて販売のリソースを投下していたが、外部事業者に任せることになってリソースが空いた。そのリソースを、今度はビジネスユーザー向けの販売へ振り向けることになり、BtoCからBtoBへ力点をシフトした(鈴木氏)
この大転換によって、プロモーション部門にも影響を与えることになった。「光子コラボ」以前の一般消費者を意識したテレビCM・新聞広告では、ビジネスユーザーには効果が薄い。そこで、プロモーション部門の力点も、マス広告中心から、ビジネスユーザーに相性がいいと考えられるデジタル広告・デジタル施策へと変わっていったという。
リード目標は達成したものの、受注につながらない
デジタル広告へのシフトにあたって、鈴木氏らはまずKGIを「月1,000件のリード獲得」に設定した。具体的には、顧客の会社名・氏名・電話番号・メールアドレスなどを取得し、すぐにもアプローチできる状態をリード1件とカウントした。
それまでの実績は月250件程度、このKGIはかなり高い目標だった。ただし、リード1,000件という目標値は、同業他社の動向を参考にザックリと決めただけで、ロジカルな根拠はなかったと鈴木氏は明かす。
デジタル広告にシフトした当初は、特有の専門用語を理解することにも苦労したそうだ。月1,000件の目標は、代理店の協力もあって8か月後に達成。しかし上司からは労いがあった一方で、こんなキツイ言葉が投げかけられた。
で、いくら稼いだんだ?
鈴木氏が獲得したのはあくまでリード。売り上げにつなげるには、営業部門などと協力して最終的な契約にまで到達しなければならない。自分の目標達成だけに終始した、ある種のセクショナリズムに陥っていたと鈴木氏は反省する。
リード獲得目標達成だけに終始してしまった結果は、数値にも現れた。月1,000件超のリードの情報を法人営業部門に渡したが、受注率は数パーセント。また、それ以前の問題として、獲得したリードに対する提案状況(お客先に訪問した・していない)の判別もつかない状況だったという。
今考えれば、これも当然だった。リードと一口にいっても玉石混交で、今すぐ導入したいユーザーもいれば、情報収集だけのユーザーもいる。読み物コンテンツから獲得したリードのところへいきなり訪問しても、効果がでるはずもない(鈴木氏)
こうしたことから提案、受注まで完遂するため、プロモーション担当内にインサイドセールス専門の新チームを作ることになった。また、社内人員の減少・高齢化が進んでおり、効率的な営業体制の再構築が必要だったことも、インサイドセールスを選択した理由だという。
失敗、そして成功を振り返って
インサイドセールス専門チームを結成して、2017年11月27日にはリード獲得からクロージングまでを行う「Webリードクロージングセンタ(WCC)」が業務を開始した。目標には以下の2つを掲げた。
- Webからの問い合わせに対する2時間以内の返信
- 1回のコンタクトで終わらない長期的リレーション構築
チームと業務が動き始めたが、立ち上げ後も苦労があったという。主に以下のようなことだ。
- 人員教育
- 営業部との調整
- KPIの達成と仮説検証
それぞれについて解決方法を詳しく解説する。
人員教育:Web問い合わせに応じた営業の提案ができない
WCC立ち上げの人員は合計4名。マネージャー1名とコンサルタント3名という内訳で、ユーザーに直接アプローチをするコールセンター業務は、経験者を中心に外部の協力会社に委託する形でスタートした。
しかし、受注にはつながらなかった。その大きな理由としては、1つのサービスをアウトバウンドでスクリプトに応じて販売していくコールセンタースキルと、Webからの問い合わせに応じるインバウンド対応スキルにアンマッチがあり、柔軟な営業の提案ができなかったからだ。
そこで、周囲の助言などを受け、訪問営業や接客の経験者をコールセンターの人員として集めることで改善を図った。また、短期での離職を避けるため、教育にも注力した。技術論などの前に、まずコールセンターの役割や目標をしっかり打ち出し、朝礼やミーティングで定めた役割や目標を繰り返し説明した。また、コンサルタントの夢をオフィス内のボードに貼り出してモチベーションを維持するなど、地道な工夫にも取り組んだ。
現在は、マネージャーとコンサルタントによる1対1のミーティングを毎週行い、モチベーション作りや目標達成度の確認に役立てている。電話主体のインサイドセールスセンターだからといって、コールセンター業務経験者が人員として最適とは限らないのだ。
営業部門との調整
インサイドセールス立ち上げにあたり、本来営業活動をしていた営業部門との摩擦が生じる懸念もあった。WCCはプロモーション担当内で結成されており、獲得したリードの情報を営業部門に引き継ぐことなく、クロージングまで責任もって行う組織という扱いになっている。
実際、法人営業部門の警戒感は相当高かったという。ただ、鈴木氏らの担当はそもそも販売チャネルではないため、売り上げ数値に対する直接的な責任はなかった。このため、WCCの売り上げはすべて営業部門の成果とすることで、摩擦を回避した。
WCCのような組織を作る場合、果たしてマーケティング部門内に作るのか、営業部門内に作るのかは大きな検討課題になるかもしれない。私たちの場合は売り上げを営業に渡せたため、ハレーションはそこまで大きくならず、WCCを立ち上げることができた(鈴木氏)
また、最初からすべてのWebからのリードをWCCが対応するのではなく、一部のサービスのリードから対応を始め、受注実績を積み上げていき、リード対応サービス数を増やしていくという、いわゆる「サラミ・スライス戦略」的アプローチをとった。また、新しい営業ツールや販売手法などの情報共有をしていくことで営業部門との関係を構築した。
KPIの達成と仮説検証
鈴木氏らは、KGIを「リード数」から「受け上げ」に見直した。そのKGI達成に向けてKPIとして扱っているのはユニークユーザー数、広告のクリックスルー率、CV数(リード数)、CV率、CPA、受注率、1件あたりの受注額などだ。鈴木氏は、「ただこうした数値を計算・見える化し、数値の実況中継をするだけで“仕事をした気分”に陥ってはだめ」と語る。数値はあくまで仮説検証のための存在として、扱いを見直した。
また、リード数も単純な獲得数ではなく、受注率、受注額と紐づけ、売り上げにどれだけ貢献するリードなのかを見るようにした。その結果、リードを獲得するためのコンテンツやWeb制作も優先順位やコスト配分が明確となった。また、データに基づく制作業務ができるようになったことで、PDCAが回せるようになったという。
たとえば、従業員数10名以下の店舗の方は受注率は高いが、国内の全企業数に対する割合からみてCV数(リード数)は少ない。その場合、リード数を増やせば、受注数を最大化できると考えることができる。データに基づく仮説を立てることにより、店舗向けの導入事例など、CVしてもらうコンテンツを増やしたり、店舗のお客さまをターゲットにしたデジタル広告を強化したりと、次の具体的なアクションにつなげられるのだ。
インサイドセールスでリード獲得は10倍超、受注率3~4倍を達成
コールセンターの設立当初、「2時間以内」と設定されていたWeb問い合わせへの架電返答も最近では「5分以内」と改められた。これによって、いわゆる「キーマン」との接触率が30%台から60%台へと向上。受注率もアップした。ただし、事例集をダウンロードした顧客へ5分以内に電話しても、資料を読んでいない可能性が高い。あくまでリードの形態を予想しての対応が理想的だという。
また顧客への連絡ツールとしては、WebRTCサービスの「ベルフェイス」(ベルフェイス株式会社)を活用。遠隔地からでもスライドを見せながら商談ができるようになり、伝えられる情報が増え、受注率や1件あたりの受注額も増やすことができた。
営業用ITツールの導入は、NTT東日本の全社的な方針なども見ながら決めていくべきだったかもしれないが、我々は新しい組織なのでとにかくスピードを重視し、いろいろな会社の製品にトライした。実績も上がり、結果的にツール導入のPoC(概念実証)をWCCが担い、会社的にも評価されるようになった(鈴木氏)
WCCは着実に成果を上げており、立ち上げ前に比べて、受注率は3〜4倍へと向上した。月間CV数は当初250件程度だったが、その10倍を遥かに超える3,500件へ、受注額はなんと34倍も向上した。
プロモーション担当がクロージングまでをやってわかったこと
鈴木氏はこれまでを振り返って、「デジタルマーケティングをクロージングまですべて行う仕組みを作ったことで、販売データを活かしながらWebの施策やプロモーションのPDCAを回せるようになった。これは本当に大きな成果だった」と語る。
特にWCCが電話などを通じて直接顧客ととっているコミュニケーションは、デプスインタビューに相当するような濃密なものも多く、得られる情報も大きい。
たとえば、顧客とのコミュニケーションのなかで、CVのきっかけが「事務所・店舗の開業にともなう問い合わせ」が約30%にも上ることがわかった。ここから、「開業される方向けのサイト作りコンテンツを増やせば、Webからのリードが増えるのでは?」という仮説を立てた。
早速、それに合わせたサイトとコンテンツを作成。公開したところ、月間CV数が約500件増加した。さらに、開業を直近に控えたユーザーよりも、開業までの猶予が3か月以上あるユーザーの方が受注額が多い傾向も出ていた。よって、開業を検討している顧客の情報をなるべく早い段階で取得するため、開業予定のあるユーザーが利用する媒体社との連携や、開業時に参考になるICT導入ebookをコンテンツとして提供した。今ではこのコンテンツは、WCCの売り上げの大きな割合を占める有望なサイトになった。
最後に鈴木氏は、WCCから得られる顧客情報を販売に活かすのはもちろん、製品・サービスそのものの開発や、地域が抱える課題やニーズを解決するような、地方創生にも役立てていきたいと述べ、講演を締めくくった。
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