【レポート】デジタルマーケターズサミット2019 Summer

デジタルマーケターの幸せなキャリアって何だろう? キャリアパスがないなら自分で切り拓くしかない

デジタルマーケターのよくある悩みの1つ、キャリアパス。幸せなキャリアとは何だろうか?「デジタルマーケターズサミット 2019 Summer」パネルディスカッションでの激論の様子をお届けします。

デジタルマーケターのよくある悩みの1つとして挙がってくるのが、キャリアパスやロールモデルが見えないということだ。

この悩みに対し、「デジタルマーケターズサミット 2019 Summer」では、「デジタルマーケターの幸せなキャリアって何だろう?」というテーマを掲げて、クロージングパネルディスカッションが行われた。

マーケターキャリア協会(MCA)の中村全信氏がモデレーターを務め、中川政七商店の緒方恵氏、オフィスDK代表(当時Supership)の中村大亮氏、Mizkan Holdingsの渡邉英右氏が登壇。

登壇した4人は、今の立場に至った経緯やキャリア観、スキル問題、幸せなキャリアについて、自らの考えを語った。

キャリアパスが見えないなら自分で作る

<ポイント>
  • キャリアパスやロールモデルがないのは当たり前
  • キャリアパスが見えないなら自分で作っていく
  • ロールモデルを同世代に置く

最初のテーマは、「キャリアパスが見えない。ロールモデルがいない。」について。

そこで、「マーケターの価値を明らかにする」というビジョンに基づいて2019年3月にMCAを設立した中村(全)氏は、このテーマに対し、以下のように語っている。

キャリアパスやロールモデルが見つからないという悩みを持つマーケターがMCAを通して外の人と会話し、情報共有することでキャリアを作っていくサポートできるのではないかと考えている(中村(全)氏)

一般社団法人マーケターキャリア協会事務局長 中村全信氏

また中村(大)氏は、「社内にデジタルマーケティングが確立していないから、キャリアパスが見えないのでは」と指摘する。同氏は、新卒でライオンに入社。その後、数社を経てライオンにデジタルマーケターとして再入社したという経歴を持つ。

ライオンに再入社したとき、中村(大)氏は、ある広告代理店の人から「ライオンでデジタルを究めて、社長とか役員になれます?」というようなことを言われて、反骨精神が燃え上がったという。

パスが見えないなら自分で作っていくという感覚でやっていたので、マインドセットの問題かな(中村(大)氏)

また、ロールモデルについては、「偉大すぎる人より、同世代をロールモデルをすると入りやすい」と語る。たとえば、すごいなと思ったセミナー登壇者など数人の同世代の人との飲み会をして、「飲みながら同世代の技を盗む」といったことを始めたそうだ。

オフィスDK代表 中村大亮氏

次に、かつて東急ハンズでデジタルを担当していた緒方氏は、当時を振り返ってキャリアパスについて以下のように述べた。

キャリアパスに悩むというより、『テクノロジーを以て、ハンズを俺たちの手で変えるんだ』という気概が、すごくあった(緒方氏)

元々はスマホ関連グッズのバイヤーだったが、突然Web担当になったことで挫折も味わった。しかし、「スマートフォン(インターネット)は時代を変えるものだ」という確信はあったので、腐らず勉強したという。

既存の業務で戦っても負けてしまうので、新しいことをやろうと思い、企画書を出していたら自然と「新しいこと」の担当になった。

すでに回っているところを改善するのは、120%の成果は目指せても300%や1000%は目指せない。未来を予想して待ち受けるより、『こういう未来がいい』と自分で考えて、それを作るために頑張った方がいい(緒方氏)

また、現在緒方氏の勤める中川政七商店(工芸をベースにした生活雑貨のSPA業態を展開する、創業300年の奈良の会社)にも、デジタル部門のロールモデルはなかったと語る。

社内にロールモデルがないから(CDOとして)求めていただけたということでもあります。キャリアパスがない、ロールモデルがいないというのは、悩んでも仕方ないこと(緒方氏)

株式会社中川政七商店取締役兼コミュニケーション本部本部長 緒方恵氏

緒方氏の意見に対し、渡邉氏も、「ロールモデルやキャリアパスがないのは当たり前」と言う。渡邉氏はこれまで外資系企業で仕事をしてきた経歴を持ち、ミツカンが初めての日系企業だ。

外資系ではプロアクティビティとかアカウンタビリティなどと言うのですが、たとえ自分がマネージャーでなくても、自分で提案していくのが大事。がむしゃらになって自分から取りに行くというマインドセットがあれば、気づいたらスキルセットが得られている(渡邉氏)

ここまでのディスカッションで、「キャリアパスやロールモデルは自分で作るべき」としたが、社内の若手に「キャリアパスが見えない、ロールモデルがいない」と相談されたらどうすれば良いのか?

それについて、中村(全)氏は、「パブリックな場でなくてもいいので、キャリアの悩みや将来のことなどについて話を聞くだけでも、きちんと向き合ってくれていると若い方は思ってくださるはず」とアドバイスした。さらに中村(大)氏は、「フォロワーシップを重視して、メンバーや部下がリーダーについて行きやすい環境を作ることも大事だ」という。

会場からの質問

パネルディスカッションでは会場からの質問を質問フォームで受け付けていたが、このパートでは以下のような質問が挙げられた。

システム開発系からデジタルマーケターにキャリアを変更するにはどのようなアプローチがいいか?

これについて緒方氏は、自身の体験を交えて答えた。

東急ハンズ時代にシステム部分をすべて内製化。前日まで店頭で販売していた人を異動させ、エンジニアにするということを8年くらいしていた。

エンジニアリングやプログラミングは、問題解決思考の最たるものの1つ。プログラミングを介して問題解決思考を勉強させてから、マーケターへのキャリアにチェンジさせると、ロジカルシンキングが備わって話が抜群に早くなる。 マーケターの育て方の1つとして、1度エンジニアをやらせるのは良いルートだと思っているので、積極的に異動の意思表示をすればよいのでは(緒方氏)

<ポイント>
  • ロジカルシンキングが身に付くシステム開発やプログラミングの経験は、デジタルマーケターにも役立つ

「ツールが使える=スキル」ではない、必要なのは考える力

<ポイント>
  • 自分がやってきたことを棚卸しする
  • 必要なのはデジタルのスキルより考える力
  • 自動化可能な業務が得意でも未来はない

続いてのテーマは、「スキル不足はどう解消すべきか?」についてだ。中村(全)氏は、これについて、まず自分に何のスキルが足りないかわからない場合が非常に多いと言う。自分が何をしてきたか、どのような成果を残しているか、一度棚卸ししてみるべきだとアドバイスした。

このアドバイスに従い、中村(大)氏も実際に棚卸ししてみたそうだ。「『このプロジェクトは、自分がいなかったらどうなっていただろう?』という視点で考えると、自分のスキルがわかりやすく浮き彫りになるのでお勧めだ」と語った。

スキル不足というテーマに対し、緒方氏は、まずスキルを3つに分ける考え方を紹介した。

  • 専門知識・能力(特定の部署内で役立つ知識)
  • ポータブルスキル(どの部署に行っても役立つ業務知識・能力)
  • 地頭力(考える力)
デジタルスキルの三角形

「スキルは実務の中で育っていくことが多いのは大前提」としつつ、まずは根底にある地頭力を鍛えることが重要と語った。

具体的なスキルよりも、地頭力を鍛えられるかが重要。最初に考える力を身に着ければ、オーダーがざっくりで済んでしまうし、自分が思いつかない側面の考慮やアイデアを部下が付け加えやすい機構にもなる。『専門能力』とされている、デジタルのスキルの優先順位はプロビジネスマンとして鍛える順位設定は3番目(緒方氏)

渡邉氏は、自身は上司がロールモデルになったのでコピペすれば良い幸運なケースが多かったとしたうえで、勉強会も重要だが、仕事の中で身に着ける方が良いと語った。

もし、目の前の仕事で自分のやりたいことがないのなら、無理やりにでも今やっていることに結び付けて、企画・提案していくのが一番いい(渡邉氏)

また、世の中ではRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)が進み、AIやデジタルによる作業の置き換えが進んでいる。その結果、金融機関では何千人削減といったニュースもある。

これについて渡邉氏は、マーケティングにおいても、コモディティ化や、デジタル化されてしまうような作業が得意というのは、非常に危険だとした。そのため、考え方やマインド部分を身につけることが重要だと語った。

Mizkan Holdings 執行役員 Chief Digital Officer デジタル戦略本部 本部長 渡邉英右氏

また、中村(大)氏は、よくデジタルマーケターの方から、「スキルとしてA/Bテストやるスキルくらいしかないんです」といった相談を受けるそうだ。しかし、これはスキルではなく業務プロセスを理解しているだけだと言う。

もしA/Bテストが自分の守備範囲だというのならば、AよりBがいい理由をきちんと考えぬいた方が、将来役立つとアドバイスしているそうだ。

このA/Bテストの話には、緒方氏も賛同。現在、あまり考えずにA/Bテストができるようになっていることに対して苦言を呈した。

ただ大量にA/Bテストしても、考える力は備わらない。一球入魂。きちんと魂を込めて、なぜうまくいったのか、なぜうまくいかなかったのか、そして次回以降どうするのかを振り返る。それなら考える力になる(緒方氏)

デジタルマーケターの幸せなキャリアとは

人生を幸せな形にしたいというのは当然のことだが、何に幸せを感じるかは人によって違いがある。「幸せとは何か」というテーマに対する、各氏の答えは以下だ。

<ポイント>
  • 世の中を変えていく一部になれたとき(渡邉氏)
  • 仕事のやりがいや達成感(中村(大)氏)
  • 常に笑っていられること(緒方氏)
  • 将来掴むものではなく、毎日味わうもの(中村(全)氏))

これらの答えを出すに至った経緯を、各氏は次のように語った。

幸せとは、世の中を変えていく一部になれたとき

渡邉氏は、1999年にシアトルで初めて電子メールを使ったとき、非常に感銘を受けたそうだ。世の中が変わっていく一部になれたときが嬉しいという。

私が一緒にやることで抵抗勢力が心を変えてくれたときが一番嬉しい。デジタルマーケティングは媒体比の5%とか10%の世界。その中で、残り90%に対して影響を与えられたときが、すごく嬉しい(渡邉氏)

幸せとは、仕事のやりがいや達成感

中村(大)氏は、人としての幸せとビジネスマンとしての幸せは別物と考えていると語った。

仕事のときは、幸せと言うより達成感という言葉の方がしっくりくる。給料や社会的地位というより、やりがいの方にハッピーを感じる(中村(大)氏)

幸せとは、常に笑っていられること

緒方氏の幸せの定義は、「常に笑っていられるかどうか」だ。自己実現の欲求はあまりないと語る同氏が、東急ハンズに長くいたのは、当時の部長と一緒に仕事をしているのが楽しかったからだそうだ。今、中川政七商店にいるのも同様に、一緒に仕事をしている人にしびれているからだという。

達成感も重要だけど、みんなで仕事を終えた後で酒がうまいとか、仕事大変だったなと家に帰って息子が僕にドロップキックする、笑う、みたいなことも大事。ハッピーはできれば毎日感じたい。よって、達成などの大きな幸せや自己実現を獲得しに行くという中長期的側面も重要だが、毎日小さく幸せを実感する機構作りが自分にはより重要。そこに、キャリアや職種は極論関係ないと思っている。重要なのは仕事の向き合い方と付き合い方だ(緒方氏)

幸せとは、将来掴むものではなく、毎日味わうもの

中村(全)氏は、MCAのプログラムで「幸せな瞬間は何か」というワークショップをすると、わからないという声が予想以上に多いと語った。

わからないという方は、幸せというものが遠い将来にあって、いつか得られる何かというポジションに置いていることが多いと思う。一方、達成感は1つ1つの仕事の内容のこと。多分、幸せはもっと簡単に考えていいような気がする。だって、その方が幸せだから(中村(全)氏)

何を目指していくべきか

最後のテーマは、何を目指すのか。各氏から、次のような話が聞けた。

キャリアパスが見えていないのは当たり前で、それを探検していっている気分。22才の頃にはマーケターになるとは全然想像していなかった。この先も何かを目指すというよりは探検を続けます(中村(大)氏)

私も、目指さない。常にどこかに行く。だいたいの方向はあるにせよ、何かわからない方が楽しい(渡邉氏)

がむしゃらにやっていると、どんな仕事も楽しくなると思うし、誰かが見ていてくれる。目の前の自分の仕事に『一所懸命』の精神が大事。常に気を付けようと思っているのは、『視座は高く、目線は同じに、腰は低く』の3つ。目線は、部下の場合もあれば社長の場合も、お客さんの場合も、同じにという意識(緒方氏)

全員、かなり前向きなメッセージだが、そこに行けないという方も多いと思う。その場合であっても、一度棚卸しをして、自分を見つめ直した方が良い。そこには、自身が認めていなくても、他者が『それはあなたの良いところだ』というものが必ずあるはず(中村(全)氏)


※ 中村(大)氏の社名に誤りがありました。訂正してお詫びします(12/02 編集部)

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