目的地から旅をおもしろくする「現地主義」。100%Web集客のパムが旅慣れたリピーターをつかむ理由
沖縄と北海道を中心とした“ローカル旅行”を得意とするパムは、100%Webで集客しているメディア運営会社だ。リピーターにも人気が高い理由は、各地に編集部を置き、地元を知り尽くしたスタッフたちが旅行雑誌並みの取材を行う徹底した「現地主義」。
沖縄から観光情報のサイト全体を司令塔としてプランニングする永江竜佑氏、北海道編集部で編集者を務める松田謙介氏、関東の編集部を立ち上げ中の蓮井晶子氏に、半年で約2倍もの自然検索流入増を達成した施策について、各拠点とWeb会議システムをつなぎ取材した(2018年取材時点/以下、発話は敬称略)。
旅行業界でデジタルマーケティングに力を入れている旅行会社・団体に成功のメソッドを聞く全4回の特集連載の第2弾。前回は阪急交通社にメソッドを聞いた。
旅行雑誌並みの編集部を全国に置き、100%Web集客
――ほぼ100%Webからの集客だということですが、パムさんの具体的な集客方法は?
蓮井: 国内ローカル旅行の予約サイト『たびらい』と、主に台湾からのインバウンド観光客向け『Tabirai JAPAN』からの集客がほとんどですね。代表の長嶺が沖縄出身なので、最初は沖縄旅行に特化していましたが、北海道に支社を出し、徐々に全国に拠点を置くようになりました。
――予約サイト『たびらい』からの集客がほとんど、ということですが、どんな予約サイトなんですか?
松田: 「目的地から旅をおもしろくする会社」というキャッチコピーから『たびらい』はできました。旅行の予約をするだけでなく、旅先の「観光スポット」や「グルメ情報」などの情報を発信しています。
――かなり詳しい観光情報を発信しているんですよね?
松田: 各拠点に編集部を置き、そこでしかわからない、感じられない情報を独自取材と撮りおろし写真で、観光情報記事を作っています。かなり愚直な作り方をしていますね(笑)。編集者だけで全国に20人いますが、北海道編集部は特に地元出身のUターン組が多いですね。
――全国に20人?! どんな編集体制なんでしょうか。
永江: 沖縄オフィスにいるプランナーが中心となり、各エリアのデスク、編集者と一緒に目標や方向性の設定を行います。1つ1つの施策のディレクションは、沖縄にいるプランナーが兼務して行っています。
松田: そこで話し合ったことを元に、各エリアの編集者が観光情報記事の企画、取材、撮影、執筆を行います。
――地元出身者なら、深い現地情報を発信できそうですね。
松田: はい。でも逆に、地元民であるがゆえにユーザーニーズがわからないことがあるんです。たとえば「北海道 10月 雪」という検索があるんです。しかし、10月は初雪で積もらないため、僕らはあんまり気にしてなかったんですね。
――なぜ、検索されていたんですか?
松田: それを調べるために、SEOツールを使って検索意図を調べてみたんです。これが目からうろこで……(笑)。
道外から旅行に来る方は「レンタカーのスタッドレスは必要?」「適した服装」「関東との気温差」など、気にしていることがわかり、自分たちに見えていなかった隠れたニーズが見えたと思いました。
永江: 地元にいるからそこ、魅力あふれる情報を発信できる一方で、当たり前すぎて見逃してしまう情報というのがあるんです。だからこそ、ユーザーが求めている情報を過不足なく記事に含められるように、ツールを使ってユーザーの求めている情報をデータ化して、それを新規企画のたたき台として活用しています。
IT慣れしていない紙媒体の編集者に、分析手法をリモート啓蒙
――なぜ検索意図を分析できるSEOツールを導入したのですか?
蓮井: もともと紙媒体の編集者が多かったので、コンテンツ制作は、皆さんプロフェッショナルです。ただSEOのスキルはバラバラで、IT慣れしていないのが悩みでした。Webに掲載する以上、SEOの知識やユーザーインサイトを知ることは欠かせません。
ただ、その肝心のユーザーインサイトを調べるのにも時間がかかっていて……。そんなときに、ツールの機能を知って、「これなら調査分析の工数を削減して、本質的な仕事に注力できる」と感じたのです。
永江: 実際に工数は5分の1に削減できました。以前は、検索に対して上位10~20サイトを見て、どんなテーマ・トピックが評価されているか、どんな構成でどんな言葉が多いか、手動で分析していました。そのため、僕一人で調査からページ構成の企画を立てるのに、5営業日ぐらいかかっていました。ツール導入後は、20サイトまとめて分析しても1日で構成案が作れます。
――ツールを導入して良かったことは?
蓮井: これまで意思決定の遅さがコンテンツの公開を遅くする要因だったと思い知りました。ミエルカのデータはユーザーの意図からサイト集客への貢献度が見えるし、何より調べる時間が短い。判断が早くなる。だから会議に上げた時に意思決定しやすい。全国の拠点の皆で一緒にユーザー目線に立って定量的に判断ができるようになり、齟齬が生まれなくなりました。
――こうしたコンテンツ制作の手法は各拠点にどのように広めたのですか?
永江: 僕が旗振り役を務めました。まずツールのビデオマニュアルを見て、一番使えそうな機能、SEOに大事なポイントをピックアップして、全国の編集者たちに伝えました。運用ベースに載せていくには、目の前の業務がいかに制作スピードや効果につながるか「成功体験」としてしっかり実感してもらい、いかに分析作業を日常業務に組み込んでもらうかを意識しながら啓蒙しました。
――成果が出たのはどんなコンテンツですか?
松田: 反響が良かった企画の1つが「小樽観光でしたい11のこと、39の体験」のリライトですね。ユーザーニーズを調べるとこれまで意識していなかった観光スポットやテーマがたくさん出てきました。それを独自の視点で取材して構成し直し、2017年秋に再リリースしたのです。
雑誌の特集感+ユーザーに応えた基本情報でPV2倍
――具体的にどう直したのですか?
松田: 最初はスポットの紹介がメインでしたが、「現地でどんな体験をしてほしいか」をキャッチコピーで表すような記事づくりをしているので、上部は紙の旅行雑誌であっても違和感ないタイトルを付けで特集感を出しました。
――「レトロカフェ探訪」「ソウルフードとの出合い」…自分が調べる時に使う検索キーワードではありませんが、ユーザーのインサイトとしては「そうそう、こういうこと知りたかった」という内容ですね。地元の方のおすすめ情報なら確かだし。
松田: そうですね。これに加えて、リライトで下部の「基本情報」を充実させました。検索ユーザーの意図を深掘りして、「青の洞窟」など、ユーザーの知りたい情報に合わせ、アクティビティや施設を紹介する作りにしたのです。
この順番にした理由は、最初から「観光スポット〇選」とかダラダラ紹介するだけだと、小樽ならではの楽しみを探している人やリピーターは飽きちゃうだろうなと思ったから。ホントの魅力って、旅好きの人なら雑誌などを買って「こんな旅がしたい」というイメージを膨らませて、見つけていくもの。上部でそういったジャンル分けできない楽しさを伝えつつ、下部では知りたい情報をカバーするという2段構えに行きつきました。
――リライトの結果は?
松田: 月間検索ボリューム4万ぐらいの「小樽 観光」で、検索9位から3位に上がりました(2019年3月現在も3位)。ユーザーにじっくり読んでもらえるようになり、離脱率はリライト前より10%以上の減少。編集者たちと「施策して良かったね」と喜び合いました。
永江: 検索流入数は2倍近く伸びましたね。
蓮井: 内容に抜け漏れがなくなって、SEOに大切な網羅性が増した結果だと思います。『たびらい』が提案するのは「ローカル旅行」。その地域への旅行を検討し始めた初心者の方から、“旅マニア度”が高いリピーターの方まで、ローカルな旅行体験を通して、地域のファンをつくる旅行メディアになりたいんです。
松田: 2018年は各拠点とも大きくPVを伸ばしましたが、1か月で2~3回利用してくれるユーザーを増やすことも、今追っている目標のひとつです。
〇月+エリアで変わるニーズ。パズルのように組み替えて提案
――季節に応じたコンテンツはいつから制作を始めますか?
蓮井: 半年前から調査して、ユーザーが行先を調べ始める3か月前にリリースしています。
松田: 制作側もラクをしたいので(笑)、最初はページ構造を全国で統一フォーマットにしたかったんですよ。でもユーザーの意図を分析すると「〇月+エリア」のニーズは、北海道と沖縄では見事にバラバラで。
「じゃあフォーマットごと、編集のやり方も変えるべきだよね」と業務フローを思い切って変えました。今はフレキシブルにページが組めるような構成にして、現地にしかわからない情報をパズルのように組み合わせ、一度リリースしてみて効果を見る、というやり方をしています。ユーザーニーズを軸にしたら、エリア編集部とプランナーのディスカッションがかなり活性化しました。
永江: 「沖縄 5月」で検索4位(2019年1月現在)の「沖縄旅行 5月のおすすめ」記事も、もともと基本情報だけでした。気温、服装などよくユーザーが調べる検索キーワードにはしっかり下部で応えて、上部は現地で取材・編集している『たびらい』ならではの切り口で楽しみ方を提案しています。
――「梅雨を楽しむ方法」なんて検索では調べないキーワードですが、これを読むと「泥だらけで走る四輪バギー? 雨でも楽しそう!」ってポジティブになりますよね。
蓮井: はい。「5月の旅行費目安」もよく見られていますね。「沖縄 ○月 安い」とかで調べる方は結構多く、「実は6月のほうが安いんじゃないか」といった比較ニーズに応えている部分です。
――航空機のチケット代の季節変動をチェックできると「ゴールデンウィークは高い! じゃあ次に安くなる時期は?」とかがわかりやすいですね。
永江: 「日付を少しずらすだけで旅行費用をグッと押えられますよ」、といった提案も含めて掲載しています。『たびらい』のページに来れば、気候・服装から楽しみ方、旅費の目安まで「5月に沖縄に行こうと思う人が知りたいこと」すべてが見られる。旅行の組み立て・予約まで一度でできちゃうっていうのが理想です。
検索されない現地の楽しみを提供したい
――旅行業界全体がユーザーの検索意図をベースにすると、どうなっていくでしょう?
永江: ユーザーに寄り添った良い記事が増えると思いますので、ユーザーにとっては素晴らしいことだと思います。僕らがメディアとして成長していくハードルは上がるのですが、『たびらい』としての軸をぶらさずに、「たびらいらしい提案」ができれば自ずとファンは増えていくと信じています。顕在的なニーズをすくいあげるのはもちろん、潜在的なニーズを感知するというのは重要なことです。
――将来の展望について聞かせてください。
松田: メディアとして大きくなるには、SEOが地固めというか基礎作り。ランディングしたらその先はユーザーに「体験」を訴求していきたいです。写真や映像をうまく使って「検索されない現地の楽しみ」をどんどん記事化したり、映像化にしたり、SNSの記事内でそれらを取りこんだり。新たな発見を提供してきたいと考えています。
永江: インバウンド観光客向け『Tabirai JAPAN』では、沖縄によく来る中国語圏、特に台湾の観光客を誘致しています。台湾人のスタッフがコンテンツを作っていますが、今後台湾語の検索ニーズも分析して、応えられるようにできればと思っています。
蓮井: 他社にはない、独自コンテンツこそ大切。目標数字やページ全体を設計するのはプランナーですが、コンテンツの切り口は現地編集者に任せる! この分業スタイルを効率化していけば、一番届けたい「ローカル旅行体験」の提案コンテンツに注力できます。このサイクルができれば、全国展開もスピードアップできると思います。
編集後記:
SEOを意識した記事作りをしながら、記事の主軸はあくまでも検索者(旅行者)に「素晴らしい旅の提案」をする。という目的と手段を切り分けた、編集部体制を構築しているたびらい編集部の皆さん。
検索エンジンの特性上、検索者が「新しいことを発見する」ことは難しいのですが、その弱点をSEOという手法で上手にカバーして、たびらいさんの強みである「地域に根付いた新しい旅の発見」を提案しているところは、「旅行」というジャンルを問わず、学ぶところが多いのではないかと感じました。貴重なお話ありがとうござました。
※記事初出の時点で、名前に誤りがありました。訂正してお詫びします。(2019-03-14 編集部)
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