戦略を立てるうえで、より正確なKPIを設定するには?
書籍『デジタルマーケティングの実務ガイド』の一部をWeb担向けに特別にオンラインで公開。
この記事は、第3章「年間計画を策定する」から、Chapter 3.1「戦略の定義」の内容をお届けします。
3.1 戦略の定義
年間計画を策定する
デジタルマーケティングチームの戦略策定
デジタルマーケティングチームがマーケティング組織の一機能である以上、その戦略はマーケティング部門全体の戦略の一部である必要があります。ただ、マーケティング部門全体の戦略策定は、本書のスコープ外となるのでここでは立ち入りません。
本章では、すでに策定された部門全体の戦略に従って、デジタルマーケティングチームの戦略を策定していくプロセスを見ていきましょう。
年間計画よりロングスパンの中長期の計画を策定していく場合にも、同様のことがいえます。中長期計画の場合、SOWの大幅な見直しを考慮することができますが、デジタルマーケティングがマーケティング組織の中に遍在する以上、それはマーケティング部門全体の組織計画、ひいては戦略の策定を前提とします。「マーケティング組織全体の計画・戦略?そんなものはない。」ということもあるでしょう。
その状況でデジタルマーケティングの戦略・計画だけが求められる、というのはなかなかの事態ですが、現実的には十分ありえることです。全社の戦略として「デジタルマーケティングの強化」などというお題目が株主や本社などに発表されており、その具体案を早急に示す必要がある、などいうケースはよく聞きます。ここでも、前章で議論したSOWの策定がデジタルマーケターにとっての命綱になります。
マーケティング機能の中に遍在する、というデジタルマーケティングの本質を会社やマネージメントが理解していれば、全体の戦略策定なくしてデジタルマーケティングチームの戦略策定はならない、ということをある程度は考慮してもらえるはずです。
そんな努力もむなしく、「マーケティング部門全体の戦略・計画などない、それでもデジタルマーケティングの戦略は策定しなさい」という事態に陥った場合は、マーケティング部門全体でもっとも重視する項目とそれに応じたKPIを、3つもしくは5つ、上司に選択してもらいましょう。あるいは、幹部を集めこれらを議論するワークショップなどを自らリードして設定しましょう。
まずは、3つもしくは5つという数が大事、というよりは、絞る、という行為自体が意味を持ちます。戦略は「何をするか」の定義であるより「何をしないか」の定義なので、多すぎない数を設定し、無理やりにでもそこに合わせてフォーカスするエリアを絞り込んでいく必要があります。
新規顧客も大事、既存顧客も大事、ロイヤルカスタマーもそうでない人もみんな大事なお客様、従業員も大事だし株主も大事、などという具合では戦略とは呼べません。それでは野球の監督が「とにかく勝て」と指示をして、あとは座ってただ待っているだけのようなものです。重要な項目をいくつに絞るのが適切か、ということについては答えがありません。
ただ、3または5という数字は、人間が構造的に理解・把握しやすいマジックナンバーです。左右どちらでも良いので、手を見てみてください。指が5本あり、節が3つ(親指だけは2つ)あるでしょう。この5、3、2という数字は身体のあらゆるところに登場しますが、そのことが人間の構造理解と何か関係しているのかもしれません。
なぜ3つもしくは5つなのか、などというチャレンジを受けた場合は(全体戦略もないのにデジタルマーケティングチームの戦略を設定せよ、などというオーダーを出しておいてそのうえ何を言うか、という感じではありますが)、このように説明しておきましょう。
もちろん、本書はこのような簡易的な戦略策定を推奨するものではありません。間違った問題に対して苦労して正しい答えを出すようなことにならないよう、全体の戦略策定はデータドリブン(データ主導)で入念に進めるべきですが、ここでは紙幅の関係でそこには立ち入らない、ということを改めて強調させてください。
デジタルマーケティングのSOWの範疇でもっとも全体戦略に貢献する活動とは?
マーケティング部門全体の戦略・計画が確認できたら、2章で策定したデジタルマーケティングチームのSOWと照らし合わせて、そのSOWの範疇で何ができるか、何が全体に対してもっともインパクトをもたらすか、を検討していきます。
例えば、マーケティング部門全体のKPIが「純粋想起のスコア5%ポイントアップ」「NPS(ネット・プロモーター・スコア)5%ポイントアップ」「売上目標○○の達成(セールスと共有の目標)」という3項目だったとします。まずはデジタルマーケティングチームのSOWの中でこれを実現できる打ち手を、可能な限り洗い出していきます。例えば、「純粋想起のスコア5%ポイントアップ」という項目に対して、以下のような打ち手を洗い出すとします。
- ソーシャルメディアにおける言及を促進
- デジタル広告の出稿料を増やす
- デジタル広告の効率を上げ同予算での露出を増やす
- インフルエンサーの活用
- アンバサダー・エバァンジェリストの組織化
- 口コミサイトへの口コミ投稿促進
- ヒーロームービー(話題集めのための動画)の作成
- SOV(シェアオブボイス)の強化
- クリエイティブにおけるコンシスタンシー(一貫性)の強化
ここでは、純粋想起を「接触頻度」「イメージの独自性」「イメージの定着度」から成るものと仮定し、それぞれを強化するためにとりうる手段を列挙しています。
アイデア出しに弾みをつけるために、まずはデジタルマーケティングのSOWにこだわらず洗い出すだけ洗い出し、その後SOWでふるいにかけていくという進め方をしてもいいでしょう。
次に、現状のリソースと予算で実現可能な、もっとも効果の高い打ち手をこのアイデアの中から選択していきます。※4.7.2「効果測定各論」で説明する分析手法を使って、何がどれくらい当該KPIに寄与するかがあらかじめ明確に定量化されていれば、その数字に準拠します。
※Chapter 4.7.2「効果測定各論」のオンライン記事は未公開です。詳しくは書籍『デジタルマーケティングの実務ガイド』でご覧ください。
大半の場合、施策が特定のKPIにどの程度インパクトをもたらすかは定量化することができません。その際、検討に際して考慮するべきは以下の5つのポイントです。
- どれだけコントロール可能か
- 持続可能か(サステナビリティー)
- 効果測定は容易か(どれだけ走りながら最適化できるか)
- 競合がより上手く・強く同じことをする可能性はないか
- チームのケイパビリティー(能力)とマッチしているか
それぞれについて1~5点で、もしくはチェックをつけて採点し、採用すべき打ち手を、その他のマーケティング部門全体のKPIに対する打ち手と合計で3~5つになるように選択しましょう。3~5個に絞る、ということの意味は、マーケティング部門全体の戦略策定で説明したのと同様です。
同じことを、その他のKPIである「NPS 5%ポイントアップ」「売上目標○○の達成(セールスと共有の目標)」に対しても実施していきます。その結果、例えば次の3項目をデジタルマーケティングチームの戦略的なフォーカスとして位置づけたとします。あとはそれぞれについてKPIの「項目」を設定し、社内に周知します。
KPIの各項目に対して目標値の「実数」をどう設定するかは、デジタルマーケティングチームに与えられた予算をチーム内でどう配分するかと合わせて、画一的に論じることは困難です。
全社的な予算配分のルールや、KPI管理の厳格さ(評価との連動性)、商品ローンチキャンペーンなど全チャネルが合同で行う施策とデジタルマーケティングチーム独自で行う施策のバランスなどが組織によって全て異なり、100社あれば100通りの方法論が必要になります。各社の慣習に従いつつも、KPIの実数に関しては以下2つのポイントに留意して設定していきましょう。
1つ目は、「チャレンジングかつアチーバブルな(挑戦的だけど達成可能な)」数値を設定することです。目標があまりに非現実的だと、メンバーはレポートの数字を不当に操作することに終始し始めるか、早い段階で完全に諦めてしまいます。
逆に簡単すぎると、規定演技が多くなり、あと一歩手を伸ばすには、という「もがき」から生まれるイノベーションを阻害してしまいます。
2つ目は、それが統計的に正しいかどうかは脇に置いても、可能な限りファクトベースでかつロジカルに設定することです。
例えば過去の類似の事例における実績を参照したり、それもなければ業界のノルム値(標準値)をエージェンシーにヒアリングしたりしながら、なぜその数値を参照するのか、なぜその方程式で数値を組み立てるのかということの正当性をロジカルに説明できるようにしておきます。
これには3つの理由があります。1つはハインドサイト(後知恵)として、どこにボトルネックがあったのか、またはどこが想定以上の成功要因だったのかというブレイクダウンが可能になるということです。
2つ目のポイントとして、数値の設定に無理があった、あるいは詰めが甘かったことが明らかになったとき、どこの参照値が適切でなかったのかを検証できるため、次回以降のKPIをより正確に設定することが可能になります。
最後に、デジタルマーケティングは、ともすれば誰も口出しできない聖域になってしまうか、誰もがケチをつけるエイリアンになってしまいがちですが、KPIの数値化とその厳格さはそのいずれに対しても有効な防御手段となってくれます。
※次項のChapter 3.2「チームを編成する・エージェンシーを選定する」は、オンライン記事は未公開です。詳しくは書籍『デジタルマーケティングの実務ガイド』でご覧ください。
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