【レポート】アナリティクス サミット2018

メルカリのデータ分析チームの極意を公開──成長も意思決定もとにかくスピード感重視!

わずか5年で急成長を遂げたメルカリのデータ分析チームの運営体制と仕事哲学、人材採用方針まで。

わずか5年で急成長を遂げたメルカリ、組織がどの方向に進むべきかの“羅針盤”となるデータ分析チームの運営体制と仕事哲学、人材採用方針まで公開。

樫田光氏
メルカリ
データアナリスト/マネージャ
樫田光氏

アナリティクス アソシエーション(a2i)主催で4月18日に開催された「アナリティクス サミット 2018」には、ビジネスの最前線で活躍するデータアナリストが次々と登壇。メルカリの樫田氏は、同社BIチームの運営体制や、その仕事哲学などを解説した。

創業5年でアプリ1億ダウンロード&3か国展開

メルカリは、スマホ1台だけで簡単に個人間売買ができる“フリマアプリ”。売りたい商品の出品はもちろん、購入までをアプリだけ完結させられる手軽さで人気を集めている。

国内でトップ級の知名度を誇るメルカリだが、国際化にも力を入れている。サービス展開国は日本・米国・英国の3か国に合計6つのオフィスを構える。アプリのダウンロード数は全世界で1億件を突破した。

メルカリのアプリが公開されたのは2013年のこと。わずか5年でここまでの規模に成長しただけに、メルカリでデータアナリストを務める樫田氏も「(企業としての)成長スピードはめっちゃ速い」と率直に明かす。

この“速さ”は樫田氏自身の仕事スタイルはもちろん、社内体制にも影響を与えているようだ。「今日の講演でご紹介する内容がベストプラクティスではない。半年後にはあっさり変えている可能性もある」と語り、その変化の速さについていけるだけの動的運営体制がメルカリの強みであることを伺わせた。

樫田氏は外資系コンサルティング会社勤務、起業などを経てメルカリへ入社。社歴は約2年で、マネージャとしての管理業務のほか、データ分析実務にも日常的に携わっていることから「プレイングマネージャー」を名乗っている。また、30代になってからコーディングについても学習したという。

「できること」ではなく「必要なこと」を行う

メルカリ社内では、データ分析の部署を「BI(Business Intelligence)チーム」と呼称している。そのミッションは「意思決定力のMAX化」。あくまで意思決定の支援に役立つことを最優先業務とし、決して「データを使って何かやる」ことが目的ではない。たとえば、機械学習などは別部署がおもに手がけている。

データ分析に対する考え方

樫田氏は、この思想を「古代の理容師」を例に解説する。

理容室のポールサインは白が包帯、赤が動脈、青が静脈を示すと言われている。これは古代、理容師はハサミを使うのが得意なのだからと、外科手術も手がけていた事を意味するらしい。ハサミが使えるがゆえに、髪を切ることも人を切ることも同じく捉えていた。スキルベースの発想だ(樫田氏)

これに対して、メルカリのBIチームは「人の命を救う」型のミッションを標榜している。今現在何ができるかではなく、目的を達成するために何をすればいいのか。「ハサミを使ってどう人を救うか」ではなく「人を救うためにはどんな技術を使えば良いのか探す」──この違いは大きいと樫田氏は語る。

メルカリBIチームが掲げる「人の命を救う」型ミッションの意味

経営判断でも、アプリの作り込みでも「意思決定」

メルカリのBIチームが想定する「意思決定」は、そもそも定義が幅広い。事業全体の売上を左右しそうな数十億円規模の投資判断は当然として、アプリ内のボタン配置を調整する上での数値的裏付けすら、BIチームの領分だという。

「意思決定」の想定範囲

さらに樫田氏は、メルカリにおける意思決定の位置付けを、世界三大発明である「羅針盤」「活版印刷」「火薬」になぞらえて説明する。

羅針盤の発明は、新大陸の発見・探索を低リスク化し、人々に「行動力の革命」をもたらした。活版印刷は、それまで手書き複写しかなかった聖書を一般市民にも流通させ、「情報流通の民主化」に貢献した。そして火薬は、単純に頭数で決まっていた国力の概念を覆し、結果的に「武力のルールチェンジ」へと至った。

メルカリのBIチームは、この3つの中でも特に羅針盤としての立ち位置が強いという。組織がどの方向に進むべきか、その根拠となるデータを示す、そのためにはKPIをどのように設計・トラッキングすればいいかをBIチームが検討する。

また、メルカリ内に貯まっている知見を広く公開したり、機械学習施策を推進するなど、活版印刷・火薬に類する領域にも取り組んでいると樫田氏は話す。

羅針盤の発明が航海の在り方を変えたように、BIの台頭が経営戦略を変える

BIチームは横軸展開
専門プロジェクトごとに1人ずつ張り付き

講演後半は、おもに組織体制について時間が割かれた。

メルカリBIチームは基本的に横軸、横断型の体制をとっている。それぞれの事業プロジェクトごとにBIチームのデータアナリストが1名専従するかたちで、樫田氏も「BIチームのメンバーが全員一緒にいるのは週に2時間程度。基本的には机もプロジェクトチームに置いている」と補足。いわゆる“島型”の席配置でBIチームをまとめてはいない。

BIチームの体制図

このスタイルにはメリット・デメリットの両面あるのは確かだ。ただメルカリは「朝出した機能を夜に効果分析して、悪かったら取り下げるくらいのとてつもないスピード感でPDCAを回している」(樫田氏)ほど。また、各種データは大半が社内で完全共有されているため、特定の部署の人間だけが参照できるという制限もない。結果、事業部張り付きの要素が強く、横断組織の色合いは薄くなっているという。

ただ、それでも分析能力向上のためにはチーム全体の取り組みも必要。実際、分析クエリの“レシピ”を社内向けに公開する取り組みも行っている。

そして樫田氏が手応えを感じているのが「ゆるふわBI」というプロジェクトだ。BIチームのメンバーに限らず、データ分析に興味のある社員を部署問わず勧誘し、グループ化しておく。

SlackにゆるふわBIのチャンネルを作っておき、ここではどんな初歩的な質問でも受け付け、絶対に誰かが返信する。恥ずかしがらずに質問できるようにしておくことで、ゆるふわBIメンバー全体の能力向上に繋がる(樫田氏)

「ゆるふわBI(通称ゆB)」プロジェクトの概要。色々と応用が効きそうだ

人材採用でも一工夫

メルカリのBIチームのメンバーは、各プロジェクトに張り付いている都合上、分析すべき課題の発見、解析、結果のアウトプットまでを助力なく1人でこなせるのが理想的ではある。

メルカリは工場などの資産もなく、優れた営業ネットワークが確立している訳でもない。それだけに人材採用は非常に重要(樫田氏)

メルカリ東京オフィスにおけるBIチームのメンバーは今のところ7名。今後更なる増員を予定しているが、樫田氏はズバリ“勇者型アナリスト”を探し求めているという。戦えば強く、それでいて魔法も唱えられるという、ロールプレイングゲームの勇者の如く、バランスに優れた人材──という意味だ。

データアナリストの基本的な業務フロー。メルカリの社内体制では、これらをすべて1人でこなせるのが理想

実際の採用面接で重視するポイントは、下記の3要素だ。

  • パトス(情熱):自社で熱意を持って仕事をしてくれる人物か
  • エトス(人間性):周囲から信頼される人間性の持ち主か
  • ロゴス(論理性):他人を説得するだけの論理性を持っているか

これらを複数人でチェックする。また、これら3つの要素が後の従業員教育で改善されそうかも考慮するという。

メルカリの採用方針

データアナリストも「横の繋がり」を

講演終盤、樫田氏は会場へ足を運んでくれた聴講者に対して感謝の意を表すともに、「データアナリストの業界は、エンジニアやマーケターの世界と比べてまだまだ横の繋がりが弱い」とコミュニティ面での未成熟さにも触れ、同じ職に就く者同士、連携を深めていくべきだと訴えた。

データアナリストは社内にズラリといるような職ではないため、悩みを共有しづらく、会社を超えた繋がりを求めている。実際、別の会社のアナリストに話を聞くと悩みがまったく同じ、なんてことがある(樫田氏)

また情報のオープン化をデータ分析の分野でもすすめるべきとも呼び掛けた。例えばエンジニア業界では、コーディングのテクニックをWebサイトなどで共有する試みが盛んだ。

データアナリストは社外秘の数値を扱うケースが多く、情報のオープン化に踏み出しづらい面はある。ただ樫田氏は自社ブログで積極的に情報を発信し、その記事がきっかけで今回の講演に招かれるなど、思わぬ副次効果があったと言及。臆せず活動することがプラスの効果を生むことがあると示し、講演を締めくくった。

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