グローバルWebサイト&アプリのススメ ~翻訳経済にようこそ
書籍『グローバルWebサイト&アプリのススメ』の一部をWeb担向けに特別にオンラインで公開!
この記事は、序章「翻訳経済にようこそ」の内容をお届けします。
翻訳経済にようこそ
2016年11月11日、Amazonの中国版Webサイトを訪れた人を出迎えたのは、「11.11」という数字が目立つように並べられたKindleのプロモーションでした。
11.11の何が特別なのでしょうか?
Amazonは「独身の日」を祝福していたのです。これは中国の比較的新しい祝日であり、インターネットそのものの産物でもあります。この日、多くの若者たちは独身であることを祝い、オンラインでちょっとした買い物をします。いいえ、実のところかなりオンラインショッピングを楽しみます。
独身の日は現在、地球上でオンライン商取引が最も盛んで、最も収益が多い日となっています。 2016年には、この日に約180億USドルの売り上げがありました。わかりやすい比較対象を挙げると、同年のブラックフライデー(アメリカの感謝祭の翌日)の売り上げが約30億ドルとなっています。また、独身の日に購入されるのは電子機器や衣服にとどまりません。この日の中国では、オンラインでの車の売り上げも記録的な100,000台に上りました。
アメリカを拠点とする多国籍企業は実際、独身の日を意識しています。Costco、P&G、Nikeといった企業が、この日のための特別なWebサイトプロモーションを用意しています。次の図は2016年のNikeの例です。
Nikeは、現在その収益の半分以上を米国外から獲得しており、中国は11%を占めています。同じく収益の半分以上を米国外から得ているAppleが、海外売上高について最も頼りにしているのも中国です。また、Microsoftも中国市場に盛んに投資しており、2016年の独身の日に独自のプロモーションを行っています。
独身の日は1日限定
この電子商取引におけるお祭り騒ぎはたしかに重要な存在です。しかし、多くの企業が販売地域を1つの国に絞らず、10、20、ときには100もの国に拡大しているこの世の中で、独身の日はたった1つの国のたった1日に過ぎません。すべての国には、独特の祝日や文化の伝統があります。グローバル化への野望を抱く人にとっては、すべての国が新たな未開拓地であり、新しいチャンスとなります。
おもしろいのはここからです。
一般に企業は、中国、ドイツ、フランス、日本など、いくつかの大きい市場に照準を絞るものです。しかし、賢い企業は常にその目をあらゆる国に向けています。次のチャンスがどこに生まれるかは誰にもわからないからです。
Facebookについて考えてみると、ユーザ数という点で見た場合、最も大きい市場はインドです。そして、アメリカ、ブラジル、インドネシアが続きます。Twitterは、自国の市場よりトルコ、南アフリカ、日本といった国のユーザーが高い割合を占めています。この現象はアメリカ企業に限られたことではありません。次の図は中国の新しい携帯電話ブランド、VivoのWebサイトです。展開されているメニューに表示されている国に注目してください。
Vivoは、ドイツやアメリカのような先進市場ではなく、インドネシア、ベトナム、ミャンマーなどの新興市場をターゲットにしています。これらの新興市場に進出を果たしたら、このリストにきっと追加されることになるでしょう。
これが今、私たちが生きている世界です。グローバルな成功を追求する企業にとって、新興市場は先進市場と同じぐらい注目する価値があります。経営者や企業が、国境の向こうのあらゆる国を無視できなくなるほどに、インターネットが世界の経済をつないだのです。
このような革新は、ほとんどの人が訪れることのない国のWebサイトで起きているため、自国しか見ていない経営者はたいてい気がつきません。ですが、本書を最後まで読むことで、急速に進化しつつある多言語インターネットを皆さんに探究してもらえるようになることを願っています。なぜなら、よく知らない言語や文化に対し不安よりも興味を覚える人こそが、この新しい翻訳経済で最も成功に近い位置にいるからです。
情報経済から翻訳経済へ
インターネットによって世界中のコンピュータが接続され、コンテンツのデジタル化によって全世界に情報が急速に流れるようになったことが、ここ数十年の情報経済を推進してきました。情報経済(さらに言えばWorld WideWeb)の大きな神話のひとつが、Webサイトを立ち上げさえすれば企業はグローバルになるという考え方でした。
Webサイトが地球上のどこからでもアクセスできるのは事実でしょう。しかし、人々がそのサイトを利用する保証はありません。情報は、理解できなければ役に立たないのです。
情報経済は、ずいぶん長いあいだ、英語に偏った視点に寄り過ぎていました。マーケティング幹部たちが、いずれ世界中が英語を話すようになり、物ごとがずっと簡単に進むようになるはず(またはそう望んでいる)と話していたのも、そう遠い昔ではありません。多くの人が第二言語として英語を学んでいるのは事実ですが、彼らが第二言語で買い物をしているとは限りません。そして、英語以外にも言語はたくさんあるのです。
いつか世界が自分と同じ言語を話すようになるのを待つ代わりに、世界の言語を自分で話してみるという手もあります。それはつまり、翻訳経済に参加するということです。
翻訳経済とは、簡単な言い方をすれば、情報経済のグローバル化です。自分と世界中のすべての人との間にある言語的および文化的なインターフェースと考えてください。このインターフェースは双方向に機能します。自分が世界に伝えたい言葉を翻訳し、世界からの言葉も翻訳して返してくれます。
翻訳経済は、相互のつながりをより強めた世界が自然に進化した形です。そこでは、世界の人口の半分以上がスマートフォンやコンピューターを通じてインターネットにアクセスするだけでなく、インターネットを通じた購買の手段や意欲を手に入れます。
翻訳経済では、企業は世界各国で使われる多くの言語に堪能でなくてはなりません。どんなに小さくても、すべての国が収益につながる可能性を持っています。
翻訳経済では、翻訳はもはや後から付け加えるものではなく、競争上の強みです。翻訳のスピード、品質、文化的な妥当性、こうした要素すべてが、モバイルアプリ、We bサイト、ブランド名、製品、サービス、そして最終的には企業が新しい市場で成功できるかどうかを左右します。
翻訳経済において、政府は、企業がグローバルな展開を推進し、言語的および文化的に多様な人材を雇用する環境を作る必要があります。また、翻訳経済への参入に障壁を設ける政府に対しては、その障壁を乗り越えるよう企業が尽力する必要があります。
翻訳経済では、その国の言語を話せないというだけの理由で疎外される人が減ります。言語が教育や商業の障害だったのは過去の話となるのです。
翻訳経済では翻訳が力になる
「ロスト・イン・トランスレーション(翻訳で失われる)」はよく聞くフレーズですが、まさにこれが当てはまります。適切な翻訳者を採用しなかった場合に失われるものは収益です。企業は、競合他社を見張るために多数の言語のブログをチェックし、メディアに目を光らせるべく翻訳を利用します。
企業がコンテンツを翻訳するときに、大いに役立つのがコンピューターです。中でも一番役立っているのがGoogleと言えるでしょう。
Google翻訳は、1日に1,000億以上の単語を翻訳しています。
1つのWebページに約100個の単語が含まれると仮定すると、1日に10億のWebページが翻訳されていることになります。Googleは言語数を公表していませんが、Google翻訳が現在100の言語をサポートしている(今後も追加される予定である)という事実が、このサービスがこれほどまでに広く使われている理由を物語っています。このサービスを1日に5億人を超えるユーザーが利用しているのです。
それでもまだ、200以上の国で6,000以上の言語が使用されています。Googleも先が長いですね。
でも、それは私たちも同じです。
ほとんどの企業がWebサイトやモバイルアプリでサポートしている言語の数は、10にも及びません。これは、私たちがまだ最初の一歩を踏み出したばかりであり、グローバル化に向けて欠かせない混乱を受け入れるのであれば、世界には無限の可能性があることを意味しています。翻訳経済が進化するにつれ、言語の幅や翻訳コンテンツの奥行きは劇的に広がっていくでしょう。
ようこそ、翻訳経済へ。
グローバルジェネラリストなWeb担当者を目指して
- 独身の日 !? ブラックフライデーって !?
- 世界が100人なら58人はアジアの人 !?
- 3Gの低速モバイル通信が世界の主流 !?
- 右→左と左→右が混じるアラビア語のWeb !?
すべてに精通したスペシャリストである必要はありません。
あなたのコンテンツやビジネスにグローバルな成功をもたらす事例・考え方・ヒント満載の手引き書が登場。
Webサイト・サービスやアプリケーションなどのプロダクトを提供するのは、今や企業の大小に関わらず、広くビジネス機会を求める上で重要な視点です。そして、それは1つの国や地域のスペシャリストである必要はなく、ジェネラリストとして幅広い国や地域に対して知見を持っておくことが重要です。
この書籍は、そのような観点に立った知識と豊富な実践を解説する書籍です。Webサイト・サービスやアプリケーションなどのプロダクトを、英語圏や中国語圏、中東圏、スペイン語圏などグローバルにマーケティングする際のポイントを、数多いケーススタディにもとづいて解説します。文字表現、デザイン表現、プロモーション戦略などを各地域の商慣習に合わせて細かく例示した他に類を見ない内容となっています。
著者が運営するBlog「Global by Design」の日本語訳を手がける、株式会社ミツエーリンクスの木達一仁氏が監訳! Web担当者、Webマーケター、広報・PR担当者はもちろん、Webデザイン/サービスのデザイナーやアプリ開発者など、幅広く役立てていただけます。
推薦コメント:木達一仁(監訳者)
日本の将来の景気低迷を懸念する記事を多く目にする昨今、日本企業は今後ますます海外に目を向け、インバウンドとアウトバウンドの両面からビジネスの拡大を検討することになるでしょう。ビジネスの、ひいては自社のWebサイトやアプリのグローバル化に取り組もうとされている皆さんにとって、本書が良き手引きとなることを願ってやみません。
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