資生堂の小出氏が語った、マス広告メインだったブランド企業の本気のデジタルマーケティング
資生堂といえばテレビCMや雑誌広告など、マス広告のイメージが強い。しかし、生活者のデジタル接触時間が長くなったことから、デジタルシフトを進めている。
資生堂の小出氏が「デジタルマーケターズサミット2017 Summer」において、「マス広告がメインだったブランド企業の本気のデジタルマーケティング」と題し、資生堂が全社的に取り組んでいるデジタルシフトの取り組みや、マスメディアを中心にブランディングを行ってきたブランドのデジタル活用方法について、事例を交えて紹介した。
ポイントは、「マスとデジタルの統合」だ。さらに小出氏は、日本アドバタイザーズ協会デジタルメディア委員長として、デジタル広告がもつ課題点を挙げた。
デジタルメディアの分散化と役割の変化
小出氏の属するコミュニケーション統括部は、マスとデジタルを統括してマーケティングプランをたてる部署である。資生堂といえばマス広告のイメージだが、この4~5年でデジタル広告が増えている。
その背景として小出氏が挙げたのは、「メディア接触時間は年々増加しているが、テレビ/ラジオ/新聞/雑誌の4媒体の接触時間は減少し、モバイルメディアの接触時間は2011年から2016年の間に3倍に伸びている」ということだ。
さらに資生堂では独自にアンケート調査を行っており、それによると、「若年層も意外とテレビを見ていて、PC/スマホと比較して極端に少ないというわけではない」ことがわかる。つまり、デジタルシフトとはいえ、マス広告はいまだ健在ということだ。このため、「マスとデジタルの統合」を軸に、マーケティングのプランニングを行っている。
特に最近は、ソーシャルメディアの台頭によるメディアの分散化が著しい。従来のWebメディアでは、すべてのコンテンツが自社サイトにあり、ユーザーをそこに集客していた。しかし最近は、個別のソーシャルメディアでそれに適したコンテンツを配信し、それぞれに集客する形になっている。
また、
- トレンドを知るためにInstagramやTwitterを利用する
- ECサイトは購入だけでなく、商品を知る場になっている
といったことも多い。
このように情報に接触するチャネルが増え、情報に囲まれる状況にある消費者は、チャネルごとや施策ごとの最適化では満足しなくなる。受け入れられやすいのは、パーソナライズされた情報や、「自分ごと」化できる口コミだ。つまり、生活者の声であるデータを元に、包括的な情報提供が必要となる。キーワードは
- データ(生活者の声)
- リアルタイム
- パーソナライズ
- アジャイル
だと小出氏は言う。
そのために資生堂では、
- オウンドメディアデータ
- 広告実績データ
- ソーシャル情報
- リサーチデータ
- コンシューマーセンターの声
- 競合アクティビティ
など、さまざまな情報を一元的に管理し、リアルタイムに閲覧できるダッシュボードの導入を検討している。その際のコミュニケーション戦略の方向性は、次のようなものだ。
生活者一人ひとりとの最適コミュニケーションを実現することで、ブランドのコミュニケーション領域におけるROIを最大化する
そのためには、企業による情報発信(B to C)と第三者の情報発信(C to C)を行う
資生堂のデジタルマーケティング施策
具体的な施策として、次のようなものが紹介された。
①マスとデジタルの統合
マス広告の効果が減っているとはいえ、テレビはそれなりに好調で重要なチャネルだ。しかし、テレビは長時間見る人とまったく見ない人がいる。そこで、テレビでは次のことが必要になる。
- まったくリーチできない層をなくす
- 接触が少ない人にはフリークエンシーを増やす
- 過剰フリークエンシーを削減する
これを解決するのが、テレビとデジタルの統合だ。資生堂では、テレビCM開始後の3日後にWebアンケートで広告認知を把握し、5日目からは認知率が低いエリアや年代をターゲティングしてデジタルで補完している。
また、テレビCMは流し続けてもリーチが伸びるわけではなく、コストばかりがかさむ。そこで、途中でデジタルの動画広告にシフトすることで、リーチは獲得しつつコストを抑えることができる。テレビCMの半分のコストで、追加リーチを積み上げたという。
②パーソナライゼーション
情報源が増えて分散化しているため、生活者は受け入れる情報を厳しく分別するようになっている。買った商品の広告が何度もリターゲティングされたり、同じニュースが何度も来たりといったことは、生活者の立場としては不快。もちろん広告主にとっても、認知している人に認知の広告を出すのは無駄だ。
このため受け手の状況に合わせたパーソナライズされた情報提供が重要になる。
③クラウドソーシングを使ったクリエイティブ
マスメディアではリーチできていなかった若年男性に向けて、「uno」ブランド認知向上の動画コンテンツを、クラウドソーシングを活用して安価に複数作成した。これにより、次のような知見が得られている。
クラウドソーシングを活用することで、低コストでさまざまなバリエーションの動画を作成可能。また、メディアごとに機能するクリエイティブの違いがあることを学んだ。
A/Bテストを通じてブラッシュアップしていくことで、態度変容を起こすクリエイティブ制作に成功した。
クラウドソーシングではハンドリングの負担が大きい。そのため、Always onで実施するにはマーケティング側にも体制が必要。
さまざまな切り口を入り口としながらも、クリエイティブと連動させたランディングページの活用が必須。
④ターゲットのインサイトに響くコンテンツ
広告では伝わらない情報を、ユーザー間の口コミ(SNS)で拡散してもらうために、ターゲットの心に響くコンテンツを作る必要がある。美白スキンケアパウダーの「スノービューティー」では、人気俳優を使ったドラマ仕立てのWeb動画でコミュニケーションに成功している。
⑤ファンコミュニティの運営
ファンコミュニケーションの場は、生活者のインサイトの発見、C to Cの情報発信のきっかけ作りとして有効だ。そこで資生堂では、デジタルコミュニティ「おめかし会議」を運営している。グループインタビューで活用したり、新製品の情報をいち早く伝えてSNSで拡散してもらうこともある。
デジタルシフトを進めるにあたって
最後に小出氏は、日本アドバタイザーズ協会(JAA)デジタルメディア委員長の視点から、いくつかの課題を挙げた。日本アドバタイザーズ協会は、広告主企業の団体で、そのなかでもデジタルメディア委員会は、デジタル広告活動の適正化をめざして活動をする場だ。小出氏はそこの委員長でもある。
メディア区分の無意味化と、テレビ・Web動画共通指標化の必要性
テレビ局が配信サイトを運営したり、テレビCMと同じ動画をインターネットで配信するなど、メディアの区別は無意味化している。一方、B2C企業の流通商談では、今でもテレビ露出量のGRPによって棚割が決まることが多く、広告主の投入コミュニケーション量の規模の大小が正確に反映されづらくなっている。この点については新たな認識を作っていくこと必要で、広告界全体でテレビとWeb動画の総量がわかる共通指標化をJAAでも議論を開始している。
また、デジタル広告にはさまざまな落とし穴がある。たとえば、次のようなものだ。
日本のデジタル広告のアドフラウド(広告詐欺:人が見ていないのに広告費を請求される)は全インプレッションの6%ほどある
同じ人が異なるデバイスで接触した場合にそれぞれが別な人のアクセスとカウントされていることに留意しないといけない
属性ターゲティングの広告配信で想定のターゲットに届くのは50%以下の場合もある
ほかにも、意図しない場所に広告が表示されてブランドリスクになるといった問題もある。広告がどこに出稿されているかは、注意しておく必要がある。
デジタル広告に問題はあるものの、これからはデジタル広告とトラディショナルなマス広告との統合・融合が進む。今はテレビとWeb動画で組織が別という場合もあるが、次第に予算も組織もひとつになるだろう。小出氏は、次のようにまとめた。
テレビとネット動画のどちらがいいかではなく、統合・融合になるだろう
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