セミナー登壇者が知っておくべき情報がまとまったページがスゴい! 作成者のCSS Nite 鷹野さんに聞いた
まず、「CSS Niteに出演される方へ」のページをご覧ください。
セミナー登壇者向けに、次のようなことがまとめられています。
- 講演時に注意してもらいたい4点
- スライド資料のフォーマット
- スライド資料作成時の注意点
- NG、OKな用語表現まとめ
- マイクの使い方
実際にはもっと詳しく書かれているので、ぜひこのページを見てください。情報量に圧倒されると思いますよ!
この情報量をまとめて、しかもノウハウをオープンにしてしまう意図を、このページを作った鷹野氏にお話を聞いてきました。
「オープンでフラット」がCSS Nite
――ドキュメント化しようと思ったきっかけは?
出演される講師さんにその都度、概要や注意点を伝えていると必ず漏れが生じるので、ドキュメント化してまとめておこうというのが始まりです。
あとイベント運営者の立場としてなんですが、個別対応でなく、ガイドラインとして講師料の提示をする目的もあります。
――オープンにしようと思った理由は?
CSS Niteは「オープンでフラット」というスローガンがありまして、講演で使ったスライドも「有料の場合は3か月後」という決まりはありますが、基本的にすべて公開しています。
CSS Niteに参加した人だけでなく、それに参加しなかった人も全員で共有したほうが、業界全体としてどんどん成熟していきますよね。ですから、CSS Niteに出演されない方もセミナー出演されるときに参考にしていただいたり、セミナー運営をされている方が「出演される方へ」を参照したり、内容をパクってもらってOKです(笑)。
――更新は、鷹野さん1人で行っているんですか?
はい、僕が1人で行っています。僕マニアックなんですよ(笑)。よかれと思ってどんどん追記していくのですが、長いほど読まれなくなってしまうのが課題です。
ですので、ページ冒頭で絶対に読んでもらいことを「これだけは」として4項目掲載し、出演される方には4項目が書かれたPDFをプリントアウトして渡しています。
――この4つを選んだ理由は?
参加する人にとって、セミナーに来て良かったと思ってもらえるような項目を中心に選んでいます。
たとえば、質疑応答のとき、質問される方は緊張して長くなってしまいがちです。「ご質問の内容は~ですね」と講師さんがまとめると間違いがありません。また、質問にすぐ回答してしまうと、質問者との会話になってしまいます。講師さんが一度、質問者の質問を復唱し会場全体で共有すると、ほかの参加者さんにとってもわかりやすいはずです。
――オンマイクで喋るなど他3つもそういう観点から選んでいるんですね。
はい。とはいえ、とっさにこれら4項目を誰もができるかというと難しいんですよね。でも、講師さんにとっても、参加者さんから「とってもわかりやすかった!」「参加してよかった!」という一言をもらえることが一番の報酬だと思うので、しつこく言い続けます(笑)。
ちなみに「オンマイクでお願いします」って伝えると、マイクのスイッチを確認される方もいるのですが、「上手(かみて)」などを含めてイベント運営でよく使われる用語を共通言語にしていくことも大切ですね。
人が成長するには欠かせない「愛のあるダメ出し」
――スライド資料の書き方についても「出演される方へ」で詳しく書かれていますよね。
そうですね。講演内容がセミナーの良しあしを左右すると言っても過言ではないので、まず同じセミナーに登壇する人は、誰がどんなことを話すのか講師さんも含めて事前に共有するようにしているんです。
そのとき、いきなりスライド資料を提出してもらうのではなく、次の3段階で作ってもらうようにしています。
- ざっくりシナリオ(10~20行くらいでどんなことを話すのかまとめる)
- 詳細シナリオ(下図参照)
- スライド資料(スライドラフを事前提出してもらう)
①ざっくりシナリオは、講師さん同士で話す内容の調整をしてもらうためのものです。次に②詳細シナリオを出してもらい、最終的に③スライド資料を提出してもらうことにしています。
とはいえ、なかなか②詳細シナリオを出してくれる人が少ないんですよね。スライドを作ってしまうと、ストーリーの流れを変えたり、情報の取捨選択をすることが難しくなったりするんですよね。ですから、スライドは話す内容や順番などの組み立てを練ってから最後に作るのが理想だと考えています。
――スライド資料のフィードバックってどこまでやっているんですか?
②詳細シナリオが本当に大事で、これをベースに説明する順番やスライドの見せ方などを打ち合わせできると良いんですけど、なかなか現実的には難しいですよね……。
スライドを本格的に作り込んでもらう前に、1、2枚スライドの作り方を見せてもらって文字の大きさなどを確認しています。
ある程度完成したら、
- スライドの端ギリギリまでテキストを配置しない
- 写真はなるべく大きく使うなど
グラフィックデザインの見地からアドバイスするほか、プロジェクターで見たときに飛んでしまう色やコントラストといったフィードバックもします。
――作ったものに対してフィードバックをしっかりするってとっても大事ですよね。
そうですね、大人になればなるほどダメ出しされなくなるので、フィードバックは、成長のための“愛のあるダメ出し”です。
あと、このページには記載していないんですが、質疑応答集を講師さんに作ってもらって、その回答を事前に共有するようにしているんです。
――なぜ、講師さんに質問を考えてもらうようにしているんですか?
プレゼン内容からその質問内容を引いて話してもらうためです。たとえば、わかりやすい例だと自己アピールですね。たとえば、「本を出しました」と自分で言うといかにもですが、司会者に「そういえば、本を出されたんですよね」と振られてからなら自然な流れで宣伝くさくなりません。
その他、強調して伝えたいことがある場合、それを司会者に振ってもらうことで参加者に印象付けることができます。そのために、質問を作ってもらっています。
最低限知っておいてほしいことがマニュアル
――ここまでマニュアル化するってとても大変だと思うんですが、継続してまとめるコツなどありますか?
うーん……「まとめること」が大変と感じたことがないんです(笑)。むしろ、伝え漏れがあるほうがイヤですし、一箇所にまとめておいて、「ここを見ておいてね」と伝えるほうがラクですよね。
もともとまとめることに慣れているといいますか、昔から「チェックリストや箇条書きにして要件を提示して」と言われ続けてきたので習慣化しています。
――では、どんな内容をまとめるようにしているのですか?
クオリティを担保するために、最低限知っておいてほしい情報をまとめています。セミナー企画の他に執筆活動もしていて、複数人と執筆することがあるんです。
読みやすさ、編集のしやすさ、そして統一感のために、画面キャプチャをリサイズしないとか、ひらがなで書いたほうがいい漢字といった最低限のルールをまとめて執筆者同士で共有しています。つまり、ルールやガイドラインがあるなら、先に提示した方がお互いに手数が減ります。
「出演される方へ」で掲載しているのも、一緒にセミナーを作っていくうえで知っていてもらいたい情報です。ぱっと見、ボリューミーですが、僕のなかでは、「出演される方へ」でまとめている情報はベーシックな部分でしかありません。
たとえば、喋るのがあまりうまくなくても、パッションというか熱量がすごくて反応がよいこともありますし、スライドが少々見劣りしたり、誤字があったりしても、ノリで押し切っちゃうタイプの方もいます。
でも、せっかくなので、少しでも精度を高めたほうがいいし、スライドを公開したとき、講演を見ていない人にも伝わりやすいほうがいい。講師をお願いした以上、少しでも講師さんの評判が高まるようなお手伝いができればと考えています。
――“良いもの”を作ることにとっても情熱を感じます。セミナー運営をするなかで、大事していることはありますか?
セミナーは単独セッションの寄せ集めではなく、単独セッション同士が相乗効果を発揮して成り立つものだと思っているので、そこを運営側も講師さんも意識したほうがいいですよね。
ですから、CSS Niteでは講師控え室を用意せず、講師さんにも会場内で、参加者さんと同じようにセッションを聞いていただいています。前の講師さんが何を話していたか、そのときの会場の雰囲気を感じてもらいたいんです。
セミナーは7、8割知っている状態で参加して「最後の詰め」として活用する
――出演する人にフォーカスして話を聞いてきましたが、最後に参加する人にセミナーを楽しむコツみたいなものがあれば教えてもらえますか?
参加者さんで、よく「大体知っていた(ので満足度が低かった)」という人がいますが、「大体知っていた」という状態こそが一番得るものが多いと思うんです。
全然わからない状態で参加したほうが、得るものが多そうに感じますよね。でも、知らないことがたくさんあり過ぎると、持ち帰れるものは実は多くないのです。
自分が勉強したことを振り返って「正しかった」と答え合わせしていくだけでも価値があることですし、セミナーに参加して曖昧な部分や解決できなった疑問を講師さんに質問することで確実な理解が得られるはずです。
ですから、テーマについて7、8割知っている状態でセミナーに参加してもらうほうが何も知らないで参加してもらうよりも2倍、3倍の効果があるのです。つまり、知識の「最後の詰め」に最適なのがセミナーだと考えています。
――「大体知っていた」という人が多いと、アンケートの評価が下がってしまうことがあると思います。評価方法で工夫していることはありますか?
多くのセミナーでは「満足した」(かどうか)という1軸しかありませんが、その場合、「よくわからなかったから楽しめなかった」と「わかり過ぎて得るものが少なかった」の判断ができません。そこで、「理解できた」「楽しめた」「役に立った」の3軸を、5段階で評価する「立体評価」というものに落ち着いています。
たとえば、「あまりよく理解できなかったけど、すごく刺激になった」など、ちょっと難しいチャレンジングなセッションを行うときにも役立ちます。
また、集計するのは大変なんですが、アンケートは手書きに限ります。手書きの文字から参加者さんの気持ちが伝わりますしね。
――貴重なお話ありがとうございました。
編集部コメント:
インタビュー中、鷹野さんが持参したメモがなんと、自身がIllustratorで作ったマンダラート(アイデアを整理したり、発想したりするときに使う3×3の9マス)でした。
20年くらい愛用しているとか。そんなメモからも鷹野さんの“良いものを作り上げる”精神を感じられますよね。
それにしても、まとめることが苦じゃない発言には驚きを隠せません。私もまとめることが苦じゃなくなるくらい、習慣化したいものです。
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