アプリ経由の売上が40億を突破! たった2名でスタートした「全国タクシー配車」開発の裏側を聞いた
この記事はD2Cが発行するDIGITAL&DIRECT NEWSの一部をWeb担当者Forum向けに特別公開したものです。
今、マーケターに突き付けられている現実と課題はどのようなものなのだろうか。「デジタルマーケティングに立ちはだかる壁」と題した特集の最終回として、日交データサービスの若井 吉則氏に「新たなデジタルチャネルの『全国タクシー配車』アプリの開発秘話」について伺った。
社長自らがアプリ開発を指示
日本交通は、2011年1月にタクシーを呼び出すことができるアプリ「日本交通タクシー配車」の提供を開始した。同社の川鍋一郎社長は、ITやデジタルの活用への関心が高く、スマートフォンの普及がまだそれほど進んでいない時期から、自社のビジネスにスマートフォンを活用できないかと構想していたという。
そして、トップダウンで、自社の開発部隊にスマートフォンを活用したシステムを検討し、開発するように指示したという。その結果、開発されたのが「日本交通タクシー配車」なわけだ。
内製にこだわることにより、ノウハウを蓄積
日本交通グループのシステム開発を担う日交データサービスの若井吉則氏は、「最初はゲームなどのエンタメ系のアプリも検討していましたが、やはりタクシー事業に関連・貢献できるものにしようと、簡単にタクシーを呼べるアプリとしました」と言う。社長直轄のプロジェクトではあったが、当初はわずか2名体制でスタートしたという。
実はフィーチャーフォンでも配車サービスは提供していたのですが、ほとんど使われていませんでした。その理由は、とにかく入力することが多過ぎて面倒だったのです。まず、ユーザー登録をして、それから現在いる場所を文字で入力するなど、煩雑でした。それがスマートフォンならば、タッチパネルと地図機能、GPSもついているし、より使い勝手のよいものにできるのではないかと考えました。
日本交通グループでは、開発を内製で行うことが基本というポリシーがあるという。確かに、それによって自社にノウハウを蓄積していくことができるだろう。若井氏もスマートフォンアプリを開発した経験もなかったという。
パートナーとアプリを全国展開へ
「提供開始前には、どれくらいダウンロードしていただけるのかも、どれぐらいご利用いただけるのかもまったく読めませんでした」2011年1月にiPhone版を提供開始し、2月にはAndroid版の提供も開始した。
すると提供開始から3カ月で5万ダウンロードを達成したのである。
「日本交通タクシー配車」は東京のみで利用できるアプリでしたので、その後、地方でも使いたい、出張先でも使いたいといったお声をたくさんいただくことになったのです。
それに対して、日本交通は全国で利用できるアプリの開発を目指すこととなる。全国のタクシー会社にパートナーとなってもらえるように営業をかけたのである。その際には、日本交通の営業のリソースが活躍した。
アプリ開発のプロジェクトが営業も巻き込んでいったわけだ。この頃に全社的なプロジェクトととらえられるようになる。「日本交通タクシー配車」は、日本交通のブランドを表示しているので新たなアプリの開発が必要となった。その試みの結果として開発されたのが「全国タクシー配車」アプリだ。2011年の11月には提供開始した。「日本交通タクシー配車」の提供開始からわずか10カ月と、非常に速い展開となった。
顧客からの高評価がさらによい展開を生む
その後も順調にダウンロード数を伸ばしていった。
特に大雪などの悪天候のときに、ダウンロード数や利用が伸びています。もちろん、従来どおりの電話による配車のご依頼も増えるのですが、大雪などのときには電話回線がパンクしてしまうケースもあります。アプリではそのようなことはありませんから、スムーズにご利用いただけるのです。
日本交通では、1カ月間に延べ約25万台のタクシーを配車しているが、現在はその2割がアプリ経由となっているという。
そのような困ったときに便利にご利用いただけると、とても喜んでいただけるようで、その感想をTwitterやFacebookでつぶやく方も多いのです。それがまたダウンロード増加に貢献してくれているといったこともあります。
アプリ経由の売上が40億円を突破
当初は、「全国タクシー配車」は8県程度からスタートしたが、2013年12月には47都道府県への対応が完了した。現在、提携パートナーのタクシー会社は118グループにも上る。また、対応しているタクシーの数で見てみると、全国で約24万台のタクシーに対して、その1割強の約2万2千台が対応しているという。アプリのダウンロード数は、「日本交通タクシー配車」が40万、「全国タクシー配車」が100万に上る。
売上ベースで見てみると、2014年7月にアプリ経由の売上が40億円を突破した。かつて、日本交通の川鍋社長は、「従来、タクシーというものは、近くに通った車両に乗っていただくといったものでしたが、アプリを利用していただければ、日本交通を選んで乗っていただくということが可能になります。これは、タクシー会社の事業としては非常によい効果を生んだと言えます」とコメントした。
確かに、「日本交通タクシー配車」と「全国タクシー配車」は、タクシー会社にとって、顧客との新たなコミュニケーションチャネル、販売チャネルを築いたといえるだろう。しかも、他社もパートナーとして巻き込み、タクシー業界自体にも大きな変革をもたらせたと言えるだろう。
企業にとってマーケティング施策とは経営課題として取り組むべきものだろう。しかし、目まぐるしく新しいサービスやデバイスが登場するデジタル領域の動向を、全社的に正確に把握することは困難を極めるだろう。
Web広告研究会の本間氏は、「予算がとりにくい、社内の理解を得にくいというケースは多いと思います。そういった場合はスモールスタートで始めて、実績を積み上げて行くというやり方もあると思います」と言う。
まさに、本特集で紹介した日本交通は、早い時期からトップがITを事業に取り組むべきだと判断し、わずか2名のプロジェクトとして開始して成功した例である。
マスで大半の生活者にリーチできる時代は終わってしまった。今後は、ほぼすべての生活者がデジタルに接触し活用することになる。企業にとって、生活者とのコミュニケーションチャネルとしてのデジタルは、今後も重要性を増していくであろう。
この記事は、株式会社D2Cが発行する小冊子 『DIGITAL&DIRECT NEWS』 Vol. 50のコンテンツの一部を、許諾を受けてWeb担当者Forumの読者向けに特別公開したものです。
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