本間 充氏が語る、これから目指すべきデジタルマーケターの姿とは?
この記事はD2Cが発行するDIGITAL&DIRECT NEWSの一部をWeb担当者Forum向けに特別公開したものです。
まずはマーケター自身が自らをデジタル化しなければ
今、マーケターに突き付けられている現実と課題はどのようなものなのだろうか。
デジタルマーケティングを担うマーケターの悩みとして、「担当者不足」、「リードする人材がいない」、「予算が確保できない」、「知見/ノウハウが少ない」といったことが挙げられる。では、モバイルマーケティングやデジタルマーケティングの推進に立ちはだかる壁があるとすれば、それは一体どのようなものなのか。
今回の特集では、「デジタルマーケティングに立ちはだかる壁」と題して、これからのマーケティングコミュニケーションの課題を検証しながら三者三様の立場の方に話を聞いた。第1回は、Web広告研究会の代表幹事である本間充氏だ。
マーケティングそのものにもっと光を当てなくてはいけない
カンヌライオンズやコードアワードなどのアワードは市場の発展に寄与している面は、確かにあると思います。たとえば入賞することで、予算確保などもしやすくなるかもしれません。少なくとも社内でのプレゼンスが高まります。ただ、本当に望まれることは、そういう機会をうまく利用して、デジタルマーケティングの必要性とか重要性をいかに社内に喧伝するかということだと思います。
と本間氏は説明する。その面で、日本は確かに遅れている。
たとえば米国の流通大手であるウォルマートでは、社内で「将来の顧客像」というビデオを製作し、それを題材として、数年先に必要とされることを全社で考えているという。
日々の課題もありますが、4年とか5年先に、今、自分たちは何をしておくべきなのかを常に考えているのです。たとえばショップロケーターは、お店の場所を示すだけではなく、店内のマップも表示すべきであろうし、買い物リストは紙ではなくモバイルの中に入っているでしょうから、そのリストから自動的に売場が表示されるようにすべきではないかといった議論が行われているわけです。
そうした動きが集約されているのが、シリコンバレーの@ウォルマートラボだ。このラボはウォルマートの電子技術開発部門で、同社のEコマースの売上を、全米トップ5に押し上げる原動力となった。
あるいはネスレには、本社内にデジタルユニバーシティという教育組織があって、各リージョンのデジタルマーケティングリーダーを育成しています。ネスレは、すでに単なるコーヒー生産者ではなく、コーヒー飲料の周辺サービス事業者に変貌しています。
つまりは顧客のニーズやウォンツの変化を先取りして、自分たちの事業を再定義し、そのために、自分たちはどう変わるべきか。そのときのデジタルマーケティングはいかにあるべきかを考えているわけです。そういう将来の話を目下の課題解決と同時に、渾然一体と行うべきなのだと思いますが、それができていないことが、日本企業のデジタルマーケティングに立ちはだかる最大の壁なのではないかと思っています。
つまり、今、日本の企業の問題は、デジタルマーケティングに光が当たっていないということではなく、もっと大きく、マーケティングそのものに光が当たってないということだというのだ。
これまで日本経済を支えてきたのは製造業だ。製造業は、マーケティングドリブンで製品開発をしてきたわけではない。製品スペックドリブンで、研究開発者の想いが先行して、多くの優秀な製品が生まれ、それを売りに行くという段階からマーケターや営業担当者にバトンタッチしてきたので、後者の人々に光が当たる瞬間は、実は昔から少なかった。
ビッグデータには、マーケティングオートメーションで対応すべき
たとえば、かつては店頭で写真を撮るというのはタブー視されてきた。同業他社でもなければそんなことをしたいとは思わなかった。しかし、今は当たり前の行為で、誰もそれを止められない。消費者の撮る写真は、写真というよりもメモ代わりだったり、日記の代わりだ。つまり、コミュニケーションの手段としてはもちろん、生活スタイルが大きく変わってきたということだ。
どのデバイスに合せるのが最適かという考えではなく、そのデバイスを使って、消費者の進化した利用シーンというもの、その意図をちゃんと理解して、それに合わせたマーケティングを再設計する必要があるわけです。
かつてラジオからテレビにマーケティングの主役が移ったが、そのときは、“音声”から“動画”へという誰の目にも明らかな変化であり、メディアの主役がテレビになる流れはスムーズだった。
さらに、インターネットが登場した。インターネットは、他のメディアと併用される存在と言われ続けたが、パソコンの登場は大きな変換点ではあったが、テレビの座をいきなり脅かすようなものではなかった。そして、それは現状でも変わらない。
その後、これほど短期間で、パソコン、携帯電話、スマートフォンと、新しいデバイスが生まれ続けたことはかつてなかった。だからデジタル領域においては、マーケターはデバイスに翻弄され続けてしまったという面もあるかもしれない。しかし、生活者は右往左往することなく、自身のニーズに合わせて、マルチにそうしたデバイスを使いこなしている。
本来、マーケターはそうしたコンシュマーインサイトに基づいて考えるべきなのに、デバイスインサイトに拠りすぎたと反省すべきだと本間氏は言う。
しかし、本間氏は、そうしたデジタルマーケティングの進化を考える前に、もっと大切なことがあると提唱する。それはマーケティングのデジタル化だ。
最大の問題は、消費者も、テレビ局やコンテンツプロバイダーも、生産現場や流通はもちろん、すべて、等しくデジタル化が進んでいるのに、マーケティングの領域だけが著しく遅れているのです。この分野のデジタル化は、「エクセルを使っています!」という程度なのです。それでは、デジタルマーケティングを本当に理解することはできません。だからまず、自分たちの仕事のやり方をもっとデジタル化すべきなのです。
本間氏は、デジタルオートメーションという造語を作り、よく使っているという。ファクトリーオートメーション(FA)と同じで、おそらく、通常の作業の70%程度はデジタルオートメーション化すべきなのだ。
優秀なマーケターが自らのアルゴリズムを開示して、それをプログラミング化する。その考え方がロジカルであれば、必ずプログラミング化できるはずなのです。そして、その優秀なマーケターはそのプログラムを、今度は改善していく役目を担うのがいいと思っています。
FAは進化をしないといわれたが、それは間違いで、大きな進化を遂げている。それはセンサ技術が充実し、職人が肌感覚でわかる以上のセンシングができて、データ量が飛躍的に増大しているからだ。
今いわれるビッグデータとは、人の営みに関するそうしたデータなのだ。それは一人のマーケターが把握できる範囲をはるかに超えている。だから、マーケターの側にもオートメーション化が必要になっている。
最初は、手元でわかる範囲でプログラムすればいい。その後で、どんどんとデータを入れ込み、そのプログラムを拡大していく。そうでなければ、たとえば「ターゲット × デバイス × シーン」という無限の可能性に対応できなくなる。そこができないと、本当のデジタルマーケティングの強みを生み出すことはできない。
この記事は、株式会社D2Cが発行する小冊子 『DIGITAL&DIRECT NEWS』 Vol. 50のコンテンツの一部を、許諾を受けてWeb担当者Forumの読者向けに特別公開したものです。
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2014年10月発行のvol.50をもって刊行を終了し、オンラインサイトの「D2Cスマイル」を通して、デジタルマーケティングに関するさまざまな情報を提供していく。
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