ジョンソン&ジョンソンが世界3000サイトをDrupalで構築している理由
今日は、Webサイトのコンテンツ管理システム(CMS)の話題を。オープンソースCMS「Drupal」の、企業インフラとしての利用が世界で広まっているということで、その状況やなぜ利用されているのかを解説します。
ジョンソン&ジョンソンが世界で3000サイトの構築に利用していて、そのほかにも、ファイザー、インテル、トムソンロイター、BBC、ワーナーミュージック、ホワイトハウス、スタンフォード大学、オリンピック、グラミー賞など、いまや世界のWebサイトの2.5%で使われているCMSがあることをご存じでしょうか。
それが、オープンソースCMSの「Drupal(ドリューパルドゥルーパル)」です(実はWeb担も2006年のオープン当時からDrupalを利用して運営しています)。
9月に、Drupalプロジェクトの創始者であるドリス・バイテルト氏が来日して開催した「Drupal Night in Tokyo 2014」というイベントで、なぜDrupalの企業ユースがここまで普及しているのかの背景が語られていたので、お伝えします。
機能とデザインをパッケージにして各国のWebチームに配布
バイテルト氏やイベントを主催したCI&Tの上田氏によると、企業がWeb基盤としてDrupalを選ぶ最も大きな理由は、Webサイトの機能とデザインをパッケージ化して各国のWebチームに配布する「ディストリビューション」という仕組みが、特にグローバルWebを展開する企業に受け入れられているのではないかということです。
というのも、Drupalでは、サイトの仕組みやロジックや機能を「モジュール」という仕組みで、デザインや見え方を「テーマ」という仕組みで実現しており、それぞれを自由にカスタマイズできます。さらに、それらをまとめた「ディストリビューション」という、コンテンツ以外のすべてをパッケージ化して配布する仕組みもあります。
つまり、グローバルWebを主管しているチームでは、サイト特有の機能やシステム連携などの「モジュール」を作り、ブランドカラーやロゴなどをルールに従って配置したデザインを「テーマ」として作り、それを「ディストリビューション」として各国のWebチームに配布することで、「あとはコンテンツを入れるだけ」ということが実現できるのです。
または、各国に配布するのではなく統一基盤としてシステムを管理したい場合は、Drupalのもつ多言語対応の機能を使ってコンテンツを多国語向けに翻訳・カスタマイズすることも可能です。
こうしたことから、特にグローバル企業でのDrupal利用が伸びているようです。
企業の共通基盤として有利なオープンソースCMS
グローバルWebでなくても、1企業が多くのサイトを運営していることも、今は多いでしょう。企業サイト、製品サイト、サポートサイト、イベント用のマイクロサイト、ブログ、パートナー向けサイト、イントラネットなどですね。
多くの場合、さまざまな部門がそれぞれ勝手にCMSを導入してサイトを作っていることでしょう。
そうなると現場では、各チームや各事業部が、それぞれ懇意にしている制作会社や代理店にサイト作りを依頼し、依頼された側では自分たちの得意な技術でサイトを作るので、技術面でもJava、PHP、.NETなどが混在しており、データベースもバラバラ、サーバーのインフラもバラバラということになってしまっていることが多いのではないでしょうか。
さすがに多くのCIOがこうした問題に気づいてはいるものの、それらのシステムを統一基盤にもっていくということは、なかなかできないものです。
というのも、エンジニアブログやちょっとしたマイクロサイトを作るのに、製品サイトなどで使っているような本格的な商用CMSを使うのは、ライセンス料とのバランスがとれない場合が多いからです。
そのため、ライセンス費の問題がないオープンソースのDrupalを、企業の共通Web基盤として採用する事例が増えているということです。
DrupalはオープンソースCMSだということで、WordPressやJoomla!と比較されがちですが、実際には、海外ではDrupalはそういったCMSよりも、商用CMSとコンペになることが多いということです。
たとえばファイザーでは400のサイトをDrupalで作っており、それにより60%のコストを削減でき、サイトの立ち上げを40%高速化できたといいます。
ジョンソン&ジョンソンは世界で3000サイトをDrupalで構築していて、日本チームでもDrupalを使ったサイトを運営しているということです。
もちろん、企業の基盤として利用するには、セキュリティやスケーラビリティなどが重要な点になります。
しかしDrupalは、ホワイトハウスやNY証券取引所ユーロネクストといったセキュリティが大きな問題となるサイトや、オリンピックやアカデミー賞といった大規模アクセスのサイトでも利用されている実績があるのです。
日本でのDrupalの今後は、日本語の情報と制作会社の拡がりが必要
Drupalは2001年から運営されているオープンソースソフトウェアなのですが、そんなにスゴいCMSが無料で利用できるのならば、なぜ日本で普及していないのかと不思議に思う人もいるでしょう。
その理由は、次の2点にあると私は考えます。
- 日本語の技術情報がかなり少ない
- 対応できる制作会社や代理店が少ない
私も8年ほどDrupalでの開発を続けていますが、頼りにする情報は、ほぼすべて英語のものです。また、制作会社さんで「Drupalが得意です」というところには、ふだんは滅多に会いません。
そのため、Drupalは日本では普及しづらいんだろうな、と思っていました。
しかし、ここ1~2年で、日本国内でもDrupalという名前を耳にすることが(以前よりは)増えました。
さらに、今後は日本でのDrupalの普及を進める動きを強化していくという発表を、今回の「Drupal Night in Tokyo 2014」で主催のCI&Tが行いました。
具体的には、次のようなことを、日本国内でCI&Tが進めていくということです。
クラウドサービス「Acquia」のサポート ―― Drupalの企業向けPaaS/SaaSクラウドサービスである「Acquia(アクイア)」のサポートを、CI&Tが日本でサービスとして提供していく。具体的には、Acquia上でのDrupal開発、AcquiaクラウドでのDrupalサイトの運用、既存サイトのAcquiaへの移行などを行う。
日本国内でのDrupalトレーニング ―― 日本企業向けのDrupalとAcquiaでの開発・運用に関するトレーニングを、開発者や制作会社向けに提供していく(日本のANNAI LLCと共同で10月からトレーニングサービスを開始)。
日本語のドキュメントを強化していく ―― 開発者向けの技術資料などを日本語で読めるようにしていく。
これは、日本のDrupalにとっても大きな一歩でしょう。
しかし実際には、これだけでは、日本でDrupalが大きく普及するにはまだ足りません。
日本語ドキュメントが増え、Drupalでの開発ができる人が増え、それによって実績が増え、そうした状況をふまえて、CI&T以外でもDrupalを得意とする制作会社がさらに増えていかなければ、Drupalはこれからも日本ではマイナーなCMSのままでしょう。
Web担は、商用CMSのベンダーさん各社さんから広告をいただいている手前、こうしたオープンソースCMSの話題を出すと広告主さんからいやがられてしまいそうなのですが、Web担を支えているCMSの話題でもあり、また、今後、日本国内でも、商用CMSをも巻き込んだ動きになる可能性があるため、こうした記事にしました。
本当は、そういう商用CMSベンダーさんとの利害の問題が出ないように、Web担でオープンソースCMSを選んだはずだったんですけどね……。
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