1万時間の法則: 人が何かに習熟してスペシャリストになるのにかかる時間
今日は、「人が何かに習熟して一流になるのにかかる時間」の話題を。マルコム・グラッドウェルによると、人が何かを本当に身につけるには累積1万時間が必要なのだといいます。
『天才! 成功する人々の法則』という書籍があります。この業界では有名な『ティッピング・ポイント』『ブリンク』といった書籍を書いたマルコム・グラッドウェル氏による1冊で、日本では2009年5月に発売されています。
本書は、スポーツ選手やビジネスマンなど「天才」「一流」と呼ばれる人たちがその地位にのぼりつめた背景を分析している内容です。桁はずれた天才というものは、生来の要因や努力だけでは完成せず、それに加えて時代などの外部要因の影響を受けているものだと説いており、場合によっては、自分が直接触れていない(昔の)文化的背景の影響を受けているとの解説もあります。
しかしここでは、あまり本書の全体の内容には触れずに、最初のほうで触れられている「1万時間の法則」を紹介しましょう。かなり有名な法則になっているので、聞いたことがある人も多いかもしれませんが、スポーツでも音楽でも何でも、何かに習熟して一流になるのに、人は1万時間の練習(積み上げ)が必要なのだというのです。
これがどうして私の記憶に強く残っているのかというと、非常に説得力があり納得できるからなのです。
自分に当てはめてみると、私は編集者として十数年業務をしており、テキストエディタに向かって文章を書いたり編集したりする作業を平日1日平均にすると6時間ぐらいはしています。となると、6年半ほどで1万時間を超えたことになりますが、これが感覚的な部分での「プロとして文章を扱う自信が付いた」時期と重なる気がします。
何かを1万時間し続けるのにかかる時間は、こんな感じです。
平日4時間ずつ | 約9年7か月 |
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平日8時間ずつ | 約4年9か月 |
毎日4時間ずつ | 約6年10か月 |
毎日8時間ずつ | 約3年5か月 |
毎日12時間ずつ | 約2年3か月 |
週末8時間ずつ | 約12年 |
週末2時間ずつ | 約48年 |
たとえば、プログラマが業務で平日1日あたり5時間コーディングを続けると、累積1万時間に達するまで平日2000日分、つまり8年弱かかります。ところが、学生が大学にも行かずに毎日10時間プログラミングをし続けると、3年弱で1万時間を突破するのです。
一緒に仕事をしている相手のプロがこの「1万時間の法則」を通ってきたと考えると、いろいろと視点が変わってくる場合もあるかもしれません。
毎日8時間を3年半続ければ1万時間を超えるということは、あなたの前にいる若手のWebデザイナさんは、そうした努力を続けてきた人なのかもしれません。また、デザイナーさんが1万時間を費やして身につけてきたデザインのスキルをひっくり返すほど、素人Web担当者やその上司の思いつきデザインに重みはあるのかと自問するのもありでしょう。
マーケティングやデータ分析に1万時間を費やしてきた人の言葉の重みは、Google Analyticsの画面を1年や2年見た人とは異なるはずでしょう。
さて、世の中には「スペシャリスト」「ジェネラリスト」という区分がありますが、「スペシャリスト」というのは、この1万時間のレベルを超えた人、というとらえ方をするのもアリかもしれませんね。
そして、1万時間での習熟は、仕事の現場ではゴールではなく入り口だったりします。となると、よほどの天才でない限り、現場で使いこなせる「一流のスペシャリスト」としてのスキルは、いくつも身につけられるものではないのかもしれません。
さて、あなたは何を1万時間続けてきましたか?
または、これから何に1万時間費やしていきますか?
コメント
習熟対象の複雑さと習熟に使う時間の密度
「マーケティング」、「データ分析」といった文化的背景の広いものの習熟と、「スポーツ」のような肉体的習熟とは同じ時間軸(横軸)、同じ成長カーブ(縦軸)にはならないでしょう。
したがって、一万時間というのは「キャッチコピー」としては優れた表現と思いますが、習熟したい対象ごとに、この閾値は違う。ましてや、取り組む姿勢の違いによって同じ対象でも、個人差はさらに大きいでしょう。
しかしながら、もっと単純な成長目標の設定には役に立つ考え方を示唆していると思います。
即ち、「泳げるようになりたい」、「一輪車にのりたい」といった子供たちの目標や「ゴルフで平均スコア90を切りたい」といったオジサンの目標をクリアするには大いに役立つでしょう。どれも、一万時間は必要ありませんが・・・。
まさに
コメントありがとうございます。
おっしゃるとおりだと思います。
だれでも、何でも、1万時間どんな風にでもやれば習熟度のランクが上がるというわけではないですね。
単純に「やればなんとかなる」とか「成長するには時間がかかる」と考えるのではなく、ある程度の目標として、または、自分がそれに取り組む時間をどう考えるべきかの指針の1つとして、「1万時間」というのを使うのが良いと思います。
積みあがってれば意味はあるかもしれないけど、
積みあがってれば意味はあるかもしれないけど、
現実の仕事では、類似の仕事しか基本は発生しないので、
似たような作業を積み重ねて10万時間やった人と、
1万時間やった人に違いは出ない
作業とスキル
どれだけ時間をかけていても、スキルを磨くことを意識しなければ、作業の専門家にしかなれないのは、そのとおりだと思います。
仕事のなかで「作業」と「スキル」を分けて考えていけるようにできるといいですね。