企業とユーザーのよりよい「マキコミ」のために | マキコミの技術 #6
今回は、第4章 “「マキコミ」から生まれる新しい価値” のなかから、“企業とユーザーのよりよい「マキコミ」のために” の内容をお届けします。
マーケティングプランは「すり鉢」の設計
ユーザーを企画に巻き込んだり、ユーザーの声を聞いて行動を起こしたりと、企業のマーケティングプランとしての「マキコミ」を考えるとき、最初に行なうべきことは、いわば「すり鉢」の設計です。
まず、ユーザーに認知してもらい、興味を持ってもらい、動いてもらうためのタッチポイントを可能な限り広く取ります。そして、そのどこかの端っこにでも引っかかったユーザーを、最終的にゴールである自社サイトにまで連れていく流れを考えます。周囲のどこからでも中央(ゴール)に落ちるような、まさにすり鉢状のコミュニケーションモデルを設計するわけです。
ユーザーを動かすのは「ネタ」と「つながり」
タッチポイントの設計では、「ネタ」と「つながり」の二点から、ユーザーに動いてもらうことを考えます。
「ネタ」とは、イベント、広告、なんらかのコンテンツなどです。ただ、今どきの広告やコンテンツのクオリティはどれも上がっていますから、これだけでユーザーを動かすには、AXEボディソープの「新宿駅前風呂場」レベルの新規性が求められることになります。毎回そこまでのネタを投入することは、なかなか難しいでしょう(しかもAXEの場合は、これまでに積み重ねてきたブランドイメージ=つながりがあることも忘れてはいけません)。
ネタのクオリティが高いことは当たり前とした上で、それがユーザーを動かすかどうかは、その企業が、ソーシャルメディアに限らずあらゆる場所で、ユーザーとどのようなつながりを育ててきたか——宣伝やサポート、各種のイベントやトラブル処理時などの対応のひとつひとつの積み重ね——しだいとなります。反対に言うと、つながりがあってもネタがなくてはユーザーは動いてくれません。ネタを惜しまず提供して、ユーザーを動かしましょう。話はすべてそれからです。
ちょうど、日産が電気自動車のマーケティングで「賛成の連鎖」という言葉を使っていました。この連鎖の元になるアクションはユーザーが起こすものですが、それが起きるかどうかは、企業が提供するネタと、それまでに作られていた企業とユーザーとのつながりしだいとなります。
コンテンツの蓄積でタッチポイントを増やす
ユーザーとのタッチポイントを増やす最良の方法は、ブログなどでコンテンツを蓄積していくことです。これは、いわば時間を味方につけたマーケティングをすることになります。
蓄積したブログのコンテンツは、パーマリンクによって常にアクセスが可能になります。そして、定期的にアクセスを得られるコンテンツは、公開していた時間の分だけ価値が増していく資産だと考えられます。一度公開したコンテンツは、将来に渡ってずっと自社のために働いて、ユーザーを連れてくることに貢献してくれるのです。ティーダブログや、インスパイラルのブログなどがよい例です。
エバーノートや「ぐぅ」、サントリーなどの事例では、パートナーやブロガーのコンテンツもタッチポイントとして作用しています。
タッチポイントからゴールの間にある「宝箱」を見つけ出す
タッチポイントに引っかかったユーザーが動いてくれたら、こっちのもの! というわけではありません。ゴールにまでたどり着いてもらわなくては、企業にとってのメリットにはなりません。
タッチポイントに引っかかって動いたユーザーが、ゴールまで素直に来てくれるとは限りません。途中でどこかに引っかかって止まってしまったり、方向が変わってどこかに行ってしまったりすることもあります。
そこで、ユーザーの動きをよく観察し、ゴールまでの障害(ユーザーが感じている不満や解決すべき問題点、不足している情報など)はどこにあるのか、どのように手を貸す(ユーザーの動きに対しリアクションを取る)ことでユーザーは進んでくれるのか、というノウハウを発見し、蓄積していきます。こうしたノウハウには、企業ごとに特有の傾向が見出せるはずです。これが、企業とネットの間にある「宝箱」です。日産も、サントリーも、本章で紹介した各企業も、ソーシャルメディアでの活動を続ける中で、独自の「宝箱」を見つけ出しています。
「宝箱」の発見には、自社サイトのアクセス解析や、ソーシャルメディアでの評判を調べることが欠かせません。また、ユーザーからサポート部門への相談や問い合わせという形で「宝箱」の手がかりが届くこともあります。そうした場合にすぐ対応できる体制を持っておくことも重要です。
いずれにしろ、ソーシャルメディアにあふれている自社への問題、不満、疑問などを見つけることができたらラッキーです。そこをベースにして、ユーザーの行動を観察できるわけですから。ソーシャルメディア・マーケティングにおいて、成功の反対は炎上ではなく、無反応です。
ソーシャルメディア単体ではなく、他のメディアとの連携が大切
日産もサントリーも、それ以外も、ソーシャルメディアにおける活動だけで成果を出している企業は、ほとんどありません。
ソーシャルメディアはマスメディアやリアルに替わるものというよりも、それらをつなげていくパイプのようなものだと考えるべきです。人と情報の流れる場所そのものがソーシャルメディアなので、そこだけで結果が出るわけがないのです。
マスメディアの広告が利用できるならば広告との連動、リアル店舗がある業態であれば店舗との連動、または自社サイトとの連動も考えられます。そして、それらの活動をユーザーはすべて見ているのだという前提で、ソーシャルメディアと向き合うべきでしょう。だから、日産のインタビューでも挙げられたように、ソーシャルメディアで求められるのは、ネットでのノウハウだけではなく、企業の総合力なのです。
手応えをつかんだ企業は続けている
ソーシャルメディア・マーケティングの歴史はまだ長くありませんが、今までの中で一つ言えることに「手応えをつかんだ企業は、皆やめないで継続している」ということがあります。日産はもう六年、サントリーは三年になります。
ネットでもリアルでも世界はどこまでもつながっていて、今日はなにもなくても、明日には誰かがやってくるかもしれません。以前に「ギブ」した相手が、今度はなにかを「ギブ」してくれるかもしれません。それらの予想は付きませんが、ただ、継続していなければなにも起こらないということだけは確実です。
成功した企業に話を伺うと、「予想外にも」「意外なところで」といった言葉がよく聞かれます。しかし、こうしたコメントをする企業が、単なる偶然で成功したわけではありません。「予想外のこと」に敏感に気付き、それに適切に対応する力があったからこそ成功できたのです。そして、その力というものは、その企業がソーシャルメディアで継続し、ノウハウを蓄積することでしか身に付かないものなのです。[いしたにまさき]
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この記事は、書籍『マキコミの技術』の内容の一部を、Web担の読者向けにオンラインで特別に公開しているものです。
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